【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第10分科会 「地域力」「現場力」アップにむけた学び合い

 (財)京都市埋蔵文化財研究所は、埋蔵文化財の発掘調査で得られた成果を、地域や市民の共感を得られるよう出前授業の実施や中学生チャレンジ体験の受け入れなど、ざまざまな活用をはかってきた。前回は「体験型旅行の試み」をまとめたが、今回は「学校教材(副読本)への試み」、例えば「発掘で辿る京都の歴史と文化」「発掘成果で再現する古代の衣食住」などを作成し、京都市の歴史教育に資する試みをまとめた。



文化財活用の模索
学校教材(副読本)作成の試み

京都府本部/京都市埋蔵文化財研究所職員労働組合・書記長 津々池惣一

はじめに

 (財)京都市埋蔵文化財研究所は、埋蔵文化財の発掘調査で得られた成果を、地域や市民の共感を得られるよう京都市内において出前授業の実施や中学生チャレンジ体験の受け入れをはじめとしてざまざまな文化財の活用をはかってきた。
 以前、文化財活用の一つの模索として、「文化財の活用の模索―体験型旅行の試み」を発表した。今回はその一貫として「学校教材(副読本)作成の試み」を提案したい。

1. 現状と課題

 研究所の現状を以下に概観しておく。研究所の直面している課題は、2013年4月年度までに公益法人移行の必要性と、深刻な財政難である。
 京都市からの財政支援が2011年度に議会裁決され、局面の打開にはなったものの、引き続き厳しい財政事情にあることは免れない。すなわち、公益法人移行後も、2年連続赤字で法人解散になるとされている。また、公益法人移行とその後の財政状況を乗り切るためには、必要事業収入量=4億円/年間の確保が必要とされている。しかし、事業量の推移は開発者側に依存しており、それ故、乱高下が激しく、絶えず単年度収支の赤字の恐れがある。
 それゆえ、絶えず運営努力をはかり、給与の削減や他府県派遣などにも協力せざるをえない現状がある。
 また、京都市との連携で京都市内の公共事業などの確保や催し物等も連係することで、公共サービスの一端をになう当研究所を喧伝することで、地位の向上をはかる必要もある。そして、何よりも一層、市民・地域に共感の得られる文化財活用の展開が要請されており、とりわけ昨今においては、活用事業の質的転換でより効率的に、より喧伝性の高い文化財活用事業が期待されていると言えよう。

2. 学校教材作成への試み

 従来、小中学校においての教科書の副読本としては、「道徳関係の副読本」や「ふるさとの歴史」の類いが大半であったように思われる。
 そこで、埋蔵文化財発掘に携わる研究所としては、文化財の活用として学校教材として、例えば「発掘で辿る京都の歴史と文化」「発掘成果で再現する古代の衣食住」などを作成し京都市の歴史教育に資する試みをしてみる。

3. その内容

(1) 「発掘で辿る京都の歴史と文化」の一例として、歴史ごとの遺構や遺物の紹介
 先土器時代から江戸時代頃までの時代ごとの発掘された遺構や遺物を紹介する。特に、京都ならではの特徴をあらわしたものに焦点を当てる等工夫を凝らしてみたい。以下にその一例を列挙してみる。
* 先土器時代―日本は大陸と地続きの時代もあった。京都にも大陸からオオツノ鹿などの動物が来た痕跡などを鹿児島県櫻島のある錦江湾の火山爆発によって降ってきた火山灰と共に紹介。
* 縄文時代―西京区大原野上里遺跡で出土した翡翠製品は、北陸産や九州産のものがある。交通手段のない時代、すでに交易は盛んであったことがうかがえる。
* 弥生時代―稲作が大陸から伝播されるが、稲刈りは鉄が伝播されるまでは包丁ではない「石包丁」で刈り取られていた。
* 古墳時代―当時の墓からは、その当時の生産・文化水準をあらわす、耳飾りの金環などが出土する。当時から金を材料とした製品の生産が装飾具としても使われる水準にあったことを示している。
* 奈良時代―都は奈良に平城京として造営されていたが、当時の京都は隣接の一地方でありその様子の一端を発掘遺構や遺物で紹介する。
* 平安時代―延喜式などの数々の文献史料があるが、実際の歴史や生活の有り様はそれらと異なることが多々ある。その事例の紹介。
* 鎌倉時代―平安末期の平清盛の時代から日宋貿易が盛んになったとされる。実際に大量の宋銭が京都で出土された状況を紹介をする。
* 室町時代―応仁の乱は広く京都市内が戦火にまみれたと言われている。西軍の陣のあった「西陣」あたりも戦火があり、当時の戦火で焼けた瓦等の紹介をする。
* 安土桃山時代―秀吉の茶室は金箔だったが、伏見城や聚楽第にも惜し気もなく金箔瓦が使用されていた。遺構や遺物の紹介。
* 江戸時代―有名な大判・小判の出土例は極めて少ない。その理由を考える史料として出土小判を紹介する。

(2) 「発掘成果で再現する古代の衣食住」の一例として、古代の生活・制作体験手引き
 原始社会において衣食住は自給自足であった。その一端を紹介することで原始・古代の生活を体感してもらう。一例として、編み物、火おこし、土器作り、勾玉作り、住居作りなどの図解入り説明書を紹介してみる。
* あんぎん編み:縄文時代の終わり頃(約2,500年前)から始まったといわれる、あんぎん編みという衣類を編む方法。材料は苧麻(チョマ、別名はカラムシ)という植物の茎の繊維から作った麻糸が使われ、横糸に縦糸を絡ませて麻布を作成していく。
* 火おこし:人は自分から火を起こすことを身につけた。もっとも古いのは縄文時代からの「きりもみ式」で火きり棒を両手で回し、その摩擦熱で火を起こす方法である。その他に、「弓きり式」や「ヒモきり式」「舞きり式」などもある。
* 土器作り:土器の発明は人の生活に画期的変換をもたらした。人が土器を作りはじめたのは縄文時代はじめの15,000年頃からといわれている。土器を作れば食べ物の煮炊きや保存ができるようになり、食の安全性も高まり生活水準の向上に役立った。土器は、粘土ヒモを積み上げ成形し、オサエ・ナデ・ハケなどで調整して仕上げる。これを乾燥させてから焼成する。
* 勾玉作り:縄文時代前期頃から作られていた勾玉は動物の牙の形などの説がある。祭祀やアクセサリーに使用したと思われる。原石に勾玉の形を描き、紙やすりなどで削り形を整える。ヒモを通す穴は錐であける。
* 竪穴住居造り:縄文時代から奈良時代頃まで作られていた住居である。地面を円形や方形に掘り、その中に柱を立てて、梁や垂木をつなぎ合わせて骨組みを作り、植物や土で屋根を葺く。
* 尚、使用した資料は「出前授業用テキスト―古代のくらし体験―」(京都市考古資料館)の編集、作成のものである。

4. 教材制作、その意義

① チャレンジ学習や出前授業の事前・事後の反復学習資料として役立つ。
② 一般的な歴史だけではなく、実際に京都市内で出土した遺構写真や遺物の貸し出しとセットにして活用することで、立体的な生きた教材として学べる。
③ 発掘調査から検出、出土した遺構や遺物に過去を学び、今日と未来の生き方、暮らしの有り様に役立てる。(例えば、地震の痕跡からどのような規模に災害であったのか、その頻度などから、今後の町創りや防災対策へ生かすなど

5. おわりに

 今回の企画が活用されるなら、一過性のものとしてではなく、学校教材としてシリーズ化して継続していきたい。さらに、文化財の活用を地域や市民に引き続き展開し、特に未来をになう小中学生の学習の場に参加して、小中学生とともに歩む埋文事業へと質的向上をはかりたい。
 そして、何よりも太古から衣食住は人間の生活する原点であったが、利便性や快適さの追求の中で歩んできた人間は今やその水準が空気を吸うように当たり前のようになってきた。しかし、どんなに文明が高度化しても、絶対はあり得ないことを昨年の大震災―原発被災で私達は目の当たりにしてきた。火を起こす、衣類を作る、土器を作る、家を造る等々、古代人の原始的、素朴な生活目線から、自然に立脚した生活の工夫などを学校教材や出前授業などで未来を担う小中学生が体感する中から、少中学生とともに、私達の今日と将来の生活、暮らし、利便性、の在り方を模索していく一助となれば幸いである。








* なお、使用した資料は「出前授業用テキスト―古代のくらし体験―」(京都市考古資料館)の編集、作成のものである。