【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による地域づくり

 安心して暮らせる地域社会をめざして、判断能力の低下した高齢者や障がい者の日常生活の支援を目的に、「特定非営利活動法人グリーンハイツ地区成年後見センター」(以降NPO法人と略)を設立し活動していますので、その取り組みについて報告します。



特定非営利活動法人の設立
成年後見制度の充実と、市民後見人の育成をめざして

兵庫県本部/兵庫地方自治研究センター・研究員
特定非営利活動法人グリーンハイツ地区成年後見センター・理事長
  岡 やすえ

1. はじめに

 高齢化の進展の中で、一人暮らしの増加とそれに伴う認知症への対応として、国では2000年4月に“成年後見制度”をスタートさせました。しかし利用者は数パーセントにとどまり、普及が不十分という状況が続いています。後見制度の利用を、財産管理を主とする弁護士等、専門職のみに頼ることなく、日常の生活を見守る身上監護を市民後見人が担当するなどで、地域のキメ細かなサポート体制の構築が急がれねばならないと考えています。


2. 特定非営利活動法人設立に向けての取り組み

 私の居住する川西市は兵庫県の東の端に位置し、南北に細長い地形の街です。
 人口16万617人、6万7,391世帯、高齢化率は26%(2012年3月31日現在)で、2007年からは国連が定義するいわゆる『超高齢社会』となっています。川西市には大小多くの住宅団地が存在していますが、中でも1960年代半ばから開発が始まった北部の大型住宅団地4地域の高齢化率は、約38%~26%(2012年3月31日現在)と入居の早い順に高くなっています。
 そんな中で、高齢化とともに進展する地域課題について情報共有することや解決策を模索するため、4地域の福祉委員会が2009年度から定期的に連絡会を開催(年4~7回)する等、地域の福祉向上にむけて共同歩調を取るようになりました。これら4団地においてもご多分に漏れず一人暮らしや認知症高齢者が増加する中、悪質商法の被害が発生する等で、“成年後見制度”の導入検討が4つの地区福祉委員会で始まっていました。自分たちの街の福祉の充実は、自分たちの力で-とする進取の気象に富む地域ならではの取り組みでもありました。
 丁度その頃(2011年6月頃)、5期20年間に亘る県議会議員の任期を全うしようとする私に、「勇退後はNPO法人の理事長として活動を」との要請がありました。県議会では暮らしに直結するテーマの中でも特に福祉を重点課題としてきており、成年後見制度や権利擁護事業は長年取り組んでいたテーマでもあります。『福祉に強い岡』と評価して頂き、それが今後の活動に繋がるのであれば、長年の取り組みが報われた思いもしました。これから少しでも地域社会に役立てるように取り組んでいきたいと、思いを新たにしています。

(1) NPO法人登記までの経緯
① 兵庫県知事への法人設立認可申請(2011年7月29日)   
② 兵庫県知事名による法人設立認証決定通知(2011年11月18日)
③ 神戸法務局伊丹支局に法人登記(2011年11月22日)

(2) 法人の創設主体となった地区福祉委員会の概要(構成図参照)
 4福祉委員会の構成メンバーから下記役職者選出。
 理事長 1人 副理事長 2人 理事 7人 監事 1人
 計11人


名  称

清和台地区
福祉委員会
大和地区
福祉委員会
明峰地区
福祉委員会
グリーンハイツ地区
福祉委員会

構成人員(2012年5月18日現在)

99人

120人

80人

179人

主たる活動地域(住宅団地名)
(小学校区名)

清和台

清和台、清和台南

大和団地

牧の台

萩原台、湯山台他

明峰

多田グリーンハイツ

緑台、陽明

地区内の人口(人)
2012年3月末現在

13,882

11,351

15,365

15,093

地区の高齢化率(%)
2012年3月末現在

26.8

37.8

28.5

37.5

住宅団地の事業年度

1968年~1979年

1967年~1975年

萩原台1970年~1983年、湯山台1970年~1984年

1965年~1987年

活動概要

福祉活動の推進母体として地区住民の福祉を向上、増進する

地区の福祉課題の解決に取り組む

地区の福祉課題の解決に取り組む

地区の福祉課題の解決に取り組む


川西市

人口(人)

世帯数(世帯)

高齢化率(%)

(2012年3月末現在)

160,617

67,391

26.0


(3) 目的及び事業
 当面、高齢者の身上監護(見守り)に重点をおきながら、法定後見及び任意後見等を受任できる体制づくりをめざしていますが、下記に当NPOセンターの定款を抜粋しておきます。
 この法人は高齢者に対して、成年後見制度の推進と援助に関する事業並びに高齢者の権利と財産保護に関する生活支援事業を行い、地域と社会の福祉の推進を図り、広く公益に寄与することを目的とする。
 この法人は上記の目的を達成するため、次の特定非営利活動に関する事業を行う。
① 法定後見制度活用推進事業
② 任意後見制度活用推進事業
③ 後見人受任事業
④ 遺言執行者受任事業
⑤ 高齢者に対する生活支援事業


3. 活動の具体例

(1) 相談事業(随時)
(講演会場入り口の案内看板)

(2) 啓発活動
① 広報紙の作成、配布
(内容)・成年後見制度の概要
    ・活動対象地域 川西市、猪名川町在住者
    ・支援内容 相談、申し立て手続き、法定後見・任意後見の受任
    ・市民や関係機関への権利擁護に関する情報提供等
    ・会員募集の案内
② 出前講座の開催(2012年度4月~8月実施分計上)
 ・有料老人ホーム 4月16日 施設管理者  15人 (内容) 成年後見制度の理解について
 ・障がい者団体  5月13日 家族会関係者 30人 (内容) 親無き後の暮らしと後見制度の活用について
 ・市医師会    8月27日 川西市医師会 50人 (内容) 成年後見制度について
③ 講演会の開催
  テーマ「私らしく地域で暮らすために」=成年後見制度の上手な使い方=
  2012年6月23日(土) 午後1時30分~3時30分
  講師 社会福祉士 吉田麻希さん(兵庫県社会福祉士会権利擁護センターぱあとなあ兵庫運営委員)
  川西市文化会館 参加者240人(アンケート、図参照)


<講演会アンケート結果(抜粋)> 回答者152人  
 

参加者にはケアマネージャー、ケアワーカー等の他、現在、後見を担当している市民後見人の参加もみられました

 
NPO法人設立を記念して開催した講演会で
開会の挨拶をする理事長(岡やすえ)
会場にあふれんばかりの参加者で、
関心の高さが窺えました。

④ 理事会の開催(月1回定例開催、その他必要時に随時)
⑤ 関係行政機関等との連携
 ア 市健康福祉部、市社会福祉協議会との定例会議の開催
 イ 地域資源ネットワークとの連携 (地域包括支援センター、地域内の介護事業者等)
 ウ 先進地での研修会実施(川西市、川西市社会福祉協議会からも参加)
  a 大阪市成年後見支援センター
  b NPO法人 西成後見の会


4. 運営体制と財政基盤

(1) 運営について
 理事11人による運営が中心となっているが、理事のうち5人が市民後見人の養成講座修了者であり、活動が可能。ただし現在相談業務は、事務局長が主たる担当者となっている。

(2) 財政基盤について(2012年7月現在)


<会 費>
 

入会金(円)

年会費(円)

備 考

正会員(個人)

5,000

5,000

 

正会員(団体)

10,000

10,000

 

賛助会員(個人)

2,000(一口)

何口でも可

賛助会員(団体)

3,000(一口)

何口でも可


<会員数>(2012年7月末現在)    
 

個人

団体

正会員(人)

22

賛助会員(人)

63

 

会費合計(円)

500,000


5. まとめと今後の課題

 法人設立後、日も浅いため、当面の目標を広報活動におき①成年後見制度への理解、②市民後見人がなぜ必要か? 等を研修テーマに据えていきたい。
 後見に関する相談で最初の壁は依頼人の財産の把握であるが、市民後見人のレベルアップと、NPO法人として後見受任に責任を持つ体制づくりを進めていきたい。
 具体的には以下の通り。
① 事務局体制の基盤づくりと相談員のローテーションの確立
② 出前講座の川西市、猪名川町住人への計画的な開催
③ 講演会、相談会の開催
④ 会員の増強(法人会員、個人、賛助会員)
⑤ 川西市社会福祉協議会による(仮称)川西市成年後見支援センター(2012年10月スタート)との役割分担の具体化
  (例)・市民後見人の育成事業
     ・相談に対する役割分担etc……
     ・市民後見人のフォローアップ
     ・後見受任に対する法人のレベルアップと実績づくり
     ・相談や後見受任に伴う専門職との連携体制の確立


6. 最後に

 成年後見制度と同時スタートした介護保険制度は、定期的にその内容が見直されてきました。
 しかし、成年後見制度は使いにくいと言われるまま現在に至っています。高齢社会が急速に進展し、必要が急増していることが推測されるにもかかわらず、利用が数パーセントであることの原因を究明し、解決することが、私たちのこれからの暮らしの安心につながると考えられます。
 国による制度の再構築を期待するところです。
(社)川西市社会福祉協議会発行の機関誌“社協かわにし”
(2012年2月1日号)に掲載された当NPOセンターの記事