2. 条例づくりの進め方
(1) 声を集める
アンケートを開始したのは昨年9月。アンケートづくりにも時間をかけた。何度も議論を繰り返し、改善を繰り返し、最終的にはA3用紙1枚を二つ折りにしたとてもシンプルなものとなった。内容は記述中心で、「体験したいやな事、悲しくなったこと、困ったこと」、「今不安に感じていること」「地域や周りの人にお願いしたいこと」等とともに、「今までうれしかったこと」、「助けられた事」なども聞いた。
(2) 寄せられた声
集める声の目標数は、千葉県や熊本県の実績を踏まえ、800事例とした。しかし、反響は予想を超えた。これまでに寄せられた声は1,000人以上、事例数にすれば2,000件を超えている。内容も予想を超えた。
知的障がい
・息子をこのように産んだことをせめてしまう。息子が当たり前に暮らせる社会になるのか…いじめられないか、独りぼっちにならないか、いろいろ心配。
・「障がいを持っている子とうちの子(同年齢の子)を遊ばせたくないから来られては困る」と言われました。
・相談するところがない、訴えても改善されない。
身体障がい
・ぞんざいな言葉づかいをされる。
・視力障害者に対してまともにみてくれない。
・見た目で分からない内部障がいは、分かってもらえないことに対する悩みがある。
精神障がい
・対人恐怖があり、親なき後暮らしていけるのか不安。
・病気の弱みにつけいれられ、高額な買い物をさせられた。
・親の育て方が問題と言われ、とても苦しんだ。
・この子には、私より長生きしてほしくない。他の家族に迷惑はかけられません。
発達障がい
・きもちわるいものをみるように避けられた。
・家に帰ってからのことを先生に相談しても「あんたら家族の問題なのだから」と言われ、対応してもらえませんでした。
・子どもには子どもの言い分があるはずなのに「この子には聞いても無駄だ」といっさい聞き入れてもらえなかった。
・きょうだい児に関してですが、学校で障がいのある子と必ずペアにされる。
・できれば一ヶ月でも息子より長生きしたいです…残酷な切ない願いです。
高次脳機能障がい
・この世から早くいなくなって死にたいという気持ちになって何回も自殺したけれど死ねなかった。
・世間(地域・社会)から疎外され、声をかけてくれず、通知もこない。
・病気のことを理解してもらえず「障がい者のくせに肥満体」と言われる。
・就職できないことがつらい。
重度心身障がい(重複)
・受け入れ場所が少なく、自宅で過ごすことが多い。同世代の人と接していろいろなことを楽しんでこそ生きている証だと思う。
・災害など緊急時に誰が駆けつけてくれるのかも分からない。
教育について
・校区の公立幼稚園から「責任を負いかねます」と入園を断られた。
・進級や進学のことを考えるときは、上にあがっていく喜びよりも次はどうなるのだろうという気持ちのほうが正直、大きい。
・障がい児就学前相談のとき同席した医師から「残念ですが…息子さんは。残念ですが普通学級では…。残念ですが…」と「残念」という言葉を繰り返した。息子は残念な子ではない。
(以上、条例をつくる会ニュースレター「わたしもあなたも」第5号より)
|
以上のように、福祉関係者でも初めて耳にするような深刻な事例も含めて、多くの思いが寄せられた。これをどのように条例に反映させるのか、弁護士や大学の研究者などと当事者・家族などでつくっている「条例づくり班」は“勉強会”を重ねている。
(3) これからの取り組み方
これまで6回の勉強会を行った「条例づくり班」は、7・8月に集中的に作業を進め、条例案を作り上げる予定だ。その条例案を、行政や県議会、福祉団体等に届けて意見を聞き、協力を求め、話し合いながら条例化への道筋を探っていくというのが、県条例をつくる会のこれからの取り組みの計画である。まさに“手づくり”というしかない、試行錯誤を前提とした条例づくりだ。
当初から当然、「福祉団体や県行政、県議会などへの働きかけを行い、前もって協力を取り付けた方がいい」というという意見もあった。しかし、「一人一人の声から出発したい」という参加者の思いの強さがその声を上回った。そして今、たくさんの声の集積を前にして、「その思いは間違っていなかった」という思いが共有されている。
とはいえ、各方面の反響は未知数だ。今は、地域にとって本当に必要な説得力のある条例案を作り上げることに全力投球中。できあがった条例案を手に、条例づくりに向けた新たな一歩が始まることになる。
|