2. 市バスの今後のあり方について「市民案」を提言
(1) 福岡市の「公共交通基本条例」について
ご存知のとおり、福岡市には市バスが走っていない。すべて民間が担ってきた。しかし、バス経営が悪化する中で、路線の縮小・廃止という事態に直面せざるを得ないことになってきた。路線がなくなる地域にとっては死活問題である。バス路線の廃止について存続を求める陳情等が議会に寄せられてきた。これまで、「バス問題は民間の問題」との認識が一般的であった市議会は、こういう事態に対して、行政が責任をもってかかわる必要性を改めて認識した。福岡市議会は、バスネットワークを民間が担っているとはいえ、行政の適切な関与が必要として「公共交通基本条例」を制定した。
以上は、この条例の立案者であった栃木福岡市議会議員のお話である。
今日、バス経営は、総じて困難性を増してきている。「公営企業は民間に比べてコストが高い。」とはいえ、そのコスト差を是正すれば何とかなるという状況ではない。市場原理に任せれば、赤字路線は縮小・廃止せざるを得なくなるのは当然のことといえる。
しかし一方、高齢者・障害者等移動制約者に対する市民の足の確保の必要性や環境負荷の軽減という観点から、公共交通の重要性が指摘されているのも事実である。
福岡市では、公共交通の重要性から、これまで歴史的に民間が担ってきたバスネットワークを維持するために、「条例」という形で市行政が積極的に関与するためのシステムを構築しようとしているのである。
(2) 尼崎市バスのこれからのあり方について「市民案」を提言
「あまがさき21市民連合」(尼崎における諸課題について取り組むネットワーク組織)・「尼崎市営バスを考える会」(高齢者無料乗車証制度の見直しがなされたことを契機につくられた高齢者のグループ)「尼崎地域自治研究会」の3団体、及び、尼崎交通労働組合もかかわる中で、本年6月30日に「尼崎市バスのこれからのあり方を考えるシンポジュウム」を開催した。
このシンポジュウムでは、バスネットワークを維持・発展させるためのバス経営のあり方について、市民目線での計画案をつくり発表することになった。このシンポジュウム実行委員会に市民案策定作業チームを設置し検討と議論を重ねた。提案した市民案は「尼崎市も出資する共同出資型民間経営方式」というものであった。「公営審」ではすでに「完全民間経営方式」が素案としてまとめられており、シンポジュウムでは、「完全民間経営方式」を支持する公営審委員もパネラーとして参加されていたこともあって、「完全民間経営方式」と「尼崎市も出資する共同出資型民間経営方式」について活発な議論が交わされた。
(3) 「尼崎市も出資する共同出資型民間経営方式」について
市民案を検討するにあたっては次の2点を踏まえた。
第1には、将来にわたって尼崎市内におけるバスネットワークを維持・発展させるためには、バス運営において尼崎市が一定の責任を果たすことが必要である。市民等からのバスネットワーク等にかかる要望を受け止め、具体的に解決する仕組みを持つ運営形態が必要である。
第2には、尼崎市の財政負担について適切なレベルを維持しなければならない。公営企業としての市バス経営はすでに破綻状態であり、この状態を一般会計からの補てんで支えることは困難であると認識する。しかし一方、ネットワークを維持するためには、民間が運営したとしても一定の公的財政援助は不可欠である。
以上の2点を押さえた上で、市が示した5つの運営形態について検討を加えたが、完全民間経営方式では協定を締結したり協議会を設置したとしても「担保力」が弱いというのが私たちの判断である。
加えて、ネットワーク維持のための公的財政援助は不可欠であるが、当面は実行されると思われるものの、将来にわたってその保障があるかといえば心もとない限りである。
「尼崎市も出資する」という形は、「民間経営に口を挟む」ことを意味するものではなく、ネットワーク維持にかかる公的財政援助を将来にわたって担保するためのものである。
「共同出資型民間経営方式」は、設立時においては、単に民間バス会社にまる投げしお願いするよりも手間がかかることは間違いがない。しかし、その手間がかかるとしても、市民のための交通ネットワークを考えたときに、民間も、行政も、市民もそれぞれ協力し合ってバスネットワークを維持するために力を出し合うという仕組みが重要であると考えたのである。まさに「協働」である。
「行政が出資すれば民間経営ノウハウを生かしきれなくなる。」とか「行政が出資参画すれば民間企業は参画しないだろう。」という意見がある。しかしこの意見はおかしい。
行政が出資する目的は、バスネットワークの維持のための担保であり、その担保は、公的財政援助という形として現れるのであるから、参画する民間企業にとってもメリットのある話である。行政が経営権を握るのであれば問題であるが、そのことを目的にする出資ではないことは誤解のないようにしてもらいたい。市民は、「尼崎市は将来バスネットワークから逃げてしまうのではないか。」という不安を抱いているのである。「市民に信用してもらい安心してもらう。」ために尼崎市行政がどういうスタンスを取るべきか、について具体的に提案したものである。
この方式の延長線上には、将来的に、尼崎市民が、尼崎の様々な事業所が、資本参加して「市民のバス」として存続することも展望できるのではないか。バス経営が厳しい環境にあるからこそ、民間経営ノウハウをベースに市民のバスとしての存在を展望できる夢のあるシステムの構築を求めたい。
|