【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第11分科会 地域から考える「人権」「平和」

 警察官らの戸籍謄本等を不正取得したとして、昨年11月、プライム総合法務事務所の経営者や現職の司法書士、元弁護士、探偵会社代表ら5人が逮捕された。この事件で不正取得された戸籍謄本等は、2008年11月以降、2万件にもおよぶという。部落解放同盟京都府連合会は、府内の市町村でも不正請求がないか開示請求を行った。このレポートでは、その結果と課題について考える。



戸籍謄本等の大量不正取得事件について

京都府本部/部落解放同盟京都府連合会・副委員長 安田 茂樹

1. 事件のあらすじ

 愛知県警の警察官らの戸籍謄本等を不正取得したとして、昨年11月、東京のプライム総合法務事務所の経営者や現職の司法書士、元弁護士、探偵会社代表ら5人が逮捕されました。この事件で不正取得された戸籍謄本等は、2008年11月以降、2万件にもおよぶといいます。このうち、警察官関係は2件のみ。ほとんどは、結婚などの身元調査にもちいられ、荒稼(あらかせ)ぎしていたものと思われます。法務事務所経営者は1億5,700万円、探偵会社代表は7,800万円もの利益を得ていました。
 当初、偽造された職務上請求用紙は司法書士用でしたが、発覚しそうになったため、逮捕された司法書士が行政書士の資格ももっていることから、行政書士名義の請求用紙も偽造し、使用していました。
 5人は、有印私文書偽造・同行使罪や戸籍法違反などで名古屋地裁に起訴され、既に一部には有罪判決も出ています。
 なお、元弁護士は、東京弁護士会を除名処分になって弁護士資格を失う2008年4月ごろまで、同様の不正請求をしていたとのことです。ほかにも2006年以降、弁護士ら数人が名義を貸していたとみられています。
 弁護士や司法書士など8業士は、職務上請求用紙で戸籍謄本等を取得することができますが、この用紙には不正使用を抑止するために番号がついており、どの番号の用紙を誰に渡したか、それぞれの会で把握できるようになっています。また、大量不正使用できないよう、現在では、一度に購入できる用紙は100部。しかも、控えを会に提出しなければ、次の用紙を購入できません。そこで、今回の事件では、八幡市のデザイナーをまきこみ、請求用紙を偽造していました。

2. 部落解放同盟が開示請求

 部落解放同盟京都府連合会は、府内の市町村でも不正請求がないか開示請求を行いました。その結果、開示された請求用紙は129通。司法書士用の用紙が127通、行政書士用の用紙が2通でした。
 本来の請求用紙は窓口提出用と控え用(次回の用紙購入時に会に提出)の2枚セットで、同じ番号はありえませんが、偽造である以上、控えを残す必要はなく、印刷費を安くあげるためか、同一番号のものが多数見つかっています。
 開示で明らかになったのは、すべてが財産分与請求の訴訟(2011年5月ごろまでは財産分与請求の裁判の管轄調査)を理由にしており、昨年6月以降の行政書士用の請求用紙では財産目録となっています。
 なお、京都司法書士会に解放同盟が要請を行った際には、このような曖昧な事由での申請に自治体が応じたこと自体に疑問の声が出ていました。


戸籍謄本等不正取得・開示請求結果
京都市
78
上京区
左京区
15
中京区
東山区
山科区
下京区
南 区
右京区
11
西京区
洛西支所
伏見区
11
深草支所
醍醐支所
福知山市
宇治市
宮津市
亀岡市
向日市
長岡京市
八幡市
京田辺市
京丹後市
南丹市
木津川市
久御山町
宇治田原町
精華町
南山城村
与謝野町
総 計
129
*うち、右京区と洛西支所の各1件は、行政書士用の用紙。

偽造された「不正請求書」


3. 被害者への通知を

 2007年に戸籍法が改正され、不正請求にはそれまでの行政罰(過料)ではなく刑事罰(罰金)が課されることになり、簡易裁判所への略式起訴ではなく、地方裁判所への正式起訴となりました。
 他方、これまでは、簡裁で一括して不正認定されていたものが、地裁への正式起訴では、1万件を超える大がかりなものであっても、裁判で厳密な証明ができる数件のみが起訴対象となり、他は実際上、不問に付されてしまいます。
 そのため、これまでは簡裁の決定をもって市町村は不正と認め、被害者本人への通知を行ってきましたが、今回の件では、偽造された請求用紙であっても、多くが裁判上の不正認定がされないことになってしまいます。したがって、市町村が本人通知の根拠を失ってしまうことになりかねません。
 しかし、今回の不正事件では、偽造用紙であるうえに、同一番号のものが多数見つかっており、不正認定するしかありません。
 被害の事実を知らない被害者に通知してこそ、真相解明も進みますし、人権回復にもつながります。当該市町は、早急に本人通知を行うべきです。