【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第6分科会 地域での子育ち支援

 筑紫野市職労は、公立保育所に限らず市内すべての(在宅・幼稚園就学等を含む)就学前の子どもたちの視点に立った「皆保育の視点に立った10事業」の取り組みを進めてきたが、このことが、結果的には財政基軸の民営化論に対する理論的抑止力となっていると考えている。



「皆保育(かいほいく)検討委員会」の取り組みについて

福岡県本部/筑紫野市職員労働組合 草場 啓一

はじめに

 筑紫野市は、福岡県のほぼ中央に位置する人口約10万人の都市で、職員総数466人(組合員総数417人)で行政運営を行っている。
 就学前の子育て支援には、公立保育所4、公立幼稚園1、子育て支援センター1であたっている。
 筑紫野市職員労働組合(以下、市職労)は、本市の保育行政についての運動方針を確立するために、2004年に公立保育所保育士を中心に「保育問題検討委員会」を立ち上げ、翌05年に「皆保育検討委員会」と名称を変更し、現在もその活動を続けている。
  皆保育検討委員会の「皆」とは、1987年に公立保育所に限らず市内すべての(在宅・幼稚園就学等を含む)就学前の子どもたちの視点に立った「10事業の取り組み」を継続して取り組み、1990年に保育センター(子育て支援センターの前身)設立に至った運動の意志を継続すべきとの議論の結果名称変更となった。

1. 皆保育検討委員会設置の経緯

 市職労では、現在も保育部会を持たず、保育士から2人の執行委員を選出しているが、例に漏れず毎年順送りで役員が交代しており、継続的な課題に対する取り組みができにくくなっていた。このため、基本的な課題に取り組むため執行委員会の下部組織として独立した委員会を設け、委員の継続性を担保することとし、執行委員とは別に8人の保育士(各保育所2人の中堅~若手保育士を中心に選任)と保育所担当執行委員(自治研部長)によって構成され、必要に応じて執行部(委員長・書記長・副委員長)が参加し毎月開催している。

2. 皆保育検討委員会設置の目的

 この取り組みの主眼は、行政改革大綱に基づく本市公立保育所民営化方針(当局側の委員会が設置されているものの現在まで方針未決定)に対する市職労としての基本的考え方を整理することを目的として発足した。
 それまでの運動方針は、「公立保育所の直営堅持」「保育士定数の維持」の2点を主な柱としてきたが、財政状況の悪化及び市場開放の圧力の中で公立保育所の民営化や保育業務の委託化が周辺自治体で進行していることから、同じような提案がなされた場合の対応について執行委員会として検討を行い以下のような結論にいたった。
① 提案を受けてからの対応には限界があり、運動が対策化し保育士の処遇等の既得権確保闘争に陥ることとなり、市民の賛同・共感を得られない。
② 保育士自身に危機感がなく、定年まで働き続けられるのではという根拠のない期待感が蔓延している。
③ 一般組合員の中にも、公立保育所存続に対する疑念(財政・人員確保等)が生じつつある。
④ 公立保育所存続の理論的根拠が不明確。よって、提案を受けても保育士の身分保証以外、保育所そのものの存続(職場の確保)は保証し得ない。
⑤ 保育士の雇用を守るために、公立保育所存続の取り組みを行うことは市民の理解を得られない。
⑥ 公立の保育士に共通する「保育の質を維持向上させる」ことに公立保育所の存続意義を求める考え方には、民間保育園関係者(民間勤務保育士、保護者等)の反発を産み、保育の公平性に問題を残す。
 このことから、公立保育所の存続意義についての理論整理が必要であるとの認識に至り、「公立保育所の存在意義とは何か」について探求することを当面の課題とした。

3. 取り組みの概要

第1期:基礎データ収集及び現状認識
 初年度は、就学前の子どもたちを取り巻く状況、国の政策変遷と今後の方向性などの基本的な課題についての調査・検討を公開資料や保育集会資料などで行った。
第2期:筑紫野市職労としての理論構築
 基礎調査の成果を基礎に本市における「公立保育所の存在意義」についての基本構想を構成し、これを基軸として保育問題の有識者との意見交換、学習会を通じて検証を行った。
 しかし、有識者より筑紫野市の現状分析が弱いとの指摘を受け、急遽「筑紫野市保育実態調査」行うこととし、調査項目94項目12ページに及ぶアンケート記入方式による調査を、保育士自身の手で実施し、市内就学前の児童数約6,000人のうち10%にあたる600件のアンケート調査票の回収を行った。調査データの分析は九州女子短期大学大田光洋教授に委託し、基本構想となる「親育ち応援プラン」を補強した。
第3期:成果の集約と公表
 アンケート調査の成果を、アンケートに協力していただいた保護者の方々へ成果報告を行うとともに、市長および市幹部職員と県議・市議等の保育行政に携わる関係者にもその理解を深めてもらうことを目的に公開シンポジウムを開催した。
 そして、委員会での検討結果について「親育ち応援プラン」として一定の整理をし、とりまとめた「輪」を編集発行し、行政当局・市議会議員全員に配布し、市職労の保育行政と公立保育所存続の意義についての考え方を伝えた。
 皆保育検討委員会編『「輪」―公立保育所の存在意義をもとめて―』は、3年間の調査・検討の成果をまとめたものであり、公立保育所存続の意義について検証した結果として、保育行政の基本的姿勢として、市内居住のすべての就学前の子どもたちに健全な保育が行われることが必要(皆保育・公平性・親育ち)であり、保育所入所者に偏重している施策を改革する必要がある。このため、一定数(2保育所以上)の公立保育所は最低堅持するものの、公立保育士は在宅保育児の支援等に再配置する必要があることを指摘した。
 また、調査の結果や、現場の実態から親の保育力の低下が大きな課題であることから、「親育ち」を推進していく上で「職としての公立保育士」の役割が、現代的課題として浮かび上がってきた。このことから、保育士を保育所に縛ることのない「職」として確立することをその根底においた。
 つまり、保育所があるから保育士が必要なのではなく、行政の職として支援を必要とする子どもたちとその保護者がいるから保育士が必要であると位置づけることで、保育所の存続に依拠しない「職としての保育士」を確立していくべきだと考えている。

4. その後の取り組み

 現在、保育行政についての基本的考え方については、一定の理論的整理を行ったが、現在の情勢のもと、行政施策の見直しについての具体的な交渉には至っていない。
 近年の待機児童の増加などから、民営化・民間委託などの議論は低調となり、本市においても行政・議会ともに当面現状を維持していくことで一致しており、民営化圧力に対する緊張感が薄らいでいる。
 このことから、皆保育検討委員会の議論もやや低調となっているが、「保育行政施策の見直し」「保育士の再配置」など具体的施策提案への準備を進めていかなければならない。

おわりに

 本市における保育問題に関わる取り組みは、1987年にスタートした「皆保育の視点に立った10事業」の取り組みも、2004年にスタートした「皆保育検討委員会」も情勢に対する危機感から、当局側の具体的アクションが起きる前に行動を起こしてきた。
 また、両事業とも公立保育所の保護者のみならず民間保育園関係者やその保護者、保育を支えるNPO法人に関わる人々、そして一般市民の理解と共感を得られる運動となるよう努めた。
 このことが、結果的には財政基軸の民営化論に対する理論的抑止力となっていると考えている。
 そして、この2つの観点は私たちの運動の基軸であり、自治労自治研運動の原点ではないかと考える。


少子化対策の変遷

自治労筑紫野市職員労働組合
2009年7月11日作成
 

政府における少子化問題対策

筑紫野市(子育て支援施策関係)

筑紫野市職員労働組合

1987(S62)年

   

皆保育の視点に立った10事業を決定

1988(S63)年

「特別保育推進事業」補助開始・乳児保育事業・しょうがい児保育事業・延長保育事業・夜間保育事業

 

3事業を取り組む
・相談事業
・広報事業
・しょうがい児保育推進事業

1989(H1)年

   

「子ども文化まつり」開催二日市保育所と二日市乳児保育所の統廃合について協議

1990(H2)年

厚生省統計情報部1989年の合計特殊出生率発表「1.57ショック」

二日市保育所と二日市乳児保育所統廃合
「保育センター」開設

保育センター設立合意 センター長1人・担当2人(内調理員1人)

1991(H3)年

政府指針「健やかに子どもを生み育てる環境づくりについて」とりまとめる

あそびの広場開催(公立各保育所にて)1991年~2003年

 

1992(H4)年

経済企画庁『国民生活白書』にて「少子化社会の到来、その影響と対応」発表

公立保育所の地域開放開始(保育交流)

 

1993(H5)年

 

保育センター主催 親子教室開始(0才~就学前)

 

1994(H6)年

「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」(エンゼルプラン)策定 1995年~1999年

「福岡県保育所地域子育てモデル事業」開始

 

1995(H7)年

「児童計画策定指針について(地方版エンゼルプラン)」を通知

   

1996(H8)年

 

特別保育事業(一時的保育事業)開始

延長保育事業について当局と協議

1998(H10)年

児童福祉法一部改正(情報提供と利用者の選択、子育て家庭の支援強調される)

   

1999(H11)年

「少子化対策推進基本方針」策定少子化対策の具体的計画について「新エンゼルプラン」策定(2000年~2004年)

開所時間延長(7:00~19:00)
延長保育事業実施 18:00~19:00
「筑紫野市児童育成計画(エンゼルプラン)」策定
保育センター主催 親子教室拡大(2ヵ月~誕生月)

延長保育事業の臨時職員対応に対し正規職員化要求

2000(H12)年

 

「保育センター」から「子育て支援センター」に名称変更

 

2001(H13)年

児童福祉法一部改正
保母から保育士へ 保育士が国家資格となる

   

2002(H14)年

「日本の将来推計人口」出生率1.61→1.39
「少子化対策プラスワン」 取りまとめ「待機児童ゼロ作戦」

「ファミリーサポートセンター」設立子育て支援センター主催 親子教室拡大(1才~1才6ヵ月)
開放保育所民間委託調査及び検討委員発足

 

2003(H15)年

「次世代育成に関する取り組み方針」策定
「少子化社会対策基本法」成立
「次世代育成支援対策推進法」成立

「ブックスタート事業」開始
「子育てサロン事業」開始

 

2004(H16)年

児童虐待防止法改正に伴い「児童福祉法」一部改正
「少子化社会対策大綱の策定」閣議決定
子ども・子育て応援プラン策定
「公立保育所運営費負担金」一般財源化される

 

保育問題検討委員会立ち上げ(これからの方向性について意志統一を図る)

2005(H17)年

「次世代育成支援対策推進法」に基づく行動計画施行
「食育基本法」制定

「筑紫野市次世代育成支援行動計画」策定(10年計画)

保育行政再構築のため「健やかな子どもの育ちのために」のまとめ、当局に提案。更に内容を充実させ「親育ち応援プラン」とする
「保育問題検討委員会」から「皆保育検討委員会」へ名称変更

2006(H18)年

「認定こども園」本格実施

「第4次筑紫野市総合計画」策定(子育て支援の推進が盛り込まれる)
民間保育園1園新設(公立4園私立7園となる)
子育て支援センター移転

「子育てサロン」視察(武蔵野市)
講演会開催(助産師から見る母親の変化)
「筑紫野市の子育てとその支援状況にかんする調査」実施

2007(H19)年

「子どもと家族を応援する日本」重点戦略とりまとめる

 

「子育てシンポジウム」開催
育てようちくしっ子~今求められる子育て支援とは~

2008(H20)年

「新待機児童ゼロ作戦」の展開「新保育所保育指針」公布
規制改革推進のための3ヵ年計画閣議決定

「自園型病後児保育実施」保育所にて「病後児保育事業」実施(病院併設)認定子ども園「だいいち保育園だいいち子ども園」開園

居宅保育保護者対象に「プチサロン」開催
「皆保育検討委員会報告集」作成

2009(H21)年

「保育所保育指針」施行

「病後児保育事業」増設(2箇所目)「次世代育成支援対策行動計画」見直し

居宅保育保護者の子育てサークルとの交流会開催
居宅保護者対象に「ふれあいあそびのイベント」開催
「筑紫総支部太宰府市立南保育所委託問題対策会議」参画
「公立保育士の位置付けと保育士の役割」とりまとめる

資料 全国保育集会資料集・福岡県本部保育部会学習会・筑紫野市次世代育成支援行動計画報告
   自治労筑紫野市職員労働組合定期大会一般経過報告・その他学習会資料 より抜粋