【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第7分科会 貧困社会における自治体の役割とは

 近年、児童虐待事件が増加し、児童相談所(兵庫では「こども家庭センター」:以下「センター」)における処遇が注目されている。しかし、児童虐待事件の最前線となるセンターの体制は決して十分とは言えない状況にある。本レポートでは、行政側に体制における現状と課題について報告する。



こども家庭センター(児童相談所)の実情から


兵庫県本部/兵庫県職員労働組合・中央執行委員 青木久実子

1. はじめに

 近年、虐待事件が増加し、児童相談所(兵庫では「こども家庭センター」:以下、「センター」)における処遇が注目されるようになっている。
 兵庫における相談件数や虐待件数などは既に公表され、その分析は当局発表でもなされているので、このレポートでは主に相談を受ける側、つまりはサービス供給をする行政側の体制における現状と課題について報告したい。
 多くの困難事案を抱え、日々、悩み、苦闘しながら業務を遂行している職員にとって、労働条件の改善、センターの体制強化は切実な要求なのである。


2. 兵庫の特徴

 都市型である阪神間(神戸市を除く)を管轄とするセンターから、但馬を中心とした郡部を管轄するセンターと、淡路島も含み、南北を横断する兵庫の地理的条件を反映した5つのセンター(2分室、1駐在所)を配置している。
 ※ 2010(H22)年度相談受付件数13,330 内虐待相談受付件数1,688
   2011(H23)年度相談受付件数12,497 内虐待相談受付件数1,662
 (下図及び相談件数の推移は当局資料「ひょうごの児童相談」より転用)


   
年度別相談受付件数の推移
 

3. 相談体制

 兵庫県においても「新行革プラン」に基づき、人員削減が進められている。虐待事案をはじめとする業務の複雑、困難性から、センターでは、人員削減こそ強行されてはいないが、複雑、困難な相談件数の増に伴い、業務量が増加する中にあっても、組合が求める正規職員での増員とはなっておらず、非常勤嘱託員を中心とした非正規職員が多く配置され、かろうじて、現行の相談体制の水準を維持している状況である。
 また、センター全体の専門職の配置は児童虐待対応を中心にシフトしている。
 兵庫県の虐待対応の方針は、それぞれのセンターに虐待班を編成し、チームで対応することになっているが、特に阪神間では、虐待チームだけでは件数が多く対応出来ないという問題もあり、従来どおり地区担当制で、困難ケースに専門員が加わる体制となっている。そのため、より多くの一定の経験を有したケースワーカーの配置が必要となるが、実際には、人事異動もあり、絶対数の不足に加え、常に新任ケースワーカーの人材育成もしなければならない現状がある。
 しかし、現状は、現場に必要なスキルを身につける前に、ギブアップする職員も多く、また、職員一人ひとりにかかる責任の重さや、クレーム対応等で疲弊している。
 ここ数年、センターには、さまざまな名称の非正規職員が配置されてきたが、高い専門性が要求される中では、真の人材育成にはつながっておらず、まずは、正規職員での増員、すなわち専門職の配置を増やしていくことが必要である。その上で、質の高い経験あるケースワーカーを育て残していくことが大きな課題となっている。


4. 一時保護所の現状と課題

 現在、兵庫県における一時保護所は、収容人員は最大38人で、就学前児童・学齢男子・学齢女子とグループ分けしている。目的として緊急保護や行動観察がある。
 バブル期には養護相談(貧困問題)が減ったことにより、兵庫県では、一時保護児童が減少したため、集団処遇がより効果的で適切な指導が行える等の理由で、児童相談所も行革の対象となり、1993(H5)年に、これまで県下5ヵ所の児童相談所に併設していた一時保護所を1ヵ所に統合した。2003(H15)年には増築し、現在の定員となっているが、広域な兵庫県で一時保護所が1ヵ所にしかないことから、1ヵ所にこどもを集中させることの不便さに加え、担当するセンターのケースワーカーにとっても距離的な問題もあり、移送や面接に伴う負担が生じている。それは、子どもを預ける親も同様ではないだろうか。
 また、満員で受け入れが出来ないことや、また、保護所の定員に空きがある場合でも、困難ケースがある場合等は受け入れが出来ない等、集約化のデメリットも生じている。
 さらに、被虐待児、非行児、発達障害児の保護が増えている。
 現在、保護所では、機械的に年齢別にグループ分けがなされているが、小学1年生でも極端に言えば高校3年生と同じグループとなり、非行児も不登校児も一緒に処遇している。また、中学生以上の児童は非行児が中心に入所することが多く、それ以外の児童の行動観察が出来にくい等の課題が生じている。
 一時保護所では、児童の行動観察も重要な業務であり、専門的な視点が不可欠であることから、優先して専門職が配置されてきているが、採用人員が抑制されている中では、結果として、相談業務に配置される職員が増加していないという課題も生じている。
 2013(H25)年4月には、国の予算を活用して、県内5ヵ所のうち3ヵ所のセンターが建て替えとなるが、今回の建て替えは、一時保護所をあらたには併設しない建て替えとなっている。兵庫県は、①人的・物的な面でより合理的であること、②一定規模の子ども集団の中で必要かつ的確な行動観察が出来ること、③専門職員の資質向上のための研修等の実施により、高度な支援体制が確立出来ること等により、これまで以上にハイレベルな指導が求められる現在、現行の一時保護所の体制が望ましいとしているが、総体として、メリット・デメリットを検討すれば、今の大規模集中管理は管理上のメリットだけであり、現場の職員が抱える課題に対応することが出来ない状況となっている。
 広域な兵庫県においては、複数の保護所で児童を分散することによって、きめ細やかな対応が可能となり、さらに、そのことが、処遇の向上、職員の負担軽減につながると思われる。


5. 専門職の配置 -こどもセンターの専門性、体制強化-

(1) 専門職採用における課題
 こども家庭センターの専門性を高めるためには、絶対的に必須の条件であるマンパワーの充実、専門職の配置が必要であり、近隣府県では、福祉職場に専門職の配置がなされ専門職採用が実施されている(神戸市、大阪市、大阪府など。「社会福祉職」採用)。
 兵庫県では、センターの業務の困難性、高い専門性から、経験者の配置、専門職の採用を、組合として、長年にわたり求めてきた経緯の中、2001(H13)年8月の尼崎での被虐待児の死亡事故後、専門性の高い人材育成が課題となったことから、2002(H14)年度より「児童福祉司職」の採用を再開した。
 その結果、今年度までで39人の児童福祉司職を採用している。児童福祉司職採用は、当初は6人ずつの採用であったが、行革による人員削減、採用抑制から、児童福祉司職採用も他の職種と同様に鈍化し、本年にいたっては、採用人員は1人であった。
 また、専門職採用は、あくまでも「児童福祉司」であり、他の福祉職場への配属はほとんど行われておらず、センターの即戦力となる職員を求めたものである。専門性は大学等の理論だけでなく、現場での実践の中で蓄積されるものである。職場として計画的に職種や経験年数の応じた研修体制が組まれているとは言い難く、業務で必要なスキルはそれぞれの専門職の自己研鑽に頼っており、結果として育成する視点が欠如しているように思われる。育成の視点がなければ、専門性は上がらず、専門職の職場定着率も決して高いものとはいえず、既に5人が退職している。

(2) 「児童福祉司」の配置
 児童福祉司職採用のみで、センターの体制確保とはならないため、現在も一般事務職が、異動により、センターに配属されている。
 児童相談所のケースワーカーは、児童福祉司の任用資格が要件となるが、その任用資格を取得するには、社会福祉主事に任命され、2年以上の現場経験が必要になる。
 これまで、主に福祉事務所で社会福祉主事として現場での経験を積んだ職員を児童福祉司として任命してきたが、市町合併により県福祉の現業部門が縮小され、また、行革による人員削減により、新たに社会福祉主事を任命出来る人数が大幅に減少している。
 また、社会福祉主事の任用資格は、大学等で社会福祉を専攻していなくても、法律で定められた三科目を履修しておれば要件を満たすことから、通称、「三科目主事」とも呼ばれ、主事の任命を受けていても、必ずしも専門性を伴わないことも問題とされている。

 2011(H23)年4月現在の兵庫の児童福祉司の地方交付税による配置基準は76.1人である。2011年度は77人の児童福祉司を配置しているが、その中には、再任用職員、保健師5人(各センター1人)も含まれている。しかし、2012(H24)年度は県全体で、児童福祉司の発令可能な有資格者の配置がなされず、配置基準に2人不足した配置となっている。さらに、国は、2012(H24)年度から普通地方交付税措置を拡充し、児童福祉司の配置基準が増える見込み(人口170万人あたり2人の上乗せ)であるが、交付税が増額されても、有資格者の配置が出来ないという状況も懸念される。
 現場の職員の人材育成は、研修等により一人ひとりの質を高めるとともに、社会福祉全般の幅広い知識組織と経験が必要である。また、センターの職員は、児童福祉司だけでなく、心理判定員、保健師、医師等が配置されており、それぞれが有機的な連携を図ることにより、組織としての専門性の向上がはかられるものである。


6. 最後に -よりよい処遇を実施するために-

 ここ数年の児童虐待相談件数の大幅な増加や、困難事例の増加など、センターはより高い専門性が求められている。今後は、市町における児童家庭相談の充実も図られていくことになると思われるが、センターでは、求められている専門性に対して、充分な体制が整えられているとは言いがたい。
 長時間労働、精神的なストレスに悩む職員の労働条件の改善が求められており、そのためには、マンパワーの充実、体制強化が必要である。そのことが、よりよい処遇につながると確信する。