【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による地域づくり

 これまで地域医療を担ってきた公立病院は、市町村合併、医師・看護師の不足・偏在や公立病院改革ガイドライン策定などにより存続の危機に瀕しています。医療圏約4万人の中山間地域で、病床200床未満の小規模病院が住民ニーズに沿う地域完結型医療・福祉を実現する手立てを検討します。現在病院は看護職員確保に苦慮しており、今後もこの中山間地域でのマンパワー確保が存続のカギになると考えます。



地域で必要とされる病院づくり


広島県本部/世羅中央病院職員労働組合 土居美保子

1. はじめに

 2007年12月に策定された「公立病院改革ガイドライン」は現在も公立病院の統合・再編、経営形態の変更をすすめ、経済性に特化した(経常収支、病床稼働率、人件費率等)改革プランは4年ごとの見直しを課せ、公立病院の存続はたいへん厳しい状況にあります。
 世羅中央病院企業団は「新しい『21世紀型中山間医療』の拠点病院をめざして」をスローガンに、世羅台地の住民に愛され信頼される中山間の拠点病院になるため、保健・福祉を含め病院機能の充実に取り組んでいます。私たち労働組合は賃金・労働条件の改善の取り組みとともに、8年前より地域医療存続にむけた地域での活動を続けてきました。労働組合と世羅中央病院企業団の取り組みを紹介し、今後「地域で必要とされる病院」の在り方について検討します。

2. 企業団の概要

 世羅中央病院企業団は広島県のほぼ中央の東部に位置する世羅郡と三原市の一部事務組合立で、2007年より地方公営企業法の全部適用する事業所(全適)となり、尾三(尾道市・三原市)二次保健医療圏内の北部に位置する中山間地域人口約4万人の医療を担う二次救急指定病院です。2010年4月三原市立くい市民病院を経営統合し、増改築が行われ2011年10月、110床から155床(一般病床;135床、療養病床;20床)に増床しました。
 世羅中央病院企業団は診療科14科、常勤医12人を含む常勤職員153人、非常勤等含め職員総数262人、看護師の配置基準は10:1です。(2012年3月末)
 併設する施設に、世羅中央訪問看護ステーション「まごころ」、世羅中央居宅介護支援事業所、歯科保健センター、健康管理センターがあります。
 病床稼働率92%、在院日数20.5日(2011年10月~2012年3月の平均。2011年4月~10月平均では稼働率99.9%在院日数17.5日であった。)
 患者数、医業収益は診療科の増設、増床等によって増加、2011年度は職員数が大幅に増え人件費率も増加しています。(表1


表1
 
2006年度
2009年度
2011年度
延人数
一日平均
延人数
一日平均
延人数
一日平均
外来
医科
59,126
241.3
71,354
294.9
82,896
339.7
歯科
5,087
20.8
4,700
19.4
5,981
23.8
入院
医科
40,870
112.0
41,435
113.5
46,186
126.2
患 者 計
105,083
374.1
117,489
427.8
135,063
490.6
医業収益
1,721,490千円(税込)
2,046,674千円(税込)
2,328,437千円(税込)
職 員 数
115
124
153
人件費率
44.70%
44.25%
45.56%

3. 企業団、労働組合の取り組み

(1) 世羅中央病院企業団の取り組み
① 病院再編(組織統合)
  2007年6月、三原市長の申し入れをスタートに、三原市くい市民病院と公立世羅中央病院の再編にかかわる住民に対するアンケートが行われるなど議論を重ね、公立世羅中央病院・三原市くい市民病院改革プラン策定委員会は「2010年4月病院の組織統合・2011年10月病床移動」の計画を発表しました。時期を同じにして民主党政権の下、地域医療再生を目的とする基金が作られたことにより、広島県は「広島県地域医療再生計画Bプラン」を策定し、「世羅・久井地域における医療機能を維持、救急医療体制の確保と地域ケア体制の充実を目的」とした政策と財源が、組織統合と病床移動をソフト・ハード面で後押しする形となり、再編・統合は計画通り行われました。
  公立世羅中央病院は一般病床135床、療養病床20床となり、公立くい病院は公立くい診療所で地域住民の外来診療を担うことになりました。
② 病院機能の充実
  現在、診療科は14科あります。地域完結型病院になるためには小さいなりにも総合病院が必要であり、少しずつ診療科が増えました。皮膚科や泌尿器科、耳鼻科は高齢者のQOLにかかわる診療科で、入院中の患者の他科受診が容易になりました。的確な治療を入院中から受けることは患者の安心・安全・安定につながり満足度がUPします。また、2010年4月開設した婦人科は今年4月より、三次市立中央病院との共同による産科セミオープンシステムを開始し、妊婦検診をはじめました。お産のできる施設が減るなか、遠方の施設への通院の負担軽減で妊婦にも優しい病院をめざし、若い世代の都市部への流出を抑えようと考えています。
③ 人員確保
  病院の組織統合、増床、療養病棟の開設などによる職員数は大幅に増えましたが、看護師は必要人員数を確保することができませんでした。外科病棟は36床から50床に増床しましたが、当初、増床にあわせ準夜勤を4人体制にする予定は人員不足のため準夜帯の夜勤体制は増床前と同じ3人体制のままです。手術後患者の看護が十分できないとか、多忙で職員は疲弊しているなどが労働安全委員会でも取り上げ協議しましたが、当局の看護師確保に対する意識・意欲は低調です。現在看護師は採用年齢を50歳までに引き上げ随時採用を行っているほか、看護学生に対し奨学金制度も設けていますが実効性が少ないのが実情です。
④ 地域との連携
 ・ 誕生月健診;世羅町の協力を得て2009年4月より開始
 ・ こども救急ガイドブック作成・配布(2010.3);小児科・世羅町
 ・ 地元事業所健診事業;産業医(内科医師)
 ・ 障がい児在宅支援 デイケア「すずらん」;小児科
 ・ 障がい者授産施設 「みつば会」;リハビリ
 ・ 小児・学童・高齢者の歯科保健衛生;歯科保健センター
 ・ コホート研究「高齢者の疾病予防を目的とした疫学調査研究」;世羅町、広島大学病院
 ・ 認知症予防対策として誕生月健診に物忘れ診断プログラムの追加
 ・ 産科セミオープンシステム;三次市立中央病院との共同
 ・ 常設サロン;町内老人会
 ・ 町の保健室;看護部

(2) 労働組合の取り組み
 世羅中央病院職員労働組合は地方公営企業法全部適用の労働組合として、賃金・労働条件の改善にむけた労使協議を行い、労働協約の締結をしています。マンパワー確保の観点からも公正で安心して働きやすい職場環境の確立が必要です。安易に経営状態に左右される賃金ではなく、安定した賃金・労働条件のもとで働くことが安全で安心の医療提供につながります。
 現在、臨時・非常勤職員の組織化に取り組んでいます。同じ業務をしながら、雇用形態が異なることで賃金・労働条件に格差が生じています。臨時・非常勤職員の課題で済ませず、また臨時・非常勤職員自らが問題意識を持ち、より良い医療提供につながる取り組みが必要です。
 また、労働組合は病院内での医療提供だけではなく、地域に向けて公立病院をアピールする目的で、8年前より地域イベントでの健康相談や救護員の派遣も行っています。昨年より、世羅町の「はんぶんこプラン」にも参加し、乳がん撲滅のピンクリボンキャンペーンで乳がん自己検診法の指導や乳がん検診の受診を勧めています。
 地域に密着した院外での取り組みは、地域住民に受け入れられ好評を得ています。医療・介護に携わる専門職として地域住民にかかわり、世羅中央病院企業団、公立世羅中央病院をアピールする労働組合であることも必要です。
 ・ 町内イベントでの健康相談・禁煙啓発活動
 ・ 町内イベントへの救護員派遣(敬老会・モトクロス他)
 ・ ピンクリボンキャンペーンでの乳がん自己検診法の指導

4. 課題と展望

(1) 世羅中央病院企業団の存在意義
 企業団の『理念(使命)』は「地域住民の生涯にわたる健康管理と福祉と病気に罹られた時の安心で安全な医療を提供することを約束する」とし、病院及び併設する施設の健全経営と中山間医療を担う医療人の育成が不可欠としています。そして将来的に持続する地域医療の拠点病院として、住民に必要とされる病院であるために①総合病院化②包括機能の充実③Opening Hospital④臨床研修・研修病院構想を目標にし、中山間の住民の皆様が安心して、24時間365日、安全で確実な医療が受けられる体制整備を図る予定としています。殊に地域住民の要望である「地域完結型病院」であるため診療科の充実と、救急体制を「2.5次医療」にする取り組みや、地域住民が住み慣れた地域で元気に過ごせるよう、疾病予防のために健康管理(検診)と訪問看護ステーション・居宅介護支援事業所・歯科保健センターの機能充実が、元気な町づくり・地域活性に寄与することを考えます。
 2008(平成20)年度からの新たな医療計画制度では、主要な疾病や事業(4疾病5事業)について、必要な医療機能(目標、求められる体制等)及び機能を担う医療機関・施設の名称を医療計画に記載し、住民や患者に分かりやすく公表することとなりました。広島県保健医療計画にも4疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)5事業(救急医療、災害医療、へき地医療、周産期医療、小児医療)に係る医療機関が公表されていますが、公立世羅中央病院の名前は見当たりません。世羅町デマンド交通の整備・充実により無医地区が解消されたため、へき地医療からも外れました。広島県は病床200床以上規模の病院に医療機能を分担しており、公立世羅中央病院が155床に増床しても200床未満の小規模病院でしかありません。この中山間地域で特色ある地域医療を健全経営で担うことが、世羅中央病院企業団の存在意義です。
 現在、世羅周辺地域の医療機関が縮小傾向にあり、広島県の中山間地域は二次救急医療の空洞化が大きな課題です。広島県内の7つの二次保健医療圏域は都市部の総合病院を核とした医療圏であり、中山間地域や県北、島しょ部の県民には恩恵の薄い制度です。どの地域に住んでも安心・安全・安定した医療・介護が受けられる地域密着の二次保健医療圏域の検討が急務です。2010年以降世羅周辺地域からの救急搬送、収容患者数が増加しています。これまで世羅地域・三原市北部が医療圏でしたが、府中市北部や神石高原町も医療圏域と考える必要があります。
 医療圏の拡大は世羅中央病院企業団にとって使命です。



(2) 病院機能とマンパワー確保
 (1)の「世羅中央病院企業団の存在意義」で述べた医療圏拡大を担う病院機能とマンパワーの確保は大きな課題です。
 現在一般病床135床、療養病床20床は約90%の稼働率で、在院日数は20日を超えています。この中山間地では公立世羅中央病院を後方支援する医療施設は皆無に近く、入院後は自宅での生活ができるまでのリハビリを必要とする、または老健施設の空きを待つ状態での入院期間は長期化しています。高齢化率35.3%の世羅町は独居老人・老々世帯等も多く、国が言うほどたやすく自宅への退院は現在でも大変厳しい状況です。病気や障がいを持っても自宅で安心して生活できる支援体制の充実(24時間訪問看護、緊急入院等)や、デイサービス・デイケアを含めた宅老所構想、低所得者対応の公的な施設も検討課題と考えます。
 次にマンパワー確保では、現在行っているコホート研究は大学との連携を深め、また研究をとおして従事する医師等がこの中山間地医療に興味を持ち、地域医療の担い手になることを期待しています。
 看護師確保では看護師が魅力を感じる職場であることが一番です。そこそこの救急医療を行い、手術も多くある、そして老年期看護、療養病棟、訪問看護等看護のはばは広くやりがいがあり、初任研修やスキルアップ研修の充実は安心して業務を行うことが出来ます。今後、子育ての看護師たちが安心して働ける院内保育所の整備や職員の休暇制度の充実、嘱託・パート職員の処遇改善が行われば、働きやすい職場と魅力アップになります。労働組合は働きやすい労働環境の整備や処遇の改善にむけた取り組みを継続して行い、看護師等の確保に貢献します。看護・介護職員等は女性が多く、女性が就労しやすい労働環境は人(夫・子ども……)を招き地域の活性につながります。住宅支援、子育て支援等の充実で看護師等を呼び込むためにも、行政や地域のバックアップが不可欠です。
 現在の医療制度や医師・看護師等不足の実情、勤務実態等の講演・シンポジウム、また病院祭りなどを開催し医療・福祉、公立病院について地域住民の理解を得ることが地域の子どもたち、学生に「公立世羅中央病院で働く医師・看護師になりたい」と感じてもらえる機会になると思います。現在他の施設で看護師をされている地元出身者の家族や知人が「世羅中央病院はええげな……」「中央病院へかわれ~」と言ってもらえることも期待しています。

5. おわりに

 公立病院改革は今後も健全経営(赤字脱却)をめざし、公立病院の再編統合を促します。地域住民が安心して生活するために医療は必須です。世羅中央病院企業団が地域に信頼される保健・医療・福祉を提供し、私たち職員が病院を愛し誠実に働けること、そして地域住民が病院を信頼し、大切に思ってくれることが地域医療の存続のカギと考えます。