【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第1分科会 ~生きる~「いのち」を育む・いかす、支えあう

 犬や猫などのペットは、人間に癒しを与えてくれます。その一方で、飼い主の身勝手な理由から、全国の保健所に犬猫の引取りを求め、人間の身勝手により失われる命が数多くあります。2011年度に中核市に移行し、群馬県から保健所業務を委譲された高崎市が、どのように動物愛護行政に取り組んでいるかを報告するとともに、人と動物が共生できる社会の実現には何が必要かを検証します。



高崎市動物愛護センターの取り組み
―― 無責任飼い主ゼロをめざして ――

群馬県本部/高崎市役所職員労働組合・現業労組 大熊 伸悟

1. 犬猫の殺処分数と国が考える施策

(1) 全国的な犬猫の殺処分数とその傾向
表1 過去10年間に全国で殺処分された犬猫の頭数
年度 殺処分数
合計
平成17年度 138,599 226,702 365,301
平成18年度 112,690 228,373 341,063
平成19年度 98,556 200,760 299,316
平成20年度 82,464 193,748 276,212
平成21年度 64,061 165,771 229,832
平成22年度 51,964 152,729 204,693
平成23年度 43,606 131,136 174,742
平成24年度 38,447 123,400 161,847
平成25年度 28,570 99,671 128,241
平成26年度 21,593 79,745 101,338
 環境省が公表した平成26年度の犬猫の殺処分数は101,338頭(犬21,593頭・猫79,745頭)で、平成25年度の殺処分数128,241頭と比較すると26,903頭ほど減少しています。
 表1の過去10年間の殺処分数のデータを見ると、平均2万頭ベースで削減されており、特に平成17年度(365,301頭)と平成26年度(101,338頭)を比較すると、3分の1以下にまで削減されています。
 ここまでの間、多くの自治体関係者による動物愛護施策の推進や、平成25年9月に改正動物愛護管理法が施行され、犬猫の引取りについて自治体が拒否できること、個人・動物愛護団体による新たな飼い主探しを行う譲渡事業が功を奏している状況です。
 一方で、犬の殺処分数は大きく削減されているものの、猫の殺処分数については犬の3~4倍と多く、その内、生後60日未満の子猫の殺処分数が全体の6割強を占めている状況です。
 これは、猫は繁殖力が強く、1年間に2~3回ほど繁殖行為を行い、1回の出産で1~6頭の子猫を生むことから増殖率も高くなり、結果的に様々な要因により全国の保健所等に持ち込まれたことが要因です。

(2) 人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト
犬や猫などの愛玩動物は、人と共生しなければ生き永らえないのですが、無責任な飼い主の都合によって多くの命が失われ、動物愛護に関心の高い方々から保健所等に勤務する職員が叩かれても決して飼い主が責め立てられることはありませんでした。
その一方で、動物愛護団体や個人ボランティアを中心に新たな飼い主を探す譲渡活動が行われ、1頭譲渡されるごとに動物愛護に関心の高い方々から賞賛される状況が続いています。
平成25年に当時の環境大臣政務官が「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト」の創設に向けて、動物愛護に関心の高い芸能人、自治体関係者、学識経験者などから熱心なヒアリングを行い、同年11月に同プロジェクトを開始しました。
目的は、犬や猫などの愛玩動物の殺処分数を減らし、最終的にはなくすことをめざすための具体的な対策の検討を行い、優しさのあふれる、人と動物の共生する社会の実現をめざすとしています。

(3) 具体的な中身
 このプロジェクトは、専用のホームページ及びFacebookページを開設し、プロジェクト推進のためのアクションプラン(飼い主・国民の意識の向上、引取り数の削減、返還と適正譲渡の推進)、殺処分等のデータによる現状と推移、具体的取り組みの事例紹介やモデル事業など、動物愛護団体や自治体への様々な情報発信を行っています。

(4) 動物愛護関連事業に係る予算は?
 環境省の動物愛護関連事業には、約2億円の予算が確保されています。
 大きく分けると、動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)調査・啓発事業・人材育成、人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト、動物収容・譲渡対策施設整備費補助事業となっています。
 特に、地方自治体の財政が厳しく、動物愛護センター等の施設を建て替えるには予算確保が難しいことから、近年は補助金申請が多くなっているようです。

(5) はっぴぃ0(ゼロ)議連が始動(写真1写真2
 平成26年に超党派の国会議員により「犬猫の殺処分ゼロを目指す動物愛護議員連盟(通称:はっぴぃ0(ゼロ)議連)」が設立され、現在は衆参あわせて53人の国会議員が名を連ねています。
 主な活動は、各級議員への参加の呼びかけ、動物愛護関連事業予算の確保、人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクトのフォローアップ、各自治体の首長への働きかけとなっています。

写真1 はっぴぃゼロ議連設立総会
 
写真2 一般参加者への趣旨説明


2. 高崎市動物愛護センターの現状

(1) 犬の収容(保護)頭数・返還頭数・返還率の推移(図1図2
 平成23年4月1日に高崎市が中核市に移行し、高崎市動物愛護センターが設置されてから5年が経過しましたが、入口対策として「収容犬の返還率の向上」「安易な引取りの拒否」を基本姿勢として取り組んでいます。
 具体的には、収容したすべての犬について、畜犬登録台帳システムから保護場所・犬種・性別・毛色を基にデータ抽出し、飼い主と思われる方1軒1軒に電話で飼い犬の所在を確認しています。
 また、平成25年度からは、インターネットが使えない世代を考慮して、保護犬の収容情報の回覧を作成し、保護場所の区長さんに広報の配布とともに回覧していただくよう依頼しました。
 その結果、返還頭数が上昇し、平成27年度には返還率が71.3%まで大幅に改善しました。
図1 犬の収容と返還の推移【群馬県(~H22年度)・
高崎市(H23年度~)】


  図2


(2) 引取り数と殺処分数の推移(図3図4

 平成25年9月1日から改正動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)が施行され、保健所設置自治体は飼い主からの引取りを拒否できるようになりました。
 高崎市は動物愛護センターの設置当初から引取りを厳格化し、まずは飼い主からの引取り相談を受け付け、相談内容を慎重に聴き取り、後日飼い主宅へ訪問し飼養動物を確認し、引き取るか否かの判断を行います。この中で、飼い方の指導で改善できる場合には、どのように飼えば良いかの助言を行ったり、民間の動物愛護団体を紹介したり、時には時間を掛けて説得し、安易な殺処分には結び付けない取り組みに尽力しました。
 一方で、引取りを求めて犬猫を直接持ち込む市民もまだいますが、いきなり持ち込んでも引き取りはできない旨とまずは引取り相談をしてからの手続きになることを説明し続けています。時には、「前の保健所なら簡単に引き取ってくれた」「(犬猫を)何曜日に連れて行けばいいのか」といった苦情や問い合わせについては、高崎市では安易な引取りには応じないことを説明しています。
 こうした厳しい姿勢と併せて、出口対策として保護期間が終了した犬猫について、性格がよく重大な感染症を持っていない個体については動物愛護団体と協力し、新たな飼い主を探す譲渡事業を行っています。
 様々な取り組みの結果、平成23年度の殺処分数は大幅に減少しました。これらの成果はマスコミにも取り上げられ、高崎市の取り組みが広く知れ渡るようになりましたが、一方で高齢者・生活困窮者・精神疾患者などが多頭数の犬猫を飼育し、結果的に飼えなくなる事案が発生したり、無責任な飼い主から安易な引取りや殺処分を求める声が多い状況です。

図3 引取り頭数の推移【群馬県(~H22年度)・高崎市(H23年度~)】
  図4 犬・猫の殺処分頭数【群馬県(~H22年度)・高崎市(H23年度~)】

(3) 警察との連携(図5写真3
 近年は、動物の遺棄・虐待から端を発し、人への犯罪にエスカレートする事件があったり、不適正飼育により、逸走した動物による被害が後を絶たないことから、地元の警察署と緊密な連携を図り、飼い主に対する指導を強化するとともに、悪質なケースによっては刑事告発を辞さない姿勢で取り組んでいます。
 先進国ではアニマルポリスといった動物に関する捜査・逮捕権限を持った専門職が置かれていますが、日本ではその議論が深まっておらず、さらには都道府県警察によって温度差があることから、速やかな取締りや事件化にあたっては、早期のアニマルポリス制度の導入が求められています。
図5 繁殖業者の逮捕事件

 
写真3 大型の鳥・エミューの捕獲劇


3. さらなる取り組み

(1) 官民協働から市民との協働へ 
   ~ 個人ボランティアの募集(図6写真4

 ここまでの間、高崎市は(公社)群馬県獣医師会やNPO法人・群馬わんにゃんネットワークの協力の下、施設運営や収容動物の取扱いについてご意見を頂戴したり、各種行事などへの参加、幼齢個体の治療や一時保護などを依頼するなど、高崎市の動物愛護行政は官民協働で取り組んできました。
 しかし、現在の官民協働による取り組みだけでは動物愛護や動物福祉の各種施策の実施や啓発を図るのに限界があり、今後の施設運営や普及啓発を行うには市民による個人ボランティアの協力が必要不可欠であると考え、2015年2月1日から個人ボランティアの募集を行いました。
 ボランティア登録前説明会には、2日間で88人の応募者が集まり、改めて市民の関心の高さが伺えました。
 説明会を受けて応募したのは半数の44人でしたが、2016年4月2日の認証式と計7回のボランティア講習会を経て、高崎市の動物愛護施策に協力していただいています。
図6 ボランティア募集チラシ

 
写真4 グループ分けによる少人数での講習会

(2) メディアの活用
 高崎市の動物愛護施策の発信について、地域コミュニティFMのラジオ高崎を始め、各種メディアと協力し、さまざまな情報を発信できるよう努めています。特に公務員は、メディアの活用がどちらかというと不得手であることから、アナウンサーや記者の方々と丹念な情報交換を行い、積極的な活用が図れるよう取り組んでいます。

(3) 出前講座と中学生の社会化体験事業
 残念ながら、日本では愛玩動物との正しい飼い方や接し方を学ぶ場が少なく、さらには学校飼育動物の不適正な取り扱いが多く散見されることから、これらが動物の命の軽視に繋がっているとの指摘があります。
 現在は、地域の輪よりも個々を大切にする時代からなのか、愛玩動物を起因としたご近所トラブルが多く発生し、動物愛護センターにはさまざまな苦情や相談が年間1,000件ベースで寄せられています。
 特に苦情の中には、あらゆる動物の駆除や捕獲依頼を求められたり、特定の家に対する指導を強く求められるケースも少なくありません。
 地域から阻害された高齢者や生活困窮者が動物に癒しを求めた結果、不適正な多頭数飼育に発展するなど、時には大きな問題になります。
 こういった事態が起こらないよう、動物愛護センターでは高崎市の出前講座に名を連ね、いまどきの正しい犬猫の飼い方や人獣共通感染症の講座に取り組んでいます。
 また、高崎市内の中学2年生を対象とした社会化体験事業「やるベンチャーウィーク」や、群馬県青少年会館の自立支援事業「G-Skyプラン」の受入事業所として、未来を担う子どもたちに正しい犬猫の飼い方や命の大切さをはぐくむ場を提供しています。

(4) 無責任飼い主ゼロをめざして
 飼い主になるということは、単純にかわいいということやブランド品を持つ感覚で飼うことでなく、その命に責任を持つということです。
 無責任飼い主ゼロの目標は果てしなく遠い道のりかもしれませんが、いつの日か満点飼い主が増えることを信じて、市民との協働を図り、人と動物が共生できる社会の実現に取り組みます。