2. 木材関係者への聞き取り調査
飯島泰男(秋田県立大学木材高度加工研究所)氏に、地域材を利用するための問題点等について聞き取り調査した。
(1) 地域材とは
地域材とは合法な手続きにより伐採された特定な地域(都道府県程度の大きさ)産の丸太を加工した木材である。「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」では、WTO協定の「内外無差別の原則」があり、輸入した木材と国内で生産された木材を区別していない。今回、輸入材と区別する意味で「地域材」という言葉を使用した。
(2) 地域材利用における問題点について
工事の発注者が「地域材使用」を望んだとしても、発注者と設計施工者との協議の時点で、施工者が価格や事後のクレームを考慮して代替品の使用を提案することが多い。
価格については、発注量が多いと一般的に価格が安くなると考えるが、木材の場合、逆に高くなる場合が多い。これは、丸太を原木市場から購入するため発注量が急激に増えると需要と供給のバランスが崩れ価格が高騰する場合や、工場が小規模で、材料を他の工場から購入して調達するため価格が上昇する場合がある。
クレームには木材の割れと収縮等がある。内装材の含水率は10%程度、構造材は15%程度であれば安定している。しかし、含水率が30%以上ある木材を使用すると、設置してから、含水率の低下とともに割れが発生する。また、乾燥により数ヶ月かけて数ミリ収縮するため、「接合部の隙間」として現れることがある。(含水率が30%のスギ芯持ち柱120×120mmが、平衡含水率15%まで乾燥すると4.2mm収縮(接線方向))
このため、木材の供給側としては、設計や施工側の乾燥や強度等に関する要求や価格に対する十分な対応を行うことが必要である。しかし、「素材生産、製材、設計、施工」が一堂に会する会合では、総論賛成、各論反対であり、消費者の視点が生かされない状況である。
(3) 製材事業者からの聞き取り調査
渋川市にある製材事業者から聞き取り調査した。この製材事業者は、国産材の製材を行うとともに、集成材や合板など幅広く木材関連商品を取り扱う会社である。
① 木材の価格は、発注が9月~11月に集中するため価格が上昇するので、発注時期を分散すれば、木材価格が安定する。
② 在庫はある程度必要と考えるが場所がない。また、材料の規格が多いためすべての規格の木材を在庫とすることは資金を寝かせることになり難しい。
③ 木材の乾燥には、最低でも2週間程度かかり、木材の寸法が多く(太く)なると数ヶ月間、乾燥しないと中心部まで乾燥できない。
(4) 建築物の維持管理について
木造建築の維持管理や利用方法に詳しい、北海道近代建築研究会の角幸博(北海道大学特任教授)に話を聞いた。
北海道では、1878年(明治11年)に建設されて札幌時計台や北海道大学にある古河講堂(1909年)は、木造建築ではあるが100年以上利用されている。
木材の構造は部分的に補修することで、維持管理できるが、コンクリート構造物は、コンクリートが劣化すると構造物全体を作り直す必要がある。建築当時と現在では耐震基準が異なり改修が必要になるが、接合部の補強等で木造の方が加工しやすい。また、地面との接地部分で木材は劣化するが、劣化した部分のみ交換し、その上部構造はそのまま維持できる。
日本には木の文化があり、木材の部分に塗料を塗ることに否定的な意見が多い。しかし、雨等で濡れる部分については、塗料で保護することにより、劣化が抑えられる。木材の使い方について、屋内と屋外で区別して考えることが必要である。
(5) 聞き取り調査のまとめ
その他、設計者や施工者等から意見を聞いたので、それぞれの立場での代表的な意見を取りまとめた。
区分
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製材事業者
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設計者
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施工者
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発注者
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主な
意見
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・木材の節などには注意するが、乾燥や強度にはあまり興味がない。 ・一度に大量の木材の注文が来ると、他の製材事業者から木材を調達するため単価が上昇する。 |
・他の木造建築と差別化するため、特注した木材を使用したい。(特注した木材は単価が高い。) ・木材の調達(規格、単価)には興味がない。 |
・後でクレームがくると、経費がかかるので、品質が安定している会社の木材を使用したい。 ・地域材は、注文から納期まで時間がかかり、施工管理が難しい。 |
・地域材を利用することは、良いと思うが、単価や、規格が良く分からないため、設計や発注までの仕事量が増加する。 |
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