【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による地域づくり

 「地域における“協働”の可能性」をテーマに、大分県内各地での「障がい者福祉」に関する実践的な取り組みについての報告をまとめてみた。



地域における“協働”の可能性


大分県本部/大分県地方自治研究センター・理事・在宅障害者支援ネットワーク・事務局長 小野  久

1. 「精神障がい者の地域生活と就労を考える竹田フォーラム」

 「第3回 精神障がい者の地域生活と就労を考える竹田フォーラム」は3月18日、竹田市総合社会福祉センターで開催されました。主催は、地域の福祉・医療・行政関係者、ボランティアなどでつくる実行委員会。市長をはじめ市議会議員や民生委員なども多数参加し、参加者はこれまでで最も多い約150人。「心の病がある人が暮らしやすい地域は誰もが暮らしやすい地域」と熱心な意見交換が行われました。


(1) 基調講演
 
 基調講演に立った別府大学文学部人間関係学科の三城大介准教授は「知らないものは怖い。それは排除につながる。心の病がどんなものか知っていれば包み込んで適切な対応ができる。竹田市は地域で人々を包み込んできたところで可能性がある地域だ。自分たちの地域をよく知っている自治委員、民生委員の皆さんと医療・福祉・行政などが連携していけば、よりよい地域にしていける」と、正しい知識を持つことと地域の連携を呼びかけました。


(2) 報告・体験発表「生活につながる医療と福祉」
 続いて報告・体験発表「生活につながる医療と福祉」が行われ、ビデオ上映、「医療の現状』の報告、体験発表が行われました。
 ケーブルテレビの協力でつくられたビデオ「地域で暮らしたい」では、「まわりに知ってもらうことで気持ちが軽くなった』という当事者、「不安があったが受け入れることで普通に話ができることがわかった」という職場の同僚、「働くことで元気になれる」という支援者の声などが聞かれました。
 「医療の現状」については、加藤病院の河野・病棟看護課長が「今はクスリが良くなるとともに多元的なアプローチによる治療が進み、入院中心から地域ケアに転換し始めているが、地域の連携が不十分だった。このような様々な立場の人が連携を取り合って考える場が増えればと願っている」と話しました。
 体験発表では、障がい者サポートセンターやまなみの貞永さんが「やまなみで働き始めるまで、精神障がいについて誤解していた。利用者にどう接すればいいか、また受け入れてもらえるかと心配した。朝から元気で暑くても寒くてもみんなで作業する。内職、畑や田んぼの仕事、草むしりなどする姿を見ていると、『働きたい』という気持ちを感じる。あたりまえの生活があった。偏見と無知の怖さを教えられた。最近は商店街との交流も始まっており、弱い人にやさしい街はすべての人にやさしい街だと感じている」と話しました。


(3) シンポジウム「福祉をつなぐ 地域をつなぐ」
 
 シンポジウムは「福祉をつなぐ 地域をつなぐ」をテーマに医療・自治会・商店街・行政関係者が意見交換を行いました。
 シンポジストの吉田さん(竹田市心の相談支援事業所)は「巡回相談やまちなか相談、地域での“いなばよろうち座”等の取り組みを始めて相談は増えてきている。しかしまだ地域の受け入れには困難を感じることが多い。まず周囲の偏見。『どう対応すれば』『こわい』という声を今も聞くことがある。次に住まいの確保の難しさ。最近も病名を言って断られたことがあった。また保証人も見つからない。また経済面も課題だ。仕事もできない、年金も納められないからもらえない。地域で連携して考えていけたらと思う」と話しました。
 自治会長でボランティア活動も行う吉弘さんは「地域の出来事を共有すること、地域の障がい者や高齢者を知ること、一緒にやることを大切にしてきた。偏見に気づき、正しく知れば地域でも交流できる。何事も正しく知ろう」と話しました。
 商店街振興組合代表理事の都築さんは「楽市楽座には福祉事業所に参加してもらっている。昨年は商店街ウォークラリーを行い、精神障がいの人たちと交流した。事故やトラブルを心配する人もいたが、全然そういうこともなくて喜んでもらえた。空き店舗への出店を支援したい。人にやさしい商店街をつくりたい」と話しました。
 竹田市福祉事務所保健師の渡部さんは「精神保健福祉を担当して個別支援などに取り組んだが、課題の大きさと福祉事務所だけでの対応に困難を感じた。その時期に、フォーラムの実行委員会で関係機関の人たちと連携ができ、町中や地域での相談事業、民生委員の研修会、地域の交流会などの取り組みを広げられた。そして、関係者の話し合いや地域の声を受けながら改善してくることができた。フォーラムに自治委員や民生委員の参加が増え、福祉事務所への相談も増えている」と話しました。
 会場からも、「議会ではこれまで高齢者や子育てに力を入れてきたが、障がいの問題にも力を入れなければと感じた」(議員)などの声が出されました。
 閉会のあいさつに立った後藤・竹田市福祉事務所長は「福祉事務所全体が精神障がいを持っている方を理解して取り組んでいくことが重要だと感じている。行政、医療、福祉や保健など関係者が連携して取り組んでいきたい」と話しました。


2. 「福祉のまちづくりをデザイン」―津久見市で福祉フォーラム

 3月5日、津久見市で第9回福祉フォーラムinけんなん(津久見会場)が開かれました。
 自治委員や民生児童委員を含む地域の人たちが多く参加、実行委員を含め約180人が映画「いのちの作法」を鑑賞し、「福祉のまちづくりをデザインするシンポジウム」で誰もが安心して暮らせる地域づくりについて話し合いました。

(1) 市長あいさつ
 来賓の吉本津久見市長は「津久見市は高齢化率が32%。福祉サービスだけでは限界がある。市も“地域社協”づくりを進めているが、このようなときにみんなで自分たちのまちを考えるフォーラムが開かれる意義は大きい」とあいさつしました。

(2) 映画『いのちの作法』
 映画『いのちの作法』は、岩手県西和賀町(旧沢内村)の「年齢を重ねても老いても輝く命があり,障がいを持っていても寄り添いながら生きられる“命を託せる小さな社会”」を描いており、参加者は笑ったり涙を流したりしながら,自分たちの地域のあり方とも重ねて見ているようでした。


(3) 「福祉のまちづくりをデザインするシンポジウム」
 
 シンポジウムは、シンポジストの一人吉田真知子さんの一人暮らしを撮影したビデオの上映から始まり、コーディネーターの倉原さんが「重度の身体障がいがある場合は入所しかないと思われているが、吉田さん大変じゃないですか」と吉田さんに問いかけました。吉田さんは「皆に助けてもらっているからやっていける。自分らしい生活ができるようになった」と答えました。
 一級建築士の高橋幸伸さんは「家を建てる人は自分らしい家を求める。真知子さんと全く同じだと思う。住宅はその人が良いと思うものが一番良い」。
 倉原さんの「地域に困っている人がいた場合、区長や民生委員などの役割は」という問いかけに、市区長会長の加藤一公さんは「民生委員が中心になって対応しているが、今は“小地域ネットワーク”ということで隣近所が対応する方向になってきている」。
 市社協事務局次長の石田さんは、「2008年の市地域福祉計画で,きめ細かく“地区社協”を設置することになり、現在設置を進めている。地域で見守り支え合える仕組みを地区全体に広げたい」。
 倉原さんは、同じように障がいがある子の親として県立看護科学大学准教授の平野亙さんに「どんな地域なら子どもをゆだねられますか」と質問。平野さんは「自閉症は常に見守りが必要なので、生活を支えられること、昼の時間を過ごせることが欠かせない。そして、友達がいること,食べる,寝る,住む場があることが必要。また、親と一緒にいることが幸せなのかも考える必要がある。親の“うっとうしさ”から解放することも考える必要があるのではないか」。
 さらに、県条例づくり実行委員会の世話人でもある平野さんは、「支えるシステムやルール作りには市町村の責任が大きい。国の法律が基本だが、それだけでは不十分なので条例づくりが必要になる。胸を張ってわがままを言うことがすごく大事で、あちこちで声を出すことでいいまちづくりができる」と当事者や家族の声を中心にした条例づくりの重要性を訴えました。
 最後に、平野さんは“自立”について、「人の手を借りないということではない。人は一人では生きられない。自分らしく生きるためにはたくさんの助けがいる。『助けて』と言えることが自立につながる」と指摘。
 倉原さんは、「皆さん、思いのある人を応援してください。私たち当事者家族もどんどん出て行きたいと思います。真知子さんに出会ったら声をかけてください」と結びました。
 「自分たちの住む地域をこれからどうしていくか」を話し合うシンポジウムは参加者の心に届き、新たな動きが始まったように思えたフォーラムでした。


3. 「だれもが安心して暮らせる大分県条例」をつくる会を結成
 

 「だれもが安心して暮らせる大分県条例」をつくる会の結成総会が6月4日、大分市のアイネスで開かれました。県内各地から約200人が参加、千葉県の条例づくりの報告を聞き、障がいがある人や家族の思いを出し合って、大分県条例づくりのスタートを切りました。

(1)  “社会モデル”と“合理的配慮”
 徳田靖之・代表世話人は、「障がいのある多くの当事者や家族はこれまで悔しい思い、悲しい思いをしてきた。千葉県条例は、当事者が条例づくりの中心を担った。その過程に学びながら、これまで社会や制度の壁に阻まれてできなかった願いが条例という形で実を結ぶように一緒に取り組もう」と呼びかけました。
 さらに「条例づくりに大切なことは、“社会モデル”と“合理的配慮”という考え方。“社会モデル”は『障がいは社会の側、制度、無理解から起きる問題』だということ。“合理的配慮”とは『安心して暮らせるために必要な配慮』でそれをしないことは差別』だということ。この二つを武器にして、みんなで力を合わせて邁進していこう」と呼びかけました。

(2) 「様々な立場の人の声を大切に」
 野沢和弘さん(毎日新聞編集委員)は、千葉県の条例づくりについて、視覚障がい者や県の職員、中小企業の社長、障がいがある子どもの母親など、様々な立場の人たちの思いが集まってできたことを多くの実例をあげながら伝えてくれました。そして、当事者自らが社会に出て、自ら社会を変えていくことの重要性を指摘しました。

(3) 「知ってもらいたい」
 リレートークでは、車いすで暮らす宮西君代さんが「今日、この場に立たせていただいたのは、生まれつき脳性マヒという障がいを持ち、言葉も不自由でうまく話すことができない。片言しか話せないから低く見られたり、軽い扱いを受けてきた。そういう人の存在を皆さんに知ってもらいたかったからです」と語り始め、「障害者だけが頑張らなくてもありのままを受け入れる社会を条例づくりを通してつくっていきたい」と条例づくりにかける思いを話しました。
 県盲導犬協会会長の湯沢純一さんは、「盲導犬によって自分で歩くことができるようになった」、「いろんな人のお世話で今までやってこれたので、私が人のためにできることとして条例づくりに取り組みたい」と話しました。
 藤内浩さんは、精神障がいの家族の立場から、①訪問型サービス②緊急時など23時間、365日の対応③本人の希望に添った生き方ができる社会④家族への支援―などの重要性を指摘しました。
 小坂忠さんは、高次脳機能障がいの家族の立場から、「軽く見えるし、知らない人が多いが、24時間手を抜けない」と、実例をあげながら理解と支援の重要性を訴えました。
 倉原秀樹さんは、重度障がいの子どもの親の立場から家族でディズニーランドに行った経験から、「“合理的配慮”があることで安心して楽しめた」と、地域で安心して暮らせるようになる可能性をユーモアを込めて伝えてくれました。

(4) 「“親亡き後”が心配」
 松下清高さんは、知的障害の子どもの親の立場から「なかなか就労ができない。また“親亡き後”が心配」と話し、また議員として大分市の子ども条例づくりに関わった立場から、「条例づくりには多くの人たちの声を反映することが重要」と指摘しました。
 安部綾子さんは、「差別は遠くではなく身の回りにある。それを背負うことになるのは母親だ。母親の思いを受けとめた条例にしてほしい」と訴えました。
 「つくる会」の方針は、平野亙世話人が、会の構成について「30人から50人の世話人をつくり、世話人会のもとに作業チーム(6つの地域班・条例づくり班)を設置する」と提案。さらに、条例づくりの進め方について、「6月28日に世話人会を開き、アンケート案(調査票)をまとめ、作業班を設置する。7~12月に各地域で第1期の“聴き取り”を実施し、さらに第2期の聴き取りを1~3月に行う。条例づくり班は第1期の聴き取りを受けて条例案をまとめる作業に入り、第2期の結果を反映して、6月までに第1次条例案をまとめる。第1次条例案に対して広く意見を求めるとともに、賛同人を集めて、最終案をまとめ県議会に提出する」という方針を提起し、了承されました。
 閉会あいさつに立った寄村仁子世話人は、「条例づくりの一歩を踏み出しました。一緒に考えながら進めていきましょう」と呼びかけました。