3. 考察と今後の取り組み
(1) 長時間労働が両立支援を妨げる主な要因
業務量増加、人員削減、それに伴う時間外勤務増加と職場環境は悪循環が続いている。家庭での時間を優先させたい意識はあるものの、周囲に迷惑を掛けたくないという仕事に対する責任感も手伝って、この状況では両立は困難だとする雰囲気が少なからずある。これに対しては、業務量と人員のバランスを適正に保つことが一番の解決方法であり、多くの組合員が望んでいる事項である。
子育て世代をサポートする周囲の負担感も意見として挙げられている。様々な背景、状況をもつ職員が同じ職場にいる限り、組織としてカバーしながら仕事をしていかなければならないが、お互いに理解、納得した上で、それぞれの仕事、家庭、社会的役割を果たしていくことが求められる。その雰囲気づくりや先頭に立って調整するのは労務管理者であることは言うまでもない。
また、家庭を優先することで、自身のスキルアップ、仕事上の評価が下がることを懸念する意見もある。反対に、長時間労働をすることが組織的に評価を高くする雰囲気もある。しかし、こうした評価は決して正しくはない。高い評価を受けるべき人とは、個人の仕事を通じた組織への貢献度だけでなく、周囲への理解や協力も含めて生活とのバランスをとれる人であり、上司であればそれを指導できる人ではないか。仕事と家庭とは、例えば、仕事=家庭、仕事<家庭、仕事>家庭というように、それぞれの家庭(個人)事情、ライフステージによって、バランスのとり方が違ってくるものである。
そもそも、自分や家庭を犠牲にしてまで恒常的に長時間労働をするのは「異常な事態」である。業務量増加、人員削減、それでもやらないといけないとする責任感。このような労働者及びその家族を犠牲にする働き方を改善することが喫緊の課題である。人には仕事の時間、家庭の時間、地域での時間、自分の時間がある。今は家庭、地域、自分の時間を削って仕事をしている、仕事と家庭のバランスがとれず苦しんでいる状況である。どんな立場の人でも、その人の状況にあったワークライフバランスを推進するために、まずは、「異常な恒常的長時間労働」、その原因となる「業務量と人員のアンバランス」を解決していかなければならない。
(2) 性別、世代別の意識差を埋めるためには……?
① 総論としての「仕事と家事・育児の両立」
男女の意識差はそれほど見られないが、世代別では高年齢層と若年層で若干の違いが見受けられる。20代で理想と現実のギャップが顕著であったが、それは最近の若者の家事参加意識(男女とも家事・育児を一緒にやりたい)と、職場での働き方に乖離があると思われる。別のアンケートではあるが、20代では「時間外縮減を実現するためには、職場の中の相談しやすい雰囲気が必要である」とする回答が多かった。両立意識の比較的高い若年層のギャップを埋め、将来的に仕事も家庭もバランスのとれる組織をめざすためには、上司(組織の長)には自らも家庭や自分の時間を確保し、それを部下にも指導できる存在(イクボス)であることが望まれる。
さらに、男女にはそもそもの生物学的な違いがあり、仕事で一律に同じことを求める実質的な平等には限界があることを理解しなければならない。生理、出産、力の差、体感温度などを考慮した本質的な平等を意識することが、仕事と家事・育児の両立支援にも寄与するだろう。
② 各論としての「家事分担に対する意識」
家事分担については、男女間の意識差が見受けられる。女性視点で言えば「もっと早く帰ってきて、家のことを手伝ってほしい!」、男性視点で言えば「仕事があって帰れないから仕方ない(今のままで勘弁して……)」であろうか。結局はここでも、(特に男性の)長時間労働が意識差の要因となっている。
また、男性側の家事スキルについても多くの意見があった。これについては、男性側もある程度はスキルアップ(家事研修など)することが求められる。
しかし、家事分担にはこれだという正解はなく、それぞれの家庭事情にあった方法(家庭内でのバランス)を見つけることが大切ではないか。男性は女性からより積極的に家事参加を求められているので、それに応えようとする姿勢は欠かせないが、その中で配偶者が何をしてほしいのか、何で困って疲れているのかを聞き、男性もこれであればできるといった配偶者間の「納得性」が必要である。共働きであれば、男性も女性も仕事で疲れて帰ってくる。早く帰れる時もあれば、遅くなる時もある。家庭内で明確な役割分担を決めることも1つの方法だが、どちらかできる方がやるという柔軟な協働が、家事分担の満足度を上げることにならないだろうか。
また、唯一「自分の時間」を確保できるのも家庭である。パートナーや両親も含めた家族の協力も得ながら、性別、年代別に拘わらず全ての家族が「自分だけの時間(息抜き)」を持てるようにすることも大切である。
(3) まとめ
・第一に、長時間労働の解決を図ることである。
様々な犠牲を生みだす「異常な事態」を真摯に受止め、当局が組織の責任として果たすべきものである。
また、長時間労働が蔓延し、子どもの保育、親の介護など、家族内で対応しきれず外部(施設など)にお願いする世帯が増加することは、家計の出費が増えるだけでなく、各種福祉サービスには公的経費が投入されていることからも、行政支出の増加にもつながっている。
・第二に、男女間、世代間をはじめ相互の理解を深めることである。
家庭で、職場で、誰かが誰かをカバーしている現実。自分の状況、相手の状況、そしてそれを調整してマネージメントする労務管理者。個人の意識を高め、周囲の理解も深め、個人個人にあったワークライフバランスを実現させるために、お互い(上司・同僚・家族)を知ることが不可欠である。意識の問題は、長時間労働などの構造的問題や、制度・仕組みと違い、自己啓発(意識醸成、行動力)や相互理解(話し合う)、そして納得性が求められる。
最後に、子育て世代を中心に仕事と家庭の両立支援について考えてきたが、決してワークライフバランスは子育て世代だけのものではない。全ての人が支えあいながら、全ての人に実現すべきものであることを申し添えてまとめとする。
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