【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第6分科会 地域での子育ち支援

 県内職員組合の協力を得て、各自治体の子育て支援施策についてのアンケートを実施し、その結果をランキング形式で順位付けしながら各自治体が行っている子育て支援施策の現状を確認した。また、あわせて、今後自治体に求められる子育て支援施策のあり方について考察した。



自治体子育て施策ランキング
~自治体に求められる子育て支援施策を展望する~

新潟県本部/自治研推進委員会・第2小委員会

1. 自治体子育て施策ランキング

 研究にあたって、県内各自治体の職員組合を通じて子育て支援の状況についてアンケートを実施した。新潟県は平成の大合併により、20市6町4村(30基礎自治体)となっているが、そのうち18市5町2村(25基礎自治体)【回答率83.3%】から回答を得た。
 ランキングにあたっては、各アンケートの回答項目を次のように順位付け、合計点が100点になるように設定した。なお、この点数が客観的に妥当かどうかは今後の議論に委ねたい。


表-1 施策項目別の配点の考え方(配点による合計点に係数を乗じて100点満点となるように調整)
項  目
配 点 方 法
1
児童福祉を担当する課の名称 課名に「こども」や「子育て」が入っている場合は3点
2
一般会計以外の子育て支援財源 規模に応じて1~5点
3
子育て世帯への単独給付事業等 規模に応じて1~5点
4
医療費助成 中学生以上を助成対象としている場合は5点
5
出産世帯への給付 規模に応じて1~3点
6
放課後児童クラブ 実施の場合5点、対象年齢に応じて5点まで加点
7
保育園一時預かり事業 実施の場合5点、土曜日実施は2点加点
8
病児保育 実施の場合5点
9
地域子育て支援拠点事業 実施の場合5点
10
ファミリー・サポート・センター事業 実施の場合5点
11
病時・緊急対策強化事業 実施の場合5点
12
子育て世帯への情報提供 実施状況に応じて1~4点
合   計
62点

 総合得点が最も高かったのは上越市で、100点満点中の69.4点となった。その次に、十日町市66.1点、新発田市61.3点と続く。また逆に低い自治体は、刈羽村の27.4点、阿賀町の30.6点、阿賀野市と村上市が32.3点で同点となっている。
 総合得点トップの上越市と2位の十日町市は、医療費助成を中学校卒業まで行っていること、病時保育に対応していることなどが主な加点ポイントとなり、他の自治体よりも高位となっている。
 ランキングが低い自治体は、例えば大きな拠点病院がない町村部を中心に、病時保育を実施していないケースが多いなど、小規模自治体ゆえに実施できない施策があるためランキングが低くなる傾向がみられた。また、市部でも阿賀野市、村上市などは30点位の低めの点数となった。これらの市では、他の小規模自治体同様に病時保育が実施されていないことや、市役所に子育て支援のための専門部署が設置されていないこと、また子育て世帯への情報提供が十分に行われていないことが減点の対象となった。以下において各項目別の全県的な特徴や傾向を見てみたい。

(1) 子育て支援課の設置と子育て世帯への給付事業
 市部では、回答のあった18市のうち14市に「こども」や「子育て」という名称のある課が設置されている。民生部門の中でも、子育て支援に関する行政サービス需要の高まりを受けて、子どもや子育て支援に特化した業務を担う部署が設置され、行政サービスが実施されている。
 また、子育て世帯向けの現物・現金給付などについては、出産した際の祝金制度が6自治体、紙おむつに対するごみ袋の交付事業などが6自治体と、アンケートを実施した半数程度の自治体が実施していた。ただ、財政的負担からか出産時や乳幼児期の子どもを抱える世帯に限っての支援が中心となっており、乳幼児期以降も含めた子育て時期に継続的な給付事業を実施している自治体はみられなかった。

(2) 医療費助成の状況
 子どもの医療費について、新潟県では、外来診療(3歳未満1日530円)、入院(小学校卒業まで1日1,200円)ともに対象年齢までは一部負担金額が決められ、世帯負担が過重にならないよう助成されているが、外来診療に関する助成については、県の助成年齢を上回る小学校卒業までを同じ取り扱いとしている自治体がほとんどである。また、上越市や十日町市など一部の自治体では、外来診療、入院とも助成年齢を中学校卒業までとしている状況が確認された。とりわけ、助成する対象者が比較的少ない小規模自治体や町村部においては、中学校卒業まで助成する自治体が多い傾向がみられた。

(3) 保育園、幼稚園の設置状況
 利用対象年齢人口との比較から、施設定員としては十分な余力があり、三条市をのぞいて待機児童は発生していない。地方でも共働き世帯が増加しており、保育に欠ける子どもの比率は昔より高くなっていると考えられるが、子どもの絶対数が減少していることもあり、受け入れ環境の問題は顕著ではない。地方都市では、待機児童よりも、人口減少により都市周辺部にある施設の統廃合が進められていることが問題となっている。
 なお、今回の調査では、自治体の保育料については分析を加えていない。保育料は自治体ごとの階層定義に差があり、料金にも差があることが分かっている。保育料もランキングにあたっての大きな要素になるが、一律の評価は難しいと判断し、今回の調査対象からは外している。

(4) 子育てサービスの状況
① ファミリー・サポート・センター
  厚生労働省が2005年度に創設した、子育て依頼会員と提供会員をつなぐ互助組織を作るための「ファミリー・サポート・センター事業」は、17自治体で実施されている。市部では三条市、村上市、加茂市以外は全て実施しているが、町村部では湯沢町のみという状況である。また、厚労省が2009年度から追加的に創設した「病児・緊急対応強化事業」は、3自治体でしか実施されていない。病児・病後児の預かり、早朝・夜間等の緊急預かり対応という事業の性質上、提供会員の確保や事務的な対応が困難であることが理由として考えられる。
② 放課後児童クラブ
  放課後児童クラブは、回答のあった全自治体で実施されている。南魚沼市や柏崎市のデータが示すように、児童クラブを利用する世代の人口が年々逓減しているにもかかわらず、登録者数、延べ利用者数ともに堅調に推移しており、子育て世帯にサービスが浸透していることがうかがえる。対象者は小学校1年生から3年生までという自治体がほとんどだが、4自治体では小学校6年生までを対象としている。共働き家庭にとっては、小学校高学年であっても子どもを家で1人にしておくことは避けたいと考えるのが本音であることを考えると、他市に先駆けて児童クラブの対象年齢を拡充している4自治体の取り組みは大きく評価されるべきものである。


図-1 児童クラブ利用状況と対象者人口の推移
 
表-2 各年代別の人口
 
 
0~5歳
6~11歳
12~15歳
南魚沼市
498
563
667
柏 崎 市
677
766
849
全調査数
15,886
17,940
18,944

③ 保育園の一時預かり
  一時預かりは22自治体で実施されており、利用料金は1日で1,500円前後となっている。実施している自治体の中でも、十日町市や魚沼市、胎内市、聖籠町、出雲崎町などでは、土曜日実施に加え、午前7時台から午後7時台まで利用可能な点など内容が充実しており評価に値する。
④ 病時保育
  病児保育については8自治体が実施している。受入れ先は病院であるが、箇所数や受入人員が限られているところがほとんどである。病気で心細い子どもを1人で置いていくことは親にとっても、子どもにとっても辛いことであるが、両親の労働環境が十分に整備されていない現状では、必要なサービスと考えられる。

(5) 子育て世帯への情報提供について
 自治体ホームページ上で情報提供を行っている20自治体のうち、子育て専用ページを設けているのが6自治体、また19自治体が広報誌等で情報提供している。子育てメールの配信や子育て便利帳は10自治体が発行しているなど、すべての自治体で何らかの情報提供を行っていた。

2. ランキング結果と合計特殊出生率データの分析

表-3 合計特殊出生率上位5自治体
1
十日町市
2
佐渡市
3
関川村
4
糸魚川市
5
上越市
1.91
1.89
1.86
1.74
1.62
表-4 合計特殊出生率下5位自治体
1
田上町
2
湯沢町
3
新潟市
4
加茂市
5
五泉市
1.02
1.04
1.26
1.29
1.3
 前項のアンケート結果から作成したランキングに、新潟県が自治体の統計データをまとめた「新潟県100の指標」を照らし合わせ分析を加えてみた。
 ランキング上位3自治体の合計特殊出生率は1.61、下位4自治体の合計特殊出生率は1.45である。子ども医療費助成事業の対象を中学生まで拡充している上越市と十日町市は1位と2位だが、合計特殊出生率は、それぞれ上越市1.62(5位)、十日町市1.91(1位)と高位になっている。特に、十日町市の1.91という値は、現在の人口置換水準と考えられる2.07に迫る数字であり、少子化対策という観点からは比較的成功している自治体であると考えられる。(注:カッコ内順位は「新潟県100の指標」による県内順位を示す。)
 十日町市は、ほとんどの施策が平均的に実施されており取りこぼしがないという印象を受ける。しかし、同様の施策を実施している上越市や新発田市1.43(17位)との合計特殊出生率の差についての説明ができないため、この差は自治体の子育てに関する施策だけによるものではないと考えてよいと思われる。
 ここで「新潟県100の指標」のデータの中で、合計特殊出生率との相関関係があるデータとして、人口流入率、流出率との関連を指摘しておきたい。十日町市を含め、合計特殊出生率が比較的高い自治体は、人口流入率、流出率が低位にある。これは、仕事等で日中自治体をまたいでの人口移動が少ないことを示している。


表-5 新潟県自治体の人口流入率と人口流出率
① 人口流入率(人口千人当り) 県平均103.0  最大値555.8(聖籠町)
1
佐渡市
30位
2
糸魚川市
28位
3
上越市
27位
4
十日町市
26位
5
柏崎市
22位
2.5
30.1
45.3
46.5
73.4
② 人口流出率(人口千人当り) 県平均102.0  最大値358.7(田上町)
1
佐渡市
30位
2
糸魚川市
28位
3
上越市
27位
4
柏崎市
25位
5
十日町市
24位
1.4
40
43.5
59.1
66.3
(注:人口の母数が少ない町村と県都である新潟市を除く順位)

 つまり、このデータは、日中の人口移動が少ない自治体の合計特殊出生率が高いことを示しており、域内の人口移動が少ないということは、当然、子育てに関しても両親や祖父母が比較的身近にいるという環境が想定される。合計特殊出生率が高い自治体では、複数の親族が毎日の子育てに関われるのではないかと推察される。

3. 自治体に求められる子育て支援策とは

 住民は子育てという限られた事象だけで居住地を選べない。この意味からも、居住している自治体によって子育て世帯への支援が大きく異なるのは望ましくない。子育て世帯への支援は、できるだけ自治体間の差を少なくすべきであり、そのためには国や県レベルである程度足並みを揃えた動きにしていくことが必要だ。少子化における国力の衰退が問題視されている。そうであるなら、全国的な施策として方向付けしていくべきと考える。
 また、今回の調査では、出産世帯への一時的な給付のように、子育て世帯へのインセンティブが働くと思われる事業を行っても、合計特殊出生率に目立った傾向はみられなかった。このことから、自治体は可能なレベルで真に必要な施策のみに財源を投じる必要がある。多くの施策は国の制度でカバーし、広域で一定の水準を確保するための施策は県レベルで制度化する。基礎自治体は、当該自治体の人員構成や、地域の特性に合った支援策を実行する。こういった支援策を作り上げるために、各自治体が行ってきた子育て支援策とその効果を振り返りながら、三者間で幅広い議論を行い、政策を複層的に進めていくことが必要となる。
 一方、前項で指摘した人口移動の少なさと合計特殊出生率の奇妙な関係は何を物語っているのだろうか。自治体が子育てをしやすい環境を作り上げていくことは大変重要なことである。しかし、今まで行ってきた政策は合計特殊出生率という具体的な数値に結びついていないことも事実である。
 「都市部への人口一極集中と地方の過疎化」など子育てをめぐる環境と、「過重労働や不安定労働」といった子育て世代の働き方の問題は密接に関連しており、施策によって、子育て世代の選択に影響を与えるとは考えにくい。子育て世代が安心して将来設計ができる安定した社会保障制度の構築、安定した雇用の拡大も急務である。
 また、家庭における教育力の低下や児童虐待などといった問題に歯止めをかけることも喫緊の課題だ。施策の守備範囲は幅広く、行政だけでは対処できない。いかに地域や社会の力を引き出して、安定的な制度を構築していくかという取り組みについても、今まで以上に進めていく必要がある。
 地域と社会が一体となった子育て支援を考えると、最前線にいる基礎自治体の出番である。地域の声を集めて国全体の施策を動かしていく。国と自治体の役割分担を明確にした上で、きめが細かい支援策に特化する仕組みを考えていく。このような地域主権に向けた取り組みが求められているのではないだろうか。最後に、アンケートにご協力いただいた新潟県内各自治体単組に対してお礼を申し上げたい。