【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による地域づくり

 私達が安心・信頼して質の高い医療サービスを受ける為に、宮崎県が取り組んでいる医療計画があります。この医療計画を進めるにあたり、設定されている3つの保健医療圏域の中で、私達が住んでいる日南市ではどのような問題があるのかを把握し、その中で、日南市立中部病院が、今後どのような役割を担っていかなくてはならないのかについて提言します。



地域医療の現状
~日南市立中部病院の取り組み~

宮崎県本部/日南市役所支部 川越百合子

1. はじめに

 今日、急速な高齢化が進む中、地域住民や患者が安心して医療を受けられる体制を作っていくことが求められています。
 その為、宮崎県では宮崎県医療計画を策定し、保険医療資源の効率的、効果的活用を図り、健康増進から、疾病の予防・診断・治療及びリハビリテーションに至る、包括的な保健医療体制を確立する為の取り組みを行っています。
 しかし、私達が住んでいる日南・串間地区では、救急指定病院が少ないことや、医師不足の問題から、地域住民へ満足した医療サービスを提供する事が、困難な状況にあります。
 そのような中、病院や医療従事者などの医療資源を効率的に活用する事が求められ、地域住民へ安心・信頼される質の高い医療サービスを提供する為に、日南串間医療圏域、また、日南市立中部病院が担うべき役割・体制作りについて提言します。

2. 宮崎県医療計画について

 宮崎県医療計画は、基本方針にそって、医療機関の適切な役割分担と連携を進め、切れ目のない医療を提供出来るような体制を築くと共に、どの医療機関で、どのような医療が提供されているかということを地域住民へ分かりやすく伝えるなど、この医療計画を通じて情報提供の推進を図って行く必要があります。
基本理念
 全ての県民が、質の高い医療サービスを、安心して受けられる医療体制の確立
基本方針
 ① 切れ目のない医療提携体制の構築
 ② 安心・安全な医療体制の充実
 ③ 山間へき地の医療確保
 ④ 医療従事者の養成・確保
 ⑤ 県民への情報提供

3. 宮崎県の保健医療圏域の設定

圏域名
構成町村
宮崎県北部 延岡市・高千穂・日之影町・五ヶ瀬町
日向入郷 日向市・門川町・美郷町・諸塚村・椎葉村
宮崎東諸県 宮崎市・清武町・国富町・綾町
西都児湯 西都市・高鍋町・新富町・西米良町・木城町・川南町・都農町
日南串間 日南市・(旧北郷町・旧南郷町)・串間市
都城北諸県 都城市・三股町
西諸 小林市・えびの市・高原町・野尻町

 宮崎県は、一次医療圏の具体的地域には設定されておらず、三次医療圏を本県全域とし、二次医療圏は7つの医療圏域に分けられており、当院の位置する日南市は、日南串間圏域に属しています。入院治療を要するような比較的専門性の高い、糖尿病・脳卒中・災害医療・救急医療は、おおむねこの二次医療圏で治療できる体制作りを目指しています。

4. 日南串間医療圏域における問題

(1) 救急指定病院が少ない
 ⇒県立日南病院・日南市立中部病院・串間市民病院・百瀬病院の4施設のみ
 (2011年4月~2012年3月、医師不足に伴い当院は救急患者の受け入れを休止していた)
 救急指定病院の数が宮崎県内で最も少なく、最も高齢人口比率の高い日南串間圏域において、この問題は急務な課題と言えます。

(2) 脳卒中などの回復期リハビリテーション病棟を担う病院がない
 ⇒現在は、2011年12月まで回復期リハビリテーション病棟を有していた(93床中41床)当院が、一般病床の基準で回復期リハビリテーション病棟の役割を担っている状況
 これからは、生涯住み慣れた地域で過ごす事が出来るために、地域の中でおおむねの治療をする事が出来る地域完結型医療システムを作り上げる事が重要です。

(3) 二次医療圏が見直される懸念
 ⇒人口規模が20万人未満の二次医療圏
 入院に係る医療を提供する一体の区域として成り立っていないと考えられる場合(特に流入患者割合が20%未満、流出患者20%以上)、その設定の見直しについて検討することとなっています。

-日南串間医療圏の流出状況-
医療圏
医療機関の所在地
宮崎東諸県
日南串間
都城北諸県
西諸
患者所在地
日南串間
9.9
87.9
2.1
0.1

 流出率が20%を超えれば、日南串間二次医療圏の崩壊につながり、二次医療を担う県立日南病院の撤退も懸念されます。
 二次医療圏の地域完結型医療体制の構築は急務な課題です。

(厚労省 医療計画作成指針(案) 2011年12月16日発表)

5. 日南串間地区救急医療の現状と問題点

① 救急指定病院が、日南市立中部病院・県立日南病院・串間市民病院・百瀬病院の4施設のみであり今後、救急指定病院が減ることは、日南串間地区の救急医療体制において大きな問題。
② 専門医不在・満床・他救急患者対応中等の理由から、救急受け入れ可能な病院であっても、受け入れられない場合がある。
③ 医師は昼間から続けての診療になる事や、当直回数の多さなどの理由から、過重労働を余儀なくされている。
④ 夜間初期救急センターの対応により、救急指定病院の負担は軽減してきているが、19時~22時までと時間制限があり十分とは言えない。
⑤ 初期診察を行い、入院または詳しい検査が必要となった場合、受け入れてくれる病院を探さなくてはいけない。
⑥ 県立日南病院が対応不可能な場合の想定がされていない。
(以上の内容は、以前日南市の救急指定病院の院長から提出された資料を参考にしています。)

6. 地域完結型システムについて

 これまで一般的であった、治療の全てを一つの医療機関で行う自己完結型医療から、地域を一つの病院に見立て、それぞれの医療施設が役割を分担し、患者に対して切れ目のない医療を連携してやっていこうという地域完結型医療への転換が必要となってきています。これは、国の政策誘導もあり、様々な地域で取り組まれています。
 このシステムでは、病気を発症して治療・手術を必要とする急性期から、リハビリテーションを中心に行われる回復期、在宅や福祉施設などで安心して生活できる維持期まで、様々な医療・福祉機関が連携しながら一貫して地域住民に医療サービスを提供する事が出来ます。


7. 日南市立中部病院の状況(医師数等)について

2011年1月 医師数7人
2011年2月 内科医1人退職(医師数6人)
2011年3月 麻酔科医1人退職(医師数5人)⇒健診事業の縮小、新規入院の原則受け入れ休止
                      救急告示病院の指定休止など診療体制見直し
2011年12月 リハビリテーション科医退職(医師数4人)⇒回復期リハビリテーション病棟返上
2012年2月 内科医1人就任(医師数5人)
2012年3月 内科医1人退職(医師数4人)⇒救急患者受け入れ再開
2012年4月 内科医1人就任(医師数5人)⇒健診事業拡大・再開

8. 日南市立中部病院の課題

(1) 医師不足・定着への取り組み⇒医師の仕事量の増加・過酷な体制での当直勤務
 3月から再開した、当直可能な医師4人体制での救急受け入れに伴い、4人の医師は当直回数が月5・6回となっており、そのまま継続しての日勤診療など、過酷な体制での勤務を今後どうしていくかは大きな課題と言えます。

(2) 医療スタッフの人員確保⇒医療事故などのリスクが高くなる、患者満足度の低下
 医師の過酷な労働環境の改善や、患者の健康・命を守る為、また病院機能を維持していく為には、医療スタッフの充実を図ることも必要不可欠となってきます。

(3) 回復期リハビリテーション病棟の再開
 ⇒県南地区唯一の回復期リハビリテーション病棟がなくなると、集中的なリハビリをすることなく、生活に支障をきたしたまま在宅復帰となる可能性が高い患者が出てくる。

9. 日南市立中部病院の役割

 基本的に一次医療を民間の開業医療機関が担い、県立日南病院が圏域の二次救急医療を担い、市立中部病院は準中核病院として、各医療機関との機能分担や連携に努め、地域の一次・二次医療や特化した医療の提供を目指しながら、誰もが安心できる地域医療体制の整備を行っていく事を目指しています。(日南市総合計画より抜粋)
 このように、公立病院として救急医療を行う事は必要不可欠であり、患者中心の地域完結型医療の構築の為にも、南那珂地区に回復期リハビリテーション病棟がない事は大きな損失になると思われます。また、回復期リハビリテーション病棟の役割を担う事が出来るのも、南那珂地区においては現在は当院だけであります。
 また、入院が必要な患者の受け入れが困難な開業医や、二次救急医療に特化したい県立日南病院に対し、入院施設を持ち救急患者対応可能な当院は後方支援病院として大きな役割を担っています。
 その他、災害拠点病院は県立日南病院となっており、実際に災害が起こった場合、当院は県立日南病院と連携協力を図りながら対応していかなくてはならない為、災害医療体制の充実に努めることも役割の一つだと思われます。

10. まとめ

 私達医療従事者は必要な医療を提供すること、地域住民や患者はその必要な医療を受ける事が当たり前のことなのです。しかし、様々な問題があることから、当たり前の事が当たり前でなくなってしまうことはとても残念なことです。
 今後も私達が地域住民から必要とされていることに応えていく為には、行政と共に問題解決に努め、適切な医療体制を構築していく事が必要ではないかと考えます。