【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

 地方におけるまちづくりでは、住民を主体とした活動の果たす役割は非常に大きいと考えられ、行政は住民を巻き込んだまちづくりの本質を理解し、有効に活用していく必要がある。そこで住民参加によってつくられた湧水めだか公園を対象に、住民参加が及ぼした影響をワークショップ参加者へのアンケート調査及び公園利用者へのヒアリング調査から明らかにし、行政に求められるまちづくりへの取り組みについて考察する。



行政が行う住民と協働によるまちづくり
―大分県津久見市湧水めだか公園を事例として―

大分県本部/津久見市職員労働組合 上薗 怜史

1. はじめに

 近年、住民参加はまちづくり手法としてあらゆる場面で一般的に用いられ、実践的な事例報告も数多く挙げられている。しかし、住民に対して一方的に説明を行うだけの、所謂形骸化した住民参加も見受けられる。地方財政の厳しい状況が続く中、今後の地方におけるまちづくりでは、住民を主体とした活動の果たす役割は非常に大きい。行政は住民を巻き込んだまちづくりの本質を理解し、有効に活用していく必要がある。
 そこで、めだか保護に対する地域住民の継続した活動と公園整備過程において参加のワークショップ(以降:WS)が行われた大分県津久見市の湧水めだか公園を対象として、住民参加が及ぼした影響を示し、行政に求められるまちづくりへの取り組みについて考察する。

2. 湧水めだか公園整備の概要

(1) 公園整備計画の概要
 大分県津久見市千怒地区では1995年度から「第二千怒土地区画整理事業」が行われ、住宅地としての整備が進められてきた。この計画に伴い、めだかが棲む田んぼの用水路(通称めだか川)は道路として埋め立てられた。当時、この計画を知った千怒小学校の児童らが、市長に対して「めだかの生息場所を確保して欲しい」と要望を出したことから、まちづくり交付金を活用して同事業で既に計画されていた公園にめだかの生息環境を創出することが約束された(写真-1)

(2) 千怒小学校によるめだか保護活動
 千怒小学校では「総合的な学習」の中で、めだかに関する学習を継続して行ってきた。1999年度には4~6年生と地域住民、市役所が協働して、めだか川に棲むめだかを救出し、当時の区長が提供したみかん畑の水路と学校の水槽へ移動作業を行っている(写真-2)。区画整理事業が進み、2001年度にはめだか川は埋め立てられ、めだか川の面影は完全になくなってしまった。2002年度には保護者協力のもと、小学校の中庭にめだか池を設置した(写真-3)。2004年度には小学校で育ててきためだかを地区内のグループホーム「千怒の杜」の池に放流し、翌2005年度には再び保護者の協力を得ながら児童自らが進んで作業を行い、小学校の児童玄関側にめだか池を増設した(写真-4)(写真-5)。2007年度にはめだかの生態について学習し、2008年度に「千怒の杜」で繁殖しためだかを地区内の他の場所へ移動するなどめだかの保護活動を10年間継続して行ってきた(写真-6)。そして2009年度には公園づくりのWSに当時の5、6年生が参加し、公園デザインのアイディア出しを行った。2010年度に行われた竣工式では、児童らが保護してきためだかを放流し公園が完成した。


 

写真-1 区画整理の説明を受ける

 

写真-2 めだかの救出

 

写真-3 めだか池の建設

 

写真-4 めだかの繁殖

 

写真-5 めだか池の増設

 

写真-6 めだかの学習


3. デザインプロセス

(1) 参加による設計プロセス
 本公園整備にあたり、設計・施工と並行して全6回のWSが行われた。WS参加者は、第1回WSはめだかの育成を目的として結成された千怒めだかの会(大人のみ)、第2回WS以降は千怒小学校5、6年生(52人)及び千怒めだかの会である。また、WSの進行は福岡大学景観まちづくり研究室が務め、児童らの意見抽出を行っている。
 第1回WS(公園周辺エリアの現状と履歴を確認しよう)では、専門家による公園デザインの留意点についてのレクチャーと、対象地周辺における現状と問題点や土地の経緯について把握することを目的とした。公園周辺でウォーキングをする人が多いことや交通事故が多い個所、周辺の生態系などを把握した(写真-7)。第2回WS(公園をつくるのに必要なことを知ろう)では、児童らにも第1回WSと同様に専門家によるレクチャーを行った。さらに児童らの活動場所や活動内容を把握したうえで、公園内におけるデザイン案について考えた(写真-8)。児童からは対象地より少し離れた遊具のある公園で遊ぶなどの傾向が挙げられ、公園整備に対する意見としては、「ゆっくりくつろぎたい」、「お弁当を食べたい」など静的な活動を目的とする意見が挙げられた。第3回WS(現場を見て公園にとって大切なことを確認しよう)では、実際に対象地を訪れ公園のスケールと周囲の景色などを確認し、前回案の見直しを行った(写真-9)。対象地で感じた《良い点・問題点》を共有し、「周辺への眺望がよい」「敷地内にある電柱が邪魔」などの意見が挙げられた。第4回WS(模型を使って最終設計案を確認しよう)では、前回までに挙げられたデザイン要素をもとに作製された公園模型を用いて、専門家が設計案のポイントに関する説明を行った(写真-10)。公園の設計案を見て感じた《気に入った点・気になる点》について話し合い、「親も足を水につけられてよい」という意見や「時計と水道が欲しい」などの要望が出された。
 第5回WS(実際の工事に参加しよう)では、千怒小学校の全校生徒と千怒めだかの会が土木業者から指導を受けながら芝張り作業を行った(写真-11)。自ら公園づくりに関わることで児童らの公園に対する愛着心向上を狙っている。第6回WS(公園の完成をみんなで祝おう)では、今までめだか保護活動に関わってきた全ての人々が参加して、公園完成を祝った(写真-12)。長年保護してきためだかを5、6年生が公園の水路に放流し、今後の公園の維持管理など、地域一体となって公園を守っていくことを約束して、式典の幕を閉じた。


写真-7 第1回WS

写真-8 第2回WS

写真-9 第3回WS

写真-10 第4回WS

写真-11 第5回WS

写真-12 第6回WS


(2) 湧水めだか公園のデザイン的特徴
 デザイン案では、近隣より湧き出る天然水が園内に設けた丘に引き込まれ、公園内をゆっくりと流れる曲線的なめだか水路が創出された(写真-13)。丘の一部には湧水に親しむことのできる水遊び場が設置され、幼い子どもでも安心して遊べる空間が提供されている(写真-14)。また、公園を囲う柵は設置されておらず公園へのアクセスが容易となっている。さらに本公園のデザインに際しては、近隣の「街のなかにわ公園」「緑のふれあい公園」がもつそれぞれの空間的特徴を踏まえたうえで、各公園の利用形態が重ならないように検討されている。


写真-13 めだか水路

写真-14 水が引き込まれた丘と水遊び場


4. 地域住民の公園に対する意識調査

 地域住民が湧水めだか公園に対してどのような意識を持っているか把握するため、2010年10月にアンケート調査及びヒアリング調査を行なった。

(1) WS参加児童に対するアンケート調査
 第2回WSから第5回WSまで参加した千怒小学校6年生と、第5回WSの芝張り作業に参加した2年生から5年生までの児童を対象にアンケート調査を行った(表-1)
 長年のめだか保護活動について学び、公園のデザイン案を検討してきた6年生からは「公園がずっと受け継がれて欲しい」、「めだかを守っていきたい」など公園やめだかを大切にしていきたいという思いが窺える。「めだか公園にだけ水がある」などの意見からは、児童らが各公園の特徴の違いを理解していることがわかる。さらに自分たちの公園だという意識が「自分たちでつくった公園なので愛着がわく」、「皆楽しそうに遊んでくれて嬉しい」などの意見から見受けられる。「大学生と一緒につくったので大切にしたい」、「模型があってわかりやすかった」、「芝生を張った場所を覚えている」という意見からは大学生が関わったことや模型を提示したこと、芝張り作業を実際に手伝ったことが児童らに強い印象を与えたと推察される。


 表-1 WS参加児童の公園に対する意識
公園に対する「考え」「想い」
公園ができて「気づいたこと」「変わったこと」
公園づくりに対する感想
公園がずっと受け継がれてほしい/水を汚さないでほしい/水を汚さないようにしようと思った/ごみを捨てないでほしい/きれいに使ってほしい/めだかがいっぱいいてほしい/めだかを守っていきたい/めだかを大切にしてほしい/水が冷たくて好き/生物がたくさんいる/芝生が気持ちいい/遊ぶ場所が増えたので嬉しい/遊具が欲しい/人がいると嬉しい/多くの人に来てほしい/人がいないと寂しい めだかの赤ちゃんが増えた/いろんな生物がいる/柵がなく景色が見やすい/柵がないのでサッカーができない/めだか公園にだけ水がある/ほかの公園と違い水遊び場がある/水遊び場を月に1回洗うといい/近くにみかん畑や神社がある/みんなめだかを見に来てくれる/学校の金魚やめだかに餌をやるようになった/ごみ拾いをするようになった/遊んでいる人がいるか気になるようになった 芝張りができてよかった/模型があってわかりやすかった/コツコツ作り上げていったので楽しかった/自分たちで考えることができた/自分たちの意見や願いで公園ができていくのはとても貴重な体験/大学生と一緒につくったので大切にしたい/自分たちでつくった公園で愛着がわく/皆楽しそうに遊んでくれて嬉しい/楽しかった/手伝えてよかった/芝生を張った場所を覚えている


(2) 公園利用者に対するヒアリング調査
 年齢や性別に関係なく、来園者を対象にヒアリング調査(全47人)を行った(表-2)
 「WSに関わり、ごみ拾いや芝生の状態確認をしている」という意見から、WSへの参加が公園の良好な環境を保とうとする意識の芽生えに寄与したことが窺える。利用目的として「つくみん公園は広くて大人が疲れる」、公園のいいところとしては「水深が浅く子どもを遊ばせても安心」など幼い子を持つ親が他公園との機能の比較から湧水めだか公園を選択していることがわかる。さらに「公民館やお地蔵様の近くでいい」、「みかん畑が見える」や「環境や生物を大切に感じる」との意見からは、公園ができたことによる周辺地域や環境・生物に対する意識の向上が伺える。「ボール遊びをする子が少ない」、「ボール遊びはできない」などの意見からは柵がないというデザインがボール遊びは危険であると認識させ、公園内での活動を抑制していることが示唆される。


 表-2
公園の利用目的・理由
公園のいいところ
公園完成により新たに気づいたこと
めだかの観察/水遊び/散歩/芝生の丘で遊ぶ/芝生で遊ぶことは他の公園でもできるが、めだかがいるから利用する/気軽に水遊びができる/つくみん公園は広くて大人が疲れるが、湧水めだか公園は丁度良い広さ/WSに関わり、見回りやごみ拾い、芝生の状態確認をしている/犬の散歩/子どもを遊ばせる/生物と触れ合う めだかがいる/めだかの観察ができる/水遊び場で遊べる/水遊び場の水がキラキラしてきれい/水深が浅く子どもを遊ばせても安心/遊具がない/柵がない/裸足で遊べる/景色がいい/生物と触れ合える/自然で安全/遠くから人が来る/子どもの声がする/公民館やお地蔵様の近くでいい/みかん畑が見える めだかの棲む場所をなくさないほうがよい/環境や生物を大切に感じる/山々に囲まれていることを再認識した/公園ができて散歩ルートを変えた/ボールで遊ぶ子は少ない/子どもは水が好きなのかなという印象/ボール遊びはできない/子どもが走り回ると危ない/清掃を地区住民で関わりたい/子連れの親同士知り合うことができる


5. 千怒小学校による継続的な活動

 湧水めだか公園完成後も、千怒小学校では毎年5年生がめだかの学習を継続して行っている。2010年度は児童らが湧水めだか公園を訪れ、公園整備の経緯について区長から説明を受けた。説明を受けて湧水めだか公園で遊ぶ際の注意事項をイラストにし、各学年の教室で注意を呼びかけた(写真-15)。2011年度にはWS時の校長や担任が異動となり継続的な活動が懸念されていたが、市役所及び区長らにより昨年同様、経緯説明が行われ、年間を通した総合的な学習の中でめだかの学習を行っていく予定である(写真-16)。経緯説明を受けた児童らは、先輩達によるめだか保護活動やWSについて知ることで、「公園を大切にしたい」、「めだかを守りたい」と感想を口にしている。


写真-15 公園で遊ぶ際の注意事項
写真-16 公園整備の説明(2011.6)


6. 住民参加による影響と効果

 湧水めだか公園整備における住民参加では、「公園やめだかを守っていきたい」、「公園のことが気になる」という意見や、「ごみ拾いや芝生の様子を見に来ている」という行動から自身が関わってつくられた空間に対して、愛着を抱き、空間の質を保とうとする意識が窺える。また、千怒小学校児童らがめだかを守ってきた経緯を踏まえ、児童らをWSの中心に据えてプログラムを組んだことや普段関わることの少ない大学教授や学生を取り込んだことでWSに対する印象をより強く植えつけることができた。さらに芝張り作業を経験したことが「自分たちの公園だ」という意識を高めたといえ、今回のWS過程が公園を守ろうとする意識や行動、周辺地域への意識向上に影響を及ぼしていることが示された。
 行政はこのような住民参加による影響を見越したプログラムを作成し、その地域に適したまちづくりを模索していかなければならない。その際、そこに住む人々がその地域に対してなにができるかと考え、実行できる体制づくりやその地域での成果が他地域へ波及するような戦略を用意しておくことが重要である。つまり、ひとつのまちづくりがどのような影響力を持つのかを見抜き、イメージできる力が求められると考える。