【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

 対馬市は、2008年3月に対馬市市民協働推進指針を策定し、市民協働に向けた取り組みを進めてまいりました。そういった中、国の動きとして地域のことは地域に住む住民が決める「地域主権」の早期確立していく観点から、補助金の一括交付金化、基礎自治体への権限移譲等の具体策が講じられ、自治体は行政運営への自主性や主体性が求められてきており、それに対応すべくまちづくりの基本ルールとしてこの条例を策定しております。



対馬市市民基本条例の策定経過について
《更なる市民協働と市民主体のまちづくりに向けたルールづくり》

長崎県本部/自治労対馬市職員労働組合・副執行委員長 一宮  努

1. 対馬市市民基本条例策定の目的等

(1) 対馬市の概況



① 対馬市誕生
  対馬市は2004年3月1日に対馬の6町(厳原町、美津島町、豊玉町、峰町、上県町、上対馬町)がひとつになって誕生しました。対馬は島全体がひとつになって新しい都市づくりをめざしています。
② 対馬市の将来像
  対馬は、古代から大陸との交流の窓口としての役割を果たしており、いわば島全体が、日本との大陸を結ぶ「海の道」に位置していると言えます。
  21世紀国際社会の中で、対馬市が自立し、発展していくためには、このような地理的、歴史的条件を活かし、東アジアと日本を結ぶ拠点都市として、広域的な交流を促進していくことが必要です。
  対馬市は、山と海に抱かれ、豊かで多彩な自然環境に恵まれた島です。
  人々は、その中で育まれ、海や山の幸によって恩恵を受けており、このような自然との結びつきは、21世紀社会においても新市発展の重要な要素と考えます。
  若年層の流出が進むなか、若者の定住を促すためには、誇りと愛郷心を持つ事が出来る環境づくりと、生活を支える地域の産業育成が必要不可欠であり、豊かな自然の恵みを活かした新たな産業づくり、快適で安心して暮らすことができる生活環境づくりの推進は、大変重要な課題です。
  対馬市は、国境、辺境であるがゆえの優位性や、個性ある地域資源を再評価しながら、次世代を支える人々の自由な発想と創造力を培い、そこから新しい文化や産業を開拓していく、「ニューフロンティア・アイランド」としての都市づくりをめざしていくものであります。

(2) 策定に向けた社会情勢・目的等
① 対馬市を取り巻く環境
  対馬市は、2008年3月に対馬市市民協働推進指針を策定し、2008年度から市民協働に向けた施策として、ほぼ全ての職員が関与する地域担当職員制度「地域マネージャー制度」等により、市民協働に対する意識も着実に芽生えてきております。
  また、国の動きとして、地域のことは地域に住む住民が決める「地域主権」を早期に確立する観点から、補助金の一括交付金化、基礎自治体への権限移譲等の具体策が講じられてきており、本市においても地域の実情に応じた迅速な行政サービスを図っていく必要があり、また、行政運営への自主性や主体性が強く求められております。
② 条例策定の目的
  ①で述べた対馬市を取り巻く環境に対応していくため、今後、更なる市民協働の推進と市民主体のまちづくりを確立していくため、市民、議会、行政のそれぞれの役割や責務を明確にするとともに、これまで以上に市民が市政に関わる新たな仕組みづくりとしてこの条例を策定しております。
③ 対馬市における条例策定の理由
  対馬市は、これまで豊かな自然の恵みを受けながら、多くの人達が関わってまちづくりを進めてきましたが、対馬市を取り巻く環境はめまぐるしく変化してきています。そのようなことから、あらためて対馬市のこれからのまちづくりの進め方を決め、地域全体で確認し、推進していこうというのがこの条例の一番大きな理由です。

2. 対馬市市民基本条例策定経過

(1) (仮称)対馬市市民基本条例検討委員会の検討経過等
① (仮称)対馬市市民基本条例検討委員会の設置
  2010年8月、対馬市市民基本条例内容を検討するため、(仮称)対馬市市民基本条例検討委員会を20人の構成で立ち上げました。委員構成は、学識経験者1人、市民代表14人、公募委員3人、市職員2人の構成となっており、下部検討組織として、市役所職員の構成によるワーキング部会を設置しております。
  対馬市の条例策定は、市の方で策定し議会に上程するのが通常であり、市民とともに作り上げるこの条例策定の取り組みは、対馬市で初めてであり、市民により身近に感じてもらうこと、市民全体で条例を作っていくことを考えれば対馬市として新たな取り組みであったことは間違いありません。
② (仮称)対馬市市民基本条例検討委員会の検討経過
  (仮称)対馬市市民基本条例検討委員会は10回の検討委員会を重ねて条例(案)の提言に向けた取り組みを行いましたが、その中に市民アンケートの実施やまちづくりにおけるワークショップ、地域との意見交換を実施しております。【(仮称)対馬市市民基本条例検討委員会の検討経過については、資料1のとおりです。】
 ア 市民アンケートの実施
   市民アンケートの実施については、条例における将来の対馬市の方向性と対馬市のまちづくりに向けた市民の役割等についての市民アンケートを実施し、条例策定の基礎材料としております。まず、「これからの対馬のために大切にしたいことは、どんなことだと思いますか。」の問いは、アンケート回答数の約7割が、「自然環境を守っていくこと。」、「第1次産業の振興」をあげており、これまで守られてきた自然環境の保持とそれを活用した雇用の場の確保を市民が望んでいることが伺えます。
 イ ワークショップ
   ワークショップについては、女性及び青年を主体として、「市民が主役となるために自分自身に何が必要でしょうか。」をテーマとして、意見交換を実施しております。主な意見として「地域の取り組みに積極的に参画していく。」や「自分に出来ることを1つでもみつけて対馬の為に何かに取り組む。」など、市民として何らかの動きを取り組みたいなどの意見が出されております。これは、市民協働の推進が若干ではあるが市民に浸透している動きであり、重要な条例の位置づけとして役立てられる。
 ウ 市民等との意見交換
   (仮称)対馬市市民基本条例検討委員会で検討した「条例提言案」を題材に、対馬市6箇所(旧町単位)で意見交換会を実施しております。市民からの意見の中には、「なぜ、このような条例が必要か」や「これ以上市民に義務や負荷をかけるのか」といったようなこれからの課題となるべき意見も出されたが、この条例を作ることによって市民への市政への参加が促進されるなどの前向きな意見も寄せられ、非常に効果のあった意見交換会であった。


資料1:(仮称)対馬市市民基本条例検討委員会の検討経過

【検討委員会】

月  日
内   容
平成22年8月5日
第1回検討委員会
・市民基本条例の検討体制、進め方等について
平成22年10月15日
第2回検討委員会
・『これからの対馬のために大切にしたいこと。』について、ワークショップ実施
平成22年11月9日
第3回検討委員会
・『「市民が主役」となるために自分自身に何が必要でしょうか。』について、ワークショップ実施
平成23年1月26日
第4回検討委員会
・女性及び青年の集いの結果報告、アンケート調査の実施状況について
・『条例の前文及び目的』の検討
平成23年2月10日
第5回検討委員会 
・条例(たたき台)の検討
平成23年4月21日
第6回検討委員会 
・条例(たたき台)の検討
平成23年5月24日
第7回検討委員会
・条例(たたき台)の検討
・条例名募集方法及び地域との意見交換会の実施方法について
平成23年6月1日
第8回検討委員会
・条例(たたき台)の検討
・地域との意見交換会(案)について
平成23年9月11日
第9回検討委員会
・条例名募集結果及び採択候補の選定について
・地域との意見交換会、パブリックコメント、議会との意見交換会における意見の集約について
・市民基本条例(案)の修正(案)の検討
平成23年9月29日
第10回検討委員会
・条例名の決定について
・市民基本条例(案)の最終検討
・市長への提言書(案)の検討
平成23年10月18日
条例(案)提言書の提出

【地域との意見交換会、ワークショップ、市民アンケート調査等】

月  日
内   容
平成22年12月23日
女性及び青年の集いの開催
・『「市民が主役」となるために自分自身に何が必要でしょうか。』について、ワークショップ実施
平成23年1月
(仮称)対馬市市民基本条例検討に係る市民アンケート調査実施
《回答数》・市民:550通、市職員:131通、高校生:790通
平成23年1月31日
対馬市職員研修会の開催
・市民基本条例が「なぜ、必要なのか?」
平成23年7月20日
   ~9月5日
条例名の募集
  応募件数:349件
平成23年8月24日
地域との意見交換会(上県・上対馬地区)
《市民参加者》 上県:76人、上対馬:42人
平成23年8月30日
地域との意見交換会(峰・豊玉地区)
《市民参加者》 峰:33人、豊玉:19人
平成23年9月5日
地域との意見交換会(美津島・厳原地区)
《市民参加者》 美津島:34人、厳原:59人

3. 対馬市市民基本条例の制定と今後の取り組み

(1) 対馬市市民基本条例の制定
① 議会との意見交換会の実施
  当然のことながら対馬市市民基本条例の制定には、議会での議決が必要であり、また、条例の重要性、議会の役割等の観点から、議会に対して3回の条例の検討経過報告及び意見交換会を実施しております。この点については、市民・議会・行政における今後の役割分担を形成していく上で、非常に重要な取り組みであり、このような取り組みがあったからこそ、条例の可決に向けて障壁無く取り組みが出来たと言える。
② 対馬市市民基本条例の制定
  2011年10月18日に(仮称)対馬市市民基本条例検討委員から「(仮称)対馬市市民基本条例に関する提言書」が提出され、その条例案を基礎として2011年12月定例議会において上程し、可決しております。施行は市民への条例周知や行政機関の条例における条件整備を踏まえ、2012年4月1日からの施行としております。

(2) 対馬市市民基本条例における今後の取り組みと課題
① 対馬市市民基本条例における今後の取り組みと課題
  対馬市市民基本条例は制定することだけが目的じゃなく、この条例の活用が今後重要となってきます。市民により身近な条例とすることや今後市民全体で守り育てる条例として市民への理解、浸透が不可欠であり、市民への条例浸透を積極的に取り組む必要があります。
  また、条例趣旨における各項目の状況把握や検証する機関として、対馬市市民基本条例推進審議会を設置し、条例の検証、見直しを行うようにしており、社会情勢や対馬市における環境に応じて随時、検討を加えながら、より機能していく条例として育てていく必要があります。
② まとめ
  このような自治基本条例は、対馬市の調べによると2011年3月現在で、251の市町村で制定されており、全市町村数の15%弱となっている。今後もこの動きは加速していくのではないかと予想されるが、こういった自治基本条例は自治体の最高規範として制定しているところが多く、国の一部の動きとして、法を超える条例は好ましくないという意見もある。そういったことから国においては「地域主権」という表現から「地域の自主性及び自立性」という表現に改められ、地方分権を推進していながら施策に対しての違和感を感じます。
  よって、これまでの国の一律の施策では地域のまちづくりは限界に来ており、地域においてのまちづくりや市政運営に、市民が積極的に関わり、それぞれの役割分担をもっていくことで独自性のあるまちづくりが進められるのではないかと思います。また、首長の交代によってまちづくりの方向性が変わることを防ぐ意味でも、市政運営の基本ルールとしてこのような自治基本条例は必要ではないかと思います。
  この条例を制定して良かったと思われる時代は、10年、20年先かもしれませんが、各自治体の将来のまちづくりや将来を担う人たちに引き継いでいくためにも自治基本条例は必要であると思うし、対馬市市民基本条例が制定されて良かったと思える日がくると信じています。