【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第11分科会 地域から考える「人権」「平和」

 邑楽町では毎年「邑楽町平和展」と題し、戦争の悲惨な過去を風化させることなく後世に継承する目的で、パネル展示や映画上映、戦時食の再現などを行っています。昨年は2011年3月11日に発生した大震災により、平和な日常を奪われてしまった被災地を支援するために、例年とは違うテーマで平和展を開催しました。



第28回邑楽町平和展について
継続していくことの重要性

群馬県本部/邑楽町職員労働組合(邑楽町平和展実行委員長) 中村 和典

1. はじめに

 昨年で28回目を数えた邑楽町平和展。この活動は、戦争の悲惨な過去を風化させることなく次の世代に継承しようという目的から始められました。開催にあたっては邑楽町職員労働組合青年婦人部(以下、青婦部)が中心となって実行委員会を立ち上げ、企画から運営まですべてを行っています。
 例年であれば、戦争や原爆などをテーマとして開催する予定でした。しかし2011年3月11日に東日本大震災が発生し、大津波や原発事故により日本全土に甚大な影響を及ぼし、青婦部からも4人が被災地へボランティアとして行きました。その後、彼らの活動報告会で被災地の悲惨な現実を目の当たりにし、青婦部員にも「復興支援のために自分たちに何かできることがないだろうか」という意識が芽生え初めたのがきっかけです。
 開催にあたっては、震災直後だったこともあり、「自粛した方がいい」「開催資金は義援金にすべき」という意見がありました。一方で、「平和展を通して被災地を支援できないか」「自分達も何かしたい」という意見もありました。
 そこで、青婦部員にアンケートを実施し、部員の率直な意見を吸い上げた結果、今回は被災地支援をテーマとして開催するという結論に至りました。しかし、その後も実行委員会発足段階で「今までと違う平和展を実際に開催することができるのか」という不安もありました。しかしながら、そうした不安をよそに、青婦部員の積極的な活動と協力により、震災から半年後、無事開催することができました。企画・立案・運営においては、例年どおり3部門制とし、各部門長を中心に行いました。
 以下では、各部門の活動内容を簡単にご紹介したいと思います。


2. 各部門の活動内容

(1) 展示・宣伝部門
 “被災地の現状を知る・災害時の対処法を知る・町内の避難場所を知る”
 知識があれば救える命があること、半年経っても復興は必要であることを伝えるために、青婦部員がオリジナルで展示物やチラシを作成しました。

① 邑楽町防災地図の紹介
  紙粘土を使って、邑楽町内の避難場所や安全な避難経路を分かりやすく紹介。ハザードマップを立体的に表現し、子どもから大人まで興味を持てるよう工夫しました。

② 被災地ボランティアの活動報告と震災から復興したまちの写真展示
  震災直後、ボランティアへ赴いた青婦部員の活動報告と、阪神・淡路大震災で壊滅したまちが時間とともに復興していく様子を紹介。震災から復興を遂げたまちを見ることによって、東北も必ず復興してくれるという希望を持ちました。
③ 「応急処置・災害時の行動Q&A」と「非常持ち出し品の展示」
  またいつ震災が起こるかわからない昨今。知識があれば、助かる命もあります。いざという時に何ができるか……備えあれば憂いなしです。


(2) 料理支援部門
 “食を通して被災地に思いを馳せる。そして支援につなげる”
 というコンセプトから、被災地岩手県の郷土料理である「ひっつみ」と、非常食の定番である乾パンを食べやすくアレンジした「揚げ乾パン」を作りました(無料配布)。また、料理配布コーナーに募金箱を設置し、義援金を募りました。

① ひっつみ
  小麦粉を使った岩手県の郷土料理。小麦粉を練って固めたものを、ひっつまんで汁に投げ入れて作ることからこの名前がきています。
② 揚げ乾パン
  非常食の定番である乾パン。缶を開けて食しても、ただの乾パンです。そこで、油でカラッと揚げ、ココアやコーンポタージュなどお好みのフレーバーを振りかけてみました。女性目線の簡単おしゃれなレシピです。

(3) 邑楽の想いお届け部門
 “遠く離れた邑楽の想いを被災地へ届けたい。今できることをやろうじゃないか”
という青婦部員の想いを形にしました。やれることを限界までやり尽くした部門です。体験料・売上金を義援金としました。

① 手作り体験教室
 ア 起き上がり小法師絵付け……「転んでも起き上がる」というキャッチフレーズは、まさに今の日本にふさわしいといえる会津若松市の民芸品、起き上がり小法師(体験料1回200円)。
 イ 負けるな東北ストラップ制作……とある青婦部員が趣味にしている消しゴムスタンプを使用。好きな文字や絵を木片に押し、ストラップを作りました(体験料1回100円)。

② チャリティ物産展

  組合員や町民からの御厚意により無償提供していただいた物品の激安販売や、農家からいただいたお米を1回50円でつかみ取りしてもらい、全額義援金としました。また、「がんばれ日本ポロシャツ」を作成し、1着1,500円で職員に販売し、売上金の一部を義援金としました。クールビズとして、庁舎内で着用することを邑楽町職労委員長とともに総務課長へお願いしました。


③ スタンプラリー
  会場内に設置された4か所のポイントを巡り、すべてのスタンプを押してくると、抽選が1回できます。ハズレなしで1等は旅行券2万円分でした。


イベントのフィナーレとして
震災発生時刻の14時46分に
復興への願いを込めて風船飛ばし
開催日時:平成23年9月10日(土)
場  所:邑楽町立図書館
義 援 金:114,010円
来場者数:約1,200人

  


3. 総 括

 例年であれば、展示・映画・戦時食と毎回決まった部門で、同じ過程をたどり、準備から実行までを行っていく予定でした。しかし、今回は被災地支援という初のテーマであったため、青婦部員も自ら言い出したものの、前例がないため、いったいどこから何を始めればいいのかということでかなり試行錯誤していました。節電と限られた予算の中、部門内においてもいつもより多くの会議が行われ、時間、労力ともかなりのものとなりました。
 展示・宣伝部門では、コストを抑えるため、例年作成しているポスターを作らず、チラシのみの配布・宣伝としました。チラシのみでできるだけこの平和展を周知するため、自分たちで町内外のショッピングセンターや各市町村施設へお願いし、チラシの配布を行いました。
 料理支援部門では、当初、被災地の野菜や食材を使おうという企画がありました。被災地から仕入れれば、そのままそこへお金を落とすことになるからです。しかし、福島の原発事故による放射能の影響もあり、途中で企画を変更しなければなりませんでした。
 邑楽の想いお届け部門では、まず何をすればいいのか、どこまでが実現可能なのかと、部門発足当初から悩んでいたようです。やるべきことがある程度分かっている他の部門とは違い、限られた予算と時間、人員で、被災地の支援になることができるのか、暗中模索、右往左往する日々が続いていました。
 このような各部門の多大なる努力の甲斐もあってか、平和展当日は桐生市など遠方からもチラシを見て来場してくれた方もおり、その成果は非常に大きかったといえます。各部門長となった青婦部員も「部門長という重責を部門員の協力もあり、なんとかやりとげることができた。部門長を通じてたくさんのことを学ぶことができた。」「毎日、当たり前のように私たちの口に運ばれている料理には、生産者や料理の作り手の想いが込められているということに気が付きました。そして、私たちは被災地支援への想いを込めて料理を作りました。」「新たな試みの連続だった今回の平和展は、大変なことも多かったが、それ以上に新しいことに挑戦できたことが楽しかった。」と感想を述べてくれました。
 平和展も今年で29回目を迎えます。平和の大切さを伝えるため、また、自分たちの今ある日常を見直すきっかけとして、そして青婦部員の自己研鑚の場として、今後も平和展を継続していくことは大切であろうと思います。戦争も震災も、この悲劇を忘れぬよう後世に語り継いでいくことは現代において非常に重要です。しかし、実際青婦部だけでは活動内容や開催規模にも限界があります。また、予算や時間的にも縛りが多いため、この平和展を継続していくこと自体を疑問視する意見もあります。歴史を刻み、地域に根差してきた平和展ですが、今後も継続していくには、青婦部だけでなく、もっと組合や町全体で取り組めるよう働きかけていく必要があります。
 一年を経過した今でも被災地の復興活動は続いています。組合員として、自治体職員として、今後も被災地への継続した支援を続けていくことができれば、今回の平和展を開催した本当の意味があるのではないだろうかと思います。