3. 自治体や地域における課題
~移住・交流に関する各種調査から見えてくるもの
(1) 若者の田舎暮らし志向の増加=全国10万人アンケート
「2007年団塊の世代定年退職開始、2008年リーマンショックの多大なる影響という環境の激変を受けて、『ふるさと回帰』は構造的な変質を遂げているのではないか。とりわけ『働く場』の問題」のふるさと回帰への影響はどのようなものかという問題意識で実施された「ふるさと回帰の変容~全国10万人アンケート調査結果」(㈱ふるさと回帰総合政策研究所:2009年8月実施)は、「『ふるさと回帰』は、構造的変化をはじめている。主役は、これまでの“団塊の世代”から、“若者”にシフトしはじめ、田舎で“悠悠自適”に暮らすよりも、“田舎で働く”ことが選好されはじめた。ふるさと回帰は『都会での“雇用”よりも、田舎での“起業”、生業おこし』を具体化する。」と結論付けている。
(2) 移住・交流モデルの変化=総務省調査
総務省の都市から地方への移住・交流の促進に関する調査報告書では、移住・交流の傾向の変化を2パターンから3パターンに変更し「新たな移住・交流モデル」を示している。それは、①仕事やりがい、探究派(新規就農や起業、IT分野、趣味と実益)②生活革新、チャレンジ派(子育て環境、仕事、教育・医療環境)③悠々自適、暮らし満喫派(着地型観光、二地域居住)で、それぞれのモデルや行動期(関心⇒準備⇒行動⇒維持)ごとに「地域の窓口、世話役等に求められる機能・具体的な仕事(例)など」を詳しく例示している。
(3) 施策を推進する自治体の共通点と悩みが浮彫に=ふるさと回帰支援センター・大阪ふるさと暮らし情報センター自治体調査
2011年の9月の(「ふるさと回帰フェア2011」の前日、フェアに出展する自治体の担当者向けのセミナー)セミナー実施に向けて自治体担当者の今後の事業実施に役立つ交流のためにとの問題意識から、具体的な事業推進体制やNPOとの連携、予算、具体的施策の中味などを詳細に記入いただく内容で調査を実施した。(2012年9月集約で第2回調査を実施中)
その結果、16県64市町村から回答をいただき、集約を冊子化した。予想通りではあるが、受入れの地域態勢に大きな差があり、移住希望者、移住者へのフォロー体制による移住者の差や、すでに移住した人を中心にNPOを立ち上げ、受け入れ支援や地域おこし事業、ネイチャーガイド等を実施している地域や自治体でワンストップ窓口を設置し地域の受け入れ協議会やNPOと連携している自治体は、移住者を呼び込めるということがいえる。
各自治体の悩み、自治体間交流で意見交換したい課題を集約すると、問題点が浮かび上がってくる。
その主なものは、全国の「地方」に約300万戸存在するといわれる「空き家」で、貸したり売ったりという「市場性」を持つものは、1%の3万戸といわれているが、この課題解決のための情報収集やノウハウ、回収費用や取得に関する助成制度、行政としてのかかわり方などが一番多かった。
次に、雇用確保・就業支援、情報発信・PRのノウハウ、その他支援制度(体験ツアー、定住奨励制度、ユニークな移住セミナーや相談会など)、各団体・地域との連携及び役割分担、地域住民等の移住者受け入れ意識の醸成、連携方法、移住者のアフターフォロー、要望対応の情報共有化、移住者の実績把握、大都市圏での移住・交流促進拠点のあり方、他県とのネットワーク・コミュニティ形成の可能性などが続く。移住・交流の促進で地域を活性化させたいと思っている自治体の悩み・問題意識は共通なものがある。
市町村の事業の状況をみると、移住・定住情報の提供やホームページでのPR等、情報を提供する取り組みは多くの市町村で実施されているが、県では全体の半数以上で実施されていた都市部での相談会の実施は、市町村では回答市町村の半数以下にとどまった。
また、住宅に関する取り組みに関しては県より多様に取り組まれている傾向にあり、全体の半数以上が空家バンク等を設置しているほか、お試し住宅の設置、空家改修費補助等、県では見られなかった定住住宅の支援を行っている市町村も見られた。都道府県に比べて住民との距離が近い基礎自治体の特性が、施策の実施傾向にもあらわれていると考えられる。情報、住宅以外の取り組みも広く行われており、またいずれにも分類されない自治体独自の取り組みが多いことも、住民との距離が近く特性が顕著に表れる基礎自治体ならではの結果である。なお、人口や人口密度、高齢化率等との数値指標と、施策の実施状況に明確な相関関係は見られなかった。
(4) 特徴的な「移住・交流事業」の事例の紹介
① 和歌山県
「田舎暮らし応援県わかやま推進会議」加盟の14市町(未加盟16市町村)には、各役場にワンストップパーソン(役場職員)と受入協議会(地元のNPOなど)を設置(顔の見える移住促進窓口)し、空き家や雇用探し⇒受入⇒定着のためのフォロー体制を整備し、成果を上げている。2012年度県レベルでの事業としては初めて「和歌山で起業する人への支援事業」を実施。ほぼ毎月「大阪情報センター」でセミナーと相談会を実施。
② 大分県湯布市(当センターでのセミナーでのご本人のお話し)
* NPOとの連携、特に移住した方の提起を地域で実践している例
人口41人、高齢化率65.9%の地区に移住し、家を建て近隣の方との信頼関係を作り、田んぼと畑を借りて有機無農薬の野菜やコメを作っている方が、「地域の人たちと一人暮らしの老人世帯をどう見守っていくか考え抜き、ヤギを飼う」ことにしたという。「ふれあいヤギの会」を発足させ、地区の中心部に土地を提供してもらい、ヤギ小屋を建て、共同新聞受けを設置した。ヤギのえさやりと毎日の新聞受け取で「安否確認」ができる。広場に出てきた人たちの交流がある。ヤギは、雑草を食べてくれる。という状態だそうだ。この事業は、大分県の「小規模集落対策事業」を活用して、2009年から実施されている。
③ 鳥取県、熊本県上天草市など
転入者にアンケートを実施し、田舎暮らし目的の移住者の実態を把握。各事業に反映。
④ 福井県若狭町
次世代定住促進協議会設置(商・工・農・学校長・自治会・議会など地域代表)
⇒立命館大学政策科学部の協力で「次世代定住意識調査」を実施、実施結果の住民説明会と意見交換会を実施。調査は、町内の小学校5・6年生、中学校1~3年生、町在住の高校生、若狭町の中学校を卒業した18歳~22歳の全数調査で、2,340人に実施された。回収率は小学生100%、18歳~22歳25.5%と差はあるが、トータル64.7%だった。その中で注目すべきは、「家族の地域参加と居住意向の連動」である。即ち家族が地域活動に参加する率が多い家庭の子どもほど地域に住み続けたいという数字が上がるということだった。
加えて移住促進のために、農業生産法人有限会社「かみなか農楽舎」を活用した新規就農研修を実施し、その修了生の定住(移住)を促進するための支援を行う。
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