【自主レポート】 |
第36回宮城自治研集会 第1分科会 ~生きる~「いのち」を育む・いかす、支えあう |
配偶者・交際相手等から受ける暴力(DV)被害者の相談支援を民間支援と行政支援の両方で経験してきました。また岡山県と広島県と2つの県での支援を経験しました。救われるべき「生きた命」が地域間格差で被害者の支援に格差が生まれる事を仕事で目の当たりにしました。相談員の雇用問題・女性の貧困など先進県との違い、何が「課題」なのか、それらを修正する為に行うべき事は何かについて提言します。 |
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1. はじめに
まず、みなさんはDVと言う言葉をご存知でしょうか?
2000年に「ストーカー規制法」2001年には「DV防止法」が制定され、現在3度目の法改正が行われました。このことによりDV被害者は法に守られることになりました。私の仕事は被害者の方の話をお聞きし、法律に基づいた支援方法を考え情報提供をすることです。支援にはその人に合った方法があり、みなさんが全て同じ内容の支援方法ではありません。その人に適した方法を考えお伝えし、最終的には当事者本人の自己決定を尊重します。加害者から逃げる人、加害者の元に戻る人様々ですが、全てを受け入れ長く繋がり続ける信頼関係も作っていきます。 |
2. 新しく動きだした事 この原稿を発表後、広島県内の議員の人たちが問題意識を感じてくれました。竹原市職労・連合地協の取り組みの中で原稿を広島県選出の連合推薦国会議員に手渡し、広島の現状を伝えに行きました。そして一番の大きな動きが、今まで広島県内で「DV」に対し問題意識を持ちながら繋がらなかった人達が繋がり、「広島県DV対策研究会」を発足しました。メンバーは大学准教授・司法関係・医師・民間シェルター・相談員・支援者などです。定期的に勉強会を行い様々な課題に対し、様々な活動を行いました。
(1) DV対策勉強会
上記、勉強会には様々な党派の議員や弁護士、裁判所関係者、医療関係者、行政職員などが参加しました。
(2) 県議会質問
(3) 性暴力被害者ワンストップセンターに対する要望書提出
(4) 一時保護削減案要望
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3. 変わらなかった事と新たな課題
(1) 地域間格差・二次被害
『婦人相談員相談・支援指針』とは
指針にはDVだけではなく、様々な困難課題を抱えた女性の支援方法が明記されています。また相談員の専門性のあり方・雇用の安定・保証・研修制度・相談員のスーパーバイズの必要性などが明記されています。全国の相談員は1,295人でその中の1,040人の8割が非常勤です。相談員は年数をかけてスキルを上げていきます。国からは「年数による雇い止め」をする事の無いよう通知がされたにもかかわらず、非常勤職の決まりでスキルある相談員が退職をせざるを得なくなった地域もあるようです。また自治体に対して、 ●婦人保護事業への認識・理解の促進 ●女性相談の組織的対応の強化 ●婦人相談員の権限の明確化 が明記されています。この指針が策定された事で、相談員は最低ラインの支援方法を知り被害者に情報提供できます。ですが指針があるにもかかわらず、婦人相談員には権限なく、権限のある正規職員が支援の指針を知らない為、二次加害や支援が出来ないといった事がいまだに変わっていない地域もあります。 【実 例】 ○○市では相談員が孤立しており困難事例が多く、相談員から私の所にアドバイスを求めて電話がありました。様々な課題を抱えた被害者で相談員が一人で動くことは無理だと思う事案でした。関係部署と連携を取った組織としての支援が望ましい事だと伝えましたが、相談員から返ってきた言葉は「上司が臨時給付金の手続きの方で忙しいから話が出来ない。他の課と連携はとれない。」でした。DV被害者の多くは同伴児童がいます。子ども関係の課との連携は必要不可欠です。ですがその市では子ども関係の課との連携はとれないとの事でした。相談員の苦悩の叫びを何度も聞きました。 また別の事例ですが、「保護命令」の申し立て(2回目)をする際に必要な相手方の住民票の取得の為の被害者の同行支援をしました。被害者が手続きをする中で、「保護命令の申し立て書」を見せて欲しいと職員に言われました。そして窓口で極めてプライバシーな内容が書きこまれている「申し立て書」を職員はカウンターの上で広げて読む、被害者が見える所で何人もの職員が「申し立て書」を囲み読む、コピーをとる事の許可を得るなどしました。私がそんな事をするのはあり得ない事だ、と主張しても聞き入れて貰える事はありません。いたたまれなくなった被害者本人が「この申し立て書の中には私の個人情報がたくさんありますが、どこまで読めば気がすみますか? コピーもどれだけとりますか?」と言いました。職員は「鑑(表表紙)だけでいいです。」と答えました。知識が無い事で対応する事が被害者にとって、どんなに苦痛な事が分かって下さい。 その○○市は外国籍の女性の相談が比較的、多いそうです。私がアドバイスを求められた数件の事案も全て外国籍の被害者でした。外国籍の被害者の支援には特別な配慮を必要とします。外国籍の多くの女性は自立するまでに時間と労力が必要です。夫の元から逃げることで自立が難しい為、夫に頼らなくては日本での生活は困難だと感じ帰ってしまう事はよくあることです。自立をするまで途切れない細かいサポートが必要とされます。夫に頼らなくても自立する方法があると被害者が理解出来た時、少し前に進む事ができます。その情報提供をしても、本人が決心を固めるまでには時間が必要な場合もあります。相談員は時間が掛かっても、繋がり続け信頼関係を作っていきます。夫の元に帰っても決して被害者に罪悪感を持たせないよう「あなたは一人ではない。いつでも待っている。」とメッセージを伝えます。そして決心がついた時、出来る支援をします。ある時、○○市在住の外国籍の被害者が竹原市の知人に助けを求めて来ました。そして私と繋がりました。○○市との連携を求めましたが○○市は動いてくれませんでした。本人が相談に来るのを待っているとのスタンスでした。被害者の親子は数年間、○○市と繋がりがあり課題のある家庭である事を○○市は把握していました。一度は夫から逃げましたが、自立の難しさから夫の元へ帰っていた経緯がありました。言葉がほとんど通じない事も把握していました。その被害者は○○市をとても恐がっていました。竹原市が被害者親子と共に○○市に行きました。○○市に行き、面談の初めの言葉が「あなたは、夫の所から逃げたり、帰ったり何回もしているよね? なぜ? 今回は帰らないと言えるの?」でした。この初めの一言で被害者の心は折れてしまいました。私たちがサポートしながら○○市と話をしていると○○市は「そんなに言われるなら竹原市に住民票を移してそちらで支援すれば良いのではないですか?」と言われたのです。DV被害者は原則、住民票は動かしません。また生活保護の申請など日本国籍の人は住民票地では無く居所で申請出来ますが、外国籍の人は居所では無く、在留カードに書かれている住所地で行うようになっています。○○市を無くしてこの人の支援は出来ないのです。帰りの車の中で彼女は「○○市さん。厳しい。恐い。いつも私達の事、何か悪い事してないか? と疑って話してくる。目を見れば分かる。今までずっとそうだった。行く所の市役所、みんな私達を恐い目で見てきた」と話されました。そして「私の友達で困っている人がたくさんいる。でも○○市さんに相談しても、『あなた達に出すお金はない』と言われる。困っている人助けて欲しい」と話してくれました。この被害者の人は最終的に県に協力して頂き、○○市と連携を取り、現在は安全な場所でサポートを受けながら自立に向かい生活を始めました。この事案は本人の外国籍の人への偏見、差別、生き難さを知って欲しいとの思いがあり、承諾を受け書きました。○○市に限った事ではないと思います。相談員だけではないと思います。一人ひとりが外国籍・障がい者・LGBT(多様な性)・困窮者など特別な配慮を必要とする人に対して、少し考えて思いやりを持って対応をする事により、二次被害や重大な出来事から回避できる事に繋がれば良いと思います。また相談員としっかり連携をとる必要があると感じます。
(2) 女性の貧困と自立の難しさ
上記の表から分かる事は母子家庭の雇用状況は「臨時・パート」から「常用勤労」へと数字は増加していますが、就労収入自体は200万円以下という事です。父子のひとり親に関しては就労収入360万円と母子に比べ倍もあります。母子家庭の8割以上が就業しているにもかかわらず平均収入250万円以下が76.1%となっています。35.7%の母子家庭は病気で就労が出来ない状況です。母子家庭の母は生活する為に安定した仕事に就労する。が収入は十分でない為、人によってはアルバイトをして家計を補ってる。母子家庭が貧困であるということは子どもも貧困に繋がり、お金が無くあきらめた事があるだろうと思います。この調査結果はひとり親家庭を対象にしましたが、国の調査では人が一人自立するためには平均約300万円のお金が必要であるとしています。女性一人が300万円を稼ぐのは至難の業です。母子家庭の母が人並みに稼ぐという事は寝ずに働くという事に等しいと思います。私自身が母子家庭ですが、相談員の仕事だけでは生活が出来ないので、毎日相談員の仕事が終わると、そのままアルバイトに行っています。この雇用の変化は前回の自治研からは何もかわっていません。DV被害者親子は暴力により、安全・安心な生活が出来る様になっても、身体・精神と様々な課題を抱えている人は少なくありません。私が支援している人も体調が悪く、思うように仕事が出来ない。子どもも不登校になりがちだったり、問題行動を起こし、学校から連絡がはいり心配事が多く、思うように仕事が継続できなくなる傾向にあります。DV被害者の母子家庭は上記の調査結果より、収入は少ないと思います。 |
4. 竹原市の取り組みと現状
竹原市では数年前にDVによる殺人事件が1件、殺人未遂事件が1件ありました。これを受け「竹原市DV防止対策関係機関連絡会議」を立ち上げました。会議のメンバーは庁内の各課より・教育委員会・竹原医師会・人権擁護委員会・法務局・竹原警察署・社会協議福祉会・地域包括センター・広島県西部こども家庭センターから、各代表委員を選任してもらい会議を行いました。1回目の会議の時、私はまだ雇用されていなかったので内容は分かりませんが、その会議は1回目が行われてから、開催される事はありませんでした。私が雇用されDVに対する啓発活動を行った結果、竹原でのDVに関する相談件数が増加しました。DV支援は相談員一人が出来るものではありません。関係機関と連携が必要不可欠です。再度関係機関が連携をとる事の必要性を感じ一昨年・昨年と「竹原市DV防止連絡会議」が開催されました。その会議ではそれぞれの立場からの取り組み状況や傾向・困っている事などを情報交換しました。そして竹原でDV事案に遭遇した時の連携の取り方について共通認識を確認しました。中でも大きな取り組みが竹原市医師会より竹原市内の病院全てにDVのチェックリストの設置と病院におけるマニュアルの配布が行われた事です。
上記の表にありますように、竹原市での相談件数は年々、増加の一途をたどっています。
上記の表は、婦人相談員が受けた相談件数でDV以外の様々な相談も含みます。
上記の表は2014年度の婦人相談員が受けたDV相談件数です。それぞれの市により相談件数の数とDV相談の数の違いがあります。竹原市を例にすると2013年度までは相談員の設置が無かった為、DV相談自体数は少ない状況でした。そんな中でDV殺人があったのも事実です。2013年6月から私が相談員として設置され、まず様々な啓発活動を行った結果、潜在化されていたDV被害が顕在化され、上記の数になったかと考えます。数の違いこそありますが、婦人相談員が一人で上記の相談件数を受けている事は同じです。DV相談に関しては当事者・親族・支援者など様々な人の命が掛かった問題の場合もあります。専門的な知識を要します。今後の取り組みとして、相談員同士の横のつながりを作り定期的に集まり、情報交換や勉強会などを行い相談員がバーンアウトを予防できる環境を作りたいです。最初は少ない人数からのスタートとなりますが、また職務外の活動になりますが、この取り組みを定着していき実績を作り、業務での活動にする事が私の目標です。 |
5. 最後に……
DV専門相談員として行政で働く私について…… |