1. はじめに
2011年の3月11日に発生した東京電力福島第一原発過酷事故以降、国のエネルギー政策が再検討されつつある中で、青森県及び原子力施設所在関係自治体註■1は、事故の検証さえ待てずに3月11日以前への回帰に傾いている。
具体的には東北電力東通1号機(運転停止中)註■2、東京電力東通1号機(整地工事休止中)、Jパワー(電源開発)大間原発(建設工事休止中)の3基の原発中、東北電力東通と大間についてそれぞれの早期再開をめざして運動を進めている。
また、原子力による発電を支えるものとして六ヶ所村で稼働及び試験中、又は建設中の日本原燃核燃料サイクル施設(ウラン濃縮工場、低レベル放射性廃棄物埋設センター、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター、使用済核燃料再処理工場、六ヶ所保障措置センター、MOX燃料加工工場)は既に、それぞれの作業に戻っている。
同じく、むつ市で建設中のリサイクル燃料(RFS)使用済核燃料中間貯蔵施設も、今回の事故とは無関係に作業が進められている。
このように国策を唯一の拠りどころとしてきた県は、今に至っても核関連施設を維持し増やし続けようとする。
しかし震災以降は「エネルギーの地産地消、小規模分散型のエネルギー」が原子力による発電に取って代わるものとして注目されている。
そこで本稿では県内電力需要註■3の観点から、原子力発電関係分以外の発電状況と、今後の改革の道筋(原発を減らしながら、再生可能エネルギーを増やす作業)について検討したい。
2. 原子力以外の発電用施設の青森県内現状
(1) 火力発電
県内の火力施設所在関係自治体は八戸市。隣接自治体は五戸町、南部町、階上町。施設対象は、東北電力八戸火力発電所3号機(汽力発電方式、使用燃料:重油・原油、定格出力:25万kW、営業運転開始:1968年8月)及び5号機(内燃力・ガスタービン発電方式、使用燃料:軽油、定格出力:27.4万kW、営業運転開始:2012年7月2日)。同機は、シンプルサイクル方式で運転開始後、コンバインドサイクル発電設備註■5とするため2012年6月1日より工事中。
(2) 水力発電
県内の水力施設所在関係自治体は青森市、黒石市、十和田市、平川市、西目屋村、鰺ヶ沢町、深浦町、三戸町。
最大出力1万kW以上の発電所は5か所立地している。
東北電力十和田発電所(十和田市、認可最大出力3万1,100kW、営業運転開始:1943年12月)、同浅瀬石川発電所(黒石市、17,100kW、1988年6月)、同岩木川第1(西目屋村、1万1,000kW、1960年4月)、同立石(十和田市、1万500kW、1939年5月)、同大池第2(深浦町、1万kW、1956年3月)、同その他17(4万6,750kW)。合計11万5,450kW。
エネルギー源 |
年間供給量構成比 |
風 力 |
50.6% |
地 熱 |
21.0% |
潮力・波力 |
0.0% |
小 水 力 |
27.5% |
バイオマス |
0.0% |
太 陽 光 |
0.9% |
計 |
100.0% |
(3) 再生可能エネルギー(自然エネルギー)発電
① はじめに
青森県の再生可能エネルギー源別の年間(2008年3月末時点設備)供給量構成比註■6(熱及び発電利用)は、右表が報告されている。
半分を占める風力発電以外の発電利用は今後であり、エネルギー源別のポテンシャルを示すため引用した。
旧社会党代議士の故関晴正氏によると、1992年3月に東北電力が「原発の優位性を誇示する」ため、津軽半島竜飛岬にNEDO(新エネルギー産業技術総合開発機構)と設置した風力発電実証研究設備により「風力発電最適地と判明」し、「このデータをもとに、その後の県内外での風力発電の普及につながった」という。
② 風 力
風力で風車をまわし、その回転運動を発電機に伝えて電気を起こす。
前述したこともあり、青森県では1990年代後半から風力発電施設建設が急速に進み、2012年2月末現在の設置基数(出力100kW以上)は計203基註■7で、北海道に次ぎ全国第2位。設備容量は30万8,593kWと全国トップを誇る。こうしたことから県による「青森県風力発電導入推進アクションプラン」(2006年2月)では、2015年度までの導入目標を45万kWとした。
③ 地 熱
地中に蓄えられた地熱エネルギーを蒸気や熱水などで取り出し、タービンを回す地熱発電は、地中熱利用ポテンシャル調査段階で、実用化に至っていない。
具体的な実証実験例としては、青森市が本年度より3年計画で、同市下湯地区の温泉熱を利用した「バイナリー発電」に取り組み、弘前大学北日本新エネルギー研究所(青森市・神本正行所長)が委託された。
④ 潮力・波力
海流の運動エネルギーを水車などの羽で電気エネルギーに変換して発電させる潮力及び波力発電については下北半島大間崎における潮力発電の構想などがある。弘前大学がこれまで海流発電の研究を実施。県は東京都とともに、波力発電研究会などにかかわっている。
これらの実績を踏まえて、2012年7月24日、「青森県海洋エネルギー実証フィールド検討委員会」(委員長は金子祥三・東京大学生産技術研究所特任教授)が発足した。同検討委は国が選定する実証試験海域の本県誘致を目指す。
⑤ 小水力
用水路などの水流や落差を利用して水車を回し発電する、出力千kW以下の施設による。
県土地改良事業団体連合会(野上憲幸会長)は2011年度、五所川原市神山にある長橋溜池(満水面積32.5ha・五所川原市南部土地改良区管理)で、2012年度は七戸町の「早川幹線用水路」(天間林土地改良区管理)での実証実験に取り組んでいる。
農林水産省の「低コスト発電設備実証事業」の補助事業であり、国の直接の指導下註■8で、長橋ため池での発電は12kW。かんがい期の5月から9月上旬の総発電量は約3.4万kWhで、今春には正式稼働した。
県内のため池は大小合わせて約2千ヵ所あり、今後の普及促進には自治体の関与註■9が不可欠と思う。
⑥ バイオマス
家畜排せつ物や農作物残渣、林地残材、食品廃棄物など、動植物から生まれた再生可能な有機性の生物資源をバイオマスという。燃焼させて電気をつくる点では火力発電の部類となる。本格的な実用化はこれから。
ただし八戸市で、出力5千kW級の木質バイオマス発電施設建設構想が2012年2月に報道された。「間伐材や、伐採の際に残った残材、東日本大震災で発生したがれきに含まれる木材計年間5千トンを燃料にして発電する計画だ」という。(東奥日報2012年2月10日)
また青森県特産のリンゴをジュースにした後に出る搾りかすや、リンゴのセン定枝等から固形燃料「バイオコークス」を生産する実証用生産プラントが2014年度の事業化を目指している。(東奥日報2012年6月19日)
⑦ 太陽光(発電機不使用)
太陽光のエネルギーを太陽電池で直接電気に変えて使用する。住宅用など県内で広く普及してきている。2011年12月20日には、「八戸太陽光発電所」(東北電力初のメガソーラー発電所註■10、出力:約1,500kW)が営業運転を開始し、年間発電量160万kWh見込みに対し、2012年3月末迄に36.7万kWhの発電量となった。
また八戸市の桔梗野工業団地では大和エネルギー(本社・大阪市)が、出力:約1,500kWの太陽光発電事業を2013年5月事業化を目途に進める。
3. 原子力以外での県内発電状況は
以上、県内では既に原子力以外で、およそ94万kWの発電設備を有する。八戸火力発電所5号機(コンバインドサイクル)が稼働すると、さらに14万kW加わり、計108万kWとなる。
既に明らかとしたように、青森県の1時間当たりの電力需要は、節電前でも、おおよそ128万kWhなので、需要に対しては既にかなりの調達能力を有する。
これからさらに、火力・水力発電を除いて自然エネルギーのみに着眼しても、次のような指摘がされている。
「青森県エネルギー産業振興戦略ロードマップ」(青森県)では「本県のエネルギーポテンシャル(風力・太陽・木質バイオマス・地熱)は県内のエネルギー需要量の111%を賄うことが可能であり、中でも地熱、風力、木質バイオマスは、その割合が高く、本県の特徴的なエネルギーといえる」と指摘する。
同様に「東北・2020年自然エネルギー100%プラン」で飯田哲也氏は「青森県は電力需要を大きく上回る自然エネルギーの導入ポテンシャルがあることがわかる」と強調する。
しかし潜在的な好条件も意識的に使わねば、宝の持ち腐れとなる。
4. 「再生エネ法」の成立
長く青森県のエネルギー事情を調査されてきた法政大学社会学部・船橋研究室の結語は「再生可能エネルギーを優遇するような枠組み条件を設定する方向での政策の転換・創造が必要である」(2009年3月刊行「2008年度エネルギー政策と地域社会」調査報告書)であった。
その、船橋晴俊法政大学社会学部教授は、共著「核燃料サイクル施設の社会学(有斐閣選書)」の中で次のように指摘する。
「福島原発震災を受けて、日本のみならず、世界的に見ても、再生可能エネルギーを柱にしたエネルギー政策と地域振興への転換が要請されている。その中で、核燃料サイクル施設の存在が履歴効果註■11となって、青森県の柔軟な政策転換を妨げ、再生可能エネルギーの本流化という時代の転換に、青森県が取り残されることが懸念される。」
青森県が取り残されないためには、「再生エネ法」註■12の成立を出発点とした、脱原発の始まりに、県民、政治家、公共サービスに働く者の全てが手を取り合い、2011年3月11日に勃発した東日本大震災及び福島第一原発過酷事故を克服する脱原発の方向で、歩み始めることである。
5. 結 び
しかし「自然エネルギー100%」発電へ移行していく間は、原子力発電との付き合いが最小限とはいえ、残らざるを得ない。というのも、原発を廃炉にしていく作業においても、使用済核燃料の管理を中心として原子力防災の課題が残るからである。
そこで原子力による発電の終焉へ向けての原子力後始末防災の強化と、いよいよ始まる再生可能エネルギー基軸の発電へ向けた準備がセットとなることも忘れてはならない。この課題は「原子力防災ハンドブック」(自治労政治局/脱原発ネット・アドバイザー)による問題提起と、自治労本部の行動提起に委ねることとし、本稿の結びとする。 |