【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第11分科会 地域から考える「人種」「平和」

 「平和と人権・環境」を産別運動の重要な柱と位置付け、自治労兵庫県本部は1998年から毎年6月に「平和・人権・環境を考える集い」を開催してきた。地域に広げようと取り組んできた「集い」を振り返り、その意義や今後の課題について検討する。



「平和・人権・環境」は産別運動の柱


兵庫県本部/自治労兵庫県本部直属支部 荒西 正和

1. 「集い」をはじめた3つの理由

 自治労兵庫県本部は1998年から、組織内に「平和・人権・環境実行委員会」を設置し、年1回の平和・人権・環境を考える集い(第1回目は「平和と人権・いのちを考える集い」の名称だった)(以下=「集い」と略)や沖縄視察団、有事法等の課題別学習会などを取り組んできた。本レポートでは、今年で15回を重ねた「集い」を振り返ることで、県本部運動の豊富化に寄与したいと考える。
 県本部が「集い」を開催することとなった理由は、次の3点の問題意識からであった。
 1つは、産別運動の重要な柱である「平和と人権・環境」の問題を主体的に取り組むこと。自治労本部や平和フォーラムから呼びかけられる諸取り組みを受動的に担うのではなく、主体的に取り組むことで「平和・人権・環境」を自らの課題として県本部・単組に根付かせることであった。
 2つは、評議会が取り組む課題を産別全体の横断的な取り組みとして広げること。自治労は職域や課題ごとの評議会を有し、それぞれに政策課題も持っているが、同じ組織内であっても活動分野が異なると「全く知らない」状況がある。例えば青年女性が取り組む非核自治体宣言採択、公企評が求める「水基本法」、現業評議会の環境行政の課題等々である。内部交流によってそれらを産別課題へ押し上げるということである。また、組織内には、農業問題や反原発運動を担うグループも存在し、県本部がともに活動する場をつくることで組織内の活性化もめざした。
 3つは、「平和・人権・環境」を自治労が主体的に議論・実践し、その課題を地域に広げることである。地域に出て住民とともに苦労し、自治労に対する連帯や信頼を築こうということである。
 全体情勢としては、「橋本6大改革」による行政改革、地方分権=市町村合併の推進により、公務員バッシングや地方自治への攻撃が本格化する時期であった。それに対応する運動づくりが意識されたといえる。


2. 「集い」の内容と変遷

 では、具体的に「集い」で何をしてきたのか。プログラムとしては、メインテーマに基づく記念講演と、それに続く分科会や各種催しである。メインテーマは、「平和→人権→環境」とローテーションさせ、実行委員会で記念講演や企画内容を議論してきた。(記念講演のテーマと講師は別表を参照)
 初回の1998年は、ダイオキシンの危険性が世間の注目を集め出した頃で、なかでも兵庫県の宍粟環境美化センターから全国最高濃度の数値が検出され問題となっていた。現業評議会が中心となり、学者・行政・市民・労働組合の代表者で「環境保全と廃棄物行政」と題するシンポジウムを企画し、「集い」の目玉とした。一般参加者も募る初めての試みであったため、市民の参加を髄分意識した内容であった。なお、この年の他の企画は、映画「ガイア・シンフォニー」の上映、利き水=公企評、新農業基本法の学習会(農ネット結成総会を兼ねる)=農ネット、原発・核燃料サイクル問題の学習会=神戸市職労、沖縄パネル展示=青年部、環境保護製品の販売=女性部などである。
 今年で15回を重ねた「集い」だが、改めて振り返ると、いくつかの転換機があり、運動体の構えも変化してきた。転換点を整理すると、1回~4、5回までを第1期、5、6回~12回までを第2期、13回以降を第3期と分けられる。それぞれの特色を整理する中から、前進面と後退面を考える。


別表 記念講演のテーマと講師
 
テ  ー  マ 
講     師 
開催地
第1回
自治 平和・環境・いのち・自治 須田春海 市民運動全国センター代表世話人 神戸市
第2回
環境 地球温暖化と人類の未来 井下田猛 姫路獨協大学教授 神戸市
第3回
人権 在日外国人の人権をめぐる現在の状況 田中宏 龍谷大学教授 神戸市
第4回
環境 自然との共生と水循環 横山孝雄 姫路工業大学環境人間学部 神戸市
第5回
平和 沖縄本土復帰30年と平和を巡る今日の状況 大田昌秀 参議院議員 三田市
第6回
人権 障害者の人権を考える 平本あゆみ 高校生 尼崎市
第7回
環境 美しい地球を子どもたちに 高木善之 ネットワーク「地球村」代表 大河内町
第8回
平和 戦後60年、平和を考える 岩松繁俊 原水爆禁止日本国民会議議長 神戸市
第9回
人権 児童虐待・犯罪の問題から人権を考える 長谷川博一 東海女子大学教授 高砂市
第10回
環境 宇宙は私たちのふるさと 黒田武彦 西はりま天文台公園長 篠山市
第11回
平和 沖縄の平和闘争に学ぶ 比嘉利彦 沖縄県本部執行委員 神戸市
第12回
人権 パッチギ! と人権 井筒和幸 映画監督 宝塚市
第13回
環境 自治体と環境の関わり 高橋淳 NPO法人ネイチャーアカデミーもがみ事務局長 明石市
第14回
平和 平和な社会を実現するために 川崎哲 ピース・ボート共同代表 神戸市
第15回
人権 原発事故から考える日本の人権 西尾漠 原子力資料情報室共同代表 神戸市

3. 第1期から第3期までの特色

(1) 第1期 -組織内の活性化-
 第1期は、「集い」を構成する組織内で議論を深めた期間であった。「集い」の場で、兵庫県本部の農ネットが結成され、「集い」を運動の集約点と位置づけ、単組オルグなどが取り組まれるようになった。人権をメインテーマにした第3回からは、障労評、臨職評が参加することとなり、障害体験ラリーや職場で体験する差別的扱いを小劇にして自らの抱える課題を訴えた。そして第5回では、在日外国人の生活相談業務を担う兵庫県国際交流協会労組(HIA労組)が結集し、スキルを生かした「多言語での労働相談」をはじめたのである。
 平和・人権・環境を自らの課題ととらえた単組や評議会が「集い」に結集してきた時期であった。市民参加を意識しながらも、組織内部が「集い」の場を生かして何を訴えるのか模索し、組織内の活性化をもたらしたといえる。

(2) 第2期 -主体は地域共闘-
 第5回で初めて神戸市外の「集い」を開催し、地域開催のきっかけとなった。そして第6回からは、単組が関わりを持つ地域運動を基盤に「集い」を開くことになるが、これが第2期の特徴である。尼崎で開催した「集い」は、メイン講師を学者・専門家にするのではなく、地域の支えによって人工呼吸器をつけながら高校に通う平本あゆみさんにお願いした。地域における人権確立のたたかいの上に立って、講師や催しが企画される最初の経験となった。その後の高砂では、東はりまマダンの仲間、篠山では部落解放共闘を中心に「集い」を実施した。
 この時期は、「集い」の主体が地域共闘に移り、それぞれの単組が持つ地域のつながりを全体で共有化する場となった。マイノリティ団体の文化発表や物産展なども行うようになり、「集い」がお祭り形式になることで、第1期で活躍した単組や評議会の関わり方が難しくなる面も抱えていた。


(3) 第3期 -鮮明になる交流課題-
 地域のイベントという雰囲気を改め、単組や地域の運動に学び合うスタイルとなったのが第3期である。第13回「集い」では、神戸の大震災の経験を踏まえた「せせらぎのある町づくり」、明石の「ため池を通した地域交流づくり」の実践に学んだ。第1期、2期と比較すると規模は小さくなったが、学ぶべき課題を明確にし、受け止める側にもわかりやすいという特徴を持っている。
 第14回、15回では、原発事故に関係する分科会を行っているが、「放射線業務従事者の年間被曝限度が、国際基準を無視して一方的に引き上げられている。労働組合としてどう考えるのか」「全国に放射能汚染が拡大する中で、私たち市民運動は地域で給食の染料チェックや被災地の子ども受け入れなどを行っている。地方自治を担う自治労にも一緒に考えて欲しい」など、私たちへの課題も突きつけられている。外からの刺激をストレートに受ける「集い」になってきている。
 連帯の広がりも確認できる。外国人労働相談を行ってきたHIA労組から、「外国人当事者、支援団体、行政(自治労)が、それぞれのノウハウを交流したい」と提起があり、第14回「集い」から「多文化共生社会」の分科会をはじめ、新たなネットワークが模索されるようになった。ただ、第3期の傾向は、訴えがストレートであるため、関心ある者のみに縮小してしまう危険性も持っている。


4. 第7回「集い」が見せた自治労のパワー

 2005年、大河内町(当時)で開いた第7回「集い」は、地域住民を含む870人が参加する一大イベントとなった。私たちが目標の1つとした「地域に広げる」を実践した例といえる。その要因は何だったのか。
 当時の大河内町職は組織内首長を有していたが、小さな町の中では「役場と住民」という構図になり、組合と住民との距離感に難しさもあった。町合併を目前に控え、町職には「町の将来について住民と一緒に考え、取り組みたい」との思いはあったが、地域に出ることへの躊躇もあった。そんなときに県本部から「大河内町で『集い』を受け入れてくれないか」という話があったのである。
 「集い」をきっかけに町職の執行委員はもとより、組合員が「こんな取り組みをするので、協力して下さい」と住民の中に入っていった。結果、農業団体や商店、ホタルを守る会、PTA等々、地域が一体となった「集い」をつくりあげたのである。
 この力が生まれた背景には、役場組合員1人ひとりは、職員としてはもちろんのこと、住民としても地域と密着につながっている現実があった。そこに組合の「町の将来について住民と一緒に考えたい」という思いが加わり、不安を抱えながらも1歩を踏み出したのである。
 「『集い』を一緒に取り組んだ住民からは、『組合もええことやってるな』と言われ、各種団体とのつながりが濃くなった」と元委員長は話している。
 事実、その後の合併協議会には、「集い」で築いた関係を基盤に町職も議論に参加し、2009年には合併後の神河町長選挙をたたかい、組織内首長を誕生させている。


5. 15年の経験から次のステップへ

 自治労兵庫県本部が、「集い」をはじめた頃よりも、自治体労働者へのバッシングは強まり、労働運動総体の「平和・人権・環境」の取り組みも弱くなっている。「県本部・単組で主体的に取り組もう」「地域に広げよう」と目標は掲げたが、それを担う客観的条件は悪くなっている。逆にいえば、平和・人権・環境が脅かされ、分断させられている情勢だからこそ、運動として「集い」を発展させることが必要である。15年間の特色や経験を踏まえて、以下に課題をまとめたい。
① 第1期に行われていた、「『集い』を通して何を発信できるのか」と議論することが薄れている。福祉、医療、教育にまで市場化の流れは進み、私たちが発信すべき課題は増加しているはずである。
② 単組や評議会の取り組みを産別で共有することが不十分である。当初から掲げてきた目標であるが、「せせらぎのある町づくり」や「ため池を通した地域交流づくり」で、地域に実践があっても運動として集約されていないことがわかった。単組では「平和・人権・環境」を担う運動として意識されていないものも多いのではないだろうか? 実践交流によって問題意識が深まれば、もっと楽しい運動が地域で展開されるかもしれない。
③ 第3期に入って、自治労への意見や多文化共生のネットワークづくりなど継続して取り組む課題も現れている。「集い」で出された課題を議論するため、実行委員会の充実が必要である。
 「平和と人権、環境」は産別の重要な柱であり、これを主体的に担うことがますます重要となっている。「集い」を年間の一行事に終わらせるのではなく、地域での力づくりと位置付けて取り組んでいきたい。