【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第9分科会 農(林漁業)から考える地域づくり

 公共建築物等における木材の利用は7.5%と低水準である。その原因は、それらに優れた耐火性等が求められたことや、強度や含水率を明確にした木材の供給体制の未整備等にある。そこで、施工事業者の要求する品質の木材を、製材事業者が供給できない原因等を聞き取り調査した。下仁田小学校の木造校舎建設では、公有林から木材を供給し、製材事業者がJASの資格を取得し、林業試験場が木材の強度を検査して、これらの問題を解決した。



低炭素社会を実現するための木材利用について
―公共建築物における地域材の利用と問題点―

群馬県本部/群馬県職員労働組合・木材利用研究会 小島 正・町田 初男・伊藤 英敏

1. はじめに

 公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(2010年10月1日施行)により、「建築物の非木造化」の方針を転換し、公共建築物について、「可能なものは木造化、木質化を進める」ことが国の基本方針である。
 しかし、年間に整備される建築物のうち木造建築物の割合(2008年度、床面積ベース、建築着工統計)は、全体で36%であるが、特に公共建築物については7.5%と低水準である。公共建築物で木材利用が少ないのは、①耐火性等に優れた建築物への要請②森林資源の枯渇への懸念③強度や含水率(強度にばらつきがあると構造計算がしにくく、含水率が変化すると木材が収縮し、取り付けが悪くなることがある)が表示され、公共建築に適した木材の供給体制が整備されていなかったこと、などが原因と推察される。
 そこで、今回、木材の利用者、木材を供給する製材事業者から意見を聞き、どのようにすれば木材を使用する環境が整備できるかを検討した。


2. 木材関係者への聞き取り調査

 飯島泰男(秋田県立大学木材高度加工研究所)氏に、地域材を利用するための問題点等について聞き取り調査した。

(1) 地域材とは
 地域材とは合法な手続きにより伐採された特定な地域(都道府県程度の大きさ)産の丸太を加工した木材である。「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」では、WTO協定の「内外無差別の原則」があり、輸入した木材と国内で生産された木材を区別していない。今回、輸入材と区別する意味で「地域材」という言葉を使用した。

(2) 地域材利用における問題点について
 工事の発注者が「地域材使用」を望んだとしても、発注者と設計施工者との協議の時点で、施工者が価格や事後のクレームを考慮して代替品の使用を提案することが多い。
 価格については、発注量が多いと一般的に価格が安くなると考えるが、木材の場合、逆に高くなる場合が多い。これは、丸太を原木市場から購入するため発注量が急激に増えると需要と供給のバランスが崩れ価格が高騰する場合や、工場が小規模で、材料を他の工場から購入して調達するため価格が上昇する場合がある。
 クレームには木材の割れと収縮等がある。内装材の含水率は10%程度、構造材は15%程度であれば安定している。しかし、含水率が30%以上ある木材を使用すると、設置してから、含水率の低下とともに割れが発生する。また、乾燥により数ヶ月かけて数ミリ収縮するため、「接合部の隙間」として現れることがある。(含水率が30%のスギ芯持ち柱120×120mmが、平衡含水率15%まで乾燥すると4.2mm収縮(接線方向))
 このため、木材の供給側としては、設計や施工側の乾燥や強度等に関する要求や価格に対する十分な対応を行うことが必要である。しかし、「素材生産、製材、設計、施工」が一堂に会する会合では、総論賛成、各論反対であり、消費者の視点が生かされない状況である。

(3) 製材事業者からの聞き取り調査
 渋川市にある製材事業者から聞き取り調査した。この製材事業者は、国産材の製材を行うとともに、集成材や合板など幅広く木材関連商品を取り扱う会社である。
① 木材の価格は、発注が9月~11月に集中するため価格が上昇するので、発注時期を分散すれば、木材価格が安定する。
② 在庫はある程度必要と考えるが場所がない。また、材料の規格が多いためすべての規格の木材を在庫とすることは資金を寝かせることになり難しい。
③ 木材の乾燥には、最低でも2週間程度かかり、木材の寸法が多く(太く)なると数ヶ月間、乾燥しないと中心部まで乾燥できない。

(4) 建築物の維持管理について
 木造建築の維持管理や利用方法に詳しい、北海道近代建築研究会の角幸博(北海道大学特任教授)に話を聞いた。
 北海道では、1878年(明治11年)に建設されて札幌時計台や北海道大学にある古河講堂(1909年)は、木造建築ではあるが100年以上利用されている。
 木材の構造は部分的に補修することで、維持管理できるが、コンクリート構造物は、コンクリートが劣化すると構造物全体を作り直す必要がある。建築当時と現在では耐震基準が異なり改修が必要になるが、接合部の補強等で木造の方が加工しやすい。また、地面との接地部分で木材は劣化するが、劣化した部分のみ交換し、その上部構造はそのまま維持できる。
 日本には木の文化があり、木材の部分に塗料を塗ることに否定的な意見が多い。しかし、雨等で濡れる部分については、塗料で保護することにより、劣化が抑えられる。木材の使い方について、屋内と屋外で区別して考えることが必要である。

(5) 聞き取り調査のまとめ
 その他、設計者や施工者等から意見を聞いたので、それぞれの立場での代表的な意見を取りまとめた。
区分
製材事業者
設計者
施工者
発注者
主な
意見
・木材の節などには注意するが、乾燥や強度にはあまり興味がない。
・一度に大量の木材の注文が来ると、他の製材事業者から木材を調達するため単価が上昇する。
・他の木造建築と差別化するため、特注した木材を使用したい。(特注した木材は単価が高い。)
・木材の調達(規格、単価)には興味がない。
・後でクレームがくると、経費がかかるので、品質が安定している会社の木材を使用したい。
・地域材は、注文から納期まで時間がかかり、施工管理が難しい。
・地域材を利用することは、良いと思うが、単価や、規格が良く分からないため、設計や発注までの仕事量が増加する。


3. 地域材を利用した公共建築物について

 2012年3月に、下仁田小学校の一部が地域材による木造で建築されたので事例を紹介する。

(1) 木造校舎の良さ
 木造の良さは、次の点などが挙げられる。①木材はコンクリートと比較して熱容量や熱拡散率が小さいため、木造は鉄筋コンクリート造の教室と比べ、温まりやすい。特に、床(写真―1)に木材を利用した場合、室温と床表面温度の差が小さくなり、足元の快適性が向上する。また、足にかかる負担も少ない。②木材(表面積の4割程度に木材を使用)の調湿機能と空中浮遊菌の繁殖の関係では、湿度50%程度の湿度は菌の繁殖抑制に効果をもたらすため、インフルエンザの蔓延が抑制される傾向が見られる。
教室の南側(耐震上必要な筋交い) 教室の前の部分
写真―1 下仁田小学校の教室の状況

写真―2 下仁田小学校の構造部材
(注:乾燥技術の向上により含水率15%以下の木材で、設置後に、割れや狂いの少ない構造材)

(2) 地域材の供給体制について
 下仁田小学校の建設では、町有林の木材を供給することが決まっていたので、早い段階から木材を伐採し、製材し、乾燥することができた。また、コンクリート構造部分の工事期間に、木材を供給する作業(製材、乾燥、集成材の作成等)ができたことにより、木材供給が順調にできた。
 構造部分(集成材と製材品)の木材は、JASの品質が求められたため、集成材についてはJAS認定工場で製造し、製材品については、地元の製材事業者が、JAS(木材の乾燥)を取得し、強度は林業試験場に依頼して全数を検査し、指定された強度等級(JASの機械等級区分E-70以上(スギ)E-90以上(ヒノキ))以上の木材を利用した。


4. まとめ

 日本は木材の輸入割合が大きいため、地域材の販売に必要なマーケティングの意識が薄いように感じられる。今回の聞き取り調査では、地域材の供給体制が脆弱であるとの意見があり、地域材の品質保証や生産・供給システムの構築が必要と思われる。下仁田小学校での地域材の供給体制は良い事例である。今後、さらに地域材を利用した公共建築物が建設されることを期待したい。




参考資料
赤堀楠雄(2010)変わる住宅建築と国産材流通、(社)全国林業改良普及協会、243pp
今村仁美・田中美都(2011)図説やさしい建築法規、学芸出版社、223pp
上村武編著(1996)木材の知識 商品と流通の解説、財団法人経済調査会、523pp