【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

 過疎化・高齢化の進む日之影町の交通弱者の移動手段として、2008年度より町内の集落を網羅するコミュニティバス「すまいるバス」の現状と課題について



地域交通の現状と課題


宮崎県本部/日之影町役場職員労働組合 春田 直人

1. 日之影町の現状

 日之影町は宮崎県の最北部に位置し、東は延岡市、西は高千穂町、南は美郷町、北は九州山地を越えて大分県と接しており、東西約9km、南北約30km、総面積277.68km2と広大な町域を有し、地形は急峻で総面積の91.6%は森林である。
 町の中心部を1級河川五ヶ瀬川が西から東へ貫流しており、その支流である大小の渓流が周囲の深山から流れ込み、深いV字渓谷を形成している。峻険な山岳と大小の河川が生み出した景観は大自然の美を織りなし、森林セラピーなどの癒やしの空間となっている。
 しかし、こうした地形条件であるため、平野部と比べて、住民生活の基盤である道路などの整備は遅れている。ちなみに生活道路として役割の高い町道の改良率は約29%であり、過疎化・高齢化の原因の一つとなっている。
 日之影町の集落数は113集落が点在しており、総戸数1,621戸、総人口4,463人、65歳以上が41%を占め、15歳未満は約11%にとどまっている。(2010年国勢調査)
 2005年国勢調査と比較してみると、戸数は約5%減、人口は約11%減、65歳以上が占める割合は約3%増となっている。ここ5年間で過疎化・高齢化がさらに進行していることがうかがえる。
 役場や町立病院を始め、郵便局や農協、生活用品を購入する店なども町の中心部や国道沿いに集中しており、町民は生活していく上で1週間に1度以上は町の中心部まで出かける必要がある。町中心部から集落まで、10km以上離れている集落も多く、一番遠い集落で約28km離れている。
 このような現状であるため、日之影町での生活には車が欠かせず、農業を行うにも、仕事に出勤するにも、買い物に行くにも、車が必要となっている状況である。
 車の免許を持っていない人や高齢で車の運転ができない人などはどうすればいいのか。
 町内には現在、タクシー会社が2社あるが、買い物をするためにタクシーを利用すると買い物以上のタクシー代が掛かる。
 公共交通機関が整っている都市部と比べると、その差は大変大きい。

2. 地域コミュニティバス導入の経緯

 日之影町のバス路線は、現在運行している延岡~高千穂間のほかに見立線が運行されていたが、乗車人員の減少等により1997年度に廃止。これに替わる代替えバスが1998年4月からタクシー会社への委託により開始し、これに加え、1997年10月から交通機関のない地域から病院へ患者を運ぶへき地患者輸送車を、2003年4月から町立病院移転に伴う町立病院路線バスを生活バスとして運行し、町民の交通手段の確保に努めてきた。
 2006年に道路運送法第78条の例外規定で地域コミュニティバスの運行が可能となり、また、県からもコミュニティバスの導入に対し支援が行われることから、日之影町でも高齢化などによるバス需要の拡大に対応すべく地域コミュニティバスを導入した。
 バスの愛称は「すまいるバス」で長寿と安全走行を願ってカメのマスコットもつくった。

3. 「すまいるバス」の運行状況

 現在すまいるバスは、10人乗りバスを1台、15人乗りバスを3台、計4台のバスを使用し、町中心部循環線は平日毎日運行、その他の各集落線は週に1回から3回(一部、2週に1回)の頻度で1日に3往復の運行をしており、乗車料金は片道一律300円なっている。また、1日往復600円払えば、何度でもバスを利用することができ、中学生以下の子どもは無料となっている。
 町民の方の利便性を向上させるために、運行路線上であればフリー乗降(但し、国道沿いを除く)とし、少戸数の集落についても、デマンド方式(予約制)をとることにより、各集落内を細やかに運行できるようにしている。
 2005年災により、TR高千穂鉄道が廃線となったことにより、高千穂町や延岡市などの商業地への交通手段は自家用車もしくは宮崎交通の路線バスしかない状況であるため、すまいるバスも運行時間を拡大するなどして、宮交バスへのアクセス向上を図っている。

 利用実績
   2008年度 11,452人
   2009年度 16,057人
   2010年度 12,627人
   2011年度 12,604人

4. 「すまいるバス」運行の財政状況

 すまいるバスは町内にある2社のタクシー会社に運行を委託しており、その委託費は年間約10,000千円程度であり、その他燃料費や維持修繕費、保険料などを加算すると年間約13,000千円程度の支出となる。
 それに対し、収入(乗車賃)は年間約3,600千円程度であり、年間9,400千円の赤字ということになる。
 利用者のニーズや利用者の年齢層(大半が高齢者)を考慮すると、乗車賃の値上げは難しいものと思われる。

5. 課題と今後の取り組み

 財政的には赤字であるが、コミュニティバス導入の経緯は車を持たない方や車を運転できない方、高齢者の方々の生活の足を確保することが目的であるため、一言に「赤字だ」と切り捨てることはできない。
 路線バスやコミュニティバスが無いことから、
 「高齢者の方々が家に閉じこもるようなことがあってはならない 」
 「生活が不便だからという理由で住民がさらに減少するようなことになってはいけない」
などの思いから、導入したすまいるバスは財政面だけでは計れない効果をもたらしている。
 現在、コミュニティバスは県内でも多くの市町村で運行されている。
 コミュニティバスのメリットは、運行経路や時間帯など自治体で決定し運行できることから、利用者の要望等に対して細やかな変更ができ、利用者の利便性を高めることができる。逆にデメリットは隣接自治体との連絡・連携が希薄になることや、いままで「くらしの足」として支えてきたバス事業者への影響だ。
 バスネットワークは生活交通路線、一般バス路線、コミュニティバス路線の3点セットで成り立っているが、低コストで単一市町村内の路線・系統に限られているコミュニティバスの運行により、代替えバスや生活路線バスの廃止が進み、隣接自治体との連絡・連携が寸断され、バスネットワークの一角が崩れていく。
 いままで法律を遵守し、安全コストと一定の賃金水準を維持してきたバス事業者は路線の見直し、運転士の削減などを余儀なくされ、さらに廃止路線が増え、バスネットワークを崩していく悪循環に陥ってしまう。
 しかし、日之影町の場合、生活の足として町内を走る生活バス路線はすでに無く、コミュニティバスが唯一の生活路線となっていることや隣接する高千穂町や延岡市への一般バス路線は高校生の通学路線、一般者の生活路線として重要な路線となっていることから、コミュニティバス路線と一般バス路線のアクセスを強化し、ともに維持・存続させていくことが重要なことである。
 日之影町では宮崎交通定期路線バス運行経費補助金として年間約8,000千円の助成を行っている。
 今後もコミュニティバスと宮崎交通路線との関係を密着にし、町民の利便性を高め、バスネットワークを維持していくことが必要だ。
 これまで、コミュニティバスについて述べてきたが、過疎化・高齢化がさらに進行していくなか、交通弱者の立場にたった「生活の足」の確保に努めていかなければならない。特に日之影町のような山間部においてはコミュニティバスも一般バス路線も赤字である。財政面だけで縮小や廃止をしないよう、当局に働きかけていなかければならない。
 また、鉄道などの交通アクセスのない地方部にとって、コミュニティバスや一般バス路線は地域住民の足守る公共財(社会資本)として機能し定着している。
 日之影町と同じような自治体は全国に数多くあると思うが、これらの問題は地方だけで解決できる問題ではなく、国全体で取り組むべき問題である。
 そのためにも、地方(市町村)から声を大にして、働きかけていかなければならない。車を運転されない方や交通弱者である方々が日本全国どこに住んでも、安心して生活できる交通網を確立するため、ともにがんばりましょう。

 最後にこの発表を行うにあたり、研究所だより(宮崎県地方自治問題研究所発行)に掲載された「ふるさとバスを守る宮崎県民の会」会長 中武秀行様、事務局長 戸髙武俊様の論文を参考にさせていただきました。 お礼申し上げます。