【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

 近年、地域ならではの「食」を活用した地域活性化が全国各地で行われているが、別府市においては、2008年度より別府ならではの食を活かした事業として、別府「食」観光推進プロジェクトがスタートした。
 この別府「食」観光推進プロジェクトについての取り組みと今後の課題・展望について考察してみた。



ご当地グルメによる地域活性化について


大分県本部/別府市職員労働組合 牧  宏爾

1. はじめに

 近年、地域ならではの「食」を活用した地域活性化が全国各地で行われている。一般的には「B級グルメ」「ご当地グルメ」と呼ばれているものであるが、全国的なイベントとして、愛Bリーグが主催する「B-1グランプリ」は特に有名である。
 一言で「B級グルメ」と言っても大きく2系統に分けられる。一つは、その地域で長年にわたり提供され、食べられてきたものである。大分県内で代表的なもので「佐伯ごまだし」「中津からあげ」「宇佐からあげ」などが挙げられる。もう一つは、近年、地域活性化を目的として考案されたものだ。これには「九重バーガー」「日田どん鍋」「杵築サンド」などがある。
 そのような中、別府市においては、2008年度より別府ならではの食を活かした事業として、別府「食」観光推進プロジェクトがスタートした。

2. 別府と食

 別府市は、元来農地の割合が低く、特徴的な農産物も少ない。しかしながら観光都市として発展してきたこともあり、美味しい食材は県内各地より集まってきた。関アジ、関サバ、豊後牛、ふぐ、城下カレイ、その他新鮮な食材を使った様々な料理を食べることができる。また、鉄輪温泉地域では、旬の素材を温泉の噴気を利用して蒸しあげる「地獄蒸し料理」なども別府ならではの調理法だ。
 このように生産地ではなく消費地として発展してきたこともあり、全国各地より一流の料理人が集まり互いの腕を磨き、旅館・ホテルでは最高の素材を最高の料理で提供してきた。その流れをくんだ料理人が町へ出て独自の味を追求し、別府市民、観光客に愛される庶民的な料理もたくさん生まれ人々の舌をうならせてきた。まさに観光の発展が別府の食文化にも大きな影響をもたらしていると言える。

3. 別府「食」プロジェクトのきっかけ

 2008年、それは「チャレンジ おおいた国体・大分大会」の開催の年であった。全国から多くの選手がこの大会のために大分県・別府市に集結する。この機会に別府を売り込む方法はないだろうか。選手たちが別府に来て何を求めるかと考えたときに、やはり「食」であろう。それも、選手たちが求めるものは高級食材ではなく、やはり安くて、美味しくて、ボリューム満点のものがよいのではないか。そこから別府「食」プロジェクトはスタートした。

4. 第1弾 別府とり天

 別府「食」プロジェクトとしてまず考えたのが、新たに名物を作り出すのではなく、別府の地に根付いた料理を取り上げていこうということであった。その中で多くの関係者の中で声が上がったのが、「とり天」と「冷麺」であった。
 しかしながら、国体に向けて考えた時、食べやすくてPR性のあるものと考えると「とり天」であった。特にとり天はご存じのとおり大分県の郷土料理であり、全国から集まる選手達には浸透性も高いのではないかということから第1弾として「別府とり天」に取り組むことになった。
 とり天の歴史は、昭和5年頃にさかのぼる。別府の老舗レストランで、1人の料理人が日本人の味覚に合う鳥料理の一つとして開発された料理が最初と言われている。台湾料理をベースに洋食の手法も取り入れ「とり天」の基礎を作り上げた。最初は「炒鶏片(チャーチーペン)」と呼ばれたその料理は、そのうちに日本人に親しみやすい「とり天」と呼ばれるようになり、発祥の老舗レストランから別府市内へ、そして昭和30年代にはお隣の大分市などにも広がり、大分県民の郷土料理として愛されることになる……というのが別府市の主張である。
 発祥問題については物議をかもしているところではあるが、とりあえず発祥が別府のとり天を「別府とり天」としてPRしていくことになった。
 取り組みとしてマップ及びホームページを作成することを目標に据えたが、まず、どの位のお店でとり天を提供しているのか、そしてその味は、ルーツは、ということで、実際に各店舗を食べ歩き、調査していくことからはじめた。その中で、知人やそのつながりなど、協力者がでてきた。その調査する人たちを「とり天Bメン」と名づけ、以後、取材等でも、極秘調査を行うチームとして、とり天Bメンを前面に打ち出していくことになった。
 これらの調査結果をまとめたのが「別府とり天グルメマップ」である。2008年9月、大分国体開催に間に合うことができた。

マップを手にご満悦のとり天Bメン&冷麺団

5. 第2弾 別府冷麺

 別府とり天の取り組みが順調にスタートし、第2弾として別府冷麺に取り組むことになった。実は、別府冷麺については昔からファンが多く、別府ならではの食として認知度の高かったものである。言うまでもなく、とり天は大分の郷土料理としてあまりにも有名であり、大分県民のソウルフード的位置づけが高い。それに対し、別府冷麺については別府以外では食べる機会がほとんどなく、まさに別府の地域性が強い料理である。
 その歴史は、戦後、中国東北部(旧満州)から引き上げてきた料理人が伝えたのが始まりと言われている。中国東北部には朝鮮民族も住んでおり、そこで食べられていた朝鮮冷麺を和風にアレンジしたものが別府冷麺と言われている。特徴としては自家製麺にそば粉が練りこまれており、和風スープに自家製キムチ、というのが一般的である。
 別府では冷麺が市民の中にかなり浸透しており、冷麺専門店のほか焼肉店、ラーメン店、食堂などでも食べることができる。
 とり天の場合と同じように、やはり別府冷麺についても極秘調査が必要だ、ということで調査機関を発足することになった。Gメンをもじって作った「とり天Bメン」に対し、冷麺は探偵をイメージし「別府冷麺団」と名づけた。そしてサングラスにベレー帽、手には虫めがねというキャラクターが作られていった。
 また、男性的イメージの強いとり天Bメンに対し、ツルツルとカロリーの低そうな冷麺から、冷麺団は女性キャラクターを前面に押し出すこととした。
 そして、冷麺団を中心に調査が進められ、2010年3月、冷麺マップが完成した。
 とり天Bメンや冷麺団を前面に出してPRを行っていこうと、マスコットキャラクターをつくり、着ぐるみも製作した。名前も全国から公募し、「さくっと十四郎」「麺田チュルみ」と命名され、各種イベントに登場している。


別府冷麺団 
麺田チュルみ
別府とり天Bメン 
さくっと十四郎

6. 食べ歩き企画

 さて、マップの作成により、多くの市民、観光客が別府の中をマップ片手にお店に入っていく姿を目にするようになった。しかしながら、次の展開として、確実にお店に誘引する方法として食べ歩きの企画づくりを行うことになった。特に温泉道にも見られるように達成感を味わうマニア向けの企画が必要である。そこで、5×5マスの表にとり天、冷麺の店舗計25軒を掲載し、ビンゴ形式で回る「ビンゴラリー」を実施した。
 成果として、2010年3月末からスタートし、11月末の終了までに、25店舗達成者は延べ55人であった。また、約2万枚のビンゴカードを配布していること、さらに、参加店舗では1日当たり10数人から多い店舗では50人ものお客様が来られたということであるので、経済効果も非常に高かったと思われる。
 本年度は、「とり天」「冷麺」に加え、新たに女性客もターゲットにしていこうと、別府のスイーツ、その中でも「プリン」に注目し、これに「温泉」も加えた施設、35店舗を食べ歩く「別府食の達人スタンプラリー」が7月1日よりスタートした。


スタンプラリー記者発表

7. コンビニエンスストアとのタイアップ

 これまでの取り組みの中で、「別府とり天」「別府冷麺」は様々な媒体を通じて紹介されることなり、注目も高まってきた。そのような中、次の展開として2010年3月、大手コンビニエンスストア、ローソンの呼びかけによりタイアップ商品「別府冷麺」の開発が始まった。中心的なメンバー約8人が6回にわたり試食を繰り返し、麺の太さ、固さ、トッピングなど試行錯誤を重ねて完成させた。その名も「別府冷麺団監修 別府冷麺」とし、パッケージにはキャラクターも登場した。7月27日から8月末までの約1ヶ月という短期間ではあるが、九州内のローソン923店舗にて発売し、目標5万食に対し7万食を売り上げる大ヒット商品となった。そのため、2011年度にも更に改良を重ねグレードアップして、今回は6月28日から8月末予定の長期間にわたって発売されている。
 また、別府とり天についてもセブンイレブンとの共同開発を行うこととなり、これも5回にわたり、肉の部位、下味、衣のはがれ具合など研究を重ね、2011年2月9日(肉の日)より発売開始となった。ただし、とり天Bメンのキャラクターは付いているものの、商品名は「大分名物とり天」とした。これは、やはりとり天が県民食としてのイメージが強いので、それを前面に打ち出したほうが良いだろうとの判断からである。こちらは大分県内のセブンイレブン80店舗で5月末まで販売し、2万食を販売した。


別府冷麺団監修「別府冷麺」発売

8. ご当地グルメと地域活性化

 ご当地グルメの掘り起こしにより観光推進を、ということで取り組んでいるが、これまでの活動を通じてご当地グルメには次の3点について意義が見出せる。

(1) 各店舗の集客増による活性化
 一つ目として、店舗のマップ掲載、食べ歩き企画、マスコミ取材等により各店舗への来客者が伸びることが各店舗の売り上げ増につながっている。マップ等で取り上げている店舗はいわゆる観光客向けのお店ではなく、長年に渡って別府市民の胃袋を満たしてきた地域住民向けの店舗が中心である。まずは地域の人々がリピートすることで地域経済の活性化へ直結する。

(2) 観光客の誘引による活性化
 二つ目として、それらの店舗の情報を観光客が知ることになり、観光客が普段行かないような店舗や地域を訪れる機会がつくられる。地域に根付いた店舗だからこそ、地域と観光客との交流も生まれる。また、観光客は「食」が目的として別府へ来られるにしても、交通機関、観光施設、温泉、宿泊など観光に関わる地域経済の活性化が図られる。

(3) 別府の情報発信による活性化
 三つ目として、別府とり天、別府冷麺が県外、全国へと情報発信されることは、「別府」の名前が全国へ伝わることである。老舗の温泉地ということで年配者や家族連れの観光客が多い別府において、旅行における重要なコンテンツである「グルメ」が加わることで、若者層にまで情報が伝わることになる。新たな別府のブランドイメージの創造は別府観光の底上げ、そして新たな来訪者獲得に結び付くものと考えている。

9. 課題と展望

 別府市「食」観光推進プロジェクトは、地域の食文化を掘り起こして観光振興に結び付けようという発想から始まったため、とり天Bメンや冷麺団といった形で市民との協働のスタイルは作っているものの、行政主導の取り組みとなっている。
 最終的には民間主導の取り組みへ移行していくことが望ましいという思いはあるが、実際にご当地グルメ実施団体がどのような運営形態をとっているのか調べるために、本年度、全国のご当地グルメ実施団体にアンケート調査を行った。そこでは運営面について大きく2系統に分かれることがわかった。一つは、別府市と同じく行政や観光協会、商工会議所などが中心となり取り組んでいるもの。この場合、ある程度の運営経費が母体組織から捻出されている。もう一方は事業者及び民間団体・企業が中心となり取り組んでいる事例、例えば富士宮やきそば、宇和島じゃこ天、浜松餃子などがそれである。
 別府市の場合、個別に協力をしていただいている事業者はいるものの、それらの事業者が結束して一つの組合的組織を作れるような状況ではない。どちらかといえば、現在、とり天Bメン、冷麺団などとして協力していただいている市民団体が中心となる組織を固め、それらに対して事業者にご協力いただく、という形が現実的である。
 そのような状況から、現在、民間組織「B(べっぷ)級グルメ研究所」立ち上げの準備を行っており、今後、イベント出店や食イベントの企画などを手がけ、これからの別府の「食」観光推進の中心的役割を担えるようにしていきたい。
 また、情報発信の面では、大手コンビニエンスストアとのタイアップ企画や各種旅行雑誌や情報番組等の取材を受ける中で、九州内では一定の認知度は得られているようであるが、全国的にはまだまだ知られていないのが現状である。引き続き様々なメディアを通じて情報発信を行い、別府「食」観光プロジェクトの目的である、「別府に訪れて」いただけるように取り組んでいきたいと考えている。