【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第6分科会 地域での子育ち支援

 平成の大合併の荒波のなか市は、市内全ての公立幼稚園、保育所の見直し(民営化・廃園)を提案し進めた。保護者が結集し「守る会」を設立。様々な反対運動を展開したが、園単位での説明会と称し選考委員会設立へと結びつけ、ほとんどの園が民間移譲となってしまった。管理運営事項であるという市に対し、公立の保育所・幼稚園の職員からなる幼保部会と市職員労働組合は、民営化を進めるならば「提案理由」「提案内容」を明らかにすべきと交渉を続けてきた。今後、残った地域を公立で残すことができるか組合の力量も問われている。



未来へつなぐ確かな幼児教育と保育を
~民営化の議論を通じて~

長崎県本部/自治労南島原市職員労働組合 本田恵美子

1. はじめに

 2006年に8町が合併して誕生した南島原市は、当時の合併協議会で公立施設の見直しが提案されていた。市が民営化に向けて動き出したのは、2007年8月から始まった「幼児教育と経営のあり方委員会」であらゆる協議がなされた。必ずしも答申はすべて民営化ということではなかったが、市は一方的に公立幼稚園4園(当時2園は休園中)公立保育所4園の見直しをする方向で進められた。
 一方的な行政のやり方と、民営化ありきに不満を持つ保護者が結集し、「守る会」を設立し、様々な反対運動を展開したが、園単位での説明会と称して、「民間移譲に係る選考委員会」設立へと結びつけ、幼稚園3園と保育所3園は、廃園・民間移譲がなされた。
 公立の保育所・幼稚園の職員からなる幼保部会と市職員労働組合は、交渉を続けてきたが、市は、管理運営事項であり、組合とは職員の処遇についてのみ協議をするだけでいいという考えであった。民営化を進めるならば、勤務労働条件の変更にあたると主張し、「提案理由」「提案内容」を明らかにすべきという市職労の申し入れを理解できないのが現状であった。


2. 公立の保育所・幼稚園の全廃の危機に

 全廃の危機がせまるなか、公立の幼稚園教諭、保育所保育士からなる「南島原市職労幼保部会」を結成し活動を開始した。
 全廃を許しては地域に根ざした幼児教育や保育ができないと部会での学習会を実施した。地域に根ざした次世代育成支援行動計画を作っていくために子育ての現場でできることを検証し、要求書提出、団体交渉を続けた。
 交渉の中で自治体の子育て施策の理念、子育て支援に対応する機能検証をどのように考えているのか追求し、公立施設の存在意義を伝えた。


3. 幼保部会設立と活動内容

 公立施設の民営化について、保護者への説明会等は実施をされていたが、現場職員への説明等はなされなかった。現場の職員として、公立の意義を確認し、今まで積み上げてきたことを確認するために2008年3月「幼保部会」を立ち上げた。
 一部の園を残して廃園、民営化となった今も、幼保部会は継続して活動を続けることを確認し、定例会、学習会、先進地視察、保育集会など、公立幼稚園・保育所の職員としての意識向上のため学習や活動を行い、保育現場から離れた職員との情報交換会等を実施している。
① 定例会の実施……月1回ほど実施。それぞれの職場での情報交換、今後の子どもの施策学習会
② 講演会の実施……公立幼稚園・公立保育所に民営化に関する講演会
          保護者と合同の学習会も実施
③ 各種学習会……近隣の公立保育所の先生との情報交換会および学習会
         市内公立保育所の臨時の先生方との合同学習会
④ 各種視察研修……支援センター的拠点保育所等先進地視察および佐世保市教育センター等の視察研修
⑤ 各種調査……意識調査のアンケート・職場実態調査


4. 南島原市の民間移譲経過

 市は、民間の有職者等からなる「幼児教育と経営のあり方検討委員会」から2007年12月7日に答申を受け、これに対する市としての基本的な考えを説明した。
○ 答申に沿って地域ごとに施設の統廃合を行う
  統廃合や保護者負担の適正化などの経営改善策を実施しても、公営のままでは抜本的な収支改善効果が望めないことから、速やかな民間移譲を基本とする。
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○ 西有家・南有馬地域は2009年4月、北有馬地域は、幼稚園と保育所を幼保連携認定こども園として2010年4月に民間移譲。(全ての園を民間移譲)
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○ 保護者等の反対等により、計画は1年伸びることになった。
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○ 2010年4月、西有家地区(幼稚園1カ所、保育所1カ所)・南有馬地区(保育所2カ所)・口之津地区(休園中の幼稚園1カ所)・加津佐地区(休園中の幼稚園1カ所)の廃園、民営化。北有馬地区(幼稚園1カ所、保育所1カ所)のみ残る。
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○ 2010年5月市長選挙にて市長交代
  2010年8月、市長と保護者の懇話会にて任期中は民営化しない。公立の存在は大事にしたい等の市長発言(メディアにて公表)
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○ 2010年9月議会にて、任期中の民営化はしないという市長意思表明。
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○ 方針の見直し(民営化はしない)
  2011年4月から幼稚園の保育料および入園手数料値上げ


5. 民営化への保護者の取り組み

 市が押しつけるような形で出した民営化方針に保護者が集まり手探りの中、あらゆる活動が始まった。
 それぞれ状況の違いで困難だと思われた保育所の保護者との協力も実現した。
 「我が子を守りたい」、「今の環境を守りたい」、「行政の一方的なやり方に納得できない」という思いは同じであることから、「公立幼稚園・保育所を守る会」が立ちあがった。団結することで保護者は納得していないことを市民や行政側、議員にも強く訴えられた。市民に広く知らせるための「チラシ配布」、「守る会機関誌の発行」、「市議会議員あての存続願いの陳情書提出」、「議員への協力依頼」、「議会傍聴」、「学習会や意見交換会」、「自治労県南と協力して講演会の開催」など、あらゆる方法で民意への発信を続けていかれた。その間も各園での保護者説明会は開催されたが担当者の説明だけでは納得できず、市長との懇談会を要求され実施した。
 「私たちに最初に入ってきた言葉は、『民営化します』と言う言葉である。『民営化を検討していますから皆さんで話し合いましょう』ではなく、『民営化をします、説明会をします』と言われても、私たちの意見を述べる余地がなかった」という言葉から懇談会は始まった。
 これらの反対活動や、保護者の考えに賛同された市議会議員の反対もあり、計画は1年延期されることになった。
 その後、2008年12月より公立保育所3園の統合民営化の選考委員会が立ちあがり着々と計画は進められた。各園の方向性の違いから、以前のような活動は困難になったようだが、公立を各1園ずつでも残したいという保護者が集まり、活動は続いていった。
 幼保連携型認定こども園にする予定だった幼稚園と保育所は、幼保連携型では移譲先が見つけられないこと、県の許可が下りないことなどを理由にかってに保育所型に変更してきたことにも納得できない保護者は説明会の拒否をされた。拒否され文書にて説明を行おうとした市側に文書受け取り拒否を行い直接市長との面会を求めたが断られた。そのころ、公立幼稚園・保育所の存続を求める署名を集め、1万5千人分提出された。   
 情報収集にも積極的に取り組まれ、認定こども園を知るために、県のこども未来課に話を聞きに行かれ、民営化に関する情報は保護者全員が知っておく必要があるため学習会も随時開催された。長崎市内の幼稚園の保護者や保育所の先生と交流され情報交換することで活動の方向性を見直し、悩みを相談しお互いに励まし合いをされました。保護者でお揃いのTシャツを作り活動することで市民も強く関心が強くなったようだ。
 2010年4月、市長選挙によって新市長に代わり、任期中の民営化はしないという方針が出され保護者の活動もこれで一段落ついた。
 「市が率先して行わなければならない子育て支援を民間任せにしないで市に責任を持って欲しい、費用対効果のみで子育てを考えないで欲しい」この思いから、時には折れそうになる気持ちを必死で支え合い、公立の幼稚園・保育所を1園ずつ残すという大きな事が実現された。


6. 保護者の取り組み内容

① 署名活動
② 保護者の意識調査アンケート実施
③ 市議会議長あてに存続願いの陳情書提出
④ 市議会議員へ意見拝察
⑤ 幼児教育と経営のあり方委員会傍聴
⑥ 市議会傍聴
⑦ 南島原市各店舗にて、守る会公立保育所・幼稚園存続のためのチラシ配布
⑧ 守る会の資金カンパ活動
⑨ 機関誌の発行
⑩ 機関誌を保護者に配布活動
⑪ 機関誌を市議会議員に発送
⑫ 市長との懇談会要望……実現


7. 「守る会」機関誌

 


 

8. おわりに

 財政難等を理由に公立の保育所や幼稚園は、民間移譲等の見直しをされているのは南島原市だけでなく、長崎県あるいは日本中どこでも似たような状況である。
 国や県、自治体が責任を持つべき保育や幼児教育、あるいは子育て支援がこのような形で民間に丸投げをされていいのだろうか。
 また、存続をしている公立の保育所や幼稚園では、新たな職員の雇用はなく臨時職員で対応し、今や正規の職員より臨時の職員が多くなろうとしているこの現実をどのように受け止め対応していくのかを真剣に考え、行動に移していく時期がきているのだと思う。
 当園の保護者がこの反対活動の中心であった。家族とともに過ごす時間を犠牲にして頑張っていた姿を、「我が子」のために頑張ってこられた保護者をすぐ近くで支えた先生方がいて、このような結果になったと思っている。園と保護者との強い信頼関係が揺るぎない決意と活動へとつながったのだと思っている。
 民主党の子ども施策の目玉であった「子ども・子育て新システム」は、どうなってしまうのか、今後を注視しながら、当市の子ども施策に現場の声を届けていきたい。
 保護者が必死に守られたこの園を、地域の子どもたちにとって一番いい方法で守っていくことが私たちの責務であろうと思う。