この推移を見ると、確かに年度をまたいで入る国庫支出金等が前年度繰上充用金というかたちで環流したようにうかがえる。引き続き徹底的に精査される必要があろう。
④ 職員への賃金カット問題等の発生、株式会社「プロビス」の登場
篠山市では合併後において職員数の削減も進んだ。その分の公共サービスは残った職員や外部委託等によって担われている。
同時に超過勤務手当の「未払い」問題や基本賃金等の10%カットという未曾有の賃金合理化などが進行している。
また、財政の健全化をめざす篠山市再生市民会議は、篠山市は、何が原因で今日の財政悪化を招いたのか、といった原因や理由・背景を明らかにせず、当面の財政危機を乗り越えるためのいくつかの方策が盛りこまれた。市民にはかなりの負担を求め、職員の賃金削減などが盛りこまれた。
再生会議では、職員の賃金の「20%カット」が論じられるなど、関係者にはまったく情報が知らされないままに進行していた。その後、篠山市当局から、行政職で月額賃金と一時金で10%削減、管理職手当10%削減をベースにした内容が提示され、事務折衝、交渉を重ねた結果、2008年10月1日から2011年3月末まで給料月額、諸手当5%削減、一時金は級別に対象職員を絞りながらも削減などで妥結を見た。
同時に合併後急速に進む職員数の減少は、公共サービスを継続していく上でのヒューマンパワーの減少は大きな今後のマイナス要因をかかえたままとなった。
職員のモチベーションは下がり、市民にとっても大きな影響をもたらしている。正規職員数の大幅な減員は、非正規職員や公共民間労働者によって補われている。
職員数を「減らす」一方で、求められる公共サービスの提供や水準の維持、たとえば施設の維持管理などでは難しい問題を惹起した。こうした背景をもって篠山市に登場してきたのが、市が全額出資した「株式会社プロビス」であった。
プロビスは、篠山市のもつ施設関係の維持管理だけでなく、ここから人材の派遣・業務請負を可能にするものとの推測が当時からあった。
具体的な事業としては (ア)公共施設の維持管理業務、用務員業務、(イ)給食サービス業務、事務事業支援業務、市役所窓口サービス業務、公用車運転・添乗業務、(ウ)企画運営業務、があげられていた。
市役所の現業部門と臨時職員・嘱託職員等が担っていた公共サービス部門が大半である。当時の市役所の設立動機は多分に、(ア)公共サービス提供を「会社」に補完させ、「法の規制による非効率性」からの脱却、(イ)「会社」に任せることによる「運営の効率性」の追求、(ウ)「会社」に一元的に管理を委ねることで市側は最小限の人員配置ですみ、市の定員管理に寄与できる、(エ)市民のニーズに合わせた時間帯に公共サービスを展開でき、フレキシブルなサービス提供が可能、といったものであった。
すでに多くの指摘があるように、前述の合併特例債の活用による人口6万人都市に向けての事業の推進という財政の膨張、同時に合併効果として期待された職員数の削減というなかでの株式会社プロビスの登場であった。
現状の自治体の臨時職員、非常勤職員、嘱託職員等の任用根拠は地方自治法や地方公務員法の規定から逸脱している実態にあり、いわば脱法的任用が多くの自治体でまかりとおっている。その意味では株式会社プロビスという形態でのあらたな任用(採用)手法は注目された。
ただし、すでに内部からの指摘があるように職業安定法違反、労働者派遣法違反といった事案が株式会社プロビスにおいて顕在化し、兵庫労働局の是正勧告を受けた。本来のありかたを逸脱して経費的にコストをいかに下げるかに着目したような「手法」といえる。合併直後の篠山市では、「余剰」人員対策的にこうした株式会社プロビスの設立があったのではないか、とさえ思わせる。
市民にも公共サービスの提供手法の変更という流れが必ずしも十分に周知されず、議論にも及ばなかった。「公」の責任とは、主権者である市民に恒常的な生活の保障・セイフティ・ネットを構築することであり、その意味からも株式会社プロビスの設立経過と現在の一般社団法人ノオトの業務内容などは点検されるべきであろう。
⑤ さらに残っている検討課題
ア 特別会計、例えば下水道会計のように、旧町時代に遡り検証が必要である。
イ 兵庫医大の病院のあり方、市として何を求め負担するのか、地域医療の確保の責任の分担、政策判断をふくめて地元負担金や操出金等の判断が必要である。
4. まとめと篠山市・篠山市職労の今後の課題
(1) まとめ
篠山市の合併は、歴史的な篠山市(旧多紀郡)の一体性、広域的な課題の必要性、地方分権への対応などから、行政・議会主導で行われた、「自主合併」であった。その後合併した自治体の多くが、主に財政問題を理由に、国・旧自治省、県の強力な指導の下に行われた事実上の「強制合併」とは異なる。
国・旧自治省は、「平成の合併」推進のために、地方交付税の特例5年→10年、合併特例債というアメを用意した。旧多紀郡の行政・議会は、広域課題の解決のみならず、各町は、合併に対する住民合意を得るためとして、合併事業を計画・実施し、合併特例債をほぼ使い切った。
しかも、旧自治省は、篠山市の合併を成功させ、「平成の合併」第1号として宣伝するために、“豪華”な施設を建設するよう誘導し、当時の行政・議会は、それに乗ってしまった。
後発の自治体が、小泉内閣の「三位一体改革」による地方交付税4兆円の削減という厳しい状況の中で、合併特例債の活用に慎重にならざるを得なかったのに対して、篠山市は、合併後5年以内に主要な合併事業をやりきってしまった。その直後に交付税削減が強行された。しかも、各町は、合併直前に「駆け込み事業」を実施したことが、篠山市の借金が膨れ上がる一因ともなった。
加えて、「新市建設計画」において、将来人口を6万人と想定し、それに基づく財政計画などが立てられた。しかし、合併以降、人口は、予想に反して、合併時の4万7千人から、4万3千人にまで減少している。(ア)交付税の大幅減額、(イ)当初計画にない「合併事業」、合併直前の「駆け込み事業」による予定外の支出増、(ウ)将来人口6万人を想定した「財政計画」の破綻、などの変化に対応し切れなかったことが、今日の財政状況を作り出したといえる。
現酒井市長が就任して以降、「篠山市再生計画」が策定され、大幅な人件費削減、(水道料金など)公共料金の引き上げ、住民サービスの切り下げ、建設事業など投資的経費の縮減が進められている。結果、市民生活に大きな影響を与え、地域経済は萎縮し、縮小再生産の悪循環となっている。
確かに厳しい財政状況にあることは事実であるが、見方を変えれば、主要な事業はやりきっているだけに、現在市が進めている、財政再建計画を、長期に、緩やかな形で進めていくことが必要ではないか。今が、転換のときではないか。
また、合併による弊害として、行政と住民との距離の拡大と周辺地域に対する対策がある。支所の体制・機能強化、地域コミュニティの再生・強化が大きな課題となっている。今ならその芽が残っている。地域コミュニティを継承・発展させるための施策が必要とされている。住民に依拠し、住民とともに前に進む決意こそが求められているのではないか。
(2) 篠山市行政の課題
① 「住民自治」の基本に立って、改めて、将来計画を策定する必要がある。住民とともに地区・地域ごとの計画づくりを基礎に、市全体の計画づくりを進めることが重要である。
② 合併による弊害としての、行政と住民との距離の拡大と周辺地域に対する対策の必要性が指摘されており、支所の体制・機能強化、地域コミュニティの再生・強化が大きな課題となっている。今なら地域コミュニティ再生・強化の芽が残っている。聞き取り調査の中でも、地域の再生を目指して活動する地域のリーダーの姿が見て取れた。地域活動の担い手が60、70歳代中心であるが、地域コミュニティを継承・発展させ、次世代へと引き継がれるための施策が必要とされている。そのためにも、行政の「下請け」としてではなく、地区(自治会)→小学校区(まちづくり協議会)→旧町毎に、住民、自治会・各種役員、行政、NPО、企業の役割分担・連携・協力体制のあり方を議論することが重要である。
(3) 地域産業づくり、地域コミュニティと行政
① 産業とまちづくり、若者が地域・篠山を愛し、将来に希望を持って、住み・働けることができる地域社会をめざし、(ア)子育て、医療・福祉など少子高齢化対策、(イ)農業、モノづくり、観光、商業など地域産業の活性化、(ウ)地域・生活関連投資を重視し、地元企業の育成、入札制度の見直し・「公契約条例」の制定、(エ)都市との人、モノの交流の拡大、(オ)自然・伝統・文化・技能を生かした地域・まちづくり、へ向けて、地域の叡智を結集する。
② 「良好な人間関係」「食べ物がよい」「自然環境の良さ」を生かすとともに、これまでのやり方・関係にとらわれず、“まつり”、各種行事、防災などを通じた新たな地域の人と人とのつながりの再構築、時代とともに歩む伝統・文化・技能の継承・発展を図る。
③ 廃校などを利用した地域活動、健康対策などの拠点づくり、校区・旧町・市の役割分担、住民、自治会・各種役員、行政、NPО、企業の役割分担・連携・協力体制の構築を図る。また、地域担当職員の配置、地域支援員制度の活用などを検討する。
(4) 篠山市職労の課題
① 自治体労働組合・自治体労働者は、その性格と任務からして、住民とともに、「住民自治」を確立し、地域の教育・労働・福祉の充実、平和・人権・環境を守る、安全・安心のまちづくりを進めていく。
② 自治体労働組合の活動にとって、賃金・労働条件改善のたたかいと「自治研」活動は、車の両輪である。自治体労働組合及び組合員は、地域活動に積極的に参加するとともに、自治研活動を進める。
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