【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第6分科会 地域での子育ち支援

 私は猪名川町の留守家庭児童育成室の指導員で、現在民間会社のパート社員として仕事に就いています。私が働き始めた2004年度までこの事業は町の直営でしたが、2005年度から民間会社に委託され、その子会社が運営して今日に至ります。その間学童保育はどんな状況になりどのような問題が起きたのかを検証し、学童保育の地域社会における役割を一指導員として考え、新しいかたちを提案します。



地域社会における学童保育の役割と位置づけ


兵庫県本部/猪名川町公共サービス合同労働組合 本田さとみ

1. 学童保育とは 

 「学童保育」は「留守家庭児童育成室」や「児童クラブ」など市町村により名称は違いますが、以下一般的に親しまれている「学童保育」を使うことにします。
 学童保育は、放課後や学校休業日に保護者の就労等により、家庭において適切な保育を受けられない児童を対象として、適正な遊びや生活の場を提供し、児童の健全育成を図る為に開設されています。
 元々は働く母親たちが、安心して子どもを預ける場所を自ら作ったことが最初だと言われています。1997年に「児童福祉法等の一部改正に関する法律」が成立し、学童保育が「放課後児童健全育成事業」として法制化され、1998年4月より「児童福祉法(第6条の2第12項)」と「社会福祉事業法(第2条3項2号)」に基づく事業となりました。今年6月に「子ども・子育て新システム」が、衆議院で可決されました。その中で学童保育は放課後児童クラブとして子育て支援事業になっています。
 現在、全国の市町村の約8割が学童保育を開設し、低学年では同じ学年の子どもたちの約2割が通っています。学童保育のさらなる必要性が叫ばれている中、その運営方法はさまざまで、約4割が市町村の直営ですが、社会福祉協議会や保護者への委託、民間委託も増えてきています。


2. 民間委託になって

 1995年度より猪名川町の学童保育は民間委託になりました。しかし民間委託に移行するときに指導員にその旨の説明がなく、その後も教育委員会より直接指示を受けていたため、指導員は学童保育が業務委託されていたことを2年間知らずに働いていました。そして労働局により、猪名川町の学童保育は偽装請負であることが判明し、是正指導されました。その後、町は適正な委託にすることを選び、委託先の会社に保育のノウハウが無かったことも手伝って、地域や学校との連携不足、保育の質の低下、働く者の不安定雇用などが問題になってきました。

(1) なぜ地域や学校と連携が取りにくいのか
 労働法により、委託先の会社は学童保育を自ら運営することになっています。派遣とは違い、委託元である教育委員会は、委託先の指導員に指示を出してはいけません。学校の中に学童保育はありますが、学校教師と学童保育指導員はお互い指示命令と取られる行為や言動を禁止されています。具体的には「あの門を閉めて。」「この児童はお昼に嘔吐したから気をつけて。」「この子は怪我したから絆創膏を貼り替えて。」「保護者が来たら呼んで欲しい。」等と直接言う事は、指示命令にあたり違反になります。

(2) メリット
 民間委託になったことで全てが悪かったのかと言えば、そうではありません。運営には委託元である猪名川町に出す書類を整わせる必要があるため、児童の出席数、おやつ代の徴収状況、会計、送迎時刻など、明確な管理ができるようになりました。今までの事務処理が、いい加減だったこともあり、システム化されたあと仕事を進めていく上で、それまでにない事務処理の記録体制が生まれたことは確かです。しかし、その事務処理の達成感は、書類作成の時間が増え子どもと触れ合う時間が削られて出来たもので、子どもにとって有意義なものであるかは別問題です。

(3) デメリット
 民間委託になってデメリットは何だったのか、並べてみます。
●町の責任意識が薄れ、子どもの安全衛生面が脅かされる。
●子どもに対する重要書類が安易に扱われ、個人情報が漏れやすい。
●人件費を削られ、指導員は低待遇のため雇用が不安定になった。
●学校や地域とつながりを持つことが困難になり、子どもの健全育成を地域全体で見守る体制作りができない。
●会社は保育を専門的に扱ったことがなかったため、保育の質は指導員個々人の技量に委ねられた。
●町(教育委員会)と直接連絡が取れないため、効率が悪く対処が遅れることが増えた。
●特別支援児童の受け入れが増加し、統合保育になってきたものの、継続的に保育を相談できる窓口がない。

(4) 直営になること
 町直営になった場合、民間委託でのデメリットを解消できるでしょうか。まず指導員は学校や地域と法律的にも連携が取りやすくなり、安全安心面は格段に向上するでしょう。そして、子どもたちの健全育成の面でも連携が深まります。保育研修に関しても町が指導員の声を吸い上げて、最良の運営にしていくと自らが決めれば、質の向上は早く進むはずです。書類の受け渡しや指揮命令が直接できるため業務の時間的短縮ができますし、現場の問題が直接把握できることによって解決が早くなります。そして直営になることにより、保護者も民間会社のパート社員より相談しやすく信頼関係を築く事ができます。
 しかし、これには、町の学童保育に対する熱意が必要です。


3. 子ども・子育て新システムを考える

 今年6月に子ども・子育て新システムが衆議院で可決されました。この制度が参議院を通り、来年度から施行されると、学童保育はどうなるのか考えてみます。

(1) 新システムで変わること
 新システムでは、「地域型保育の充実及び展開では、放課後児童クラブと地域子育て支援拠点、一時預かりを併設することにより、地域の多様な保育ニーズに対応可能な仕組みとする。これにより、郡部などの人口減少地域等でも、地域コミュニティの子育て支援の拠点を維持・確保することができる。」としています。つまり短時間の保育サービスを導入して学童保育に組み入れることも考えるというものです。そしてそれらを運営するにあたり、多様な事業者の参入による基盤整備を謳っています。また、2014年までに学童保育で受け入れる人数を現行の81万人から111万人を目標にしています。

(2) 新システムの問題点
 一見すると、時間の隙間がなく子育て支援が行き届いているように感じる新システムですが、この制度の中に人が息づいていけるのかを考える必要があります。問題と思うことを述べてみます。
●どの地域にも取り入れられるのか。または馴染むのか。
●子どもにとって心身に無理は生じないか。
●働く者は人間扱いされるのか。
●利用する親に自己責任がますますのしかからないか。そして制度を利用できない人が出ないか。
●参入する企業は利益を保育以外に回そうとしないか。
●このシステムの中で保育は平等に行われ、子どもの生きる権利を守れるか。
 このように数え上げればきりがないくらい、問題が山積しているように見えます。制度は施行後に見直しを図る、とあり市町村新システム事業計画(仮称)では5年ごとに計画を策定となっていますが、その間また子どもたちが一番の犠牲になるのではないかと懸念しています。現役の保育者、保護者の反対が多い新システムは、もっと見直しに時間をかけるべきです。


4. これからの学童保育を考える

(1) 地域にみる学童保育のかたち
 地域により過疎化が進み、子どもの数が減っている所もある一方、ニュータウンでは住宅建築が進み、子どもが増える地域もあります。また、子どもの数が減った地域でも働く女性が増えているため、その結果、学童保育利用者が減らない所もあります。子どもを取り巻く社会の状況や支援児童の増加をみても、この事業が地域社会に溶け込むシステムを構築する必要があります。これまで学校、家庭、地域の繋がりが必要と謳われてきた子どもの健全育成は、実質的に学童保育も入れることが必要です。もちろん法制化はされていますが、まだまだ親の責任で勝手に預けている人たちの事業という認識が、地方を中心に多く、地域に溶け込む邪魔をしています。
 多くの子どもが学校よりも長い時間を学童保育で過ごすようになりつつある今、そのあり方や安全対策を考えることは、地域づくりそのものを考えることになるでしょう。個人の問題だと切り離すのは簡単です。しかし、これから未来を担う子どもたち、また現在の社会を作っている親たちを、公的機関が運営する学童保育で支えることが重要だと気付くべきです。
 基礎的な保育方法は全国的に統一するべきですが、地域に合った学童保育の姿を模索することは大切です。過疎が進む地域では、極端に少ない人数の子どもたちに対して、遊びを通しての自主性、社会性、創造性を培うことが不十分になることから、例えば月に数回でも他地域との合同保育を考えることも有効だと思います。また、その地域に合った遊び、交流なども取り入れると良いでしょう。

(2) 学童保育と指導員の基準を明確化
 今後、学童保育はますます社会的ニーズが高まってきます。まず取り組むべきことは、遊びや生活の場としての学童保育の基準を、保育内容のソフト面、安全衛生面のハード面に対して、明確にマニュアルを作成することです。それと共に学童保育指導員に対する規定を作り、専門性を高めることです。指導員の地位や最低基準を明確にした労働条件、研修制度も確立させることが大切です。そこに働く人が不安定な労働条件下にあっては、目指すべき充実した学童保育を確立することはできません。

(3) 学童保育が地域を変える
 学童保育は遊びと生活の場の為にあるのですが、地域の中学生や高校生に、学童保育室に来てもらって子どもたちと遊ぶ時間を作ることもいいことだと思います。それを授業の一環として組み入れるのです。今は兄弟の数も少なく、異年齢の子どもと接する機会が減っています。その中高校生が将来子どもと関わる仕事をするかも知れませんし、「子どもはかわいい」と感じることができたならば、長い目でみた少子化対策になるに違いありません。また、自分たちがどう成長してきたかを振り返り、実感することもできます。高校で保育科などがあれば、学童保育での保育体験をすることも勉強になるでしょう。中高生は、学童保育の子どもたちにとっても、身近な兄姉のような存在として目標にされ、支えになると思います。同じ地域に住むことで地域の知り合いが増え、安全面にも有効です。
 他には、身近な老人施設を訪問して何か生活面をサポートする機会などを作るなど、地元のお年寄りと交流があれば、家族の中にお年寄りがいない子どもがいても、地域のお年寄りを敬い大切にしようと感じるきっかけになるでしょう。
 また、農業が身近で行われている地域では、農業体験やお手伝いをすることをプログラムに入れるなど、生活の一部とすることも成長に有意義です。
 このように、地域に溶け込む学童保育を運営していけば、この事業を使って他にもいろいろな世代に働きかけることが可能になり、世代を越えた交流を通して、子どもたちの成長と地域の発展が一緒に進行します。そしてそれは、住民と共に自治体自らが運営していくべきでしょう。