【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第1分科会 ~生きる~「いのち」を育む・いかす、支えあう

 宇都宮市職労は2008年に官民協働まちづくり研究所「シティ・ラボ・うつのみや」を誕生させました。この研究所は、行政課題の研究や社会貢献を実践する一方で、昨年度からは「子ども・子育て支援」をテーマに掲げ、その実行部隊である「子ども応援団・短足おじさんの会」を設立して様々な社会的養護活動を行ってきました。本レポートでは、それらの経験をもとに、社会活動における自治体職員の役割等に触れて各種提言をいたします。



「子ども応援団・短足おじさんの会」の活動実績から
見える市民支援による社会的養護のあり方に関する提言
―― 官民協働のキッカケづくりとして ――

栃木県本部/宇都宮市職員労働組合・書記 金子源太郎

1. 「子ども応援団・短足おじさんの会」設立の背景と趣旨

  2015年3月4日付 読売新聞(栃木版)

 私は、市職労系シンクタンク「シティ・ラボ・うつのみや」(以下「ラボ」という)のメンバーとして、2015年3月から児童養護施設の入所児童を支援するボランティアグループ「短足おじさんの会」の設立と運営に参画してきました。
 この会は、20年以上にわたって青少年の育成活動に取り組んできた栃木県宇都宮市の美容師「ん太郎」(本名・荒川憲司)氏が、2012年から同県さくら市の児童養護施設「養徳園」の児童にボクシングや美容技術を教え、入所児童の心身鍛錬や退所後に備えた職業習得支援をしていたことがきっかけとなり、その活動に賛同した私を含む7人の市民有志が中心となって誕生させたものです。
 会の目的としては、足長おじさんやタイガーマスク基金のように「目に見えない支援」を行うのではなく、真正面から入所児童と接し、彼らに夢と希望を与え将来の社会生活のために必要な「技」(いわゆる「手に職」的なもの)を身につけてもらうというものであり、この点に大きな特徴があります。
 具体的には、入所児童それぞれが関心を抱く職種の実業家(場合によっては、芸術家、音楽家、アスリート等)と接してもらい、その夢を叶えるためのカップリング交流を実現するとともに、夢を実現するためには、社会のルールを守り、乗り越えなければならない現実があるということを知ってもらおうというものです。
 この活動を具現化するために、私たちはまずさらなる賛同者を募り(2016年3月3日現在、会員数240人)、「4部門8分野」のプロジェクトチームを構成して、様々な実践活動(場合によっては「実験活動」)を展開してきました。参考までに、この組織には、私と共に自治労栃木県本部の組織内議員であり、ラボの顧問でもある郷間康久氏も設立当初から参画し、現在は事務局長の職責を担っていることを書き添えます。


2. 一年間(2015年3月~2016年3月)の経過報告・活動事例

(1) 短足世話人事務局会議
 毎月第2金曜日の夜、本会の中心メンバーが集まり活動の経過報告、会員の把握、今後の展開を議論しています。
 当初は、会員拡大の手法と本会の主軸ともいえる社会人先生プロジェクト(技=手に職を持つ実業家、芸術家、音楽家等を講師に1時間半程度の授業を開催)の活動展開を柱に議論してきました。

 養徳園を拠点としつつも、本会の夢は「短足活動を県内11の児童養護施設と7つの自立支援ホーム」に展開すること。そのためには、会員拡大が必須であり、かつ会員自身が現場(児童養護施設の現実)を体験すること、入所児童のみならず施設職員とコミュニケーションを図ること、「ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)」体制をどのように構築していくかなど、山積する課題に議論は尽きませんでした。
 そこで、養徳園での活動をまずはしっかりと行い、それを手本に活動施設の拡大をしていくこととし、8つのプロジェクトチームを構成(各プロジェクトに数名の会員を配置)し、さらにこの8つを大きく4部門に分けました。この「4部門8分野」を構築したことで、毎月の短足世話人事務局会議の参加者は徐々に増え(2015年12月以降、毎回20人を超える)、今後の展開を時に全体で、時に各チームで議論しています。

(2) 社会人先生プロジェクト
 養徳園の事情をふまえ、月に2回、日曜日の18時から1時間半程度、小学校から高校生までの入所児童を対象に(参加は希望者制)2015年度は全16回、実施してきました。
 当初、講師は事務局がお願いし、スケジュールを含めた授業内容等をコーディネートしてきましたが、徐々に子どもたちから「次はパティシエがいい」とか「建築関係者は?」といった声が寄せられるようになったため、施設担当者と講師の橋渡しをするにとどめ、内容については施設担当者と講師の二者で直接、打ち合せをするようになってきました。
 また、参加する児童も自分たちが希望した「先生」でもあるため、聴く姿勢が徐々に身に付くようにもなってきています。

 

(3) その他実践活動
① 突撃お節介プロジェクト
 ア 養徳園近隣(さくら市)在住の会員(建築業)が、2回の施設修繕を実施。
 イ 2015年夏、塾講師のいる会員家族が、中学生を対象に学習支援。
② その他実践事業
 ア 会員は他にも社会貢献活動を行っている方が多く、県内各地のイベントにも積極的に参加しています。そこで得た収益の一部を「短足おじさんの会」の活動の一助にと、寄付していただきました(ラボも宇都宮市主催のイベント「フェスタ・my・うつのみや」における「学校給食調理員の揚げパン」事業の収益の一部を2年連続で寄付)。
 また絵本を作成している会員は、県内全11の児童養護施設に寄贈を行っていただきました。

栃木県公式HPより   2016年2月2日 社会人講師派遣事業を実施

 イ 会員のうち6割は宇都宮市在住です。養徳園の場所がさくら市ということもあり、社会人先生として、あるいは参加者として訪ねることが難しい現実があります(宇都宮市中心市街地から養徳園までは約26km。公共交通の便が十分でないため、主な参加手段はマイカー)。
 一方、県内の中学校では社会体験の一環として、社会の第一線で働く様々な職種の方を講師に授業を行っているところも多く、ここに社会人先生を希望する会員とのマッチングを生み出せないかと着目し、宇都宮市立姿川中学校に3人の会員を派遣。先行実施し、好評を得ました。今後は、社会人講師派遣事業として児童擁護施設だけでなく中学校も対象にした展開を考えています(ゆえに、「子ども応援団・短足おじさんの会」と称しています)。


3. 今後の展開と各課題

(1) 会員・活動施設拡大及び「4部門8分野」の展開

  2016年3月8日付 下野新聞

 活動施設を拡大するにあたっても、中学校への社会人講師派遣事業を展開するにあたっても、会員が多くなければ実現しないことから「4部門8分野」のメンバーを中心に、会員募集をマスコミも絡めて展開しています。
 また、会の設立記念に合わせた交流会を実施し、会員拡大のお願いをしつつ会員同士の親睦を深めるとともに、そこでの会話から生まれる新たな企画や発想を大事にしています。
 先述の通り現時点での会員は、6割が宇都宮市在住ですが、残り4割は真岡市や鹿沼市等の県内各所に居住しており、県外にも数名の会員がいます(「自分たちの住む自治体(県)でも同様な活動をしたい」と希望する声もあります)。
 そこで会員を募るにあたり、希望する活動分野とエリア・施設を把握し、今後は希望された所で、会員の個性や魅力を発揮するための議論をしています。養徳園での実践も1年が経ったため、担当窓口をさくら市在住の会員に専任し、次は宇都宮市や真岡市の施設活動を予定しています。そして、ゆくゆくは全施設ごとに「4部門8分野」を立ち上げていくことを目標にしています。

 ただし、次の課題が主にあります。これは現時点での課題ですが、全施設に活動を展開していくためには共通な課題でもあります。
① 養徳園で新たに担当窓口となった方を筆頭に、さくら市近郊在住の会員を募ること
② その上で養徳園支援支部(仮称)としての「4部門8分野」を構築していくこと
③ 同時に、施設の現状を知る学習会(児童養護施設の一般的な知識、入所児童の状況(背景)、各施設事情、本会活動への理解・推進を図る上での会員と施設職員とのコミュニケーション向上等)を実施すること
 本会の代表世話人を務める、ん太郎氏は2012年に県内全11の児童養護施設を巡り、自分の思い描く活動を説明しましたが、その中で一番理解のあった養徳園を拠点とすることにしました。さらに入所児童と施設職員とのコミュニケーション向上に3年を費やし、その上で「短足おじさんの会」を設立する運びとなりました。これまで1年間の活動は、ん太郎氏がいてはじめて、会員がスムーズに児童なり施設職員とコミュニケーションを取ることができたと言えます。
 しかし、他の施設は入所児童の状況(背景)も含め、それぞれ事情が違います。会員が他の施設も「養徳園と同じ」という意識では、活動が全く出来ずに終わる可能性もあるため、慎重に進める課題でもあります。
 一つの課題をクリアしていくためにも、全体の活動を進めていくためにも「4部門8分野」の活動は、連動して展開していくことが重要です。
 一例を挙げると、会の発足前でしたが一人の退所児童が美容界に就職し、発足後に一人の退所児童が会員の会社(中古タイヤ販売店)に就職、さらに現在、一人の中学校三年生が建築業に興味を示し会員の会社・現場の見学に行っています。
 社会人先生プロジェクトが成果を挙げた事例でもありますが、なかなかここまでのマッチングを達成するにはチャンスが少ない面もあります。どうしても社会人先生は学校の授業形式が基本なので、入所児童とのコミュニケーションが(講師だけでなく参加者も)不足がちになるからです。
 そこで施設側からの要望もあり、ユニット食事交流プロジェクトが今後、主な事業の一つになるものと捉えています。入所児童は、性別や年齢に応じて数名に分かれ、部屋や家を単位に(=ユニット)日常生活を送っています。そのユニットごとに複数の会員が訪ね、食事をしながら様々な会話をするという事業です。学校と施設以外の大人と話す機会が極端に少ない児童にとっては、それだけで刺激となり、その大人がどんな職業をしているのかに興味を持てば、社会人先生として次回会うだけでなく、直接コミュニケーションを取り「技」の取得なり、「夢」実現のための知識を得る機会も生まれてきます。また何気ない会話の中には、社会人として、家庭人として当たり前のマナーを教わる場面も生まれます。
 この事業を行うにあたって、様々な職種の会員に行ってもらわなければなりませんし、「技の取得」なり「夢実現の道しるべ」になるには、会員同士の交流と情報共有も必要です。企業後援会プロジェクトも、退所児童支援、就職の斡旋という意味で連動していかなければなりません。何気ないコミュニケーションを図るという意味では、突撃お節介プロジェクトや、社会体験・レクリエーション事業も同様でしょう。
 ソフト面(対児童)とハード面(対大人、企業、学校を含む行政機関等)の両輪の活動が必要であり、そのバランスを取るためにも「4部門8分野」の連動した取り組みは、大変重要であると捉えています。

 

(2) 運営体制と「ホウ・レン・ソウ」の徹底

2016年4月24日付 東京新聞(栃木版)
また、とちぎテレビで「短足おじさんの会」一年間の活動が特集で放映
された(2016年3月29日)

 

① これまでは会員拡大と養徳園を対象とした運営が基本でしたが、今後は活動施設拡大を念頭に置いた取り組みを考えなければなりません。先述の会員希望の分野やエリアを振り分けたり、つないだりしながら、同時に次の施設にお伺いをしなければなりません。一方で、現在ある「4部門8分野」を本会「本部」として位置付けるも、各施設の「4部門8分野」活動が軌道に乗るまで「代行」として活動していかなければならない面もあり、会員が伸び伸びと活動できる体制を作るためにも、運営の核たる事務局体制の強化が喫緊の課題です。
② 会員同士の情報共有はLINE(ライン)を通じて行っており、全部で6つのグループを作っています(本会ライン=全会員用。補助的にFacebookも使用/短足世話人事務局/4部門それぞれのグループ)。
 今後、各施設に「4部門8分野」が立ち上がれば、さらにグループは増えることでしょう。会員把握はもちろんのこと「ホウ・レン・ソウ」を徹底しなければ、良い企画を実践しても他の施設に反映されませんし、相談なく実践されても、今後の活動に支障を来たす局面にもなりかねません。会員同士が全員で顔を合わせる機会が少ない分、そしてボランティア団体だからこそ、この「ホウ・レン・ソウ」が重要なキーワードになってくるものと捉えています。


4. 支援体制のあり方について ~実践活動から見える提言~

(1) ボランティアを支える人・組織が必要
 上記の実践活動を通じて「ボランティアを支える人なり組織が必要」ではないかと感じています。
 ボランティアは「自発性、無償性、奉仕性を原則」に、ある意味「(心)意気とお金と時間、そして家庭を持っている場合は家族の理解」がなければ、なかなか参加したくともできません。また、ボランティア団体を作る人も一種のカリスマ性がなければ賛同者は増えませんし、継続もできない一面があるように思います。賛同者も活動の「内容と関わる人」で判断している部分も否定はできないでしょう。そうなると、一般的に経営者や自営業、管理職等の方々がメインの個性的なメンバーとなり「熱い思い」だけで議論が進み、肝心の活動が空回りする場面が出てきたり、活動ができても自己満足で終わり、対象に向けた本来の趣旨を提供できたか不安になることがあると思います。また、せっかく良い活動をしてきたのに、肝心のメンバーが一人抜けただけで活動自体が休止、あるいは終了・解散する団体も多くあるのではないでしょうか。
 そこで大事なのが事務局であり、それを担う人材です。冷静に議論を聴き取り、まとめ、全体で共有し、活動に反映する司令塔。この役割こそ、公務員が最適で最高の力を発揮できると思っています。他の職種に比べ、公務員は人(市民)の話を聴く耳を持ち、話がバラバラでも要点を押さえ、それを文章・ルール化し、他人に伝える術(対話やプレゼン)を持っています。例えメンバーが民間の経営者や管理職等が多くとも、公務員の能力を活かして、時になだめすかし、でも肝心なところは押さえつつ、粛々と運営していくことができるでしょう。さらに文章・ルール化したノウハウを、他の事務局メンバーと共有することで運営の基礎が確立し、主要メンバーの世代交代が起きても、賛同者がいる限り、その活動は継続できます。
 民間のメンバーは、ある意味ボランティアを通じて異業種交流を図り、ビジネスチャンスを狙っています。公務員はボランティアに関わることで、市民が今何を求め、行政で何が必要なのかを考えたり、そのヒントを得る場となることでしょう。それを所属している職場に関わらず、同僚や同期・後輩に持ち帰ることで横とつながり、すぐにとは言わないまでも「市民ニーズを的確に捉えることができる行政」を構築できるのではないかと考えます(ボランティア団体を支える組織を、行政が担うことも考えられるかもしれません)。ボランティアの活動内容の発想は、民間メンバーの方が多く持っているかもしれません。しかし、どのような活動をしようと内容を突き詰めていけば、最終的には行政の力が必要になってくるのも事実です。市民ニーズが生まれれば、それに応えるのが行政の役割です。
 「地域に飛び出せ、公務員」という言葉が、数年前から全国的に広まっています。ボランティア団体の多くが、事務局人材に不安を抱いていると思います。「何でもいい」とは言いませんが、興味が惹かれる活動があれば積極的に参画していくことをお勧めますし、ボランティア団体の情報は労働組合も持っていますので、今まで以上に発信をしていくことを提唱します。

(2) 「家族」の支援・相談窓口
 「子どもの貧困」や「貧困の連鎖」がクローズアップされています。貧困の連鎖を防止するための対策の一つとして「子どもの貧困対策法」が施行(生まれ育った環境によって子どもの将来が左右されることがないよう、教育の機会均等などの対策を国や地方自治体の責務で行うことが義務付け)されました。
 しかし、貧困の連鎖を断ち切るためにはまだまだ十分とは言えないでしょう。目に見える縮図が児童養護施設です。近年の入所児童の親は健在で、入所理由のほとんどが虐待によるものです。虐待の大きな要因と言われるのが「経済的貧困」と「社会的孤立=人間関係の貧困」です。
 経済的貧困は、家庭の基盤が不安定なため、親の病気や失業などがあればあっという間に家庭が崩壊し、子どもの自立に必要な教育を受けさせることができず、子どもが成人しても安定した職業や収入が得にくくなり、貧困の連鎖が起きてしまいます。
 社会的孤立は、親が自分に対する自己評価が低く、うまく人と接することができない、職場や親戚、地域からも孤立する傾向にあり、結果としてアルコールやギャンブルに依存していたり、仕事が長続きしない、すぐに暴力をふるうなどの問題があり、逆に周囲から距離を置いてしまうこともあります(ワーキングプアも問題となっていますが、若い世代の貧困と格差、社会的孤立の問題は、人間としての尊厳を奪うだけでなく、次の世代の子どもたちへ深刻な影響を及ぼすことも懸念されています)。
 どちらも克服すべき課題ですが、虐待増加の要因は、親の社会的孤立にあると言われており、その家庭で育った子どもにとって社会的孤立は「当たり前」な環境です。通常、子どもは様々な大人との関わりを通して育っていきます。親戚、学校の先生、部活の指導者、地域住民など親以外の他の大人との関係性の中で育ち、いろいろな影響を受けていきます。しかし社会的孤立の中で育った子どもは、どうしたらいいかわかりません。親との関係性が育まれていないからです(この社会的孤立を克服していこうという活動も「短足おじさんの会」です)。
 現在、子どもは「社会の宝」の観点から、様々な支援施策が各自治体で取り組まれていますが、本来親戚や地域住民が当たり前に持っていた子育て機能を細分化したものに過ぎません。しかし、親戚や地域住民のように機動性を持って柔軟に対応できない現実もあります。支援が必要な家族は、社会的孤立を抱えているため、その情報すら行き届かない一面も忘れてはならないでしょう。
 ラボは以前より、行政における家族問題支援のあり方について研究を重ねています。どの自治体でも、福祉分野は大きく分けて生活福祉、児童福祉、高齢福祉、障害福祉の4分野に分かれていますが、その対象者だけの支援対策だけでは全てに効果があるとは言えないことを、今回の実践活動を通して改めて感じています。
 児童養護施設に望んでやってくる子も、養育を委ねる親もいません。児童養護施設(=行政の福祉)が身近でなかったがゆえに、親だけでなく親戚や地域住民もそれを利用すること、電話一本かけることへの抵抗心が根強いのではないでしょうか。電話をかけるにしても、どこにかけたらいいかわからず、電話がつながったところで「これは○○福祉課になります、こちらに関しては□□福祉課になります」と、たらい回しにされる現実を回避したい思いもあるかもしれません。
 上述の4分野の福祉に「世帯主層=親」を対象にした福祉なり相談窓口がないのも、市民ニーズに合っているのか疑問に感じてもいます。一つの窓口でじっくりと相談ができれば、4分野の福祉をより効果的・効率的に活用できると思いますし、児童養護施設の「子」と「親」の問題を例にとれば、子への支援対策だけでなく、親への支援対策も関係機関との連携で、一歩前へ進めることができるように思います。
 社会的孤立の手前で苦しむ親もいます。自分が親になるまで乳幼児と接した経験がなく、また育児のモデルとなる人が身近にいなくて困惑しているとか、気軽に相談できる相手がいない、父親(母親)が育児に無関心であったり、長時間労働で家庭に関われないことなどが背景にあります。特に自分の親との関係に問題を抱えている場合は、適切なサポートがないと育児不安が高じて子どもを無視したり、逆に干渉し過ぎるなど、不適切な育児にいたることがあります。虐待をする親へのサポートを行わなければ、家族の絆を修復することはできません。虐待の問題解決には、直接の被害者である子ども、直接虐待は受けていなくても兄弟姉妹が虐待される家庭で育つ子ども、直接の加害者である親、手を下していなくても子を守ることができない親、それぞれに適切な関わりが必要であり、家族全体を支える姿勢が必要です。
 上述の例を、生活福祉や高齢福祉の観点から見ても同じではないでしょうか。自治体における「家族問題相談室」の創設を提唱します。行政の福祉4分野への主たる相談者は「世帯主層=親」であり、その背景には「家族」があります。今、ここに行政ニーズがあると思います。未来を見据えた施策があると思います。
 創設に向けて情報収集や発信、他自治体を含む行政機関や関係団体との連携など課題は山積することでしょうが、市民が「気軽に、じっくりと」相談できる窓口があれば、社会的孤立を抱えている家族を知る親戚や地域住民も「気軽に相談」でき、昔のような「おせっかいをやく」ことができるのではないかとも思います。そしてこの「おせっかい」が増えることで、親戚や地域住民が本来もっていた機能が回復していくことと思いますし、行政もより機動性と柔軟性を持った様々な支援策を推進していくことができると思います。

5. 結びに ~フォーラムから生まれる新たな芽を育む~

 現在ラボでは「ひとり親家庭学習支援・チャイルドシード」という団体を立ち上げ、また「訪問型病児保育NPO法人・リスマイリー」という団体と協働事業を行い、どちらも2016年内の本格実施をめざし準備を進めています。

 

 この2つの事業を利用する親の、働き方を含めた全ての理由が「貧困」とは言いませんが、「貧困に陥る可能性」は否定できないでしょう。貧困問題を解決する特効薬はありません。長い時間がかかることでしょう。しかし現実に今、困っている人がいて、その人たちを「何とかしたい。貧困の連鎖を、貧困に陥る可能性を少しでも無くしたい」と様々な視点から支援する方々がいます。その声を各自治体行政機関や議員、そして官民の労働組合と当局が受け入れ、仕組みや制度の矛盾を是正し、包括的な対策を打ち出す取り組みを積み重ねない限り、極論ですが「誰もが安心して暮らせるまちづくり」は、いつまでも叶わぬ夢になるのではないのでしょうか。この夢を実現するためには、誰もが「フラットに話せる場」が必要であると思います。

 

 ラボにはフォーラム(広場)があります。官も民もなく、年齢や肩書きも関係なく面と向って同じ目線で話し合う「しゃべり場」です。ここから生まれる新たなニーズの発掘やアイディアが、このフォーラムにはあります。
 現在、取り組んでいる各種活動は官民協働に向けた下地作りであるとも思っています。官民協働の力ほど、大きなものはありません。そのキッカケは、「フラットに話せる場」から始まると実感しています。
 ラボはこれからもフォーラムを提供し、様々な芽を育み、芽と芽を結びつけたり、仲間と分かち合いながら「オリーブの木」になることをめざして活動していきます。
 そして同時に、宇都宮市職員労働組合のPRもしていきます。
 紹介した3事業とも会員のほとんどが民間の方です。自己紹介時に私の身分を明かすと「労働組合って何ですか? どんなことをしているんですか?」と9割以上の方から言われます。宇都宮市だけでない、全国的な労働組合の組織率・認知度の低さを痛感する瞬間です。幸い私は、運営を担うポジションにいるため、ラボというツールと「労働組合」の肩書きを持った私に興味を持ってくれる方が増えており、これを今、チャンスと捉えています。
 貧困や格差拡大に歯止めをかけ、是正を働きかけることができるのも労働組合の役割であることをPRしていけば、労働組合の存在意義を(再)認識してもらえると思っていますし、労働組合に対する賛同と信頼を得ることで、新たな労働組合が生まれることにつながると信じています。




【参考文献】
1. 正木公子「児童虐待とは~貧困や孤立が要因に~」全日本民医連HP(http://www.min-iren.gr.jp
2. 福田雅章「子どもの貧困、そして虐待、その連鎖を断つ~あるNPO法人の試み」とちぎ地方自治と住民紀要No.498(2014)