【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第10分科会 「地域力」「現場力」アップにむけた学び合い

 財団法人「日本クリスチャン・アカデミー」は、アカデミー運動を基調とした財団です。アカデミー運動は、第2次世界大戦の混乱したドイツにおいて、キリスト教会の指導者の呼びかけで、「はなしあい」を通して新生ドイツの進むべき方向を模索しようとする運動としてはじまりました。関西では京都に拠点を設け、「出会い」「はなしあい」「支えあい」の理念のもとに、日々、取り組んでいる活動を紹介します。



現代社会におけるアカデミー運動の果たす役割


京都府本部/日本クリスチャンアカデミー労働組合・執行委員長 北野 健一

1. はじめに

 京都は洛北の地、修学院離宮と曼殊院にはさまれたところに位置する関西セミナーハウスは、ひとつの顔として一般的には「宿泊・研修施設」で、企業、大学、人材育成、文化・芸術・趣味のグループなど、幅広い団体の研修の場としてご利用をいただいています。大小あわせて6つの会議室、洋室・和室をあわせて27の客室のお部屋を有し、館内には日本庭園、歴史的建造物としての能舞台、由緒ある本格的な茶室もあります。豊かな自然のなかにあり、研修や研究発表など学術・学芸の探求・創造の場としての環境には最適で、多くの団体に喜ばれています。
 また、ここ3、4年は観光で京都を訪れるお客様の「宿」としてのご利用も増えており、本年3月16日に、個人のお客様の満足度をあげていくためにリニューアル(第1期)をさせていただきました。名称も「関西セミナーハウス・修学院きらら山荘」とあらため、より一層、団体・個人のお客様に喜んでいただくために、今まで以上に奮闘・努力をさせていただいております。
 さて、この関西セミナーハウス・修学院きらら山荘の運営母体は「日本クリスチャン・アカデミー」という財団法人です。当財団は、アカデミー運動を基調とした財団です。アカデミー運動は、第2次世界大戦の混乱したドイツにおいて、キリスト教会の当時の指導者たちの呼びかけにより、はなしあいを通して新生ドイツの進むべき方向を模索しようとする運動としてはじまったことは、前回のこの集会で紹介させていただきました。あの戦争の反省から、戦後ドイツで意見の対立する人々の間における対話の必要性を強調してはじめられたこの運動は、やがてヨーロッパにひろがり、アジアにもひろげられ、日本でも大磯の地で産声をあげ、後に関西では修学院に拠点を設けました。3つの理念、「出会い」「はなしあい」「支えあい」を堅持し、社会と人々の持つさまざまな価値の多様性を尊重しながら、正義・いのち・平和が尊ばれる社会の実現をめざす運動体、それが、現在の財団法人日本クリスチャン・アカデミーです。
 今回は、財団法人日本クリスチャン・アカデミーの収益部門を担う関西セミナーハウス・修学院きらら山荘とは別に、公益部門を担う関西セミナーハウス活動センターの取り組みをご紹介させていただきます。

2. 関西セミナーハウス活動センターとは

 財団法人日本クリスチャン・アカデミーは、関西と関東に活動センターを設けています。収益部門の関西セミナーハウスと公益部門の活動センターはアカデミー運動の車の両輪の関係です。
 活動センターは、アカデミー運動の3つの理念に基づき、人間の出会いと相互理解をめざして、諸分野におけるはなしあいを推進し、孤立したり、対立している人間同士の間に対話を生み出していく運動のため、主催プログラムを企画・運営しています。

3. 多様な取り組み

 次に、具体的な取り組みをご紹介させていただきます。各分野で多岐にわたるテーマのなかで、アカデミーの今日的視点にたって、昨年度は以下のプログラム(主なものを抜粋)を主催・共催しました。

(1) 修学院フォーラム・いのちを考える
 これまでの生命倫理・医療倫理の枠をこえて、「いのち」をどのように考えるか、その根本のところをさまざまな分野の方々からお話を聞きながら考える主催プログラム。
① 第1回 「生命哲学とキリスト教」5月14日
        参加者21人
        講師:ホアン・マシア(イエズス会士、文教大学客員講師)
② 第2回 「71年間ハンセン病療養所に生きて」7月9日
        参加者71人
        講師:上野正子(国立療養所星塚敬愛園入所者)
③ 第3回 「いのちについて─キリスト教倫理と一般倫理のはざまから─」11月5日
        参加者18人
        講師:関根清三(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授)
④ 第4回 「いのちからの問い、いのちへの問い─生命倫理をこえて」12月17日
        参加者16人
        講師:安藤泰至(鳥取大学医学部保健学科准教授)

(2) 修学院フォーラム・人と教育
 いのちをつなぐ教育が求められています。教育の課題を共有しつつ、対話を通して、共に考え、共に希望を見出す主催プログラム。
① 第1回 「本当のことは“ひとり”から始まる」5月28日
        参加者33人
        講師:安積力也(基督教独立学園高等学校校長)
② 第2回 「仲間とつながりあって、ハッピーに生きようぜ」9月17日
        参加者20人
        講師:金森俊朗(北陸学院大学人間総合学部教授)
③ 第3回 「知の塵芥のなかで、自分をつくる」11月12日
        参加者9人
        講師:野田正彰(関西学院大学教授)

(3) 修学院フォーラム・福祉とこころ
 日本の福祉は大きな転換点を迎えています。そのなかでも新しい福祉の芽は地道に福祉の隙間を縫うように、展開されています。この新しい福祉の芽に注目し、明日の福祉を考える主催・共催プログラム。
① 第1回 「近頃気になる子どものはなし~いと小さき子らに導かれ」11月26日
        参加者25人
        講師:高木恵子(洛西愛育園園長)
② 第2回 「聖書に尋ねる福祉の思想」9月17日
        参加者15人
        講師:岡山孝太郎(京都基督教福祉会理事長、日本キリスト教社会福祉学会前副会長)

(4) 開発教育セミナー
 人権・平和・環境などの地球的課題がテーマの参加型学習。特に日本と世界とのつながりを「持続可能な開発」をキーワードに考える主催プログラム。
① 第1回 「【開発教育入門セミナー】Think Globally, Act Locally~《足もと》と《世界》をつなぐ~」5月8日
        参加者78人
        講師:佐藤友紀(教諭)他5人
② 第2回 「【開発教育入門セミナーパートⅡ】~実践編~」Think Globally, Act Locally~《足もと》と《世界》をつなぐ~」6月18日
        参加者13人
        講師:山中信幸(教諭)他
③ 第3回 「食とグローバリゼーション~日本の農業を考える~」7月23日
        参加者20人
        講師:大野和興(アジア農民交流センター世話人)
④ 第4回 「フィールドスタディ~炭鉱労働者のくらしと歴史を学ぶ旅 in 筑豊」9月17日
        参加者23人
        講師:犬養光博(前日本キリスト教団福吉伝道所牧師)
⑤ 第5回 「『ありのままのわたしをいきる』ために~多様な性と生~」10月29日
        参加者9人
        講師:土肥いつき(セクシュアルマイノリティ教職員ネットワーク副代表)
⑥ 第6回 「原子力の“平和”利用って? ~核と原発と温暖化~」12月10日
        参加者56人
        講師:小出裕章(京都大学原子炉実験所)
などです。
 その他、お抹茶を楽しみながら、聖書の「み言」を静聴し、お茶(茶道)と宗教の歴史的な関わり(高山右近と列福運動、大友宗麟と大徳寺)について学ぶ主催プログラムや、高齢者社会で避けて通ることのできない認知症について、その当人や家族などが孤立しないために、どのような対応が求められているか、見えないところに隠されがちな課題を共有しあい、新しい出会いを求める主催プログラム、紅葉の美しい季節に、関西セミナーハウスの施設を全面開放し、お茶、お琴、音楽、美術を楽しむ共催プログラムの「もみじまつり」、子どもの未来と幼稚園・保育園の教育を考える協力プログラムの「幼保セミナー」、次代を担う労働組合リーダーの全人格的教育をめざし、多彩な講義カリキュラムを網羅した、人間性豊かなユニークなリーダー養成講座として3週間の合宿制で行われる協力プログラムの「IMF-JC労働リーダーシップコース」などに2011年度は取り組んできました。以上は、特徴的なプログラムですが、年間を通してのべ1,000人をこえる人々が、プログラムに参加されています。
 ちなみに、2012年度も同様に、今日的課題を軸に、多彩で豊かな内容のプログラムを企画・運営しています。
 多くの参加者からは、それぞれのテーマにたいして、気づき・学びを深める第一歩となったことへの驚きととまどい、喜びが語られると同時に、さまざまな意見・感想が寄せられ、その参加者が、自らの職場、地域、家族に持ち帰り、またさらなる学びとはなしあいがはじまる連鎖が、この取り組みの強味でもあり、魅力とも言えるでしょう。
 関西セミナーハウス活動センターのプログラムは、ひとりの力が限られている現代社会において、創造的な考え方を持つ人々が集い、つながりあい、社会の新しい可能性を開くためのネットワークの場を確実につくりだしています。
 日本社会が直面しているさまざまな問題が、多岐にわたればわたるほど活動センターのプログラムやその取り組みは、ますます輝きをはなっていくことだと確信しています。また、そうあらなければならない姿をより一層築くために、それぞれの地域社会、ネットワークのなかで協力し合いながら「共生」への道を探求するところにアカデミーの使命があると確信し、この報告を結びたいと思います。