【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第6分科会 地域での子育ち支援

 6月に開催した自治労滋賀県本部自治研集会の分科会での取り組みのまとめ。地域における子育て支援をテーマに、子ども・子育て新システムを学びながら、県内の認定こども園の現状に関するアンケート調査を実施した。ここでは集会当日に報告した結果の分析を中心に、分科会の流れと今後の課題についても触れてみた。



滋賀県 認定こども園の現状と課題
公立園が担う役割を探る

滋賀県本部/滋賀地方自治研究センター

1. はじめに

(1) 滋賀県本部自治研集会と分科会の流れ
 今年6月30日、滋賀地方自治研集会が開催され、午後の分科会のひとつのテーマは「地域でつくる子育て支援」であった。これは2009年秋に開催された前回の県本部自治研集会における分科会設定を引き継ぐもので、滋賀県が近年では全国的にも数少ない人口増加県であり、近畿圏では比較的入手しやすい県南部の分譲マンションや戸建て住宅に転居してくる子育て世代も多く、自治体によって待機児童の増加が著しく、行政課題となっていることを意識している。
 前回は、認定こども園という幼稚園、保育所とはちがう新たな施設が導入されはじめた時期で、子育ち子育ての新しい姿を探る議論を行った。国と自治体の財政窮乏化にともない、公共サービスに多様な担い手を参入させることで自治体の直接的な関与を縮小し、財政負担を軽減化しようという全体の流れの中、子ども関係政策の予算も後退させられてきた状況下で、サービスの質を低下させずに待機児童の増加を防ぐためには民間との協働に頼ることもやむなしとの認識のもとに、自治体に働く者が何をなすべきか、公立施設の担うべき役割を模索しようとしたものであった。

(2) 新システムの勉強からアンケート調査へ
 この間、前回集会時点ではスタートしたばかりであった民主党政権が、地域主権をキーワードに掲げながら、各分野で従来の政策の転換を打ち出してきた。とりわけ税と社会保障の一体改革は今後の国の姿にかかわる重要施策の根幹となるもので、その内容の一部には、従来高齢者施策に偏っていたとされる福祉分野において子ども関係政策に重点がおかれ、子ども・子育て新システム構想が含まれている。
 今回の分科会は、新システムの内容理解に努め、滋賀県の現状を踏まえた今後のあるべき姿の議論をめざすこととなった。
 旧政権下において規制緩和と市場化のターゲットとなっていた就学前の領域であったが、新システムは制度設計の段階において自治労、連合の代表者が参画して議論がなされてきたものであり、チルドレンファーストの考え方が前面に押し出されており、評価しうるものである。その仕組みを支える恒久的な財源確保が明示され、就学前分野に対する政府支出が諸外国に比べて著しく貧弱であるこの国の姿勢を基本的に改めようとしている。一義的にはこども関係施策であるが、待機児童の解消は女性の社会進出や望ましいワークライフバランスを確保する男女共同参画社会の実現と結びつき、また社会の貧困層の多くが十分な教育を受けられないまま成長し、就業の機会にめぐまれないという負の循環に陥りやすいことを考えあわせれば、長期的には貧困問題の解決への寄与をも見すえたものといえる。制度面では自治体の責任と関与、サービスの多様化などが新たに盛りこまれているが、最大の新機軸は、幼保一元化施設として新たに導入される総合こども園であり、既存の幼稚園、保育所からの転換、統合が謳われたことである。
 子どもをめぐる状況は多様であり、地域差も大きい。自治体により施設の整備状況もことなり、公立と民間、保育所、幼稚園と一体化施設の比率もバラツキがある。滋賀県においても待機児童のボリューム、子育て支援センターの設置の有無、その活動状況などで温度差が感じられるが、前述のような現状のもと、認定こども園については公民ともに積極的な取り組みがあり設置数も増えてきたこと、新施設となる総合こども園が実質的には認定こども園を継承するものと見こまれることから、認定こども園の取り組みについてアンケート調査を行うこととした。また認定こども園の先進事例として、横浜市の「ゆうゆうのもり幼保園」と東京都新宿区の西新宿こども園を研修視察させていただいた。

2. 認定こども園調査の実施

(1) 調査の目的
① 調査の目的
  この調査の目的は、大きく二つである。第一に、幼保一体化の流れがある中で先進的な取り組みを行っている認定こども園の現状を調べ、「地域で作る子育て支援の充実のためには、どのように幼・保が連携を取ったり、一体化したりしていけばよいのか」ということを提言するためということである。
  第二に、滋賀県内の認定こども園の多くが公立であるという現状から、こども園がどのような役割を担っているかを調査し、公立の施設が今後どのような役割を持つことが必要なのか、また公立の施設が担うべきことはどのようなことなのかを明らかにし、「公立施設としての新たな役割と存在意義を示す」ということである。
② 調査の内容
  調査の内容は、「現状のこども園の課題」、「幼保が一体化してこども園として運営する中での保育の質を確保するための工夫」、「こども園として運営していく中での課題と、その解決策」、そして「こども園が担っている子育て支援の現状と課題」の4つである。紙面の都合上、このレポートでは、滋賀県内の認定こども園の現状として見えてきたものを中心に報告する。

(2) 調査から見える、滋賀県の認定こども園の現状と課題

① 設置主体について
  滋賀県内の認定こども園は、2011年の調査時点で17園あり、保育所型の2園を除く、15園が幼保連携型の認定こども園である。また、認定こども園の半数を超える10園が公立で設置運営されている。他のほとんどの都道府県では、民間園の占める割合が半数以上となっている中で、滋賀県は国内でも数少ない公立の認定こども園の比率が高い県であることがわかる。
  なお、こども園の所轄部署は、半数が行政部局となっており、学校教育を管轄している教育委員会から、こども課や保育課等の福祉部局への一元化が進んでいることが窺える。
② 認定こども園を設置した理念について
  調査ではまず、保育所・幼稚園を一体化して認定こども園となることで、どのような課題に対応しようとしているのかを理念から読み取りたいと考えた。
  回答からは、「保護者の子育てに対する不安」「保育所・幼稚園で就学前教育に違いがあること」「待機児童の増加」といった課題に、認定こども園となることで応えようとしていることが読み取れる。
  理念について各園で共通していたのは、「就学前教育の充実に向けて」ということである。認定こども園となり、幼保が一体化された園運営をすることで、単独の園よりも充実した就学前の教育ができるのではないか、と考えていることがわかる。国が幼保一体化を推進している理念の一つにも、就学前教育の充実ということが挙げられている。認定こども園となることでより質の高い就学前教育をすることができるとともに、保護者の就労の有無にかかわりなく、等しく就学前教育を受けさせることができるということから、滋賀県内の各市や民間園が「就学前教育の充実」ということを理念とするのは、当然のことと言えよう。
  また、実際に園の運営を行っていくなかでのメリットとして、「就学前から小学校への円滑な移行ができる」「保育士・教諭の資質向上」「集団規模の確保」「地域の子育て支援の拠点になる」といった回答があった。
  これらの回答からは、就学前を担う窓口が一つとなることでの小学校との連携の取りやすさや、保育所と幼稚園のそれぞれの経験を活かして保育を進めることが、職員の学びあいの機会となっていることがわかる。集団規模について言えば、滋賀県内の公立園では学級規模が維持しにくい少人数の園があるため、そのような園では、幼保の一体化で適正な規模を維持することができているようである。
  さらに、子育て支援に関しては、地域の中に幼稚園や保育所あるいは公民館や児童館など、複数の子育てに関する施設がある中で、幼保が一体化した認定こども園をその連携の要と位置付けているものがあった。
  幼保の一体化については、「保育は養護と教育が一体となっており、特別なことではない」とするものもあり、就学前の子ども達にとって認定こども園が特別な施設ではないという考え方は、現状は多くの保育所・幼稚園が単独での運営を望んでいる雰囲気の中で、大変印象的な回答であった。
③ 認定こども園の学級編成について
  滋賀県内の認定こども園では、調査に回答した14園のうち13園が、長時間利用児と短時間利用児を同じ学級で生活させる「混合学級」で学級編成を行っている。
  認定こども園として、保護者の就労の有無にかかわりなく園児を預かり、乳幼児期にふさわしい保育・教育を行っていくことを趣旨とするのならば、長時間利用児と短時間利用児がともに同じ学級で生活をしていることは、大変意味があることだと考えられる。
④ 保育士と幼稚園教諭が共に働くことについて(保育観の違い)
  「保育士と幼稚園教諭との間で、保育観の違いを感じられる場合、違いを埋める努力をどのようにされましたか」という設問に対しては、未記入はほとんどなく、各園での工夫が記載されていた。このことから、保育所と幼稚園とで経験を積み重ねてきた職員には、それぞれの保育観(子どもの姿のとらえ方や保育を進めるうえで大切にしたいこと)があり、同じ施設で同じ子どもを育てていく場合には、それを擦り合わせたり、一つのやり方として連携を取ったりしていくことが重要であることがわかる。
  各園の回答で共通していたことは、話し合う機会を多く持ち、職員間のコミュニケーションを深めていくことで、それぞれが大切にしてきたことを互いに理解しようとしていることや、どちらかの考え方に寄ることなく、子どものための最善の方法を考えようという姿勢が見られたことであった。
⑤ 認定こども園となったメリット・デメリットについて(子ども・保護者・保育者それぞれの立場から)
  メリットとして、園児数増加に伴う内容が挙がっており、より大きな集団の中で豊かな人間関係を育んでいくことができると回答している園が複数あった。これは、学級の適正な規模が保てなくなっている地域があり、この現状の改善策として認定こども園となった園が多かったためである。背景としては、滋賀県は各小学校区あるいは合併前の旧町ごとに公立の幼稚園が設置されていることが多く、結果として幼稚園と保育所が園児を分け合う形となっていたことが想定される。しかし、これに関しては、統廃合の結果であり、単に認定こども園になったメリットであるとは言いにくい面もある。
  もう一点のメリットは、同じ地域に住む子ども達が就学前を一つの園で過ごし、同じ小学校へ就学することができるということである。こちらは、保育所と幼稚園とを統合して認定こども園となることで、就学前の地域の子ども達が一つの施設に集まるという良さがあり、就学前の施設と小学校とが連携していくうえでは大きなメリットとなっていることがわかる。ただし、滋賀県内の認定こども園のうち、4園は園児数が300人以上の大規模園であり、そういった規模の大きい認定こども園からは、具体的な記述がなかったものの「認定こども園となったことは、こどもにとってよくなかった」という回答もあった。
  保護者にとっては、家庭の都合で長時間利用(保育所相当)や短時間利用(幼稚園相当)を選択できると共に、入園から卒園までの間に利用時間枠の移動が比較的容易であることが良さとして挙げられている。担任も学級も友達関係も変えることなく保育所から幼稚園あるいはその反対の移動ができることは、認定こども園の大きなメリットである。この点で、保護者が働きやすくなったと回答する園もあり、認定こども園が保護者の就労支援につながっている現状が窺える。
  保育者にとっては、保育士と幼稚園教諭とで互いの理解が深まったという趣旨の回答が多くあった。しかし、勤務体制や事務の複雑さ、保育内容の充実のための時間の確保の難しさ、大規模化に伴う職員間の連携の難しさなどがあり、「認定こども園となることは保育者にとってよくない」とする園も見られる。
⑥ 認定こども園での子育て支援について
  今回の調査では、滋賀県内の認定こども園で実施されている子育て支援の内容についても尋ねた。その回答からは、認定こども園となることが、子育て支援の充実にはつながっていない現状が見えてきた。その理由としては、認定こども園制度が十分には整理されておらず、保育所と幼稚園の双方の事務・体制が残っている現状では、各認定こども園は複雑な事務への対応に追われており、まずは在園児への対応に力点を置いているのではないかということが窺える。
  そのような中で、今後、認定こども園にはどのような子育て支援が求められるか尋ねたところ、おおむね3つの役割が見えてきた。一つ目は、先にもあるように「認定こども園での日々の保育・教育の充実」である。幼児教育施設として保護者の求めに応じる、ゆとりある保育の在り方を探る、長時間利用児に対して家庭での経験を補う工夫をするなど、園生活をより良くすることが認定こども園での子育て支援の柱となるというものである。二つ目は、「親育て」である。講演会の実施、子どもが自立に向かうような子育てを目指して保護者への適切なアドバイスを行うことなどを指摘している園があった。三つ目は、孤立する保護者への対応である。地域のニーズに合わせた支援、子育ての不安を和らげる保護者の内面への支援、どんな時でも窓口となり保護者に対応していくための体制づくりなどが挙げられていた。

3. おわりに

(1) 当日の成果
 集会当日の内容は、分科会基調、アンケート調査報告、そしてパネルディスカッションという構成であった。パネリストには連合本部総合男女平等局の中島圭子さん、保育園を考える親の会の普光院亜紀さん、地元行政関係から野洲市役所子ども家庭課の大岡とし美さんをお招きし、調査報告を担当した守山市の認定こども園に勤務する庵原大介が加わった。
 午前中の全体基調講演をお願いした北海道大学の宮本太郎さんが、一体改革を論じられたお話の中で全世代対応の家族政策、子ども分野の充実を訴えられたことは、この分科会にとって好都合、大変に有り難いことであった。なお集会全体の報告書も作成される予定であり、詳細はそちらに譲るが、関心のある方は滋賀県本部までお問い合わせいただければ幸いである。
 滋賀県本部では社福評幼保部会による保育集会が毎年開催されているが参加者の多くが幼稚園教諭、保育士である。自治研集会は単組役員を中心とするが各職場から幅広い参加者があるので、子ども分野と日頃は接点が少ない組合員や一般の方にアピールができた意義は大きい。

(2) 取り組みの継続にむけて
 集会当日はちょうど税と社会保障の一体改革法案審議が衆議院で山場を迎えたところであり、後日、相当の修正が加えられたものの国会を通過した。新施設の制度導入は見送られたが、認定こども園制度の拡充が進められることとなり、いわば新システムは名を捨て実をとる形で推進されていくようである。
 今回のアンケートは今後の子ども分野のあり方を考えるうえで貴重な材料となるものである。しかし県内には認定こども園ではない幼保一体化施設もあり、すぐれた取り組みをされている。設置の準備が進められている一体化施設でも、あえて認定こども園とはしないという考え方の自治体もある。保護者や地域団体との交流を含め、今後は幅を広げ、より多くの取り組みに学び、明日の子育てを考えていくことが大切であろう。ご協力いただいているたくさんの方々への感謝を示すためにもフィードバックの質を高めたい。そのためにこれまでの蓄積をこれからの活動につなぐための継続を考えていかなければと感じている。自治研活動のネットワークにつながる皆さんにお力添えをお願いしたい。