1. 高次脳機能障害、失語症とは
(1) 高次脳機能障害
高次脳機能障害とは、交通事故や頭部のけが、脳卒中などで脳が部分的に損傷を受けたため、言語や記憶などの機能に障害が起きた状態のことである。注意力や集中力の低下、比較的古い記憶は保たれているのに新しいことは覚えられない、感情や行動の抑制がきかなくなるなどの精神・心理的症状が現れ、周囲の状況にあった適切な行動が選べなくなり、生活に支障をきたすようになる。また、外見上では分かりにくいため、周囲の理解が得られにくい。原因疾患は、脳血管障害、脳外傷、脳炎・低酸素脳症などである。
主な症状は、失行症(一連の動作手順が分らない)、記憶障害(新しいことが覚えられない)、失語症(言葉が話せない)、注意障害(気が散りやすい、集中できない)、社会的行動障害(怒りやすい、幼稚、引きこもり)、遂行機能障害(手際よく作業ができない)、地誌的障害(道がわからない)、半側空間無視(片側の空間を認識できない)などである。
高次脳機能障害があることで、記憶障害などにより就労や就学が困難になる、感情のコントロールができないことによる家族関係の崩壊などの生活上の困難や問題が発生する。2008年に東京都が行った高次脳機能障害者実態調査によれば、都内の高次脳機能障害者数は49,000人(60歳以上の者が67.2%)と推計されている。葛飾区の高次脳機能障害者数の推計は1,400人である。
(2) 失語症
失語症とは、主には脳出血、脳梗塞などの脳血管障害によって脳の言語機能の中枢(言語野)が損傷されることにより、いったん獲得した言語機能(「聞く」「話す」といった音声に関わる機能、「読む」「書く」といった文字に関わる機能)が障害された状態のことである。高次脳機能障害のひとつである。「聞く」「話す」「読む」「書く」全ての面が障害される。構音器官の麻痺などによる運動機能障害、先天的な構音器官の奇形などによる器質性障害など所謂構音障害とは区別される。また、声の出なくなる失声症などとも区別される。発症の原因の約9割は脳血管障害であり、 他に、頭部外傷、脳腫瘍などがある。失語症の特徴として、話す、聞く、読む、書く、の4つの言語側面すべてに障害があること、言葉の意味、文法、音韻、語彙のそれぞれの側面に障害があること、言語だけでなく言語を含む記号を操る能力の障害であることなどがある。失語症により、言語伝達が困難になることで、就労や就学が困難になるなどの生活上の困難や問題が発生する。
(3) 高次脳機能障害者の地域生活をめぐる問題点
高次脳機能障害があっても、身体に麻痺などがない場合は身体障害者手帳が取得できない。失語症は身体障害者手帳の対象になる(2級、3級)。高次脳機能障害の診断があれば、精神保健福祉手帳が取得できる。わが国の障害者福祉制度は「手帳」制度が基本になっているため、「手帳」が取得できない場合、障害者福祉サービスは限定される。
高次脳機能障害の社会的理解は進んでいない。外見からは高次脳機能障害であることが分からない、本人に高次脳機能障害であることの病識がないなどの、高次脳機能障害者の特徴はほとんど理解されていない。高次脳機能障害者とその家族は、地域や会社、学校の中で、十分な理解をされることなく、孤立してしまいがちである。
高次脳機能障害者が利用できる障害者福祉サービスなどは全国的に見ても極めて限定されている。社会資源が未整備なためである。高次脳機能障害者のためのデイサービスなどの日中活動の場が少ない。医療的リハビリを利用できる機関が少ない(また180日間の制約もある)。医療機関退院後の在宅のリハビリの受け皿がない。地域において継続して利用できるリハビリサービスがない。高次脳機能障害者のための作業所や職場復帰支援・就労支援の場の整備も進んでいない。地域生活を継続していくためのグループホームも未整備であるなど問題や課題が山積している。
葛飾区における、高次脳機能障害者の地域生活を支える社会資源としては、地活センターのデイサービスなどがある。地活センターでは、2007年4月から、高次脳機能障害者を対象にしたデイサービスに取り組み(毎週1回)、2012年7月現在、高次脳機能障害者対象のデイサービス(週4日)、失語症者対象の言語リハビリテーション(週1回)を実施している。葛飾区内の高次脳機能障害者相談支援機関は、保健所、区役所身体障害者相談係、自立支援センター、地域包括支援センター(6ヵ所)などがあり、支援機関で連絡会を設けている。高次脳機能障害者の日中活動の場としては、障害者福祉サービスでは、地活センター、生活介護事業所、介護保険サービスでは、通所介護、通所リハビリなどがある。リハビリの場としては、地活センターのデイサービス、介護保険の通所リハ、訪問リハがある。高次脳機能障害の特性に合わせた日中活動やリハビリの場はきわめて限定されている。
失語症者への言語リハビリテーションでは、医療機関以外では、地活センターで実施している言語リハビリ、または介護保険の訪問リハなどに限定されている。
障害当事者、家族の団体として、「高次機能障害者 家族会かつしか」がある。同会は、2000年に結成され、「当事者や家族が励ましあいながら地域で生活していく」をモットーに、月1回土曜に交流会、隔月1回定例会を行っている。「葛飾失語症友の会」は、失語症当事者の団体で、月1回、言語聴覚士を招いて言語リハビリの交流会を行っている。
高次脳機能障害者、失語症者が、地域で生活をしていくためには、日中活動の場(生きがいや社会参加)、リハビリの場、作業所などの働く場、住み慣れた地域に住み続けるためのグループホーム(生活施設)などが必要である。
葛飾区においては、それらの高次脳機能障害者、失語症者の地域生活を支える社会基盤は不十分なままである。
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