【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第13分科会 地域で再生可能な自然エネルギーを考える

 東日本大震災による福島第一原発事故を受けて「脱原発」の動きが広まるなか、自然エネルギーが原子力発電の代替エネルギーとなり得るのか。本町が有する地熱発電について、その可能性と問題点について考察する。



“脱”原発を担う自然エネルギーの模索
~地熱発電の可能性と問題点~

大分県本部/九重町職員労働組合・自治研推進委員会

1. 概 論

 2011年3月11日に発生した東日本大震災は、地震・津波・原発事故が重なる未曾有の大災害となった。死者・行方不明者は、2万2,000人(*1)を超えているが、全容はいまだつかめず、余震も続いている状況にある。また、その後に発生した福島第一原子力発電所の大事故は、直接の被災地でない首都圏での大規模停電、大電力不足を発生させた。
 直接の被災地である東北の復旧、復興も今後の長期的かつ大事業であるが、首都圏の電力不足解消も短期的な復旧は不可能であり、これまでのエネルギー体系や論議を根底から覆すことになった。今回の事故は、日本のみならず「脱原発」や「反原発」の動きが世界的に広まりつつある。6月12、13日には、イタリアにおいて将来の原子力利用の是非を問う国民投票があり、福島第一原発の事故後、世界で初めて行われた原発再開の是非を問う国民投票であったが、投票者の90%以上が「ノー」の意思を示す形となった。原子力は現在、日本の電力供給の約4分の1を占めている。1000年に1度と言われる大災害とはいえ、今回の福島第一原発の事故を受け、その見直しは避けられない。また、住民の反発も考えられ、今後、福島原発を使うことは不可能に等しい。原発そのものへの反発が高まり、別の場所での新規建設についても今後厳しいと思われる。一方で、これから原発なしでは、夏場のピーク時の電力需要に対し、供給は絶対的に足りないという現実もある。
 政府も東京電力と東北電力管内のこの夏のピーク時の最大使用電力の削減目標を一律前年比15%減とすることを決定しており、企業においてもさまざまな節電の工夫が広がっており、住民レベルでも節電に対する意識が変わりつつある。
 しかし、原発に替わるものがあるのかというと、結論から言って、現実的には極めて難しい。その中であえて可能性を指摘するならば、やはり「自然エネルギー発電」の普及であろう。原子力に替わる新たなエネルギーは何なのか。地熱発電や中小水力発電や洋上風力発電が巷で話題となっている。今回、自然エネルギーが原子力発電の代替エネルギーとなり得るのか。本町が有する地熱発電について、その可能性と問題点について考察する。

2. 自然エネルギー

 原発に代わる新たな電力供給が望まれる中で、自然エネルギーに期待が高まっている。
 以下に、その現状と全国的な自然エネルギー自給率について言及する。【図1表1参照】

(1) 太陽光発電
 総電力の1%以下、住宅用太陽光発電パネルも普及率は3%以下と、まだまだ定着したとは言いがたい。しかし、そのポテンシャルは相当大きいと考えられる。日本は太陽光発電開発のトップランナーであったが、2005年に補助金制度が廃止になってから伸び悩み、2009年に同制度が復活したことで急伸。今後は普及によってコストがさらに下がるものと見られている。

(2) 風力発電
 風力発電は世界的な自然エネルギー普及の牽引役だ。ドイツでは総電力量の16%が自然エネルギーだが、そのなかでも風力発電は7%と高い数値を占めている。一方で、日本では台風に耐えうる風車を造らなければならないため高コストであることや、建設に必要な平地の確保が困難であることなどが原因で普及率は低い。新設容量は世界18位で、1位の中国の約75分の1と大きく差をつけられている。

(3) 地熱発電
 火山活動による熱から発せられる蒸気によってタービンを回し発電。化石燃料を使用しないクリーンエネルギーとして注目されているが、環境エネルギー政策研究所が発行した「自然エネルギー白書2010」によると、建設費が高い割に収益性が低いことや、温泉業者との軋轢、地熱資源を有する自然公園内での新規開発が許されないことなど弊害が多く、開発は低迷している。

(4) バイオマス発電
 木くずや燃えるごみなどを燃焼する際の熱を利用して行う発電方式。バイオマスは有機体なので二酸化炭素を排出するが、それと同じ量の二酸化炭素を吸収しているためプラスマイナスゼロ(カーボンニュートラル)なのだという理論のもと、地球環境に悪影響がないエネルギーとして利用されている。2008年の累積導入量は約313万キロリットルで、1990年比約7.5倍に増えており、現在も急速に伸びている。


図1 都道府県別自然エネルギー自給率(*2)
 
表1 都道府県別・市区町村別自然エネルギー自給率(*2)
順位
都道府県
自給率(%)
大分県
25.24
富山県
16.76
秋田県
16.50
長野県
11.19
青森県
10.64
順位
市区町村
自給率(%)
熊本県五木村
1599.1
福島県柳津町
1231.8
大分県九重町
1134.2
熊本県水上村
848.2
長野県大鹿村

790.1


3. 地熱発電の仕組みについて

 地熱発電とは、火山活動による地熱で蒸気を発生させて発電する方法である。現在、日本には18箇所の地熱発電所があり、合計で535mW(原発1基の半分ほど)の発電容量である。火山国である日本には、ポスト原発の有力候補として最も適しているとも言える。地下熱源から噴出する蒸気を用いて蒸気タービンを駆動させることにより出力を得る発電形態で、地下熱源がいわば自然のボイラーとなっている。蒸気とともに噴出する熱水については、還元井にてそのまま地下に還元しているが、今後未利用エネルギーとしての有効活用が期待されている。【図2参照】


図2 地熱発電の仕組み


(1) 蒸気井
 地下深部の地熱貯留層から熱水と蒸気を取り出すための井戸であり、この蒸気でタービンを回し発電を行う。

(2) ニ相流体輸送管
 蒸気と熱水が混じっている流体(二相流体)を蒸気井から発電所へ送る管である。

(3) 気水分離器
 蒸気井から二相流体輸送管を通ってきた蒸気と熱水混じりの流体を蒸気と熱水に分離する装置で、分離された蒸気はタービンへ、残りの熱水は、フラッシャーへ送られる。

(4) フラッシャー
 熱水を減圧膨張させ、蒸気(2次蒸気)を発生させる装置である。2次蒸気はタービンへ導かれ、熱水は還元井により地中深く戻される。発電所によっては、フラッシャーや2次蒸気管がないこともある。

(5) タービン・発電機
 タービンは発電機を回すための羽根車で、蒸気の力で回る風車のようなものである。1分間に3600回転で発電機を回し、電気を作成する。

(6) 復水器
 タービンで使用された蒸気を冷却水で凝縮させる装置で、凝縮された温水は冷却塔へ送られる。

(7) ガス抽出装置
 蒸気中に含まれるガスを復水器から抽出する装置で、抽出されたガスは冷却塔上部から排出される。

(8) 冷却塔
 復水器でできた温水を冷却させる装置で、この冷却水は復水器に送られて蒸気を冷却するために再び使用される。

4. 地熱発電の現状について

図3 日本における地熱発電地域

 我が国の地熱発電については、1966年に我が国初の自家用地熱発電所として松川地熱発電所(運転開始当時9,500kW、現在2万3,500kW、岩手県松尾村)が、また、1967年に我が国初の事業用地熱発電所として大岳地熱発電所(運転開始当時1万1,000kW、現在1万2,500kW、大分県九重町)が運転を開始した。
 現在(2000年末)、我が国の地熱発電所は18地点で合計約53万5,000kWとなっている。
 日本国内の地熱発電の発電量は、総発電量の0.2%を担うに過ぎない。53万kWは、福島第一原子力発電所や美浜原子力発電所などにある中型原子炉1基分にすぎない。
 九州電力では比較的に地熱発電が盛んだが、それでも九州地方全域で生産可能な電力の総量の2%を占めるにとどまる。【図3】

 

 


5. 地熱発電の特性について
メリット
デメリット
○燃料が不要である。
○半永久的に安定利用できる。
○クリ-ンエネルギーであって、CO2排出量が少ない。
○純国産のエネルギ-である。

○地域が限定される。
○発電規模が小さい。
○発電単価が火力や原子力より高い。
○存在位置や資源量に不明な点が多い。
○新エネルギーの枠外に置かれているため、政府からの援助金がもらえない。


6. 九重町における地熱発電の概要について

 九重町における地熱発電の歴史は、九州電力の前身である九州配電が1949年、大分県下の地熱地域の調査研究を開始したことに始まる。その後、大岳地区が、最初の開発地として有望視され、1967年8月、国内電力会社初の地熱発電所として大岳発電所が営業運転を開始した。その後、1977年には、八丁原1号機、1990年には八丁原2号機、滝上発電所が運転をスタート。(図4参照)今では、地熱発電量日本一の町として14万7,500kWを発電。これは一般家庭の約7万4,000軒の電気を賄っている計算。
 千葉大とNPO法人環境エネルギー政策研究所の共同研究(2007年度試算)によれば、大分県は、民生用エネルギー需要を自然エネルギーで賄っている割合が国内トップである。しかも、域内の民生用エネルギー需要を自然エネルギー発電のみで賄っている市町村は、62ある中で九重町が1位となっている。地熱資源の有望地域は自然公園内に多いため、地熱開発に際しては、周辺環境との調和を図ることが大切となる。八丁原発電所も、自然公園内に位置していることから、この点に留意して建設が行われてきた。なお、発電所の運転によって周辺住民の生活に支障が及ばないよう配慮し、「共存共栄」をキーワードに地元への資源還元も図ってきた。
 具体的には「地熱ミュージアムタウン構想」を掲げ、取り出した蒸気の一部で水を温めて旅館や民宿、一般家庭に給湯したり、バラや蘭を栽培したりするビニールハウスを温めたる農業での利用、川えびの養殖にも活用できるシステムを構築。更に、地元との信頼関係を構築するため、地元への情報提供も欠かぬよう企業と地元の代表者との意見交換会も定期的に開催し、行政も積極的に入り、情報提供に努めている。
 しかし、全てが順調に推移してきたわけではない。過去には、この温水について「筋湯温泉が地熱発電所の廃水だった。」として週刊誌の見出しで大きく取り上げられたこともある。くじゅう連山に抱かれた同温泉郷は旅館、ホテルなど32軒。日帰りを含め年間46万5,700人が利用する。記事は「(近くの)九州電力八丁原地熱発電所の高熱蒸気を冷却してできた廃水が同温泉に分湯されている」と指摘し、温泉の表示に疑問を投げかけたものであった。これに対し、町としては、温泉分析書を手に「1974年から1時間150tを無償分湯してもらい、源泉と共に使っているが、発電用蒸気を有効利用した立派な温泉水(弱アルカリ性単純泉)で、温泉法上も問題ない。廃水ではない」と提言をした。筋湯温泉の主な泉源は、九州電力において発電用に掘削した泉源から噴出する熱水を2004年5月に完成した脱ヒ素処理装置により脱ヒ素したものである。もともと地下に戻していたものを有効利用するようになったもので、安全で極めてきれいな温泉熱水である。一部施設では、地下から噴出した蒸気を冷却水で冷却し、温水となったものを使用しているが、これも温泉法上の温泉であり、問題ないとの見解を示したこともある。


図4 九州電力八丁原地熱発電所全景


7. 地熱発電の将来性について

 日本には18箇所の地熱発電所があり、規模は1万から11万kWの小規模の設備である。地熱発電所の大きい規模では、アメリカの308万kW、フィリピンの190万kW、インドネシアの120万kWが実働している。
 実は、日本における地熱発電の潜在発電能力は世界第3位のレベルで、日本地熱学会では、2,340万kWの潜在力と推定し、今の技術でも240万kWの発電が可能としている。この発電開始時期を早めるとともに、潜在的な利用可能地域を調査し、海外の優れた技術も導入して技術革新を重ねれば、1,000万kW程度は、日本で自給可能なエネルギーとなると言われている。
 日本の原発は設置以来、30年を超える設備が多くなって、安全性を維持するのは、不安な状況が増えている。これらを、耐久性を維持する改修を重ねて、無理やり使い続けるよりも、地熱発電所の開発投資にむければ、原発10基分程度の電力は、はるかに安全に且つ安価に確保できる。また、地熱発電所による廃熱は、地元の熱エネルギーや温泉施設への利用ができるので、地域産業の活性化にも貢献できる。
 しかし、地熱発電の新規導入には、課題は多々ある。日本において、地熱発電開発を進めるには、地熱の潜在利用可能地域は多くが国立公園にあるので、国の政策を整備し直さなければ、環境維持とエネルギー自給の両立が難しい。そして、地域社会に恩恵をもたらす社会的な制度と地元の合意が、1番の検討課題であると考えられる。
 現実的に、原子力の代替となり得ると考えるには無理があるようにも認識できる。大規模な地熱発電が実現できるには条件が整っていなければいけないこと、自然の許容する以上のエネルギーを取ろうとすると枯渇してしまう恐れがあること、小規模の地熱発電も可能だが、まだコスト的に相当割高であること、そして地熱発電そのものに対する地域の理解(温泉への影響懸念や景観)が建設のハードルとなっていることが改めて認識した。
 一方で、特に小規模地熱発電でのコスト低減が図れれば、ローカルエネルギーとしての存在感はどんどん示していけることになると思う。その特性を活かした利用が全国各地で促進されるような制度を、デザインしていく必要があると感じる。




(*1)警察庁緊急災害警備本部発表数値(2011年6月21日発表)
(*2)千葉大学公共研究センター・NPO法人環境エネルギー政策研究所「永続地帯2008年報告書」より