1. はじめに
三重県地方自治センターでは、2010年度から2011年度まで10回に渡り市町村合併検証研究会を開催してきました。2011年度は三重県全市町にアンケート調査を行い、その結果を基に合併後の総合政策や行政サービスなどについて議論を重ねてきました。また、研究会では、合併して規模拡大に伴う住民と行政との物理的・心理的距離の拡大や首長と議会を失うことによるきめ細かい民意吸収の困難さを補っていくための方策の1つとして三重県内の地域自治組織についても調査してきました。三重県では、2003年11月現在69自治体(13市、47町、9村)ありましたが、16の市町村合併により、現在29自治体(14市、15町)となりました。
2. 今、合併検証をする意義
平成の大合併の終焉から約5年が経過して、今回、三重県全市町にアンケート調査を行いましたが、文書保存年限が過ぎ廃棄されてしまったり、合併前の旧自治体ごとの基準が異なるなどして自治体ごとに得られなかったデータもありました。
また、市町村合併と前後して、国からの「集中改革プラン」の要請により、どこの基礎自治体も経営の効率化に翻弄されてきました。実際に現在現れてきている事象は合併によるものなのか、改革によるものなのか一見しただけでは判別しがたいことがあります。今回のアンケート調査は、合併をしなかった自治体(非合併自治体)にも行い、本当に合併による影響があったのかどうかも研究会で検証してきました。
なお、当研究会のメンバーは基本的には市町職員が中心ですが、所属や市町を代表する立場ではなくニュートラル(中立)な立場で行い、合併当時の実体験とその後の経験を踏まえ、現場での目線や住民の目線に立ち自由闊達な議論がされました。
3. 研究会の議論を通して見えてきたこと
(1) 事業やサービスと料金の動向
まず、合併してできるようになった事業について、アンケートで多く答えられていたものは観光面や商工面でした。広域的な新自治体のブランドとして旧自治体の産品を扱ったり、合併前は旧自治体で限定的にPRしていたものが合併して広くPRできるようになりメディアにも取り上げてもらえるようになったという議論が研究会でありました。また、合併特例債を活用した広域的な公共事業ができるようになったり、下水道の整備や簡易水道の上水道との統合が進んだところもありました。
特に、合併前の旧町村で実施されていて旧市で実施されていないものとして、中学校給食があります。現状では、実施されていなかった合併前の旧市において給食センター方式や民間給食からのデリバリー方式による委託で行われるようになっています。これは未実施の非合併自治体にも影響を及ぼし、民間給食からのデリバリー方式による委託を行うようになったところもあります。
このようにサービスの点では、町村のほうが福祉の面などで充実していることもあり、特に各種検診の実施状況を見ると、合併前の旧町村では無料の項目も見られました。
また、医療費助成制度の乳幼児医療費の助成については、合併と関係なく年齢を伸ばす方向にあります。学童保育の増加傾向は時代のニーズによるところが大きく、学校の統廃合は人口減少や過疎化による少子化が大きな要因となっていると考えられます。
手数料や各種料金について、合併前には「サービスは高く、負担は低く」と謳われていました。実際、16合併自治体の各種証明手数料を見ると、住民票の写しの交付では高いほうに合わせた自治体が1、そのまま(どの自治体も変わらなかった)が12、低いほうに合わせた自治体が3でした。納税証明書の交付では、高いほうに合わせた自治体が1、そのまま(どの自治体も変わらなかった)が11、低いほうに合わせた自治体が4でした。
前述の手数料の場合は、合併時に統一された後、金額は現在もそのままですが、保育所の保育料や上下水道料金になると様相が異なります。合併時に統一されなかったところや、1対1の合併の場合は人口の多い自治体に数年かけて合わせるなど、なるべく低くしようとする節は見られましたが、必ずしも最も低いほうに合わされているわけではありませんでした。下水道使用料については、現時点(2011.1時点)で値上げしている自治体が合併自治体と非合併自治体で3ずつあり、集中改革プランの影響も考えられます。上下水道料金は合併後に低く設定した場合、どうしてもその後の収入が減ることから、経営努力や経費削減をしない限り、料金で財源の多くを賄えなくなり、今後値上げせざるを得ないところも出てくると考えられます。
(2) 行財政の効率化
自明の理かもしれませんが、合併自治体は交付税の合併算定換のある15年をかけて行財政を効率化していかなければなりません。それに対して、財政状況が厳しい中で合併しなかった自治体は交付税が減らされていく中で2・3年で行財政を効率化しなければという危機感がありました。
アンケート項目の補助金を見ていくと、多くの合併自治体で合併の次年度に合併前の金額と同等の補助金を出しているところがありました。また、合併後廃止された自治会等に支出されていた補助金等を見ると、その多くが旧町村において支出されていたものでした。補助金もどちらかというと旧町のほうが手厚かったところがありました。また、合併後の同種の団体への補助金でも補助の内容が異なるなど、まだまだ、集約や整理をしきれていないところもあるようです。
合併自治体の公共施設について、合併前後に旧自治体間の格差をなくすため図書館や市民会館・公会堂などが建てられた自治体もありました。その他の公共施設についても、住民感情などもあり統廃合はなかなか進んでいないのが現状です。さらには、稼働率の低さやそれにかかる維持管理費も研究会では指摘され、今後の公共施設の更新投資についても研究会で議論となりました。高度経済成長期に建てられた建物などで、現在、老朽化し更新時期に来ているものがあり、施設白書の作成や公共施設の見直しなど、施設の統廃合の議論を置き去りにして多くの公共施設を抱えたままの合併自治体は今後対応に迫られることになりそうです。
一方、財政状況が厳しくとも合併しなかった自治体は合併自治体と比べ削り代が少ないため、アウトソーシングなどを含めた全体的な行政改革で経費削減することになったという議論も研究会でありました。
職員数や職員の人件費については、合併自治体の削減率がより大きかったのですが、非合併自治体でも削減されており、どこの自治体も集中改革プランの影響が見られました。また、合併によって議員数も減り、議員報酬や特別職の報酬については、合併した自治体数が多いほど削減されることになりました。それにより、旧町村の地域からは選出される議員が少なくなり、一人もいなくなるという地域も出てきました(図1参照)。 |