【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による地域づくり

 医師が大量退職した問題で全国的に有名になった阿賀野市立水原郷病院。救急指定病院の指定取り下げ、一部診療科における診療制限などにより患者が激減し、経営状況の更なる悪化を招いた。市は地域医療の確保、経営改善のため、公設民営化(指定管理)の道を選択し、新潟県厚生農業協同組合連合会を委託先に選び運営を開始している。公設民営化で地域医療は守れるのか。現時点で出来うる検証を行ってみた。



公立病院における指定管理者制度導入の検証


新潟県本部/自治研推進委員会・第5小委員会

1. 今までの経過

 2010年10月1日、阿賀野市立水原郷病院は指定管理者制度の導入に伴い、新潟県厚生農業協同組合連合会(以下、厚生連という)による運営を開始した。
 1954年12月に設立された水原郷病院は、1960年代から1970年代にかけて建設された施設の老朽化と2005年度までに累積20億円の赤字を抱えたことから、経営改善に向け有識者による水原郷病院経営改革審議会による議論を開始したが、一部委員による医師批判を発端に今までの過重労働もあり、2005年度に定年退職も含め医師が大量退職し、26人から13人に半減する事態になった。これが原因で、救急指定病院の指定の取り下げ、救急患者の受入れ制限、一部診療科における診療制限、病棟閉鎖等に加え、職員への勧奨退職も行われた。その結果、外来・入院患者の激減により更に経営状況が悪化することになる。
 そのような中、水原郷病院の抜本的な経営改善に向け、水原郷病院経営改革審議会の答申、新病院計画委員会報告書、総務省経営アドバイザーの診断、助言、経営シミュレーションの実施などから「公設民営化による経営改善を行いながら、公的資金(起債)による新病院建設をめざす」という方針を2008年2月に決定し、その方針に基づき、新潟県内で16の病院を経営する厚生連を委託先に選び、2年8ヶ月の協議を重ね現在に至る。

2. 厚生連との約束の検証

 水原郷病院の公設民営化に向け、市は市民に対し、厚生連が提出した事業計画書の概要を広報誌や説明会等で説明し公設民営化後の姿を示している。①医師・看護師の確保、②救急告示病院の指定復活、③現在の診療体制の維持・充実、④病院ネットワークの充実、⑤保健・医療・介護・福祉の総合的一体的なサービス提供、⑥新病院の建設、⑦経営の改善などである。
 公設民営化後、まだ日は浅いが、市民へ説明してきた内容と現在の状況がどうなのか比較し、市民が求める医療体制が充足されているのか確認することにした。

(1) 医師・看護師の確保
 厚生連病院のネットワークを活用した医師の確保、関連大学との連携強化による医師招聘拡大が可能としていたが現在も医師の確保に至っておらず、内科5人(内1人は人間ドック専門医)、外科2人、整形外科1人、産婦人科3人、小児科2人、麻酔科1人、歯科口腔外科1人、合計15人の常勤医師の体制で公設民営化前と変化がない。計画では、2012年度末までに4人増員としていることから、更に注視していく必要がある。

(2) 救急告示病院の指定復活
 可能な限り早期の救急告示病院の指定復活をめざすとしているが、医師の確保ができない現状では非常に厳しく、救急告示病院の指定は復活していないし、その目途もたっていない。また、地元医師会による第1次救急医療への協力体制の整備は、従前通り休日の日中において地元医師会による輪番体制の対応によるものであり、更なる協力体制へは発展していない。
 2010年度の阿賀野市内の救急医療の状況は74.5%が市外への搬送となっており、現行の医療資源では、地域の救急医療体制を維持することは困難であると言わざるを得ない。

(3) 現在の診療体制の維持・充実
 将来的には急性期の二次医療を中心に、回復期から慢性期及び在宅医療等を一体化した病院としての機能充実に取り組む、当面は、現在の診療体制の維持に努め、順次医師の充足をはかり、診療機能の向上をはかる、としているが、医師が確保できていない状況の中、診療機能の向上は図れていない。診療体制は民営化前と変わらず、内科、神経内科、小児科、外科、整形外科、脳神経外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、泌尿器科、歯科口腔外科、血管外科、胸部心臓外科の14診療科で、神経内科・脳神経外科・眼科・耳鼻咽喉科・皮膚科・泌尿器科・血管外科・胸部心臓外科は新潟大学等からの非常勤医師が週1~2回外来診療を行っている状況である。

(4) 病院ネットワークの充実
 新潟医療センター病院(旧こばり病院)との連携により、水原郷病院及び豊栄病院の医師の確保と病院ネットワークの充実をはかり、地域医療の向上に努めるとともに、第三次医療機関として高度・専門医療を担っている県立新発田病院や新潟市民病院等と連携し、急性期を脱した後の回復期の患者を受け入れる後方支援病院として在宅までの橋渡し機能の強化をはかるとしているが、受入れ患者は期待される数とは程遠く、後方支援病院としての体制はできていない状況である。

(5) 保健・医療・介護・福祉の総合的一体的なサービス提供
 病院と併設している訪問看護ステーション及び介護老人保健施設との機能的な連携や施設外の介護施設との連携を更に密接にし、慢性期医療及び在宅医療・介護支援等の充実をはかるとしているが、訪問看護ステーションの人員は公設民営化前に比べて減員されており、ニーズに対応できていない。
 また、阿賀野市が取り組んでいる「阿賀野スタイル健康福祉プロジェクト事業」に積極的に協力するとしているが、従前と変わったところはない。

(6) 新病院の建設
 阿賀野市の新病院建設の早期実現に向けた取り組みを進めるとしているが、そのような中、阿賀野市は2011年11月に新病院整備基本計画将来構想を、2012年3月に新病院整備基本計画を策定した。二次医療圏内の地域中核病院としての特徴を築いていくとしており、総事業費約75億円、病床規模は一般病床200床、療養病床50床、合計250床で2015年の開院をめざしている。救急医療については、新病院開院時又は開院後可能な限り早期に、二次救急医療機関として病院群輪番制へ参加するなど、地域の救急医療体制の一翼を担うよう段階的な体制整備を図る計画である。
 新病院の建設に向けては、現在設計業者が決定し、着々と準備が進められている。

(7) 経営の改善
 公設民営化後の決算データがないことから、経営が改善されたかどうか検証することは現時点ではできないが、過去の決算データをもとに今までの経営分析を行うことにした。
 分析に当たっては病院財政分析支援システムより総務省が公開している地方公営企業年間統計データを基に過去6年間のデータを取り込み経営分析の資料とした。
 病院会計は公営企業法が適用され、官庁の一般会計と異なり複式簿記が採用されていることから分析に当たっては公認会計士の藤田会計事務所さまのお力添えも頂いた。
 経営分析表(別紙資料)より、特徴的な数値に対してコメントをすると、2005年度から2006年度にかけて、医師の大量退職にともない医業収益の大幅な落ち込みが予想されるなかで職員に対する退職勧奨が行われたため、職員数が118人(▲30.2%)減少している。また、医師数の減少に伴う外来診療報酬の減少、稼働病床の減少と看護師数の減少に伴う入院基本料の変更などに伴う入院報酬の減少などが主な原因で医業収益も1,115,888千円(▲27.7%)減少している。医業収益はその後、新患制限を行ったことなどにより2009年度まで微減(年平均▲3%程度)だったものが2010年度には、1,291,450千円(▲48.3%)と大きく減少に転じている。これは指定管理が導入される以前の上半期分しか計上されていないためである。
 他会計補助金・負担金が2005年度、2006年度に約5億円ときわめて多額となっている。これは医業収益の大幅な減少を補うため、一般会計からの繰入を行ったことによるものと思われる。
 2006年度には特別利益100,006千円、特別損失118,015千円が計上されている。2010年度には特別損失が648,597千円計上されている。
 2010年度分は分限免職に伴う退職手当金の支給のためである。
 2009年度より純損益が多額になり2010年度では1,028,765千円となっている。これは公営企業会計を閉じるための措置である。
 2005年度から2010年度に限ってみれば医業収支、経営利益、純利益とも赤字基調であり、累積欠損額は4,448,130千円と多額である。一般の民間病院であれば経営危機である。
 経常収支比率、医業収支比率は継続して100%未満であり、経常費用、医業費用が総収益、医業収益を上回っている。全国平均率より高い状況にある。
 人件費の状況は医業収益に対し多額であり全国平均率を上回っている。
 減価償却費の状況は医業収益に対し全国平均率を下回っており、事業計画で指摘されている施設の老朽化に顕著に現れているものと考えられる。固定資産対長期資本比率100%以下、固定資産回転率1回未満となっている。
 支払利息状況は医業収益に対し、全国平均を下回っている。借入資本金(企業債借入)は現状では10億円未満である。
 また、今後の事業計画書(水原郷病院収支計画書 厚生連で作成)によれば、2014年度には事業収益4,185,460千円が計上され、事業利益は赤字基調であるが、各年度の当期利益金は黒字額が計画されている。2011年度以降当期利益金計画は1億円超となっている。
 本収支計画は地方公営企業会計制度の見直しに応じ、借入資本金、みなし償却、引当金(退職給与、修繕)、棚卸資産の価格等の対応を講じたものとなっており、今後は民間企業と同じ目線で財務評価・分析が可能になるものと思われる。


水原郷病院経営分析表

3. まとめ

 公設民営化の最大の目的は、医師の確保と救急医療の復活、そして経営改善である。計画では2013年までに医師を4人増員することになっており、医師の確保が診療機能の向上、また救急指定病院の指定復活につながるが、現状を見る限り現時点において厚生連の病院ネットワークを有効活用しているとは言い難い。また、経営に関しては、公設民営化後の財政データをもとに更なる決算分析が必要である。
 いずれにしても、公設民営化後まだ間もないことから継続的に検証していかなければならないが、特に、2015年の新病院開院に向けた準備の中で、医師の確保が行われるのか、他病院との輪番制を構築し救急医療体制が整備されるのか注視し、安易な合理化による不採算医療の切捨てが行われないようにしていかなければならない。