大分県自治研センター地域活性化専門部会では、自治体の持続的な発展のために欠かせない「地域活性化」をテーマに、地域活性化のために自治体や自治体職員がどのように関わっていけばよいのか、また、そのために必要な政策とは何かを探り、自治体へ対する政策提言を行うために、調査・研修、意見交換等を行っている。
「地域活性化」という言葉は、農村振興、地域コミュニティ活動、イベント等、幅広い分野で捉えられるが、ポイントを絞るために、本部会では「人・金・物が集まること」と位置付けている。
これまでの活動として、実際の現場を知ることが必要であることから、地域活性化における先進的な取り組み事例や、流通、生産・販売等の各分野で、民間の立場で地域活性化に取り組まれている方々の話を伺い、検討を行ってきた。
それを踏まえ、自治体や自治体職員は地域活性化に対しどのような役割を果たすべきか検討するに当たり、自治体職員及び地域団双方に対する意識調査を行った。
1. 調査対象及び回答数
■大分県内の自治体職員(商工・観光・農政・企画担当部署):229人
■大分県内の地域団体(NPO、観光協会等、地域活性化に関わる団体):47団体
<調査期間> 2012年4月1日~4月27日
<調査項目及び結果> 別 紙
2. 設問に対する考察
今回の調査では、自治体職員と地域団体、双方に対して同様の質問を行っており、各設問について考察を行った。※自…自治体職員向けアンケート、団…地域団体向けアンケート
(自団1) 地域活性化を主体的に行うのはどこだと思いますか(1つ選んでください)
1 自治体 2 市民団体(NPO) 3 業界団体(商工会・観光協会等)
4 企業 5 その他( )
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自治体職員向けアンケートでは、「自治体」、「市民団体(NPO)」という答えが共に4割近くを占め、「業界団体(商工会、観光協会等)」が1.5割となった。一方、団体向けアンケートでは、「自治体」、「市民団体」、「業界団体」が共に3割弱と回答が割れている。
各アンケート結果をみると、割合に差はあるものの、同じような結果(回答が割れる)であったことから、地域活性化を主体的に行う対象は明確になっていないことが見てとれる。また、「その他」と回答した中には、「住民」あるいは「地域」が主体となるべき、「全てが主体」、「共同して行うべき」という意見も多かったことから、どこが主体的に地域活性化を担うとしても住民や他団体と共同して行うべきという意識が強いことがうかがえる。
(自団2)自治体職員は地域活性化に仕事の枠を超えて積極的に取り組むべきだと思いますか。
1 取り組むべき 2 取り組む必要はない 3 その他( )
→(自3)「取り組むべき」と答えた方(具体的に)
→(自4、団3)「取り組む必要はない」と答えた方(その理由は)
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回答数236人中「取り組むべき」と答えた職員は全体の64パーセントと全体の約3分の2を占めた一方、「取り組む必要はない」と答えた職員は全体の16パーセントと、取り組むべきと答えた職員の4分の1にとどまった。取り組んでいる例には自治会やスポーツ指導、祭りや清掃活動など、技能提供などやマンパワーとして参加している例が目立つ。
一方、団体の回答のほとんどは「取り組むべき」との回答を寄せており、「地域一丸となって対処すべき」や「当たり前」という意見から、自治体職員はそもそも地域活動に取り組むべきという見方でほぼ一致している。
また、「取り組む必要はない」と回答した職員の中には「仕事の範囲で積極的に取り組むべき」「援助が望ましい」などが寄せられた。「その他」の回答率も20パーセントと多く「強制ならやらないほうがよい」や「枠を設ける考え方自体がおかしい」などの意見も寄せられた。協力すべきという考え方では大勢を占めるものの、「行政におんぶにだっこ」は自主性を損ねるという論調も底流にあると感じられる。
特筆すべきは豊後高田市職員の95パーセント(20人中19人)は「取り組むべき」という回答である。「その他」と答えた1人も活動の内容によるとしている。個別回答には「小さい自治体であり自治体職員が地域の中でブレーンとなるべき」や「地域の重要なコミュニケーションの場」ともあり、士気の高さをうかがわせる。
(自5、団4)あなたの所属する自治体は地域のNPOや業界団体(商工会・観光協会等)と良好な関係を
築いていると思いますか。
1 はい 2 いいえ
→(自6、団5)その理由は
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アンケ-トの結果から、ほとんどの自治体で良好な関係が築けているといえる。この良好な関係の背景には、そもそも地域活性化は、「自治体VS市民・地域・民間団体」ではなく、あらゆる市民・地域・民間団体が担うものであり、自治体・自治体職員も業務(仕事)として特に意識しているかいないかにかかわらず、日ごろか業務の中で地域活性化に携わり貢献していることを市民も自治体職員も当然のこととして理解しているからにほかならない。その上で、「連携がうまくとれていない」というお互いの批判は、十分な対話と現場主義に徹した信頼関係の構築以外に解決されることはないし、見方を変えればお互いのより良い取り組みへの前向きな意思表示の表れとも理解される。
また、自治体職員の「良く分からない」とした回答は、業務に対する経験年数に裏打ちされた知識の差によるものと解されるが、実はこの問題は地域活性化を論議する場合、古くて新しい問題であり避けては通れない課題でもある。つまりは、自治体内における資格等を有する「専門職員」としての立場と、「一般事務職員」としての立場に由来している。一般事務職員の場合、数年後には新たな職場へと移動になる。この措置は、グロ-バルな視野に立った行政マンの育成には重要な意味がある一方、専門的に長く経験や知識を積み重ね業務に携わる道を阻害する(本人の希望とは別の業務につかなければならない)。
いうまでもなく専門職員の欠点は一般職員のそれとは逆になる。観光や産業収入を目的とした地域活性化を担う担当部局は、多くの場合、一般事務職員での配置で業務が運営されている。地域団体の回答に「必ず行政側に熱意ある人がいる」とあるのだが、時々耳にする「この熱意のある人が異動でいなくなった」=【行政サ-ビスの持続性の欠如】という市民の声は、自治体と民間団体との良好な関係を構築する場合のキ-ワ-ドとして重要である。一般論として、事業を主体的に担える民間組織を育成し早く委譲するなどの対策もあるが、別の方策として職場は変わっても「自治研活動」の専門部会等を通じて専門性ややりがいを維持し、知識を向上させ、自治体職員(兼)市民として地域活性化に貢献することも重要である。市民との「協働」は、右の課題の克服の中でおのずと達成されていくものと考える。
(自7)地域のNPOや業界団体(商工会・観光協会等)に地域活性化に関して望むことは何ですか。
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最も多く挙げられた回答が、「自主性・積極性」である。自治体職員は、地域の団体自ら発案し、実践するような姿勢を求めており、行政はあくまでバックアップする形が望ましいと考えている。
続いて、「団体とその団体がある地域住民との連携」や「団体同士の連携」、「官民の連携」が挙げられており、単独の動きではなく、地域を巻き込んだ共同的な活動を望んでいる。
また、「継続性・計画性」や「リーダーの育成」、「自分たちの活動の積極的なアピール」が続いて挙がっている。
(団6)自治体(行政)に地域活性化に関して望むことはなんですか。(具体的に)
(例)資金、制度、規制緩和、人的サポート、アドバイス など
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地域のNPOや業界団体(商工会・観光協会等)が自治体(行政)に地域活性化に望むこととして最も多く挙げられたのが、「補助金・資金」である。団体が、地域活性化に取り組むにあたって、まず課題となるのが資金面との意見である。
また、資金援助以外で行政に望むことは、「コンサルタント的・コーディネーター的アドバイス」や「人的サポート」、「情報提供・共有」等である。自治体の指導のもと、地域活性化に取り組みたいとする姿勢がうかがえる。
さらには、「前例にとらわれない柔軟な対応」を望む声も複数挙がっており、時代の変化やニーズを敏感に感じ取り、それに対応できるような柔軟性が求められている。
(自8)あなたが地域活性化に取り組むために、自治体に望む制度・政策はなんですか。
(例)休暇制度、研修制度、研修費補助 など
仕事上で望むこと( )、個人として望むこと( )
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本質問について、“仕事上で望むこと”と“個人として望むこと”のそれぞれで回答を求めた。双方で最も多かった回答は研修に関係することで、具体的な研修内容について記載されているものは少なかったものの、他自治体の視察研修や職員意識の向上に繋がる研修を希望する回答が見られた。他の自治体における取り組みを学び、自分が所属する自治体でその知識を生かしたいということだろう。同様に、職員の意識向上に繋がる研修を行うことで、職場から地域活性化を図りたいという思いもあるのかもしれない。また、補助制度を求める回答も多くみられた。地域活性化に取り組むための研修の機会を提供するだけではなく、自ら進んで学習をする場合の金銭的助成も必要と考えているようだった。
研修以外では、休暇という回答が多く見られた。詳細を記載しているものは少なかったが、各種行事に参加できるような休暇制度を望んでいるようであった。地区役員やPTA役員などの役職を担っている人にとっては、休暇制度の確立が切実な願いなのかもしれない。ただ、「いろんな行事に参加できるよう、仕事の事務量を減らしてほしい。休暇が取れなければ、思うように参加できない。」という意見もあり、こういった休暇制度を確立するとともに職員の事務量軽減を図る必要があるのかもしれない。
3. まとめ
今回のアンケートは、自治体職員については企画・観光経済部署の職員を対象に行った。それは、業務として地域活性化に直接的に関係していることで、他の部署の職員に比べて地域活性化への意識が高いと考えられること、また、地域団体に対する率直な意見も引き出せると考えたからである。
そのことを踏まえてアンケート結果を分析すると、職員の現実的な意見を垣間見ることができる。自治体職員の地域活性化への関わりについて、多くの職員がその必要性を認めているものの、それはあくまで地域住民の一人として、という意味合いが強いように感じられる。一方、地域団体は、地域の実情を知り施策に活かして欲しい、仕事の枠を超えて連携することで信頼感が生まれるなど、より積極的な関わりを望んでいる。
この意識の差は、後の設問の「地域団体(自治体)に望むこと」に繋がっていると考えられる。
自治体職員が地域団体に望むことの多くは「自主性・積極性」「計画性」といったものであり、裏返せば地域団体にそのような意識が欠けていると感じているということである。また、地域団体が行政に望むもので多いのは「資金」「人的サポート」等であり、行政へ直接的な支援も求めていることがわかる。そのような面から自治体職員の中に行政依存度が高いと考えている人も多いのではないだろうか。
一方で、多くの自治体職員が地域の消防団、自治会活動、スポーツ指導など、地域コミュニティの面では非常に多くの関わりを持っていることも分かった。また、地域団体も単に「自治体職員だから当然」ということでなく、良好な関係をつくることで地域活性化を図りたいという思いも伝わってくる。
「地域活性化」というのはそこに住んでいる人たち共通の思いであり、イコール自治体にとっても一つの目標であることは間違いない。自治体と地域団体、それぞれに得意分野、不得意分野があり、相互に補いながら共通の目標に向かっていくこと、それが「協働」である。そのための制度的な、そして意識高揚のための取り組みが求められているのではないだろうか。
自治体職員へのアンケートの中でも「研修制度」を求める声が最も多かったが、多様化する地域団体や住民のニーズ、国や自治体の各種地域活性化施策・制度の変革に伴い、それらに対応できる人材の育成、そして地域団体と自治体の協働・連携の在り方や手法等について研修を行っていく必要性が感じられる。
本アンケートをより深く分析し、自治体職員が地域活性化に果たすための役割について、そしてそのために必要な施策について検討を行い、各自治体の活性化へつなげていきたい。
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