【論文】

第34回兵庫自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による地域づくり

 少子高齢社会の担い手としての看護職員の育成、定着化を阻む最大の要因のひとつである夜勤労働の改善は喫緊の課題である。そのためには夜勤労働のあり方を規定している施設基準が抱える問題点(実際の拘束時間、施設基準が規定する勤務時間、就業規則に基づく所定労働時間のギャップ)に着目し、夜勤時間の短縮化を考慮した勤務体制を事例として考察する中で、改善のための認識の共有化をはかる。



病棟看護職員の夜勤労働短縮化についての考察


兵庫県本部/地方独立行政法人神戸市民病院機構嘱託職員・神戸市立医療センター西市民病院勤務
米澤 正紀

1. はじめに

 看護職員について、現役労働者と潜在労働者の割合を見た時に、現在135万人の現役に対して55万人の潜在、仮に「潜在率」としてこの割合を表すと28.9%(55万人/190万人)であるのに対して、2007年時点であるが、介護労働者は約117万人の現役に対して潜在介護福祉士は約22.5万人、潜在率は16.1%(22.5万人/139.5万人)となる。介護保険施行以降、なかなか介護の労働力が定着しないと言われ続けてきた中でのこの数値からも看護労働者における離職者の数が多いことが推測される。離職者が多いということは、看護労働に魅力がないからであろう。では何故魅力がないのか。その大きな原因の一つに「夜勤」の存在がある。夜勤は大きなストレスであり、看護職員個々人の生活設計に直接制約を与えるものであるから、1人当たり夜勤時間の短縮、夜勤環境の改善は喫緊の課題である。


2. 夜勤時間の短縮化を考慮した勤務時間帯の考え方

 二交代であっても三交代であっても、夜勤の最大の問題点は、労働時間としては人間の生理に反した時間帯を長時間にわたって勤務しなければならないことにある。勤務間隔が長くなるという意味では、三交代より二交代のほうが優れている。しかし二交代で夜勤する場合の原則は、1勤務帯8時間を2回分連続で勤務しなければならず、負担が大きくなる。
 もし二交代勤務であれ三交代であれ、夜勤の時間を短縮できるのであれば、夜勤の肉体的、精神的負担は軽減され、夜勤問題解決への布石となるであろう。
 そこで、試みに急性期の一般的な病院の一病棟における変則三交代勤務の1事例を提示して夜勤時間数の縮小を考えてみる。検討するにあたって、必要となる諸条件を次のように設定する。
(1) 一般病棟入院基本料の7対1入院基本料を算定。
(2) 1勤務帯につき1人当り施設基準勤務時間は8時間(休憩時間を含むが、申し送り時間は含まない)。
(3) 申し送り時間は30分。
(4) 1勤務帯につき就業規則に基づく1人当り所定労働時間は7時間30分(申し送り時間を含むが、休憩時間は含まない)。
(5) 1勤務帯につき1人当り病棟に拘束されている時間は8時間30分(所定労働時間7時間30分+休憩時間1時間)。
(6) 病床数50床。
(7) 病床利用率90%。
(8) 1日平均入院患者数45人(50床×0.9)。
(9) 1日看護配置数{(1日平均入院患者数/届出区分【7対1】の数7)×3勤務帯}20人(45人÷7=6.4人。6.4人×3=19.2→20人(切り上げ))。
(10) 1日当り必要総労働時間160時間(1日看護配置数20人×8時間)。
(11) 病棟必要総看護配置数33人(1日平均入院患者数45人÷1.4(※)=32.1→33人(切り上げ))。
 (※)は、常時7対1に対応する病棟全体での看護職員配置数を1とした場合の対患者数を表す。総配置数とは、病棟を運営するために配置(配属)される総数をいう。
(12) 夜勤体制からみた最低必要看護要員数は28人{8人(準夜勤4人+深夜勤4人)×30.4日(1ヶ月の平均)/9回(施設基準上の上限となる1人1ヶ月当り夜勤回数)=27.02}。なお当該病棟における夜勤要員を31人、非夜勤要員を2人(師長及び夜勤免除者)とする。
(13) 看護職員の週所定労働時間は、37.5時間/人(7時間30分/日×5日)。年間の総所定労働時間は、1,955時間/人(37.5時間×52.14週【年間週数】)(小数点第1位四捨五入)。
(14) 公休(週休)以外の勤務除外時間数(※)
① 有給休暇23日(年次有給休暇の平均付与日数18日+夏期休暇5日)+②週休日と重ならない祝日(年末年始含む)11日(2012年度)+③週休日、祝日と重ならない年末年始休2日(2012年度)+④病気休暇・欠勤2日+⑤産休・育休12日+⑥研修・会議等6日+⑦その他1日=57日・428時間(57日×7時間30分=427.5)。
 (※)④、⑤、⑥、⑦については、日本看護協会「2011年病院看護実態調査」等から筆者が推計したものである。有給休暇の日数設定も含めて、現状の取得状況を勘案して「有給休暇等が充分とれる場合」の時間数として上げている。
(15) 有給休暇等が充分とれる場合の実労働時間は、1,955時間-428時間=1,527時間/年間/人。1,527時間÷12ヶ月=127.2→127時間/月/人。
  ◎ 上記の計算を施設基準ベースに置きなおす(7時間30分を8時間に読み替える)と、
(16) 年間の1人当り実労働時間数は、1,630時間{40時間(8時間×5日)×52.14週=2,086時間。2,086時間-456時間(57日×8時間)}。1ヶ月間では136時間(1,630時間÷12ヶ月=135.8)。
  □ 上記勤務除外時間数を所定のものとすると、
(17) 1人当り月平均勤務回数は、17回(1ヶ月間の実労働時間数136時間÷8時間)。なお現行施設基準に基づいて33人の総数で算出される1人当り月平均勤務回数は、18.4回{(4,864時間(1日当り必要総労働時間160時間×30.4日)÷33人=147.4時間。147.4時間÷8時間}。
(18) 病棟必要総看護配置数36人{4,864時間(1ヶ月当り必要総労働時間数)÷136時間=35.7→36人}>33人。
 すなわち病棟必要総看護配置数は、現行施設基準上は33人でよいが、456時間の勤務除外のもとでは、3人増やして36人としなければ当該病棟の勤務は回らない。36人ということは、45人÷36人=1.25→1.3。つまり1.3対1(総配置数)、これは常時配置では6.5対1ということになり、7対1(1.4対1)より手厚い配置となるが、急性期看護補助体制加算のみなし看護職員規定によって多少補填されるとはいえ基本的には診療報酬上のメリットはない。
 では上記条件のもとで、1勤務帯8時間の枠組みは残しながら、拘束時間数を施設基準上の勤務時間数として算定する(8時間→8時間30分)こととし、また年間の休暇等非病棟勤務時間数を485時間(57日×8.5時間)として、10時間30分の準夜・深夜連続勤務、6時間30分の準夜勤務、深夜の仮眠2時間を導入した場合の看護職員の労働時間数がどのように変化するかを考えてみる(別紙「図 夜勤時間の短縮化を考慮した勤務時間帯の考え方 変則三交代(連続夜勤10時間)」参照)。
  ① A勤務帯(日 勤)8:00 ~ 16:30  施設基準実働(拘束時間)8.5時間
                        (所定労働時間7時間30分)
  ② B勤務帯(準夜勤)16:00 ~ 22:30  施設基準実働(拘束時間)6.5時間
                        (所定労働時間5時間30分)
  ③ C1勤務帯(準夜勤)22:00 ~ 24:00  施設基準実働(拘束時間)2時間
                         (所定労働時間2時間)
  ④ C2勤務帯(深夜勤)0:00 ~ 8:30  施設基準実働(拘束時間)8.5時間
                         (所定労働時間6時間30分・仮眠2時間)
       < 標  準 >               < 事  例 >
  A勤務帯(日 勤)8時間×12人=96時間 ⇒ 8.5時間×12人=102時間
  B勤務帯(準夜勤)8時間×4人=32時間 ⇒ 6.5時間×4人=26時間
  C勤務帯(深夜勤)8時間×4人=32時間 ⇒ C1勤務帯(準夜勤)2時間×4人=8時間
                        C2勤務帯(深夜勤)8.5時間×4人=34時間
  合計20人(20勤務帯)160時間       ⇒ 合計24人(24勤務帯)170時間

 ① 170時間/日×30.4日=5,168時間。これを144時間/月{42.5時間(8.5時間×5日)×52.14週=2,216時間。2,216時間-485時間=1,731時間。1,731時間÷12ヶ月}で除すと、総看護職員数は36人となる。また1ヶ月1人当り勤務回数は20.2回(24勤務帯×30.4日=729.6勤務帯。729.6勤務帯÷36人)となり、有給休暇等非病棟勤務日を十分配慮した場合の勤務回数が17回(1ヶ月間の実労働時間数144時間÷8.5時間)なのでこれを上回ることになる。しかしC1とC2の各勤務帯は、実際には連続して勤務するので、これを1回としてカウントすると、1日当り勤務帯数は、20勤務帯となる。すると1ヶ月1人当り勤務回数は17回(20勤務帯×30.4日=608勤務帯。608勤務帯÷36人)となり、同様の勤務回数となる。
 ② 1人当り夜勤回数については、B勤務帯4人+C1勤務帯4人+C2勤務帯4人=12人/日。12人×30.4日=365人。365人÷31人(夜勤要員)=11.8回。ただしC1とC2を1回としてカウントすると、B勤務帯4人+C1勤務帯・C2勤務帯4人=8人/日。8人×30.4日=244人。244人÷31人=7.8回となる。7.8回×8.5時間=66.3時間/人/月は、月1人当り夜勤制限72時間に十分納まっている。
 ③ 所定労働時間については、C2勤務帯(深夜勤)において仮眠という形で2時間の休憩時間を設定しており、他の職員と比べて1時間多くなっている。そのため夜勤従事職員と非従事職員及び看護職員以外の職員との間に不均衡が発生する。


3. 「夜勤時間」の整理と改善の視点

 夜勤時間を実質的に短縮化して行こうとすると、「拘束時間」と「施設基準が設定する勤務時間」及び「就業規則に基づく所定労働時間」の三つがそれぞれ絡みあって実現を困難にしていることがわかる。上記の事例は、連続夜勤ではあるが夜勤時間数を縮小し、有給休暇取得にも配慮して夜勤労働の負担を軽減しようとするものであるが、三つの時間の概念を整理し、整合性のあるものに変えることによって、ゆるやかな増員をはかりながら働きやすい環境の整備を進めていかなければならない。 
 ① いわゆる申し送り時間は、申し送る方も申し送られる方も所定労働時間に含まれているが、施設基準上の勤務時間としても含める。すなわち拘束時間数(申し送り時間を含む所定労働時間+休憩時間)を施設基準上の勤務時間数としてカウントする。この場合上記事例では、拘束時間は8時間30分であり、1勤務帯8時間の枠を超えるが、この8時間30分/人を基本に1日当り必要総労働時間160時間の枠の中で必要な看護職員数の調整を行う。これは、実際の病棟運営では休憩時間といえども病棟を離れて十分に身体を休めることが困難であるため、拘束時間が最も実働に近いからである。現在の基準では、この実働時間のうち申し送りにかかる時間が評価されておらず、言わば働き過ぎの状態となっている。
 ② 拘束時間と所定労働時間の差(休憩時間)は職員一般に共通なので、夜勤要員において夜勤時間数を緩和したため所定労働時間数が不足する場合は、他の勤務帯で補填するとしても、勤務可能日数には限りがあるので、上記試案のように10時間夜勤において仮眠時間を想定すると勤務回数や勤務時間への影響は避けられない。そのため深夜勤務において不足する時間数については、現行の超過勤務手当の割増率や夜間の特殊勤務手当の考え方を勘案して、勤務した時間数として評価する。その上で、現在支給されている夜勤手当等については、なお残る格差について客観的に評価を行った上で別途調整すればよい。


図 夜勤時間の短縮化を考慮した勤務時間帯の考え方
変則三交代(連続夜勤10時間)全体図(1)

変則三交代(連続夜勤10時間)全体図(2)