1. はじめに
豊後大野市はのどかな田園風景の広がる自然豊かな土地にあり、以前の大野郡内5町2村が、平成の大合併によって一緒になった、人口約4万人の市である。市内には、多くの公立や私立の幼稚園、保育園が点在しており、そのうち公立の保育園はへき地も含め9園設置されている。しかし、その施設配置は旧町村ごとにおいてバラバラであり、公立のみ、保育所のみという旧町村も少なくない。そのため、その問題を解消するために、1施設が保育所型認定こども園となった経緯もある。また、合併となった事で、旧町村ごとそれぞれの園に勤務していた職員同士の人事異動も始まり、現在に至っている。
2. 保育部会の活動とこれまでの経緯
保育部会は調理員も含めた保育園の職員によって構成され、定期的に役員会や全員学習会に取り組んでいる。その中では、保育をめぐる全体的な問題はもちろん、それぞれの職場における現状などが活発に議論され、それらの意見を集約しながら、各種闘争の中に要求という形であげてきた。主な活動内容としては、正規職員と嘱託職員の逆転現象から生じる雇用条件や賃金条件の解消、人員の確保、施設の老朽化に伴う改善要求などがあった。
民営化に関しても同様である。今後の豊後大野市のあり方を示す指標として、5年ごとに「集中改革プラン」が示され、2009年までの「第1次集中改革プラン」から2014年までの「第2次集中改革プラン」の実施時期に移行している。その中では組織改革や職員の削減なども盛り込まれ、もちろん保育職場に関しても「民営化も視野に入れながら検討する」との文言があった。そのため、各種交渉、市長や行政管理室、担当課などの関係機関と話し合いを持ち、統廃合や民営化の意思があるのかその都度確認してきたが、具体的な内容等については示されなかった。保育部会としても、直営堅持は基本であると考えるが、保育施設と職員数、正規職員と嘱託職員のバランス、今後の採用予定と園児数の減少等を考慮に入れながら、総合的に今後の方向性を見出す必要性を感じていた。特にへき地保育園に関しては、少人数での保育に対して、メリットデメリットをあげながら、統廃合の必要性も視野に入れていた。
3. 統廃合・民営化提案と現場検討委員会(作業部会)の発足
統廃合・民営化に関しての提案がなされたのは昨年の夏。前述のように、担当課と何度目かの話し合いを行っている中、突如として担当課長より「民営化」に関する提案がなされた。
① へき地保育園を含め、民営化を考えている。
② 組合から方向性に関して逆提案することにより職員が頑張れる状態にして欲しい。
というものであった。
その提案を受け、統廃合・民営化に関して定期的に話し合いを行う作業部会、「保育所組織現場検討会」が立ち上げられた。会の構成員は担当課のみではなく、部会役員を中心とした各園の保育士も入ってのものであった。組合とは別の所で現場の職員が入って話を進めることに対して抵抗もあったが、「現場の意見を反映させる」という意味において必要ではないかと考え、参加することとなった。
4. 検討会での意見と部会の動き、組合交渉
「保育所組織現場検討会」では具体的な内容が示され、現場の意見を元に議論を重ねてきた。部会としても、その内容に対して学習会を開催し意見の集約を行うことで、検討会と部会の意見交換のサイクルを作り上げてきた。また、内容によっては組合交渉も行い、内容の確認、周知を行ってきたところである。提案がなされてからこれまでの約1年、様々な動きの中で多岐に渡る話し合いがなされた。それら内容の全てを網羅し伝えることは難しいと考えるが、以下の項目について記述したいと思う。
(1) 民営化スケジュールに関して
先にも述べたように、2014年度までの集中改革プランの中には「民営化を検討する」とあった。それは交付税の段階落ちが始まる2015年度を見越してのものであり、当初スケジュール的にも2014年度までに民営化するという方針が出された。その後、検討会での意見をもとに、生活支援課が市長や行政管理室と話し合いを行い、民営化の骨子素案が示された。その中では「平成25年度民営化」の文言があり、理由としては新たに法人格を取得しようとする新規参入者への配慮と、スケジュール的な遅れが出た場合でも2014年度から民営化できるというものであった。この後、交渉や話し合いを重ねていく中で、担当課から民営化に関してのガイドラインが示され、そこでは2012年度からの民営化となっていた。これら年度の前倒しに対し、保育部会としても、保護者の意見集約や移行期間など、スケジュール的に無理があるのではないかと訴えたが変更はなかった。
(2) 民営化の内容・手法に関して
当初検討会や部会の話し合いでは、現存する園舎の老朽化等も考慮に入れながら、段階的な民営化、受け入れ先がなかった場合、保護者への早期の説明等、民営化の内容や手法に関して多くの意見が出され議論を行った。これらの内容をもとにして担当課が市長等と話し合いを行った結果、「市として保育士の新規採用ができない中で、嘱託保育士確保の問題、正規職員と嘱託職員の比率が3割を切る状況で運営が成り立つのかという問題等があり、現状では維持できない」という理由をあげ、「公立保育園5園の内1園を直営とし、4園を民営化する」という民営化の骨子素案が示された。これを受け、保育部会としても、公立保育所の位置づけや役割を再確認した上で、「現在の体制で保育を行うより、地域の子育て支援の中核となる施設を維持し、地域全体の保育の水準を維持向上させることが重要である」との結論を確認し、施設の統廃合、民営化を視野に入れ、当局との協議を行う事を確認した。
その後当局より、「国の三位一体改革による市の一般財源での運営」「正規職員と嘱託職員の逆転現象」「嘱託職員の雇用条件による確保の困難」「施設の老朽化・耐震化」などの現状と課題を受け、2012年度からの民営化を目指す「保育所民営化ガイドライン」が示された。この時点で残す1園がどこになるのか、引き受け先がなかった場合はどうするのか、職員の身分、スケジュール、移管の諸条件等様々な課題があった。これら問題に対して、保育部会としても独自の意見を持つことの必要性を考え、正規職員の人数に対する園児数や保育規模、比較的新しい施設であるため施設維持の容易な点等を挙げ、残す1園を犬飼保育園ではどうかという結論に行き着いた。
(3) へき地保育園に関して
へき地保育園に関しては、園児数の減少により来年度交付金対象からはずれるという課題があった。先にも示したように、部会としても保護者の不安を考え、へき地保育園の問題を早期に解決していく必要があると認識していた。そのような中、民営化の骨子素案が示され、へき地保育園の統廃合に関して入所希望児童が5人未満の場合は次年度より休園するとあった。組合としては、へき地保育園の休園条件も理解するが、「へき地保育所が近い」「保育料が安い」という理由で預けている保護者もいるなどの問題点も提示した。
その後、へき地4園のそれぞれの施設において当局が保護者に説明会を行い、様々な意見交換を行った。その報告も兼ね行われた組合交渉において、先の協議案を廃案しへき地保育園については2012年3月をもって閉園(4園中1園については2011年3月をもって休園)する。閉園に関しては、関係者との協議も終わっているとの報告を受けた。
(4) 保育士・調理員それぞれの立場に関して
検討会開始当初、委員の中に調理員が含まれていなかった。しかし、それでは現場の声が届かないとの意見があり、途中からではあるが調理員も検討会に参加することとなった。保育士・調理員共に携わる現場のあり方について議論を行ってきたが、民営化となるとそれぞれの立場においてずいぶん状況が変わってくる。組合交渉の中で、「5園のうち1園を直営とする」と示されため、1園存続となると現場の保育士は18人(内2人が育休中)であり、残る1園にて保育士を続けることができる。しかし、最初は2019年までは存続とあったが、2015年度以降については流動的であると示され、保育士の職場としては不安定なものとなった。それに加えて現場の調理員は10人と、残る園の規模を考えると多くの調理員が保育職場から離れざるを得ない。交渉において、保育士、調理員の身分に関しては保障する旨の確認はできたが、次に異動するであろう給食調理場も民営化の方針が出ていることを考えると、多くの不安が残る。保育士と調理員それぞれ別の日に話し合いの機会も設けられ、その中で将来に対する不安や任用換えの話も行ったが、なかなか先の見通しは立たないものであった。
5. 市としての民営化の最終方針
これまで様々な事柄に関して時間をかけて多くの議論を重ねてきたが、5月末に当局側から残す1園について「緒方保育園」とする事が示された。その理由として「認定こども園であり、保育に欠けない児童の受け皿となっている」「事務量が多く、民間経営では負担が大きい」「子育て支援センターを併設しているため地域子育て支援拠点施設となり得る」「市周辺部の子育て支援の維持が図れる(市西側に幼稚園がない)」「へき地保育園閉園に伴う子ども達の受け入れ先となり得る」との説明があった。これに対し、組合としては先の保育部会の案である犬飼保育園を残してはどうかと伝えた。
この提示を受け、組合執行部と部会で、緒方保育園提案を受け入れるのか否かについて議論を行った。そこでは、新規採用がないため今後の園運営や維持が難しくなる事、嘱託職員の必要性、公としての役割、今後の国の動向等について様々な意見が出され、緒方保育園を残していくという結論に行き着いた。
6. 方針決定後の動き
方針が決まったこともあり、各園嘱託職員に対して民営化する旨の説明会が行われた。それと同時に、市議会全員協議会が開催、民営化の方針が示された。内容自体は、組合提案と同様のものであったが、翌日新聞紙面にて公表され、民営化に関して地域住民も知るところとなった。
その公表を受け、5園それぞれの施設において保護者説明会が行われ、今後は移管条件の調整、事業者の選定、移行期間の後、今年度末にはへき地保育園の閉園も含めると市内8つの園から豊後大野市立名称が消える事となる。
7. 今後の課題
現在、5園中4園の民営化で動いているものの、園舎自体が老朽化し、少子化の影響を受け園児数が減少し続ける中で、本当に民間での経営が成り立つのかについては疑問が残る部分もある。いかに民間の活力が入ったからといって、その地域の子ども達が受けることできる保育という権利を保障することも、公立の役割であると思われる。受け入れ先がなかった場合の対応、安易な移管条件の低下等、子ども達にとって、また保護者や地域にとって不利益な民営化にしてはならない。旧町村単位での公私を含めた1町1園の維持を基本に、保育部会、執行部一丸となって最後まで注視する必要があると考えている。
8. 最後に
これまで述べてきたように、保育をめぐる問題や課題は山積しており、一つ一つの問題は、それぞれ単体で解決できるようなものではなく、すべてがリンクし、複雑に絡み合い、影響し合っている。抱えているものすべてを一度に解決することは不可能ではあるが、絡み合った糸をひとつひとつ解いていくように、少しでも前へ、少しでもいい方向へと進んでいきたいと考える。また、公立であることの意義も踏まえ、行政などの各種団体や、幼稚園部会や子ども部会を初めとする子育て支援に関する機関とも連携しながら活動を展開し、これからの豊後大野市を支える部会にしていく必要がある。 |