【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第7分科会 貧困社会における自治体の役割とは

 景気動向が不安定な時代、自己のスキルアップのため公共職業訓練に対する注目や期待は高まっている。しかし、地域経済が疲弊するなか、機構改革のもと、定数削減が機械的に実施されている。
 公共職業訓練の現場でも業務量と職員数の乖離が起こっている。



公共職業訓練の現状について
「北海道立札幌高等技術専門学院」より

北海道本部/全北海道庁労働組合連合会・札幌総支部・札幌高等技術専門学院支部 日達 和則

1. はじめに

 わが国の経済は、リーマン・ショックからの回復の途上において、東日本大震災(以下 震災)により再び大きく落ち込んだが、着実に持ち直してきた。内閣府が2011年12月9日に公表した全国の2011年7~9月期実質成長率は前期比1.4%(年率換算5.6%)のプラス成長となった。震災後、夏場の電力不足による悪影響が懸念されたが、民間需要、輸出ともにプラス成長を示し、日本経済は緩やかではあるが回復に向かっている。
 また、2011年度前半の道内景気を振り返ると、震災による直接的被害は水産関連などで見受けられたものの、道内全体としてみれば比較的軽微にとどまった。 一方で、間接的被害は拡大した。原発事故に伴う風評被害や交通網寸断による影響から道外(含む海外)客が大幅に減少したほか、国内の部品調達・供給網の寸断により生産活動が停滞した。
 雇用動向については、震災からの復旧・復興が行われるかたわら、国内需要の回復は遅れ、雇用・所得環境の厳しさが続くなか、2012年1月の全国の有効求人倍率は0.73倍と51ヵ月連続で1倍を下回った。また北海道では若干上向いてきているとはいえ、依然として0.54倍と全国平均を大きく下回るなど、地域間や業界間、社員・非正社員間などの雇用動向には格差がみられる。
 このようななかで、長期的な雇用対策や求職者の方々の職業能力開発形成の観点から、公共職業訓練のニーズは高まっている。しかし、実施主体の北海道は職員数適性化計画のもとに、現場である高等技術専門学院の職員数も削減対象としてきた。そこで、雇用対策と訓練ニーズ、職員数削減の影響について北海道立札幌高等技術専門学院の現状について検証することとする。


2. 札幌高等技術専門学院の歩み

(1) 沿 革
1934年 1月10日  北海道庁立幹部機械工養成所として開所(札幌市東区北20条東1丁目)
1945年 10月(不明) 終戦により閉所
1946年 7月25日  北海道庁札幌補導所として開所(農林器具科・建築科)
1958年 7月1日  北海道立札幌職業訓練所と改称
1961年 9月19日  校舎新築工事着工(札幌市東区北27条東16丁目)
1962年 12月8日  新校舎竣工移転
1969年 10月21日  北海道立札幌専修職業訓練校と改称
1972年 10月1日  北海道立札幌高等職業訓練校と改称
1984年 5月27日  校舎新築工事着工(3カ年計画)
1987年 3月4日  校舎竣工移転
1988年 1月1日  北海道立札幌高等技術専門学院と改称
2009年 4月1日  北海道立滝川高等技術専門学院の廃止に伴い、砂川分室設置(砂川市)
2010年 4月1日  道の組織機構改正により、技術専門学院の組織として「能力開発総合センター」設置
2012年 3月31日  北海道立札幌高等技術専門学院(能力開発総合センター)砂川分室廃止

(2) 札幌高等技術専門学院とは
 札幌高等技術専門学院は職業能力開発促進法に基づいて、職業に必要な労働者の能力を開発及び向上させることによって、職業の安定と労働者の地位の向上を図るとともに、経済と社会の発展に寄与することを目的に北海道が設置、運営しています。数回の組織合併と移転、訓練科目の変遷を経て施設内訓練として1945年から2011年までの間に14,673人の修了生を送り出してきた。また、施設外訓練として1949年から2000年の間に16,019人の修了生を送り出してきた。


3. 札幌高等技術専門学院の歩み

(1) 学院施設内で実施する職業訓練
① 訓練科目の概要
  札幌高等技術専門学院は、下記の訓練科で普通課程[2年訓練(6科目):専門的な知識とより高度な技能・技術を付与する職業訓練【高卒または同等以上対象】、1年訓練(1科目):専門的な知識と技術を付与する職業訓練【高卒または同等以上対象】]、短期課程[1年訓練(1科目):基礎的な知識と技能を付与する職業訓練【中卒または同等以上】]にて、施設内での職業訓練を実施している。
  ※ 1年生訓練(普通・短期課程ともエクステリア技術科)
【施設内各科紹介】
訓練科目
課程
訓練期間
定員
教科概要
実習風景
精密機械科
普通
2年
20人
精密機械科では、金属等の素材を精密に加工し、ゼロからものを作り出すことが出来ます。「ものづくり」に必要な機械加工技術を中心に基本から応用までを幅広く学び、各種設計、製造、生産ライン保守などのものづくり産業に対応出来る人材を育成します。
金属加工科
普通
2年
20人
私たちの生活に身近で欠くことの出来ない素材「金属」。当科ではその金属の切断・曲げ・接合に関する知識や加工技術、コンピュータによる製図(CAD)などを学び、幅広い金属加工分野で活躍できる技術者の養成を目指しています。
電子工学科
普通
2年
20人
パーソナルコンピュータやマイクロコンピュータに代表される電子機器のハードウェア、ソフトウェア及び通信ネットワークに関する知識と実践的な技術を習得します。社会のIT化に対応できる広い視野を持ったエンジニアを育成します。
電子印刷科
普通
2年
20人
印刷全般の基礎知識から関連デザインやパソコンの知識を幅広く訓練し、プリプレス部門では、デザイン・レイアウトの専門技術とDTPデータの製作技術を習得します。プレス部門では、印刷機械の基本操作・カラー印刷や製本の印刷後行程全般を学びます。
建築技術科
普通
2年
20人
日本の家、それは木組みの力強さ、美しさの文化です。木造建築技術と施工技術の多様化に対応できる知識と施工技術を持ち合わせた技術者を育成します。豊かな住環境を創造する住まいづくりに対応した技術を学びます。
建築設備科
普通
2年
20人
建築物が人の体の骨、肉に相当すると、建築設備は頭脳、内臓であり神経、血管に相当します。一般住宅から超高層ビルまで、快適で健康な生活をするための環境作りが建築設備(冷暖房・空調・給排水)の仕事です。その建築設備工事全般に係わる設計施工技術に対応できる技術者を育成します。
エクステリア技術科
普通
2年
20人
「エクステリア」とは敷地内で建物より外側の部分、つまり外構、庭、外壁などを総称していいます。当科ではそのうち、ブロック塀などのブロック組積作業、モルタル壁などの左官作業、床・壁面などのタイル張り作業を基本とし、これらの作業に関連する知識・技能を有する技能者を育成します。
短期
1年
10人

② 入学状況と応募倍率の特徴
  平成23(2011)年度と平成24(2012)年度生の応募・入学・在籍状況から応募倍率は、1.3倍、また、入学率は、0.88倍となっている。少子高齢化社会の進行と景気低迷のなかで、一定の行政成果をあげていることが垣間見られた。
  なお、援護措置としての雇用保険受給者及び訓練手当受給者は14人が在籍し、総体に占める割合は、6.4%となっており、地域のセーフティネット機能を果たしていることが確認できた。

入学年次
訓練科目
課程
訓練期間
定員
応募数
応募率
入学数
入学率
雇用保険
訓練手当
2011年度
(2年次)
精密機械科
普通
2年
20
25
1.25
20
1.00
金属加工科
20
22
1.10
14
0.70
電子工学科
20
44
1.47
29
0.97
電子印刷科
20
45
2.25
20
1.00
建築技術科
20
17
0.85
13
0.65
建築設備科
20
25
1.25
18
0.90
小  計
130
178
1.37
114
0.88
2012年度
(1年次)
精密機械科
普通
2年
20
27
1.35
18
0.90
金属加工科
20
26
1.30
14
0.70
電子工学科
20
46
1.53
30
1.00
電子印刷科
20
25
1.75
20
1.00
建築技術科
20
19
0.95
16
0.80
建築設備科
20
27
1.35
18
0.90
エクステリア技術科
1年
20
19
0.95
17
0.85
150
170
1.13
133
0.89
エクステリア技術科
短期
1年
10
11
1.10
0.80
10
11
1.10
0.80
小  計
160
200
1.25
141
0.88
合    計
290
378
1.30
255
0.88
12

③ 施設内訓練の課題と問題点
  1987年に竣工した校舎であるため、約26年の年月が経過し、校舎や実習設備等が老朽化してきている。
  新規採用が北海道職員適性化計画にて抑制されていることから職業訓練指導員の欠員が存在する。また、職業訓練指導員でありながら任用制限がある特別職非常勤職員の採用が実施された。

(2) 学院施設外で実施する職業訓練
① 能力開発総合センターの概要
  能力開発総合センターでは、能力開発に係る各種情報の提供や相談・指導などの支援を充実するなど、地域の人材育成の総合センターとしての機能強化を図るとともに、IT化の進展、技能、技術の高度化、複合化等に対応できる人材や「ものづくり」の分野を担う人材を育成します。
  また、在職労働者の職業能力の向上を図るため、事業主等の要望に基づくオーダーメイド型「能力開発セミナー」を実施するとともに、離転職者等の就職促進を図るため、民間教育機関への委託による機動職業訓練と、主としてパートタイム求職者に対する速成訓練などを実施している。
② 機動職業訓練(委託訓練)[ハローワークからの受講指示及び受講推薦等が受けられる方が対象]
  機動職業訓練を受講希望する求職者は、各地域の公共職業安定所(ハローワーク)のニーズ調査結果より、パソコン・簿記・販売系(54%)、介護系(27%)、医療事務系(9%)、その他(10%)に大別される。平成23(2011)年度は152コースを実施し、平成24(2012)年度は131コース(前年対比▲21コース)を予定している。コース数が減少した理由は、各訓練コース毎の求職者のスキルにより基礎コースと中級コースの2層化を推進したことによる。(3か月訓練[350時間]、4か月訓練[450時間]、6か月訓練[650時間])
 ・ 緊急再就職訓練(対象者:一般求職者) ~ 離転職者の再就職を目的とした職業訓練
 ・ デュアルシステム訓練(対象者:一般求職者) ~ 企業実習を組み入れることにより即戦力としての再就職目的とした職業訓練
 ・ 障がい者訓練(対象者:障がい者) ~ 障がい者(身体・知的・精神・発達障がい者)の再就職を目的とした職業訓練
 ・ 母子家庭の母等(対象者:母子家庭の母等) ~ 母子家庭の母等の再就職を目的とした職業訓練
③ 速成訓練(ハローワークからの受講指示及び受講推薦等は必要がない)
  パート求職者等の再就職を目的とした職業訓練(パソコン系、経理事務系)。平成23(2011)年度は2コースを実施し、平成24(2012)年度は3コース(前年度対比1コース増)を予定している。
 ・ 12時間以上150時間以内
④ 能力開発セミナー(ハローワークからの受講指示及び受講推薦等は必要がない)
  在職者(複数事業内)を目的とした職業訓練(技能士系、事務系、技術系)。平成23(2011)年度は4コースを実施し、平成24(2012)年度は4コース(前年度対比0コース増)を予定している。
 ・ 12時間以上150時間以内
⑤ 札幌高等技術専門学院の所管地域
  施設外訓練の実施地域は、後志総合振興局管内、石狩振興局管内、空知総合振興局管内となります。
  管轄公共職業安定所は、ハローワーク札幌、札幌北、札幌東、千歳、小樽、余市、岩内、倶知安、江別、岩見沢、砂川、滝川、深川、夕張となっています。
  訓練実施地域は、札幌市、千歳市、恵庭市、北広島市、江別市、小樽市、余市町、岩内町、倶知安町、岩見沢市、栗山町、美唄市、滝川市、深川市、芦別市にて実施している。
⑥ 委託先の選定方法(一部抜粋)
  原則として公募により企画提案を募集し、その内容を審査して最良の提案をした者を選定し随意契約の相手方の候補とする手法にて実施する。
 ・ 道内に本店又は事業所を有する法人(団体を含む)、若しくは道内に住所を有する個人であること。
⑦ 委託訓練の応募率等
  後志総合振興局管内(約1.4倍)、石狩振興局管内(約4.0倍)、空知総合振興局管内地域(1.0倍)と地域により応募倍率は異なる。しかし、札幌市内だけに着目すると応募倍率は、約5.0倍程度あり、3回以上公共職業訓練を受講しても合格できない実態にある。また、主要コースであるパソコン・簿記・販売系、介護系、医療事務系の3コースにおいて、各550人以上の訓練待機者がいる現状にある。
⑧ その他
  能力開発総合センターの業務量は増加する一方だが、砂川分室等の廃止により定数が9人から6人に職員数が削減された。業務の効率化を追求するのにも限界がある状況です。


4. おわりに

 札幌高等技術専門学院の施設内及び施設外の訓練とも、北海道経済が低迷するなか、その重要性は高まる一方であるが、北海道が一律的に実施する職員適性化計画の職員数削減により職員・組織は疲弊している。
 全国一律的にどこでも、いつでも、必要な時に、質の高い公共職業訓練を実施できる体制構築のために、一人一人の職員が声をあげる時がきた。まず、自分でできる小さなことからはじめよう。