1. はじめに
内閣府男女共同参画局が、自治体における男女共同参画社会の形成をめざした施策の推進状況等を毎年度調査し、その結果を「地方公共団体における男女共同参画社会の形成又は女性に関する施策の推進状況」として、ホームページで公表している。うち表1は、自治体としての各都道府県における管理職に女性が占める割合(以下「女性管理職割合」という。)の2002年から2011年までの推移である。大部分の都道府県における女性管理職割合は上昇しているものの、依然として低い状況にあると言わざるを得ない。
また、表1で注目すべき点は、2011年の数値でも、全職種では最高の東京都14.6%と最低の北海道2.2%との差は12.4ポイント、一般行政職(1)では最高の東京都14.1%と最低の岩手県1.4%との差は12.7ポイントもある。なぜ、同じ都道府県の間でも、女性管理職割合に大きな格差が生じているのだろうか。その要因を考察することにより、自治体管理職男女間格差を是正するヒントを得られるのではないだろうか。
2. 女性管理職割合自治体間格差の要因
(1) 仮説の設定
各自治体における女性管理職割合が異なる要因の一つとして、その自治体の住民意識を考えることはできないだろうか。都道府県を例にすると、都道府県民意識、特に性別役割分業観を是認する昔ながらの保守的な意識の強弱が、その都道府県における女性管理職割合の高低と関係を有するのではないだろうか。
我が国においては、各都道府県の住民意識に根ざした「県民性」が、一種のアイデンティティを表している。県民性を作り出しているものは、その都道府県の歴史や風土と言われている。自治体もある地域に存立する以上、職員の管理職登用に当たっても、ある程度その住民意識の影響を受けているのではないかと推測し、次の仮説を設定した。
仮説 都道府県民意識の革新性、保守性が、その都道府県における女性管理職割合に影響を及ぼしている。
(2) 仮説の検証
各都道府県では、各種施策を実施する際に参考とするため、都道府県民意識調査を実施している。これらの意識調査は、各都道府県が独自に実施しているため、質問項目も様々であり、結果を都道府県間で比較することは難しい。また、内閣府は各種世論調査を実施しているが、結果を都道府県間で比較することまでは行っていない。
少し古い調査になるが、NHK放送文化研究所が1996年6月から7月までに、47都道府県毎に16歳以上900人、全国で42,300人を対象に「全国県民意識調査」を実施し、調査結果を1997年11月に『現代の県民気質―全国県民意識調査―』としてまとめている。この調査に使用した質問項目のうち、都道府県民意識の革新性、保守性を測定するために、表2に示した20の質問項目を採用した。これらの質問に対する各都道府県民の「はい」と回答した割合を、都道府県民意識の指標として用いる。
表3は、その(注)に記載してあるとおり、表2に掲げた20の質問に対する各都道府県の「はい」と回答した者の割合を得点と見なし、それを合算することで都道府県民意識を表す指標とした。この指標は、各都道府県民意識の革新性の度合(又は保守性の度合)を示している。指標の値が低い都道府県ほど、都道府県民意識の革新性が強いことになる。逆に、指標の値が高い都道府県ほど、都道府県民意識の保守性が強いことになる。
回帰分析の手法を用いて、都道府県民意識を表す指標と、全職種及び一般行政職における都道府県女性管理職割合(2011年)との相関係数を算出すると、全職種では△0.3425(5%水準で統計的に有意)、一般行政職では△0.4503(1%水準で統計的に有意)である。すなわち、都道府県民意識の革新性が強い都道府県では女性管理職割合が高く、都道府県民意識の保守性が強い都道府県では女性管理職割合が低くなる傾向があることが分かった。全職種における都道府県女性管理職割合よりも、一般行政職における都道府県女性管理職割合の方が、都道府県民意識との相関は強い傾向が見られる。その理由としては、全職種のうち、一般行政職、教育職や技能労務職などは別として、警察職や看護・保健職などは、職員の性別構成割合が一方に偏っていることが考えられる。
表4は、各都道府県を、その都道府県民意識の革新性、保守性と、女性管理職割合の高低とで四つのグループに類型化したものである。
グループAⅠ 都道府県民意識の革新性が強く、女性管理職割合が高い都道府県のグループ
グループAⅡ 都道府県民意識の革新性は強いが、女性管理職割合が低い都道府県のグループ
グループBⅠ 都道府県民意識の保守性は強いが、女性管理職割合が高い都道府県のグループ
グループBⅡ 都道府県民意識の保守性が強く、女性管理職割合が低い都道府県のグル-プ
グループAⅠ及びグループBⅡは仮説に適合するグループであるが、グループAⅡ及びグループBⅠは仮説に適合しないグループである。47都道府県のうち38都府県(80.9%)が仮説に適合することになる。
以上から、仮説は検証され、昔からの伝統的政治体制や考え方を尊重する都道府県では、性別役割分担を尊重する意識が残っているため、都道府県女性管理職割合は、相対的に低いと考えることができる。
(3) その他の要因
都道府県女性管理職割合に影響を及ぼす、都道府県民意識以外の要因について考察する。
表4のグループAⅠに属する東京都の女性管理職割合が著しく高い要因としては、都民意識の革新性とは別に、筆記試験による管理職選考制度の存在が大きいと考えられる。
東京都は特有の昇任システムとして、管理職選考及び主任級職選考で筆記試験を実施している。試験制度の発足は古く、管理職選考は1958年度、主任級職選考は1986年度である(2)。筆記試験は性別に関係なく受験できることから、管理職昇任を希望する女性職員にとっては、機会均等を保障する制度だと言えよう。
しかし、大森(1994)によると、勤務評定を中心とした日頃の人事情報で昇任選考は可能という意見や、筆記試験による能力判定への疑問、試験のための勉強時間に恵まれない職員に不利になるといった意見などから、多くの自治体がこの制度の採用に消極的である。
東京都が2006年3月に「東京都職員人材育成基本方針」を策定するに当たり、2005年12月に実施した職員アンケート(警視庁及び東京消防庁を除く)の集計結果を見る(3)。管理職選考の受験経験者2,562人を対象に、筆記試験の勉強が自己啓発に役立つかという質問をしたところ、「大いに役立つ」10.1%、「役立つ」51.1%、「あまり役立たない」26.9%、「役立たない」11.9%という回答割合であった。
主任級職選考の受験経験者5,228人を対象に同じ質問をしたところ、「大いに役立つ」10.5%、「役立つ」51.9%、「あまり役立たない」25.9%、「役立たない」11.6%という回答割合であった。
このように、筆記試験の自己啓発上の効用を6割以上の受験経験者が認めていることから、筆記試験の実施は職員選抜効果のみならず、研修の効果を併せて持っている。
以上から、自治体が管理職昇任者を選抜する手段の一つとして、筆記試験や面接試験も有効な制度になり得ると考える。論理的な文章を書く能力や、住民を説得できるような交渉能力は、管理職に必要な能力の一つである。女性管理職割合を高める効果も高いことから、自治体の首長や人事当局は、試験制度の採用を再考する余地もあるのではないだろうか。
一方、同じくグループAⅠに属する高知県においては、表1を見ると、1991年12月から2007年12月までその任にあった橋本大二郎前知事の在任時期の後半に、女性管理職割合が大きく上昇している。同様に、グループBⅠに属する鳥取県においては、1999年4月から2007年4月までその任にあった片山善博前知事の在任時期に、更に、2011年時点ではグループBⅡに属してはいるが、岐阜県においては、1989年2月から2005年2月までその任にあった梶原拓前知事の在任時期の後半に、共に女性管理職割合が大きく上昇している。
これら3県のホームページや前知事の著書から、3人の前知事が女性管理職割合を高めることに熱心であったことが分かる(4)。3県の女性管理職割合が大きく上昇したのは、前知事のリーダーシップに因るところが大きいと思われる。このように、首長のリーダーシップによる女性職員の職務分担の見直しや、管理職への登用は、最も劇的に女性管理職割合を高める効果があると言える。
3. まとめ
本稿での考察から、自治体管理職男女間格差を是正するためには、自治体職員は勿論、その自治体が存立する地域の住民に、男女共同参画社会の実現をめざす強い意識があることが重要になる。男女共同参画社会の形成に向けた不断の啓発活動が、自治体における女性管理職割合を高める下地づくりにも繋がるということである。
また、多くの自治体女性職員が管理職への昇任意欲を持つことができるように、ワーク・ライフ・バランス施策の充実など、女性職員が働きやすい職場環境の整備にも配慮しなければならない。その意味でも、自治体の人事当局に女性の管理職や担当者を配置することが必要になる。そうすることで、男性では気付かない女性の視点から、自治体の人事制度を見直すことが可能となる。加えて、男性の人事担当者よりも、一人ひとりの女性職員の状況を知り得る女性の立場から、人材育成の面も考慮しながら、適材適所で女性職員を人事配置することも可能となる。
更に、管理職の魅力を高めるために、その給与等の処遇の改善も必要である。管理職に昇任しても責任だけが増加して、給与等は昇任前とあまり変わらないということでは、昇任希望者は増加しない。
以上の条件整備を行うとともに、自治体における女性管理職割合を高めるための個別具体的な施策を実施することが効果的であると考える。
自治体の首長は、女性職員の管理職登用の意義を理解した上で、そのリーダーシップを存分に発揮しなければならない。
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