【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第6分科会 地域での子育ち支援

 近年、男性の育児参加が求められている。しかし、経済的理由や職場風土などにより、育児参加できていないのが現状である。松江市では、「子育て支援プログラム」という事業主行動計画が策定されているものの、経済的な対策はなく、育児参加率は低いままである。最も育児に携わるであろう30歳以下の職員で構成されるユース部として、松江市の男性の育児参加への課題をまとめた。



男性の育児休業取得について私たちができること


島根県本部/松江市職員ユニオン・ユース部

1. 問題と目的

 近年の核家族化や近隣関係の希薄化は子育て中の母子に様々な影響をもたらし、母親の家庭における負担は増大している。24時間休むことなく関わっていかなければならない育児に対して疲労感を抱いている母親は少なくなく、イライラ、肩こりなどの様々な症状の訴えや、孤立感とともに精神的な育児負担を感じる母親が増えている。そのような状態で子どもに接することは、母親自身のみならず、子どもの健全な成長発達にとって好ましくないのは言うまでもない。
 このような状況にある家庭の子育てにおいて、母親の役割を強調するのではなく、両親が協力して家事育児を分担し、母親の負担を軽減する必要がある。母親にとって、もっとも身近な存在は父親(夫)であり、育児の支援者としての役割はきわめて大きい。
 また、少子高齢化は言うまでもなく社会問題となっている。労働力人口は減少し、年金制度など人口の増加を念頭に制度設計してきた社会保障制度は継続できなくなるのは間違いない。女性の社会進出がすすむ一方で、男性の育児参加が消極的であることが、出生率が上昇しないことの一因となっていることが指摘されている。社会福祉先進国である北欧諸国の出生率と日本の数値を比較すると、その差は歴然である。(図1-1)


図1-1 各国の合計特殊出生率[出典:国連世界人口推計2008版]
 
日本
ノルウェー
スウェーデン
デンマーク
フィンランド
アメリカ
出生率
1.22
1.89
1.87
1.84
1.83
2.09

 女性に家事育児の負担が大きいばかりに、出産を期に仕事を辞めることになることや、管理職登用の妨げになっている事例も報告されている。男性の育児参加が消極的であることが女性の社会進出、ひいては日本全体の経済活動の妨げになっているともいえる。よって、ワーク・ライフ・バランスのとれた生活を実践させるためにも、男性の育児参加はもはや必要不可欠な要素である。
 現在、育児に積極的に関わる男性を取り上げるニュースが増え、彼らを「イクメン」と呼び、話題になっている。厚生労働省では、この「イクメン」を広めるため、2011年6月より「イクメンプロジェクト」を実施している。このプロジェクトは、働く男性が、育児をより積極的にすることや、育児休業を取得することができるよう、社会の気運を高めることを目的としたプロジェクトである。育児をすることが、自分自身だけでなく、家族、会社、社会に対しても良い影響を与えるというメッセージを社会に発信している。
 男性が育児休業等を利用し、育児に積極的に取り組むには、本人の意思はもちろん、社会や職場の理解と協力が必要不可欠である。「男女共同参画社会に関する世論調査によると、男性が育児休業をとったほうがよいと考えている人は全体の69%、特に20代では78%にものぼり、男性が育児休業を取得することを肯定的に考えている人が多いことがわかる。一方、同調査では、男性が育児休業を取ることについて、社会や企業の支援が十分ではないと考えている人が80%にも及んでいる。よって、職場環境としては、「職場の性別役割分業意識」や「上司の理解」「育児休暇制度の充実」などの職場に対する精神的・物理的な「拘束感」を解くことが重要であると思われる。
 以上のことから、父親の育児参加を促すには、単に、父親の意識改革を望むだけでなく、父親をとりまく職場などの社会状況を含めて育児参加を捉える必要があるといえる。
 そこで私たちは、男性の育児参加を阻害している要因を調査・分析するとともに、対応策を検討し、男性が育児参加できる職場環境づくりを提案する。


2. 現 状

(1) 育児休業取得率について(2-1)
 育児休業の取得率を男女別に比較すると、女性85.6%、男性1.72%となっており、男女で80%以上の開きがある。女性の取得率は10年前に比べ約40%上昇しているが、男性の取得率は1.3%しか上昇しておらず、しかもこの数値が過去最高の数値となっており、男性の育児休業取得が進んでいない現状がある。
① 女性
 2008年4月1日から2009年3月31日までの1年間に在職中に出産した女性のうち、2009年10月1日までに育児休業を開始した者(育児休業の申出をしている者を含む)の割合は85.6%と2008年度調査(90.6%)より5.0%ポイント低下した。
② 男性
 2008年4月1日から2009年3月31日までの1年間に配偶者が出産した男性のうち、2009年10月1日までに育児休業を開始した者(育児休業の申出をしている者を含む)の割合は1.72%で2008年度調査(1.23%)より0.49%ポイント上昇した。


図2-1育児休業取得率の推移 (%)[2009年雇用均等調査事業所調査結果]
 
1996年度
1999年度
2002年度
2004年度
2005年度
2007年度
2008年度
2009年度
女性
49.1
56.4
64.0
70.6
72.3
89.7
90.6
85.6
男性
0.12
0.42
0.33
0.56
0.50
1.56
1.23
1.72

 育児休業取得率=調査前年度1年間の出産者 (男性の場合は配偶者が出産した者)の数出産者のうち、調査時点までに育児休業を開始した者(開始予定の申出をしている者を含む)の数。
 女性の育児休業取得率は2008年度調査より5.0%ポイント低下し、男性の育児休業取得率は0.49%ポイント上昇し過去最高だが、男性の育児休業取得率は依然として低水準である。

(2) 男性の育児休業取得が進まない要因について
 2011年2月に松江市職員ユニオンが職員に対象に行った「子育て支援プログラムアンケート」によると、男性職員のうち、育児休業等の制度を利用したいと回答した人の割合は54%、育児休暇制度の取得が義務化された場合でも取得すると回答したのは66%にとどまっている。
問7-① 男性職員にのみお答えください。育児休暇等を取得したいと思いますか。
     ①はい(54%) ②いいえ(46%)
問7-② 育児休暇制度等の取得を義務化した場合、取得することができますか。
     ①はい(66%) ②いいえ(34%)
前頁の〔問7-②〕に「いいえ」と回答した人に対し、取得できない理由について尋ねたところ下記のとおり回答があった。
① 経済的な問題   79人
② 業務量の問題   25人
③ 職場の理解に不安 12人
④ 人事面の問題   7人
⑤ 復職後の不安   2人
⑥ 育児に自信が無い 1人
問8 女性職員のみお答えください。夫に育児休暇等を取得してほしいと思いますか。
   ①はい(73%) ②いいえ(27%)
 問7-②より半数以上の人が経済的な問題を訴えている。これについては、男性の収入が家計を支えているケースが比較的多いため、育児休業中には収入が減少、若しくは無くなることが想定され、日常生活に不安が出てくるためと考えられる。
 一方で、問8より女性職員を対象とした設問では夫に育児休暇等を取得してほしいと回答した人は73%に上っており、女性は男性の育児休暇等の取得を望んでいるケースが多い。
 男性の育児休暇等の取得を促進するためには、育児休暇制度の充実、職場の理解・体制の整備等も必要ではあるが、阻害要因の一番は経済的な問題であり、育児休業中の経済的な支援制度の確立が必要と思われる。


3. 事 例

(1) 島根県・松江市の取り組みについて
① 松江市職員子育て支援プログラム(松江市)
  本プログラムは松江市が男女を問わず子育て等、家庭責任をきちんと果たしていけるような環境整備を進めることを目的として市職員に向けて策定されたものである。育児休業取得率等の数値目標を示し、現状の問題点をあげ、職員の意識改革、制度および施設の改善等、目標達成に向け様々な方法で取り組みを行う。
  プログラムの内容としては、現在の制度の周知徹底等、場面に応じ父親・母親となる職員を中心にそれに関する職員の役割をはっきりさせている。それぞれの立場によってとるべき行動を示し、育児は女性がするものという思考を変えさせ、育児全体のプランニング及びマネジメントを行う内容となっている。問題点として、育休に入るうえで一番の懸案事項である経済的な側面に対しての対策が挙げられていない。今後経済的な不安を取り除く対策も必要となると考える。
② こっころカンパニー(島根県)
  民間企業にとって社員が育休をとるということは、貴重な労働力が減ることになり、その代替職員を雇うことにより人件費も嵩むことから、経営面から考えると積極的に取得を促すことは利点が少ない。よって、企業経営者にとって、社員が育休をとることが利点となる必要となってくる。
  この制度は、従業員が仕事と家庭の両立ができるよう、制度の充実や周知・労働条件の見直しなどの行動計画を企業が示し、その行動計画をもって従業員の子育てを配慮する企業を認定する。認定を受けた企業は様々な場面で優遇を得られる、という制度である。実際に作成する行動計画とは、子育て中の従業員のニーズに配慮した勤務時間の設定や年次有給休暇の取得の促進などである。また、現在ある優遇制度については、商工中金の低利融資「しまね子育て応援企業サポートローン」を利用できる点や県建設工事の入札参加資格審査での加点などがある。
  入札参加資格の加点については、競争入札ではなく総合評価入札制度の導入が進む中、企業にとっての利点は少なくなく、男性職員が多い建設業において男性の育児参加を促進させるという点では影響は比較的大きいと考えられる。現在、認定を受けている企業は170社(2011年5月現在)となっている。今後、制度の向上を図るうえでは、優遇制度の更なる充実、行動計画の質と成果によって認定企業の差別化が必要だと考える。

(2) 海外の取り組みについて
 現在、日本での男性の育児休業の取得率は1.72%と海外に比べて非常に低い。ここでは、日本と比較して取得率が高い海外での事例を挙げていく。
① パパ・クォータ制(ノルウェー)
  この制度は国民保険法で規定されており、子どもが1歳に達するまでのうちの4週間が父親に割り当てられている。その間父親が休業しない場合には、その分の手当て支給がなくなる。
② パパの月(スウェーデン)
  夫婦合わせた給付期間は両親にそれぞれ240日、つまり合計480日である。そのうち他方に譲渡できる日数は180日分、母親が最大限利用できる期間は240日+180日の420日である。現在給付期間のトータルが480日なので、母親が最大限利用しても残りの60日分は父親が取得しないと給付されないのである。この制度の導入後、男性が積極的に取得するようになり、現在、男性の育児休業取得率は80%となっている。


4. 男性の育児休暇増加のための方策

(1) 社会的制度の改正
 前述2.(2)の松江市職員への調査によると、男性の育児休業取得に関して「義務化されれば取得する」という男性は全体の66%という結果だった。また、男性が育児休業を取得する場合の不安要素についての質問では「経済的不安」という回答が最も多かった。これらの調査結果を踏まえると、男性の育児参加を制度的に促進する場合、「義務化」と「育児休業による経済的負担の解消」という二つの課題を解決するものにしなければならない。
 そういった点では、前述の「パパクオータ制度」は男性の育児休暇取得促進の要件を満たしているといえる。まず、育児休暇を取得した者について、現給を保障することで「経済的負担」を解消する。そのうえで、男性が育児休暇を取得しないことについて、保障額のうち何割かを減額するというペナルティを課す。これによって、「義務化」と同様の効果を生んでいる。
 ノルウェーでは、この制度が国の施策として行われている。一方日本では、当然このような制度は存在しない。ただ、市町村の財源の中でこの制度と同じ効果を実現することは可能であろう。単純ではあるが、現在の法制上担保されていない現給と育児休暇手当の差分を埋めるような制度を創設すればよい。経済的支援を行う制度の確立こそ男性の育児休暇取得の増加のための特効薬となる。

(2) 自治体職員として出来ること
① イクメンについての周知の徹底・情報の提供
  現在、イクメンについての情報源としては、TVや育児雑誌の特集、インターネット上の関連記事などが主にあげられる。周知徹底を図る上で、情報の発信源を増加する方策が必要となる。そこで公共施設での広報の拡大を提案する。
  現在、病院の産婦人科等、イクメン対象者が集まる場所においては、こういったパンフレットを見ることができる。しかし、社会的に理解度を高めるためには、当該者以外にも認知してもらわなければならない。その意味で、庁舎・体育館・公園等多くの人が集まる施設でのパンフレット配布など自治体が先頭に立ってアピールを行う必要がある。
② イクメン経験者は情報を
  少数ではあるが、松江市職員の中にも長期間育児休業を取得する職員がいる。こういった人は身近な経験者として貴重な存在である。彼らから様々な手段で情報が発信されれば、同じ職場で働く者、また育児で悩む市民にとって非常に参考になる。
  例えば、経験談を庁内メール等で共有する、休業取得経験を業務で活かせるよう人事評価の一つとみなす等、職場内外に情報を発信できる環境を整える必要がある。


5. まとめ

 今回男性の育児休業をテーマに選んだのは、私たち松江市職員ユニオンユース部が30歳以下の男女で構成されており、最も育児について当事者となる年代だからである。こうした経緯から男性の育児休業について調査したわけだが、社会的にはまだまだ課題の多いことがわかった。
 イクメンの増加について声を大にする背景については1.で述べたとおりであるが、社会的な問題以外にも感じたことがある。松江市には、現在約10,000人の0~2歳児がいる(総人口191,923人・2010年5月時点)。この子どもたちを育てるのは、決して両親だけではない。祖父・祖母等の親族、行政や民間企業の支援、そして地域の人々である。私たち自治体職員は地域とのつながりを密にしてゆかねばならない。その意味で、育児の経験は、地域との関わりを持つきっかけやより関係を深めるためにも非常に効果的な手段にもなる。
 「育自」という言葉がある。育児経験によって、自身も成長するという意味である。世の多くの父親は母親に比べ育児に関わる時間が少ない。このことを不利益と捉えるような社会的風潮、社会的制度が求められる。
 最後に、松江市職員で一か月間の育児休業経験者の言葉を掲載する。
 「男性が育児休業を取得するためには、育児休業中の経済的補償や職場の業務や職場の仲間との調整など解決しなければならない問題はたくさんあると思います。しかし、まず何よりも“育児=楽しい”と男性が思い込むことが男性の育児休業取得者を増やすのには大切だと思います。そのためには、日頃からミルクをあげたり、オムツを替えたりたりして子どもとたくさん接することにより、育児の楽しさと“今やっていることをもうちょっと頑張れば自分も育児休業を取って育児ができるかも”と育児に対して自信を持てる。そうすれば育児に対するアレルギーもなくなり、周りの皆さんの協力を得ながら育児休業を取得してみようかな、という気持ちになるのではないかと思います。」