1. はじめに
21世紀は環境の時代といわれて、持続可能な社会実現のための環境教育・環境学習の重要性が指摘されている。環境教育・環境学習が取扱う内容は、大気、水、廃棄物などの環境問題だけでなく文化、歴史など人間活動に係る極めて多岐の分野にわたっている。
この様な時代の流れを受けて、全国各地で児童・生徒、市民、研究者による参加体験型の地方の水環境の保全、復元に向けた活動が盛んに行われている(※1)。この活動に大人が果たすべき役割は勿論であるが、次代を担う子どもたちが小さい時から身近な自然に親しみ、観察し、その仕組みを理解することは「科学する心」を育み、自然と共生することを学ぶことは持続可能な社会実現の第一歩である。
環境教育・環境学習を充実、発展させるためには、以下のことが提言されている。
① 資質の向上
② 人材の育成・活用
③ プログラムの整備
④ 情報の提供
⑤ 連 携
しかしながら、学校の現場では、専門家の不在、器具・資金の不足、理科離れなど様々な問題を抱えている。NPO、行政機関などによるこれらの問題に対する支援は勿論であるが、各種団体の活動を評価し、広報することも重要な支援活動である。
ここでは、(公社)日本水環境学会東北支部で行っている「東北・水すまし賞」を例として、児童・生徒による水環境教育・学習への支援について報告し、今後、自治労が地域における環境教育・環境学習に果たすべき役割について提言する。
2. 経 緯
(公社)日本水環境学会は、水環境に関連する分野の学術的調査や研究、知識の普及を図り、良好な水環境の保全に寄与し、学術文化の発展に貢献することを目的とした公益法人である。全国に7支部があり、各支部では地域に根ざした独自の活動を展開している。
東北支部は大学、企業、行政に携わる会員などから構成されている。活動として、講演会、セミナー、研究会活動とともに、1992年に学会の社会貢献の一環として、東北地方の小・中・高校生を対象にして、良好にして快適な水環境の創造と保全に貢献する優れた活動をした児童・生徒を表彰する「東北・水すまし賞」(以後、水すまし賞とする)が支部の目玉商品である。この「水すまし賞」は、水生昆虫ミズスマシと「水が澄む」に由来し、次代の水環境を担う“若い芽”を育てることを目的としている。
3. 募集と選考基準について
「水すまし賞」は、例年、6月末に募集を開始し、12月25日に締切り、翌1月に選考委員会を開催し、受賞校を決定している。選考の基準は、調査・研究の内容の深さは勿論であるが、日頃、目立たないが永年活動を継続し、学校、地域社会をどれだけ巻きこんでいるか、また、活動が子どもたちの視点にたっていることも考慮している。
4. 活動結果について
これまで、東北6県の受賞校は90余団体で、青森県では、20余団体が受賞しているが、高学年になるにつれて取り組みが少なくなる傾向にあった(表1)。
受賞式は、毎年、2月~3月に行われ、支部の役員が直接、学校に出向き、関係した児童・生徒や全校生出席のもとで行っている。この授賞式の模様は、地元紙などで報道され、児童・生徒ばかりでなく父兄、地域の方々の大きな励みになっている。この授賞式では、児童・生徒、先生方々と直接、意見交換ができる楽しみな時でもある。
表1 青森県における「水すまし賞」受賞団体の内訳
|
|
小学校
|
中学校
|
高等学校
|
その他
|
計
|
受賞校
|
8
|
7(1)
|
3(1)
|
1
|
19
|
|
*( )内の2回受賞校の数を示す。 |
ここで、20年ほど取り組んできた「水すまし賞」でみえてきたことをまとめると、
(1) 活動内容をみると、小学校では水生生物調査や河川・海岸の清掃活動、中学校では水質・生物調査、高等学校では高度な調査・研究内容になっている。特に、高校生によるブラックバス駆除により生態系の復元と水環境の創生に関する研究成果は、陸水学会(1931年創設)において高校生としてはじめて研究発表が行われこと(※2)は特筆される。
(2) 「水すまし賞」受賞を契機に他の団体の賞の受賞や学会での研究発表、投稿に繋がった例もあり、「水すまし賞」の受賞は、関係した児童・生徒、先生方、父兄、地域の方々の大きな励みになっている。
(3) 活動期間をみると、近年、活動期間が短くなる傾向にあるが、なかには、20~30年以上の親・子・孫の親子三代に及ぶ長期間に亘るものもあり、得られたデータは貴重な地域の資料にもなっている。これは、町内会や老人クラブをはじめとする地域の方々の多大な支援によるものであり、この活動をとおして親から子、孫へ地域の技、伝統が継承され、地域の活力のもとにもなっている。
(4) 「水すまし賞」の活動をとおして、学校・団体だけでなく市民団体とも知り合うことができ、学校・市民団体・教育機関・行政機関が連携し、生徒たちがよりわかりやすい河川の水生生物・水質調査(※3)を行うことができた。これは、著者が中学校で水生生物を行うことを知ったことに端を発したもので、関係機関とコーディネートした結果、実現できたものである。生徒たちへのアンケートでは、最新の機器と専門家によるアドバイスにより理解が一層深まったことが報告されている。
・新郷中学校…………………………プログラムの整備
・市民団体(やぶなべ会)…………情報の提供(水生生物の同定と解説)
・教育機関(三沢航空科学館)……器具・資材の提供(デジタル顕微鏡、プラズマテレビなど)
・行政機関(青森県)………………情報提供(水質データなど)
(5) 「水すまし賞」受賞校では、(公社)日本水環境学会の全国表彰である「ミジンコ賞」や環境省の「環境保全功労賞」を受賞するなど全国に情報発信する契機にもなっている。また、この活動により子どもたちと市民団体が交流できたことは意義深いものである。
5. 今後の課題と自治労の果すべき役割
今、全国各地では、児童・生徒、NPOなどの市民団体により地方の水環境の保全・復元に向けて参加体験型の活動が盛んに行われている。
しかしながら、学校の現場では、指導する先生の異動、専門家の不在、統廃合等により長年、継続された活動が停滞し、中止に追い込まれることが多々あり、大変、残念なことである。ここ20年ほど「水すまし賞」に携わり感じたことは、活動を行っている個人・団体の間では交流が殆どなく、自分たちが住んでいる地域でどの様な個人・団体がどの様な活動を行っているのかお互い良く知らないということです。環境教育・環境学習をより充実、発展させるためには五つのことが提言されています。先ず、行われるべきことは地域で活動している個人・団体、活動内容についての情報を収集し、ベータベース化する必要があります。これなしには情報の提供、連携ができません。
自治労の組合員は、常日頃から地域住民と接し、業務として様々な事業を企画・遂行するばかりでなく、地域住民として自らも活動を行っている方々も少なからずいます。
先ずは、この様な方々を中心になり、民間企業・行政機関・教育機関・市民の方々を巻き込み、交流し、学び合うことが地域の環境調査・研究や情報交換、環境保全意識の普及啓蒙に発展し、環境教育・環境学習の支援、人材の育成に繋がることになります。
先に、学校・市民団体・教育機関・行政機関合同による環境教育・環境学習では、行政機関がコーディネーターとして役割を担ったことを報告した。今後、自治労は地域の情報を収集、発信するセンターとして機能し、地域の活動をコーディネートすることを提言するものである。 |