【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第10分科会 「地域力」「現場力」アップにむけた学び合い

 水道業界全体では広く知られている問題であるが、伊丹市水道局でも同様な高齢化によるさまざまな問題を抱えており、人的な問題である技術職員の技術継承、事務職員のノウハウの継承、運転管理委託について、災害時の対応について、また、設備面の問題である施設、水道管の老朽化への更新について、問題点を知っていただき、それぞれの問題に適切に対応して、今後ともライフラインである水道を安全に安定的に供給していきます。



水道の高齢化問題


兵庫県本部/伊丹市水道労働組合 松岡 正道

1. はじめに

 伊丹の水道は1936年に給水人口2万人で給水を開始以来、現在では給水人口20万4千人、給水量123,650m3/日と拡張してきています。伊丹市は猪名川、武庫川に挟まれる位置にあり、水道の水源としてこの2河川と淀川を加えた3河川を用いています。2005年には高度浄水処理を導入し、低廉で安心、安全な水を日々、供給しています。
 水道業界全体では広く知られている問題ですが、本市水道局でも同様な高齢化問題をやはり抱えており、本レポートで広く一般の方に水道業界の抱える問題を知っていただく一助になればと思います。

2. 高齢化によるさまざまな問題

(1) 技術職員の技術継承、事務職員のノウハウの継承
 報道等をみると他の業界でも同じような状況になっていると思いますが、高度成長期を支えた団塊世代職員の定年による大量退職が問題になっています。図1に本市水道局の職員年齢構成分布を、図2に職員の水道経験年数を示します。


図1 年齢別職員比率
図2 水道経験年数 

 55歳以上の職員が約6割を占めており、この年齢層が10年間で皆退職を迎えます。また、図2より35年以上の経験を持つ職員が67%を占めることがわかります。35年のキャリアを持つ職員が続々と退職し、その補充で新卒や未経験者が配属になりますので、人事異動が全く無い状態としても10年以上の経験年数を持つ職員が約4割、10年未満の職員が約6割といった構成になりますし、人事異動をすればさらに熟練職員の割合が低下していきます。近年の人件費抑制の状況の中、職員数も80人程度から60人程度に削減されている状況でも、水道事業が破綻しないのは、経験豊富な職員の能率的な仕事やトラブルを未然に防ぐ的確なメンテナンス、予期せぬトラブルへの早急で的を射た対応によるものと考えます。
 新規水道職員と熟練職員がスムーズに入れ替わるためには、熟練職員の持つ技術の若手職員への継承が非常に重要になっています。また、技術職員だけでなく営業等の事務ノウハウについても熟練事務職員のノウハウの継承が心配されています。しかしながら、この職員数が少ない状況では、職員一人ひとりが持つ仕事量が増え、熟練職員から若手職員への指導の時間も十分に無い中で、新規職員は熟練職員の穴を早急に埋められるよう、いち早く立ち上がらないといけない状況にあります。
 現在の人員補充のやり方を見ると、退職後補充となっており、退職する職員から新規職員へ引継ぎする形になっていません。人件費を増やす事は難しいのかもしれませんが、ライフラインである水道を安全に安定的に維持するためには、一時的な人件費増加を許容して、熟練職員の豊富な経験を短期で引継げるように退職の数年前に引継ぎ職員を採用・配属し、1対1で技術継承を行うことでスムーズな職員の入れ替わりが出来るのではないかと考えます。

(2) 運転管理委託について
 人的な高齢化の問題の2つ目は、浄水場における運転管理業務にみられます。浄水場の運転管理は職員による交代勤務により、1日24時間365日休み無く管理、監視されてきました。しかしながら、職員の高齢化により体力的な問題から夜勤への対応が難しくなり、また職員の異動も難しいため、運転管理業務の人員確保が難しい状況に陥りました。
 その解決策として外部民間企業への業務委託が考えられ、その際、本市水道局ではすべての運転管理を委託すると職員の技術レベルが低下し、委託業者へのイニシアチブが取れなくなることを懸念しました。この対策として、平日日勤は職員にて運転管理をし、業務を残すことにより、職員の技術レベルの低下を防ぎ委託業者に対しイニシアチブを持って指導、管理ができるようにしました。また、入札制度のため業者変更があったとしても職員による指導、管理ができる体制を確保しています。

(3) 災害時の対応について
 人的な高齢化の問題の3つ目は、災害時の対応です。これは以前から指摘されていたことであるが、東日本大震災で改めて問題提起されました。災害応援の場合、応援に行った先は厳しい状況にあるので、再任用職員や55歳以上の職員などは応援のリストから外されました。本市水道局では前述のように50歳以上が大半を占めるため、応援に行くことが可能な人数を調査すると十数人となり、数少ない限られた職員で応援活動を行うことになり一部の職員にのみ多大な負荷がかかりました。団塊世代の職員の退職と新規配属により職員の年齢構成が改善されるため、災害発生時の対応人数は増加していきますが、水道経験が浅い問題が残りますので、こちらでも技術継承の問題が絡んできます。

(4) 施設、水道管等の設備について
 これまでは人的な側面で問題を述べてきましたが、設備の面においても高齢化が問題となっています。報道等で水道管の破裂事故をしばしば見かけますが、水道設備は水を作る浄水場、水を各家庭まで届ける水道管と分けられますが、どちらも1960年台~1970年台の高度成長期に一斉に整備され、老朽化が懸念されています。これらの設備の大規模な更新が今後待ち構えており、莫大な更新費用の捻出が必要とされています。
 水道管の耐用年数は40年とされており、高度成長期に布設した水道管はまさに更新時期にあります。近年では水道管製品の長寿命化が進み60年と言われていますが、100年を謳うものもあります。本市においては、市内水道管総延長が約600kmあるため、6km/年を目安の更新距離として老朽した配水管の入替を行っています。
 浄水場においては電気や機械設備の更新費用も問題でありますが、構造物自体の更新が必要になった場合が一番難しい問題です。本市では空き用地がないため、いまある施設を壊して作り直すとすると、その期間の浄水運用をどうするのか、他の水道事業者から水を調達するのか、膨大な更新費用により水道料金の値上げが必要になるのか、他の水道事業者から調達できるとすると、浄水場更新の費用対効果の議論になることも考えられます。
 こうした莫大な費用が必要な未来に対して、アセットマネジメントを導入し安定した経営を行っていく必要があります。アセットマネジメントとは資産管理であり、これからの更新に必要な年次費用の見通しを立て、更新周期を伸ばせるものは伸ばし、費用の余裕がある年度に更新をシフトし、更新費用の平滑化をすることです。一方で水道料金の収入面での見通しを立て、収入と支出のバランスを確認し、料金改定の要否を判断します。アセットマネジメントにより、これからも水道事業を安定して経営できるよう、収入に見合った更新計画を立案し実行していかなければならない。

3. おわりに

 近年の節水意識の高まりや、節水技術の向上から水道料金収入が年々減っている状況で、設備更新、水道管更新など厳しい水道事業の状況にある。また、人件費抑制による職員数が減っているため一人ひとりの仕事量が増大しているなか、技術継承をスムーズに行わなければならない状況である。今後ともライフラインである水道を安全に安定的に供給するために、トラブルを起こさない、起こさせない、起きてもすぐに対応できるよう、水道職員の技術水準と施設・設備水準を一定水準以上に保ち続けるよう、水道の高齢化対策に取り組み続けます。