1. はじめに
今日の社会が生み出した「協働」の言葉。地方自治体の政策に切り離すことのできないこのキーワードは、地方自治のあるべき姿を模索する上で大きなウエイトを持っています。その大きなねらいとしては行政と住民がお互いに不足な部分を補い合い、ともに協力して課題解決に向けた取り組みを行うことを一つとしているとおりに、住民が主体的に連携しまちづくりに寄与していくことにあります。しかし、住民やNPOをはじめとする企業への一方的な持ちかけは、行政事務の責任転嫁や単なる下請けに終わる事例も少なくありません。住民と行政のちょうど良い距離感や相互の理解が保たれなければ、「協働」の言葉は意味をなくし、行政に対し“受動的で無理やり召集させられたまちづくり”にならざるを得ません。
現在、羅臼町では地域のコミュニティを大切にした総合型地域スポーツクラブや、産業振興・地域活性化を重点に活動している産業関連団体や企業の活躍が目立ち、まちづくりの一翼を担っています。しかしながら、羅臼町の将来を担うべき青年層の社会参加は依然乏しい現状にあります。それぞれの分野において組織的な取り組みは行っており、まちづくりへの結びつきは感じられるものの、目的意識や継続性をもった実践とは一口に言いがたいものがあります。(自分たちが楽しむため、特定のものに対する利益のため……)
羅臼町職では、一職員として「協働」のまちづくりに取り組むために、地域活性化の起爆剤になり得る“青年層”に着目し、産業関連青年団体と過去2年間イベント開催を通して連携・交流を深めてきました。本レポートでは、これらについて現在の進捗状況と今後の展望について提言をさせていただきます。
2. 羅臼町の取り組みと現状
(1) 産業振興・地域活性化に関わる団体
① 総合型地域スポーツクラブ「らいず」
2000年に改正されたスポーツ振興法に基づき、クラブ創設支援事業(スポーツ振興クジtoto)の補助を受け、2年間の準備期間を経て2008年3月1日設立されました。現在は、有償のクラブマネージャーが専門に配置され、また本年4月にNPO法人格を取得するなど、自主自立に向けた活動を展開しています。らいずの活動は「いつでも・どこでも・だれでも」をモットーに、世代や職種、技術レベルを超えてスポーツや文化活動を行い、心身の健康、地域コミュニティ及び地域の誇りを作り、育て、ふるさと羅臼をより良いまちにしていくことを目標に活動しています。まさに、新しい公共と呼ぶのにふさわしい“地域住民の、住民による、住民のためのスポーツクラブ”として、様々な文化・スポーツ活動を展開しています。社会教育行政としても、子ども会や体育協会等と同列の社会教育関係団体として位置づけしており、今後の文化・スポーツの発展になくてはならない団体として連携をはかっています。
② 知床エコスミレ・プロジェクト
2007年に羅臼町女性団体連絡協議会、羅臼漁業協働組合女性部、羅臼町商工会女性部の3団体が、環境問題に取り組むために立ち上げたプロジェクトです。買い物袋持参運動や廃油を再利用した石鹸作りなど環境に関する事業を展開しています。毎年秋に事業の一環として「秋祭り」を開催し、地元食材を利用した食事の提供や地域で活動するものづくりサークルの雑貨販売などを行っており、まちの新たな名物行事として定着しております。
(2) 社会教育の視点から……
羅臼町第6次社会教育中期計画より現状と課題について一部抜粋(青年教育)
◆町内を網羅していた青年団体が消滅して久しい現在にあるが、過去の例に見るように、活気ある地域づくりには青年層の積極的かつ活発な社会参加が重要である。
◆青年活動の活性化を図るため、主体的に活動する若者の掘り起こしをはかりつつ、意欲的な若者への協力や支援に努めているところであるが、組織的な活動・取り組みには発展していない。
◆漁業の不振等(就職先の選択肢)により高校卒業後、若者の多くが町外へ流出する状況である。
◆青年同士の交流や、視野を広め感動を実感できる機会の提供が求められる。
◆人と人とをつなぐ事業展開が教育行政として求められる。 |
(3) 青年団体の現状
① 羅臼漁業協同組合青年部
羅臼漁協には魚種別・漁法別の部会が多数存在しています。その担い手として下部組織である青年会が存在し、漁協青年部としては、ほたて稚貝青年会・うに青年会・養殖青年会・刺網青年会・定置青年会の5部会で構成され、90人あまりの部員で組織されています。
各青年会では資源管理に努めた活動や、日本全国の物産店等で食材PR活動を精力的に行っている他、製品開発にも力を注ぎ付加価値向上を図っています。
② 羅臼町商工会青年部
商工会の会員である商業者やその家族で年齢満40歳以下の者で組織され、現在賛助会員を含め21人の会員で構成されています。商工業者の後継者にふさわしい経営者としての資質向上を図ることで、地域の商工業の総合的な改善発達を図り、あわせて地域社会に広く貢献するための活動を行っています。羅臼岳清掃登山の実施や各イベントの参加協力の他、毎年2月に開催しているオジロ祭りは羅臼の冬の風物詩として定着しています。
③ 羅臼神輿会
2011年発足。毎年7月1日~3日に開催される羅臼神社祭における神輿の担ぎ手として、町内50人あまりの若者が自主的に集まり結成されました。「いきいき地域提案型事業交付金」も活用し運営資金とするなど、町としても意欲的に活動する若者への支援に努めています。
3. 『イベント』を通した協働のまちづくり
羅臼町職では青年部を中心として、羅臼漁業協同組合青年部と羅臼町商工会青年部の3者連携による町主催の一大イベント「知床開き」(6月)のプログラムの一環である「小学生ドッジボール大会」を実施しています。“役場で働く若者”として自治体職員で構成する労働組合事業として位置づけし、この企画に組織的に加わり2年目になります。
三つ巴のような3者の連携は、狭い町とは言え年齢も違えば生活環境も真逆の関係にあり、一番初めの連絡会議では、自己紹介から始まるものの厳つい漁師を目の前に戸惑いと少しの緊張が走ります。当初から行政職員と見られながらも一地域の住民(組合員)として参画するという心構えは忘れず、“ほど良い距離感とは何か”ということも問い続けていきました。しかし、いざ話し合いが始まるとそれぞれが意見を言い合い、それらを受け入れて自分の考えを述べるという“会議の雰囲気”に切り替わります。昨年の反省で「子どもたちのために来年も成功させよう」と意識を合わせたからでしょうか。皆さんの意見や提案に助けられた会議となりました。
ドッジボール大会は今年で4回目を数え、毎年10チーム近いエントリーがある大会です。1チーム12人での募集要項ですから、総勢100人以上を募る盛況の催し物として定着しています。羅臼町の児童数は329人ですから実に3分の1近くの子どもたちが一つの会場に集まる大会となり、応援の父兄や友達を含めると、この大会による集客の影響は非常に大きいものであることがわかります。
<第51回知床開き6月17日(日)メイン会場でのプログラム> |
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(変更前) (変更後) |
“一番お客さんが会場にいる時間帯”に実施したく、青年部の強い要望を行ったところ、千人踊りの参加母体である各町内会女性部にもご理解をいただき、上記のような時間変更を行い当日祭の目玉プログラムの一つとして実施することができました。
また、今年は3者の部長が町内の小学校を回り、校長・教頭に本事業の概要説明とPR・児童選手募集について協力をお願いしてきました。特に地域の祭りに産業関連の青年団体が連携して行うことへの意義について学校現場からも理解をいただき、結果は昨年より2チーム多い、9チームの参加を募ることができました。
かくして迎えた本番当日。あいにくの天候により雨模様の中実施されました。天候判断に反省は残りつつも、当の子どもたちは本当に楽しんでいたようで「是非来年も参加したい!」という意気込みも直ぐに耳に入ってきました。今大会を終了し、自分たちの手で事業を1から作り上げることの達成感や感動をそれぞれに感じることができるものとなりました。
4. これからの展望
羅臼漁協青年部や商工会青年部は、町広報等のメディアやまちの話題から一見順風満帆な活動を展開しているように思えます。しかし、大会終了後の反省会では、それぞれの団体の裏には仲間との目的意識のズレや人手不足、事業のマンネリ化等それぞれが様々な悩みを日々抱えていることがわかりました。お互いの得手不得手も垣間見ることもできました。集まって話をすれば気付けなかった問題や課題が浮かび上がり発見できることを知りました。今大会に向けた会議や集まりを調整していく中においては、お互いの仕事内容や終業時間等を気遣う場面も多々あり、少しずつですが公務員の仕事量や職場体制の問題等を伝える場面にも巡り会えました。これだけの異業種の青年が公の場に集まることは決して多くはない羅臼町ですので、“忙しい部署”や“携われない(会議に参加できない)理由”などを話せたのは非常に良い機会であったと思っています。
昔の羅臼の青年団体は、自分たちの余暇時間を大切にしたく現在の「漁休日」を勝ち取った歴史があると聞きます。自分たちのやりたいことへの実現に向けて、山積しているであろう地域課題に目を凝らし、解決に向けた取り組みを自分たちの手で切り開いていくことは大変素晴らしいことであります。イベントの開催はあくまでも手段でしかありません。イベントというものを通して、行政職員と町民とが交流をはかり、「役場職員」と「町民」との関係ではなく、まずは同じ仲間という意識のもとそれぞれの思いや、これまで話すことのできなかったことなどを気兼ねなく話し合える場となりえることを一層望んでいます。
行政職員と町民が真の相互理解に立った時、町民が連携し主体的なまちづくりが展開され、ねらいとする「協働」の意味に近づいていくものと思います。その時には「公務員批判」という言葉はなくなっていることでしょう。
そのためにも、今大会に結束された関係を契機に、仮称羅臼町産業関連団体青年部の発足も視野に入れ、今大会の継続やお互い特異性を活かした事業の展開が求められます。 今後も地域で働く一労働者として、「協働」を念頭においた活動を広げ、交流を行なうことで羅臼町全体が活性化することを切に期待し、より良い自治活動の研究と継続をしていきたいと考えています。
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