5. 総務省改革プランの分析と医療提供について
2011年10月に総務省より出された経営3指標(経常収支比率、職員給与費率(対医業収益)病床利用率)を基に、2010年度実績と医療提供について分析した。
A病院は開設当時の地域の人口が約15,000人、今日までの50年の間に人口は3分の1の5,400人迄に減少している。不採算地区特定病院第1種に該当しており、高齢化率が43.6%、少子化率は9.7%と少子高齢化が著明である。
総務省の改革プランの3指標を基にみると経常収支比率は107.8%、過去25年間の経常収支比率も100%を超え黒字経営を維持し職員給与費率は60.5%で、減価償却費は12.4%とやや高い。医業収益では入院収益に対して外来収益の比率は0.50倍、病床利用率は74.5%(2008年度の病床利用率は59.2%)である。2007年度より病床利用率は80%を切り数値は低いが、病院事業に係わる交付税算定額の繰入は全て実施され、2010年度の純利益は83.496千円、内部留保金は4町立病院の中でトップである。
医療提供の部分では、治癒をめざす患者層より症状管理を必要とする患者層が多いと考えられ、訪問診察・訪問看護を中心とした在宅医療が展開され、年間2,000件の訪問診察と1,500件(2010年度実績)の訪問看護が実施され、地域包括医療が確立されている。また、A病院は鳥取県の面積の1割を占める町に所在し、救急搬送時間が全国平均の2倍以上かかるため、2001年から平日の13時から18時の時間帯に救急車が出勤すれば医師が同乗する試みを実施され、在宅医療と救急医療を組み合わせた医師同乗システムとして、過疎の町の医療体制を充実させている。
B病院の病床数は一般病棟60床と療養病棟50床、認知症病棟50床の患者を対象とした160床であるが、現在、医師の退職に伴い、2004年6月より認知症病棟(50床)は休止の状態である。経常収支比率は2006年度89.4%、2007年度98.7%、2008年度96.0%であるが、2009年度104.5%、2010年度100%と連続黒字経営となっている。尚、職員給与比率は2006年度~2010年度、52%~53%で推移している。病床利用率が60.3%と問題となる低い数値であるが、許可病床数(160床)に対しての割合であり、稼動病床数の一般病床数60床、療養病床数50床での稼働率では85%程度となる。2005・2006年度は資金残高がマイナスとなり、各年度単位で5千万~6千万の資金不足に陥ったが短期借入金残高はなく、内部留保金はA病院に続いて2番目に多い。
医療提供については、医療機関が収益効率を上げるには、外来患者を増加させることが重要で、診療報酬の点などからは、外来患者は入院患者に比べて一人当たりの収益が低くなる傾向である、しかしB病院では以前より外来収益が高く、2010年度でも入院収益より外来収益が1.05倍と高く、入院収益(772,893千円)より外来収益(802,792千円)が高いことを示している。
また、人工透析の年間延患者数は年々微増傾向であるが、その他の外来診療科では減少傾向であった。
C病院は不採算地区特定病院第1種に該当、2007年度末に一時借入金が7億円となり不良債務が5億3,687万円発生し、不良債務費41.2%という状況である。2007年度に公立病院特例債を5億3,680万円借りて不良債務の解消は出来ているが、年度末の一時借入金を6,000万円返済し、2010年度末の借入金は1億9,000万円、不良債務6,262万円となっている。2008年度に借入した公立病院特例債は、2010年度末には3億8,610万円に減少し2015年度には完済予定である。2010年度の経常収支率は95.9%、C病院の医業収支比率目標の87.6%に対して実績としては80.7%と低い。
尚、職員給与費は68.2%である。
また、2007年度1ヶ所、2008年度1ヶ所と公立病院付属診療所を開設し普通交付税の増加は、2009年度710万円、2010年度1,420万円増となっている。
医療提供については、2008年3月より療養病床の一部を介護老人保健施設(45床)に転換し、一般病棟79床、療養病棟20床の144床で運営し、1フロアーを一般病床27床と療養病床20床で区分されていたが、2009年4月から一般病床52床、療養病床47床に変更し現在に至る。尚、一般病床52床のうち5床は救急告示病床と位置づけており、救急患者対応として稼動し2009年度からは許可病床数を削減し、2010年度は病床利用率が87.3%となっている。許可病床数を100床未満の99床とすることで、不採算地区病院特別交付税が年間1億2,177万円算出され、2008年8月より出前健康講座を実施し健康受診率の向上をめざす事業展開を行っている。
D病院は2009年の純損益が1億6,371万円のマイナスで、内部留保資金が9,400万となり資金運用としては厳しい状況であった。これは精神科医師の休職に伴い、入院患者数の受入れ調整が行われたことと、外科医師も1人減となり医療機関からの紹介患者数が2008年と比較し半減し、入院患者数が延べ患者数で3,968人減少したことが原因と考える。外来では各科での増減はみられるが、前年対比では2010年度外来患者数は約2,000人増加となっている。
2010年度経常収支比率は100.6%で若干の黒字決算である。2007年度から2010年度までが機器費の返済、2010年度より建物の償還が開始となるが、医業収支比率が85.9%と4町立病院の中ではやや低く、職員給与費は68.4%である。2010年度の入院収益と外来収益対比が0.38と4町立病院のなかでは最も低いが、病床利用率は92%と高い。病床利用率が高い原因として、平均在院日数は20.2(一般病床のみ)とやや高く、精神科病棟の在院日数が全国平均在院日数の317.9日(2007年厚労省調査)より大きく超えていることも誘因である。
医療提供については、鳥取県の公立病院で唯一、精神科病床(99床)を有する病院であり、本来、県に求められる精神保健医療について代替機能を有するとともに、一般病床を併せ持つ病院として合併症を有する精神科医療の分野において重要な役割を持つ。また、地域における一般急性期医療、回復期における療養病棟を持つ病院として地域医療を担い、2009年より認知症疾患医療センターの指定を受けて、認知症疾患に対する専門医療も提供している。
6. 各病院の問題点
今回の分析では、各自治体が不採算部門に一般会計から繰入している病院と、数年に渡り黒字経営であるからという理由で、病院事業に係わる地方交付税措置さえ繰入していない病院があった。結果として、病院の改築や建替え時に内部留保金が減少し経営悪化を生じる大きな誘因となっている。
A病院では、減価償却費は全国平均より低く抑えられていたが、2006年度の7.6%と比較し2010年度では12.5%と本館の増改築工事で大きく上昇している。日本のおよそ30年先の姿と言われる高齢過疎の町で、30年後は人口がおよそ3,100人まで減少すると予測される。今後、人口減少にともなう患者数の動向と医業収益の関連性は重要となる。
B病院は、2009・2010年度は連続黒字決算であるが、今後問題になってくるのは、休止している病床に関連した特別交付税措置が2011年度で終わり、2012年度より受けられなくなる。経常収支率を100%以上にするには、休止状態である認知症病棟50床の活用について、具体的方向性を出すことが重要である。
C病院における、病床利用率は2006年度:71.5%、2007年度:80.5%、2008年度:92.0%、2009年度:90%の推移であるが病床数を減らして利用率が上がった一面があるが、外来患者の1日平均数が、2006年度:256人、2007年度:252人、2008年度:247人、2009年度:242人、2010年度:232人と年々減少している。
しかし、2010年度は患者の病態等を検討した結果、一般病床を52床・療養病床を47床に再編し、3看護単位を2看護単位に変更されているが療養病棟の利用率の低迷があり、前年度と比較して4千万円の減収となっている。
実質収支では(経常収支から減価償却費等を除いた収支)2009年度1億8,600円、2010年度1億4,100万円の黒字決算となっているが、今後も医業収益・病床利用率の改善と一般会計からの繰出しが重要となる。
D病院は、2010年度より建物の償還が開始するため更なる支出が見込まれ、改革プランの現在の医業収支比率の改善が必要である。特に外来収益は2005年度の1日平均外来患者数は337.6人であったが、1日平均外来患者数が減少傾向のなか、2009年度改革プランの目標数値は286.1人に設定された。実績として2005年度から2010年度までの間、外来患者は約280人で推移しているため外来収益としてはやや低く、今後は1日平均外来患者数を増加させる取り組みと、包括ケアシステムの確立など改善すべき問題の明確化と、対策に具体的に取り組むことが重要である。
7. 考 察
総務省から出された、3指標の分析と各病院の取り組み・問題点を総合的に判断すると、自治体病院は地方公営企業法で求められる「公共の福祉・医療」の増進と「企業の経済性」1)の発揮という、時に相反する二つの課題を実現しなければならないというジレンマを抱えており、私的病院と一律に考えるには一定の限界がみられる。
まず、私的病院と自治体病院に期待される役割・機能として、民間が採算面から参入しにくいと思われる政策医療の実施があげられる。政策医療の実施は、運転資金及び建設資金に対する公的資金投入の根拠にともなっており、運営においては、一般会計繰入金を収益的収入として病院の増改築や医療機器の整備に、国庫補助金・病院事業債を資本的収入として一部計上することが可能となっている。
これらのことから、一般会計等からの繰入れ決定は、首長の権限に委ねられているが、首長の独断のみで行われるものでもなく地域住民の意向を取り入れ、仮に不採算であっても地域住民のニーズが高ければ簡単に廃止することは出来ない(地方公営企業には破産適用がない)。逆に経営状態が悪くなくても、政治的な判断により、統廃合や民間売却が決定されることも考えられる。
近年では、「民間で出来ることは、できるだけ民間」にというスローガンのもと、行政改革が進められてきた。わが国の医療供給体制は、自由開業制度を採用していることもあり、病床数・病院数ともに私的病院が主流だが、一方では不採算部門や僻地不採算地区医療の供給における主流は、自治体病院や公的病院であり、私的病院が積極的に参画しているとは考えにくい。また、地域によっては病床規制があるために、民間参入が困難であるという可能性は否定できないが、近年不採算医療と言われ負担やリスクが大きい小児科を調査対象とした4病院全てが開設している。更に2町立病院は産科・婦人科を開設しており、地域性を勘案すると公的介入なくして、医療計画で定めた地域医療の確保が出来る可能性は低いと考える。
今後、益々医療費適正化や自治体財政の効率化が求められる中で、財源が大幅に増加することは見込めないが、住民のニーズは多様化しており、限られた財源で住民のニーズに対応することは必ずしも容易ではない。
それが故に、4町立病院は地域で必要な医療供給体制を模索し、各病院が様々な取り組みを行いながら地域住民の要望に沿った医療提供を行ってきた。自治体立病院は地域住民のものであり住民に必要なものは病院という箱物だけではなく、24時間、365日、地域で安心して納得できる医療供給体制である。
また、公立病院の役割は都市部と地方部とでは異なり、過疎地や僻地などの絶対的に医療施設が不足している地域では、一般医療サービスを供給することと、地域の医療を安定的に提供することが重要な役割である。
他方で、都市部のように公的医療機関や民間医療機関が多く立地し、相互の機能が重複している場合には救急医療などの採算性を理由として、不足している医療サービスを政策的に供給することが公立病院の重要な役割だと考察する。
8. おわりに
医療崩壊といわれている中で、県本部・単組の日常的な活動として、公立病院の機能と役割の再評価、医師・看護師確保対策、財源確保対策など地域住民、医療関係者等と連携した広範な取り組みが必要である。今後、どの地域においても、地域の医療を守り「住民の生命と暮らしを守る」という自治体立病院が必要とされるよう、財政分析や医療問題を共通認識しながら活動を続けることが重要であることを述べ、このレポートを締めたいと思う。
9. 引用・参考文献
医療提供における自治体病院のあり方1)(堀 真奈美:2011、P71 ~89)
自治体病院経営研究会編(2006)「自治体病院経営ハンドブック」(2006)
「地域医療の確保と自治体病院のあり方等に関する検討会報告書」(2009) |