【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第9分科会 農(林漁業)から考える地域づくり

 福山市職労は、「食育・地産地消」の推進を行政施策として取り組むよう強く要求し続け、2009年度から「福山市の重点施策」として位置づきました。給食現場では、農家の方の直接納入による「規格外農産物」の納入。また、東村小学校では、耕作放棄地を学校農園として整備し、米を含めたすべての食材を学区内から調達する目的で東村小学校・東村保育所・生産者が参加した「若草会」がスタートし「地産地消」が拡がりつつあります。



食育・地産地消の取り組み
~地場産物使用にむけて~

広島県本部/福山市職員労働組合・現業評議会・給食士部会・副部長 宮澤 美子

1. はじめに

 近年の食をめぐる状況は、生活スタイルの変化や食の多様化などにより、不規則な食事や栄養の偏りなど、健全な食生活が失われつつあることから、健全な食生活の実践に向けて「食育」の推進が求められています。また、BSEや食品の偽装表示、加えて、昨年3月11日に東北地方を襲った未曾有の大震災と、それに伴う原発事故による食品への放射能汚染の問題が連日マスコミ等に取り上げられ、「食品の安心・安全」に対する意識がこれまでになく高まっている状況にあります。さらに、食料自給率の低下や耕作放棄地問題など、食に関わってはさまざまな課題があり、大きな社会問題となっています。
 こうしたことから、「食育・地産地消」の必要性・重要性に対する気運が高まり、「食の安心・安全の確保」はもとより、市内(地域内)の食料自給率の向上や耕作放棄地の再生活用の推進に向けた対応が求められており、現在では全国各地においてさまざまな取り組みが進められている状況にあります。
 この間、市職労は当局に対し「食育・地産地消」の推進を行政施策として取り組むことを要求し続けた結果、2009年度から「福山市の重点施策」として取り組むこととなりました。
 こうした中で、食に関わる三部会(給食士部会・保育所調理員部会・栄養士部会)としても、「食育・地産地消」の推進は自らの課題として取り組んでいく必要があるという共通認識のもと、「子どもの食の保障に何が必要か?」「何ができるかを考え、現場で具体的に取り組んで行く」ことなどについて議論しました。


2. 福山市の「食育・地産地消の推進」における状況

 福山市は、食の「安心・安全な提供」の観点から市内の食料自給率を高める第一歩として、2009年度から「食育・地産地消の推進」を「市の重点施策」として位置づけて取り組むこととし、この取り組みを全市的な取り組みとするために、福山市長の宣言のもと、市と地元農水産物の生産や消費、流通に関わる各団体で構成する「福山市地産地消推進協議会」を2009年7月16日に設立し、愛称の制定(福山発 地産地消)、シンボルマークの公募・制定(愛称:ふくやま生まれ)、をはじめ、学校給食における地元食材利用の拡大や、耕作放棄地を再生した市民農園・学校農園の整備など、具体的な施策の展開を始めました。
 地場産物の確保に向けては、JAや地元農家・地元漁協など関係機関との連携をはかり、農産物や海産物の流通形態の構築に向けて取り組んできたことにより、全市的に取り組んでいく体制もできつつあります(【別紙1】を参照)。こうした「食育・地産地消の推進」にかかわる取り組みの中で、ガス天サラダ、鯛めし、ねぶとのから揚げ、ガス天のつみれ汁、ボラコロ(内海町沖で水揚げされたボラなどのすり身を使った魚コロッケ)、くわいごはんなどの特徴的な郷土食等の学校給食献立につなげることができました(【別紙2】を参照)。
 また、「福山市食育推進計画」を策定し、①家庭における食育の推進、②保育所(園)・幼稚園・学校における食育の推進、③職場における食育の推進、④地域における食育の推進、⑤生産者と消費者との交流促進、⑥福山の食文化の継承・創造、⑦食の安心安全を守る、とした7つの柱を基に、家庭・学校・職場・地域・行政が協働で取り組み、市民全体で食育を進めていくこととしました。
【別紙1】 【別紙2】


3. 市職労特別委員会「食の安心・安全、地産地消プロジェクト」

 福山市の重点施策に位置づけがされ、行政サイドとしての取り組みが展開される一方で、現場(労働組合)としても取り組みの推進(充実)をはかるべく具体的施策を提言・実践するために、「食」・「農業振興」に関わる支部・部会(経済支部・給食士部会・保育所調理員部会・栄養士部会)を中心に構成する「食の安心・安全、地産地消プロジェクト」を2009年4月から市職労特別委員会の中に位置づけ、学校給食・保育所調理における施策や、耕作放棄地問題の解消をはじめ農業振興につながる施策の展開に向けて、それぞれの部門(現場)で「何ができるか?」・「何に取り組むのか?」について議論を行い、実践に向けた政策提言につなげるべく取り組みを進めてきています。
 これまでの「公務労働拡大」の現場実践を積み上げる運動の中で縦割りではなく、横断的に現場が動ける体制づくりに取り組んでいたことによって、政策に対して効率的・効果的で迅速な対応ができる実態が形成されてきました。職種や職場を越えて議論ができ、連携をはかりながら政策実現に取り組める体制づくりの基盤整備こそ労働組合の重要な役割であると言えます。
 今後も具体的な施策の実践につなげていくために、関係する支部・部会が中心となってどのような施策を展開していくのかについて、活発な議論を重ねながらこの委員会のさらなる機能化をはかっていかなくてはなりません。


4. 食にかかわる部会「食の三部会」

 福山市職労では、食に関わっての様々な課題がある中、食に関わる部会で横の連携をはかりながら「食育・地産地消」進めていくため、1996年より組織化されていた「食」に関わる四部会(従前は市民病院支部の調理部門も参加していたが、現在は民間委託となっている)の活動を8年ぶり(2011年6月)に再開しました。まず、2011年7月「食の三部会」(給食士・保育所調理・栄養士)を知ることを目的として学習・交流会を開催し、お互いの仕事について理解を深めていきました。引き続き、「食の三部会」の活動のさらなる機能化に向けて取り組みを強化していかなければなりません。


5. 具体的な現場での取り組み

 福山市の重点施策として位置付けられて以降、「食育・地産地消」を具体的に進めていくにあたり、市当局と組合(支部・部会)で議論を重ねながら、できることから一つずつ取り組みを進めてきています。
 学校給食では、これまで週3回だった「米飯給食」を地場産使用率の向上をはかるため、2010年4月から、週4回実施することとし、「自校炊飯校」も6校増やし15校から21校となりました。現場では、強化磁器食器を使用しているため、ご飯茶碗の使用回数が増え、自校炊飯校では作業内容が増えましたが、公務労働拡大で培った「まずやってみて課題があれば整理しよう」「まず子どもたちのために何が必要か」という視点に立ち工夫する中で、子どもたちのために人的対応(増員)は求めないでやりきっています。
 また、これまで規格を指定して納入していた農産物については、絶対量が不足しがちな地場農産物を確保するために「規格外農産物」も使用することとし、外見や食味に影響されないものについて、2009年12月より農家からの直接納入をたまねぎ・じゃがいも・にんじん・さつまいもなどから、7品目を22校1センター(総使用量4,975㎏)で使用開始しました。2010年度には生しいたけ・トマト・かぼちゃなど26品目68校2センター(総使用量20,718㎏)で使用し、さらに、2011年には36品目を63校2センター(総使用量40,002.6㎏)で使用することができています(【別紙3】を参照)。その中で現場では、鉛筆のようなごぼうや大小さまざまなじゃがいもが納入され、作業に手間取ったこともありましたが、課題については、JAを通して農家の方に伝えてもらいながら改善をはかっています(【別紙4】を参照)。こうした取り組みにより、地場農産物の必要量確保がしやすくなると同時に、これまで廃棄処分をせざるを得なかった野菜(もったいない野菜)が納入できるということで、農家の方からも大変喜ばれ、また、直接農家から納入される野菜は新鮮でおいしく子どもたちも喜んで食べてくれることを伝えることにより、農家の方も生産意欲を持って作ってくださるようになりました。今後、品目の拡大をはかりながら全量確保に向けて取り組んでいくこととしています。
 また、松永地域では、2011年度より生産者が直接生産物を学校に納入する取り組みが本格的に開始しました。この状況を受けて「地元で採れた野菜を子どもたちに食べさせたい」「地元で収穫した米を給食で食べさせたい」という思いを持った東村の生産者が集まって東村小学校への地元の直接納入に向けた話し合いが始まり、2011年10月より東村小学校給食へ地元の生産者が直接納入する取り組みが始まりました。給食内容については、地元産の使用できる野菜に合わせ、担当栄養士と東村小学校の給食士が話し合いをしながら、献立内容を変更しながら対応しています。
【別紙3】

【別紙4】

 東村小学校は、食数が50食程度の小規模校のため学校の近くの耕作放棄地を学校農園として整備し、米を含めた全ての食材を学区内から調達すること等を目標に東村小学校・東村保育所・生産者等が参加した「若草会」が2012年2月にスタートしました(【別紙5】を参照)。
 その中で、地元の農家の方は、「学校園・田を利用して色んな虫の働きの学習をして欲しい」「田んぼの中に入って学習することも遠慮せずどんどんやって欲しい」また、「子どもたちのリクエストに応えられるような野菜作りをしていきたい」「納入については、どこよりも気を付けて納入している」などといった子どもたちへの温かい思いも聞かせてくださいました。加えて、他の学校においても、子どもたちが栽培している「学校菜園」で収穫した野菜(なす・さやいんげん・たまねぎ・かぼちゃ・じゃがいも・さつまいも・パセリ・だいこん・はくさい・キャベツ・チンゲンサイなど)や、学区内の市民から無償提供された野菜(さつまいも・だいこん・はくさいなど)を使用しての給食の提供も行っています。2011年度は、26品目24校(160回)で使用することができました。
【別紙5】

 また、学校給食については、一部の地域(新市、沼隈)を除く69校は「自校(単独)調理方式」をとっていますが、「地産地消」をより推進していくために、2010年度より「給食管理システム」を見直し、これまでの「統一献立」から「ブロック別献立」を取り入れています。このことにより、全校分(全量)の確保が困難な「地場農水産物」もブロック単位での使用が可能となったため、不足しがちな「地場農水産物」が穫り入れやすくなることや、地域(ブロック)ごとに特色を活かしたメニューが可能になるなどのメリットがあります。現在、ブロックごとに食材の変更や献立の変更を行い、それぞれのブロックにあった献立の実施を行っています。さらに、夏期期間を利用して各学校では給食士と栄養士が協力し、地場産物を使用した「子ども料理教室」を実施しています。子どもたちが考えた朝食メニューやお弁当を作るというもので、各校のメニューをもとに「レシピ集」を作成して全校に配布し、他校のメニューを共有しながら内容の充実につなげています。
 現場からの提案で取り組みを始めた当初(6年前)は、各学校での理解や協力も必要であることから、給食士の思い・考えだけでは取り組みにくい状況があり、実施していない学校も多くありました。しかし、2008年現業統一闘争の「現評統一交渉」において「子どもたちの食育のためにも全校での実施を実現したい。」という現場の思いを部会要求に掲げ、当局から各学校へ働きかけることの対応を求めた結果、次年度から全校実施に向けて取り組んでいくことが実現しました。
 そして、この「子ども料理教室」は全校での実施に向け取り組みを始めて、2年目には69校(自校調理)中、55校での実施。3年目については全校で実施することができました。また、併設の幼稚園での取り組みにも拡大し、2011年には18園中13園で実施しています。子どもたちからは、「自分たちで作った料理はとてもおいしかった。」「家では普通の卵焼きしかつくらないけど、チーズやちりめんじゃこをいれたのは初めてでおいしかったし、楽しかった。家でも作りたい。」などの、多くの感想を寄せていただきました。
 保育所調理では、食数の規模が小さいことから、小学校と隣接している保育所から地場農水産物の使用(確保)については、学校給食と同じように直接納入を始めました。2011年度では10所が実施し、また、保育所で栽培している菜園でできた野菜や、地元の方から提供される野菜などを使用してメニューの提供を行うなど少しずつではありますが、取り組みが拡大しており、今後、地場農水産物の直接納入を全所で実施するためにどのようにしていくのかを検討しているところです。
 また、各所ではこれまで「生きる力をつけるクッキング」と題して、全年齢を対象にした子どもたちの調理実習を行ってきていましたが、昨年度は初の試みとして保護者を対象にした「子育て支援(調理実習)」を実施し、離乳食や幼児食を一緒に作るなどして保護者啓発につなげました。
 保育所調理における「食育・地産地消」の推進に向けては、部会の研究部を中心に「子どもたちの食の安心・安全な提供」をめざし、「食育・地産地消」について研究し、方向性について検討を重ねながら取り組みを進めており、昨年度は、地場農水産物を使用したメニューを「ふくやまSUNメニューレシピ」としてまとめて全所に配布し、クッキング時や保護者啓発などに活用しています。そして、現在研究部では、地場農水産物を使用した新しいメニューづくりに取り組んでいます。また、3年前から福山市の市政記念日7月1日には、学校給食・保育所給食とも、地場産100%給食をめざし取り組んでいます。


6. 今後に向けて

 福山市における「食育・地産地消」の取り組みは、行政・地元農水産物の生産・消費・流通に関わる各団体の連携・協力により推進していく体制ができている中、市の重点施策であることから、今後も推進に向けさまざまな取り組みが行われることとなります。
 福山市職労はこれまで「現場から発想して政策提言する」という運動スタイルを追求してきており、この「食育・地産地消の推進」についても当局まかせではなく、「何ができるのか?」「何をするのか?」について現場で考えた施策を発信していく取り組みを進めていくこととしています。とりわけ学校給食では、今後も各ブロック・各校(現場)で創意工夫をしながら、ブロック別献立の拡大・充実に向けて取り組んでいく必要があります。
 また、こうした取り組みを一つひとつ進めていく中で、「安心・安全な給食の提供」はもとより、常に「子どもたちの目線」に立った発想で考え、さらには「自校(単独)調理方式だからこそできること」という視点で、「食育・地産地消の推進」に向けた施策を現場から発信する形で豊富化していかなくてはなりません。
 そして、この「食育・地産地消の推進」に向けた今後の取り組みを展望したとき、取り組むフィールドが広範多岐にわたる大きなテーマであり、将来的には「水産加工品」・「里山再生」・「地域経済の活性化」・「食を中心にした地域コミュニティーづくり」などの取り組みが必要になると考えています。そうなれば様々な部署(現場)や関係機関・団体などの協力・連携が必要不可欠となります。引き続き、縦割りになりがちな行政運営を、関係する支部・部会が一緒になって議論し横の連携をはかりながら、政策提言から実現に向けて現場がスピーディーに動ける体制(組織)づくりをしていくことが、労働組合に課せられている大きな課題であり役割であると考えます。
 そうしたことからも、福山市職労は、これまでの運動で創り上げてきた組織力や培ってきたノウハウを最大限に活かしながら、引き続き「発想する市職労運動」をめざした取り組みを進めていかなければなりません。その過程で明らかになった政策の実現に向けて取り組みを推進していきたいと考えています。