【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第6分科会 地域での子育ち支援

 八女市職労保育所問題研究会は、公立保育所が直面する問題や子どもたちを取り巻く現状などを議論し、「これからの公立保育所のあり方についての提言書」を行った結果、市の「公立保育所再編計画」にも反映されることになった。



民営化に対する提言書の取り組み


福岡県本部/八女市職員労働組合 牛島 利枝

はじめに

 福岡県南部の「茶のくに」八女市は2010年2月に1市2町2村と合併し、労働組合も組織統合を行い、現組合員総数574人の八女市職員労働組合(以下市職労)が誕生しました。
 市職労における保育所問題研究会(以下保問研)は、八女市の公立保育所で働く組合員で構成され、公立保育所が直面する問題や本市における子どもたちを取り巻く現状などを議論し、その課題解決に向けた検討・議論を定期的に行っています。


1. 公立保育所を取り巻く現状と経過

 八女市は、人口約70,000人のうち就学前児童人口は、約3,000人であり、保育所(園)の設置状況は、公立保育所(指定管理1ヶ所を含む)7ヶ所、私立保育園14ヶ所の計21ヶ所で運営されており、約1,600人の児童が入所しています。
 公立保育所の民営化に関しては、財政状況の悪化を理由として、行財政改革を進めるなか、2005年4月に「第4次八女市行政改革大綱」に位置付けられました。
 その後、「八女市保育所運営検討委員会」及び「八女市社会福祉施設運営委員会」において検討が行われ、八女市の全ての公立保育所を民営化の対象とする「八女市における公立保育所の民営化計画」が策定されました。その後、当局と交渉を重ねてきましたが、民営化計画に応じて2009年4月から1ヶ所の直営の公立保育所が民営化されることが決定しました。
 しかしながら、この民営化計画は、人件費をはじめとする運営費用や老朽化した施設の改修費用など、経費節減を目的とするものでした。保護者の保育ニーズの多様化や子育て力の低下、及び子どもの生活環境の変化等により、発育・発達が気になる子どもや障害のある子ども・食物アレルギーのある子どもの増加などの分析・対応が不十分であり、在宅児童を含めた今後の子育て支援の在り方などを示した「八女市次世代育成支援対策前期行動計画」との整合性も不十分なものでした。
 そのような状況を踏まえ、保問研は市職労と連携し民営化計画の見直しを求めるため、2009年3月に「八女市における民営化計画に対する要望書」を当局に提出し、保育所現場から公立保育所の機能と役割、重要性を強く訴え、公立保育所の在り方について労使協議を行っていくことを確認しました。
 なお、2010年3月、「八女市次世代育成支援対策後期行動計画」が策定されましたが、公立保育所の民営化計画の見直しは行われず、保育士の退職に伴う新規採用も凍結され、正規の保育士が占める割合は4割程度となってきました。


2. 提言書の作成の取り組み

 民営化計画の見直しが行われない状況のなか、保問研は、公立保育所の位置づけを明確にし、地域の多様な子育て・子育ちを支える役割を果たしていくために、これからの公立保育所のあり方について有識者の助言を受けながら、さまざまな視点から議論・検討を重ね、2010年10月、「これからの公立保育所のあり方についての提言書」をまとめました。
 提言書の中では、多様化する保育需要への対応において公立保育士の専門性が不可欠であるという考えにより、以下の8項目に分け、公立保育所の存在意義や役割を明確にする内容となっています。
① 保育士の質の向上
② 保育を担う人材の育成
③ 地域での子育て支援
④ 小学校との連携
⑤ 食育への取り組み
⑥ 保育所の障害児保育の現状と必要性
⑦ 児童虐待への対応、防止について
⑧ 幅広い保育サービスの提供
 議論の中で一番に重点を置いた内容は、保育所の適正規模・配置でした。八女市は合併後も依然として厳しい財政状況が続いており、入所児童が少ない保育所の統廃合も考えられる状況であります。しかし、子どもたちを取り巻く状況は深刻さを増しており、公立保育所の役割を明確化し、将来像のもとに継続的な計画を進めて行く必要があります。
 公立保育所は行政機関の一つとして、関係課と一体的に保育の質の向上のための取り組みを具体化する使命があり、保育や子育て支援の分野において事業の公共性を高めた行政の政策を直接、保育に反映させていく役割を担っています。行政が掲げる様々な事業のうち、経験豊富な保育士の専門性が必要なものについては、事業の公共性という観点からも公立保育所が主体的に行う必要があります。
 行政の直営施設である公立保育所は、行政が子どもや家庭の状況を直接的に把握し、ニーズに対応した保育施策を展開するためのアンテナとしての役割を果たす機関であり、様々な子ども施策を進めるための手足となっており、民間事業に適切な援助をするためにも直営施設を有効に活用していくことが必要です。 
 また、障害をもった子どもや要保護児童などに対するきめ細かな対応も、学校、児童相談所等、他の行政機関との連携が取りやすいという利点を活かし、公立保育所であるからこそ、迅速で適切な対応が可能となります。
 なお、核家族の増加や育児能力の低下により保護者支援の重要性が高まり、保育所の役割が多様化するなか、公立保育所が率先して民間保育園をリードしていく役割や、安定的な雇用により、子育て支援という課題に対応できる人材を育成することができます。
 これらの議論の過程の中で、本来はすべての公立保育所を民営化せずにこのまま存続していきたいという熱い思いがありました。しかしながら、八女市の情勢等を踏まえ、7ヶ所ある公立保育所を3ヶ所に拠点設置し、存続する保育所においては人的にも設備的にも充実させ、八女市の保育を保障し、市の責務として保育水準を高め、そして私たち公立保育所が子育て支援の総合拠点施設としての役割を果たしていくことが重要であると考えました。
 そこで、公立保育所の機能と役割を考慮し、八女市の今後の子育て施策として、保育の水準を高める拠点施設として最低でも八女西部地域、八女南部地域、八女北部地域のそれぞれの地域に公立保育所を存続させる必要があることを提言しました。
 自治体において複数の公立保育所が存在することによる組織力は大きな利点となり、保育内容や体制の整備、保護者の支援など分担して実践し情報交換を行うことで、横の連携を取り横断的な協力体制を構築することができます。
 また一方では、保育現場の職員の6割は非正規職員となっており、行政が専門職の安価な労働市場を作り出していると言っても過言ではありません。このまま非正規化が進めば、保育業務へ支障をきたし、保育士の育成にも問題が生じます。これまで述べてきた取り組みを行っていく上において、正規職員の採用を早急に行わなければなりません。
 行政は計画的な適正規模・配置について現場とともに検討していく必要があり、保育所を利用する保護者やこれから利用する保護者の立場に立った充分な対策を講じる必要があります。
 子育て環境が悪化し、配慮を必要とする子どもが増える現在であるからこそ、子どもの利益が優先され、その発育を尊重し支援する保育が必要であります。支援が必要な子どもの受け皿となることが行政の役割であり、真の次世代育成に繋がっていくと考えます。


3. 公立保育所再編計画

 2010年10月に「これからの公立保育所のあり方についての提言書」を当局に提出し、その回答を待ち続けた結果、2011年11月になって『八女市公立保育所再編計画』が当局から提案されました。
 再編計画のまとめのところに、


 存続する公立保育所については行政の責務を果たすため、子育て支援サービスを担い・実施し、次世代育成支援対策後期行動計画を確実に推進していく必要があります。 
 そのためには「通常の保育サービス」のほかに、経験豊かな人材を育成し有効に活用することにより、「地域の子育て支援拠点」としての役割を果たす必要が求められています。
 「現場の情報を保育行政に反映させるための情報収集拠点としての役割」を担う施設であると共に「市内における全保育施設の連携を進める施設」として位置づけます。

 と明記してあります。
 また、公立保育所の今後の方向性については、


(1) 概要と役割
 地域の多様な保育ニーズに対応すべき保育サービスの中で、民間が実施困難なものについては、公がその責務において実施しなければなりません。
 また公立保育所は、長期間にわたって蓄積された子育てに関するノウハウや経験豊かな保育士を有しており、通常の保育サービスのほかに次のような役割を果たします。
  (ア) 障害児保育事業の牽引的な役割
     障害児保育事業は、障害児や保護者に対して配慮や適切な対応を必要とするため、経験や専門的な支援が求められる保育サ-ビスです。公立保育所は、障害児保育の充実を図る牽引的な役割を担います。
  (イ) 地域の子育て支援事業の拠点施設としての役割
     在宅の子育て支援の一つとして園庭開放事業が実施されています。これだけにとどまらず、地域全体での子育て支援をする基盤を形成するため、子育て支援事業の拠点施設としての役割を担います。
  (ウ) 保育情報の収集拠点施設としての役割
     保育現場においては、日々の保育の中で多様な保育ニーズをはじめとした様々な情報が集まってきます。公立保育は、これらの情報を保育行政に反映させ、保育水準を高めるための情報収集拠点施設としての役割を担います。

 と明記してあります。
 当初の「八女市における公立保育所の民営化計画」は、全ての公立保育所が民営化の対象でしたが、2011年11月に出された「公立保育所再編計画」では、3ヶ所の公立保育所を地域の子育て拠点施設として存続することに変更されました。これは、保問研として提言書を作成し、当局へ提出した成果と言えます。


4. 今後の課題

 子どもを取り巻く家庭・地域社会環境の著しい変化の中にあって、保育所での保育ニーズが多様化し、保育所運営について多くの問題解決とともに適切な対応が求められています。しかし、これには並々ならぬ努力と工夫が必要であることを保問研の検討の中で再認識しました。
 保育所は、子どもにとって最初の集団生活の場であり、その後の人格形成の基礎を養う大切な時期を過ごす場所でもあります。そのため、そこでの経験や活動は、子どもの将来を見据えた統合性や調和を持ったものとならなければなりません。また、保育士自身が子どもの感性に強い影響を及ぼすことを自覚し、常に自らの資質向上と専門性を高めることに努力することが求められています。
 現在、地域の子育て支援機能が弱まり、児童虐待も増大かつ深刻化が止まらないなかで地域支援機能の強化を含めた保育所の役割はますます重要になっています。公立保育所の保育力、公的な施設としての位置を最大限活かしていく取り組みが求められています。
 保問研は、「保育所は、子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に推進することに最もふさわしい生活の場であること」を基本理念とし、子どもの特性と発達の過程を考慮しながら、養護と教育が一体となって「統合的に展開される保育」を念頭におき、真剣かつ詳細な議論を重ねてきました。今後は、公立保育所の存在意識や行政職員としての保育士の役割を明確にした上で、これまでの保育所を核とした子育て支援から、八女市に在住する全ての乳幼児を持つ保護者のために保育行政を再構築することが必要であります。