【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第1分科会 ~生きる~「いのち」を育む・いかす、支えあう

 島根県職連合が、職場や社会の中で、男女がともに共感し、理解し合える環境、男女がともに働きやすく、生活しやすい環境をめざすために立ち上げた「子育て環境改善プロジェクトチーム」による、自らの手で新たな環境を創造していく取り組みについて報告します。



仕事と家事・育児の両立支援に関する意識調査結果
―― 性別、年代別の理解と共感でWLBは実現できるか? ――

島根県本部/島根県職員連合労働組合・子育て環境改善プロジェクトチーム

1. はじめに

(1) 県職連合の状況
 現在は性別に拘わらず、誰もが一定の社会的役割を担い、行動・活躍する時代になった。県職連合は、組合員の約4割は女性(知事部局は2割程度)だが、将来を担う20代を見ると概ね半数が女性組合員となっている。また、比較的女性が多い臨時・嘱託等職員(約1,000人)も踏まえれば、今後、より男女がともに働きやすい職場を作り上げていくことが求められている。
 これまで、仕事と家庭、育児や介護、ハラスメント対策など、女性を中心に議論が進められ、少しずつ職場環境が改善されてきたが、今なお課題は山積している。更なる改善をめざすのであれば、仕事と家庭の調和(ワークライフバランス)、社会的な男女の役割(ジェンダー)など、性別や世代を超えた議論が不可欠である。
 1986年に男女雇用機会均等法が施行され、職場における性別を理由とした差別解消(男女平等)に取り組んできた。しかし、一方で家庭での家事・育児時間は、男性は女性の10分の1未満(総務省調査)であるなど、このままでは、益々、女性にとって厳しい環境になっていくことを共通認識としなければならない。
 県職連合では、職場や社会の中で、男女がともに共感し、理解し合える環境、男女がともに働きやすく、生活しやすい環境をめざすため、「子育て環境改善プロジェクトチーム」(以下PT)を立ち上げ、自らの手で新たな環境を創造していく取り組みを進めている。

(2) PTでの議論経過
① 課題抽出・整理
 まずは、KJ法、ブレーンストーミングにより、「子育て環境に係る職場・家庭での課題」を出し合い、それを体系化する作業を行った。多岐に渡る課題・悩み・意見(愚痴)が出された結果、大きく「制度、職場環境、情報」と「ヒトの意識」に区分した。(別添1)
② PTとしての議論の方向性の決定
<ヒトの意識について>
 ・「性差の理解」「男性の育児力」は、男女の意識・思考に関わる部分であり、そのヒトの行動の原点。
<制度、職場環境、情報について>
 ・「子育て中の働き方」「職場に余裕を持たせる」ことは、そのヒト(組織)の理解力、行動力により改善が図られる部分であり、何を理想・目標とするのかを設定した上で取り組んでいく必要がある。その際重要になるのは、お互いの認識レベルの共有化であり、共有すべき事柄は、職場の実態と子育て環境がどうあるべきかという点。
 ・「セーフティーネット」「地域での支援」「子どもの病気の時の対応」「子育てにはお金がかかる」は、外的要因が中心で、それぞれの施策を推進する自治体、関係機関への要請行動が必要。
 ・「情報の共有」は、労働組合として対応できる部分であり、実施に向けた具体的な検討に着手する。

*その他出された意見(抜粋)

・夫婦間の課題(意識)が多い(職場よりも家庭内での対応、育児・介護のシェア)
 →男性の料理教室、家事研修
・家事は女性がメインで、男性がサポートという名残
・家庭内でも自分が「できる」ことをやる、決まった役割分担ではない
・男性は家事労働に達成感を求める(→やった「つもり」につながる)
・日本は家庭を犠牲にして仕事をしている(仕事>家庭)
・男女とも意識が低い(ない)から、休暇・休業制度も活用しない(できない)

 以上の結果、本PTでは行動の原点となる「意識」に焦点を当てることとし、組合員の意識調査(仕事・家庭での性別、年代別の意識差を探る)を実施することにした。


2. 意識調査結果

○調査対象:県職連合組合員 3,694人(社会福祉事業団除く)
○回答者数:2,337人(回答率 63.3%)
○集計(分析)方法:男女別、世代別

~調査結果の概要~
① 仕事と家事・育児の両立は、性別、年代別に拘わらず意識(理想)は高いが、現実は仕事を優先せざるを得ない状況になっている。その原因として、主に「自分自身の長時間労働」「休暇制度等の取得しにくさ」がある。また、理想と現実のギャップは、『女性』と『20代』に顕著である。
② 家事分担についても、性別、年代別に拘わらず夫婦で平等に分担する意識(理想)は高いが、現実は妻の方が多くを負担している。その原因として、女性は「配偶者の理解や長時間労働」とする一方、男性は「自分自身の長時間労働」としており、男性側の意識や働き方に課題がある。

(1) 仕事と家事・育児の両立に対する「理想」と「現実」
① 男女別集計
 ・男女とも仕事と家事・育児の両立(優先含む)を理想(女性91%、男性68%)とする割合が高いが、ともに仕事を優先せざるを得ない様々な現実があり、そのギャップは『女性』の方が強く感じている。
 ・理想と現実のギャップの一番の原因は、男女とも「自分の長時間労働(40%弱)」「休暇制度等が取得しにくい(約20%)」としている。
② 年代別集計
 ・いずれの世代も仕事と家事・育児の両立を理想(61~85%)とする割合が高いが、年代が上がるほど仕事に意識が傾き、年代が下がるほど家事・育児に意識が傾いている。しかし現実は、どの世代でも仕事を優先(約70%)せざるを得ず、その中でも『20代』のギャップが最も大きくなっている。
 ・理想と現実のギャップの一番の原因は、どの世代でも「自分の長時間労働(40%弱)」としている。

<理想と現実が一致しない理由>(自由意見から抜粋)
●仕事に対する責任感から、自分の都合だけで他の人に迷惑を掛けられない。
●業務多忙(人員不足)、業務の特殊性などから、やむを得ない。
●職場や社会全体の雰囲気(長時間労働の美化)
●自分自身の意識の低さ、両立実現に向けた努力が足りない。
●人事異動上の問題がある。(単身赴任、通勤時間が長い)

(2) 夫婦の家事分担に対する「理想」と「現実」

① 男女別集計
 ・男女とも夫婦が平等に分担することを理想(女性78%、男性62%)とする割合が高いが、現実は妻の方が多く負担(約70%)している。
 ・理想と現実のギャップの原因は、女性では「配偶者の理解(24%)」「配偶者の長時間労働(20%)」と配偶者にその原因を感じ、男性では「自分の長時間労働(35%)」と自分に原因を感じる傾向がある。
 ・女性は男性に家事を「手伝って欲しい(48%)」と感じているのに対し、男性は「今のままで良い(47%)」と感じている。
② 年代別集計
 ・どの世代でも夫婦が平等に分担することを理想(53~74%)とする割合が高いが、現実は妻の方が多く負担(59~86%)している。
 ・理想と現実のギャップの原因は、どの世代でも「自分の長時間労働(約30%)」が最も多い。
 ・家事分担を配偶者に求めるのは、年代が下がるほど強く感じられる傾向がある。

<理想と現実が一致しない理由>(自由意見から抜粋)
●配偶者の家事処理能力が低い。
●配偶者の長時間労働により、自分がするしかない。
●配偶者が育休中やパート等の場合、自分が仕事をして所得確保しなければならない。
●世間一般の考え方の名残(男は仕事、女性は家庭)
●自分自身の心がけの問題かもしれないが、現実両立は困難である。
●人事異動上の問題がある。(単身赴任、通勤時間が長い)

<仕事と家事・育児を両立していくためには何が大切か>(自由意見から抜粋)
1. 職場の雰囲気、労務管理者の意識
 ・仕事の効率化、適正な人員配置を行い、休暇や時短の雰囲気を作り上げないと両立は困難である。
 ・時間外勤務が当たり前という雰囲気をやめ、真剣にどうすれば長時間労働を縮減できるのか、休暇が取得できるのか、上司・部下で話し合うこと。そのための雰囲気を管理職が作り上げること。
 ・管理職や上司になる職員の意識改革(研修・講義)
 ・育児や休暇取得はマイナスの評価にならないという雰囲気(長時間労働が是とされる雰囲気の是正)
 ・子育て世代を支える周囲の職員(独身者、子育てが終わった世代)とのバランスを考え調整してこそ、それぞれの立場で助け合えるようになる。
2. 個人の意識
 ・家事参加(特に男性)に対する積極的な意識、行動。
 ・時間外労働は本来すべきではないという意識醸成。
 ・労働時間の長さを意識することで、自分の時間に対する意識を変えていく。
 ・夫婦とも正規職員の場合、妻が職場で配慮され、周囲が負担をしていることを、その夫が理解すること。
 ・男性も生活管理能力、家事能力など、家庭経営に必要なスキルアップ。
3. 働き方
 ・業務量削減、人員体制の確保、時間外労働の縮減。
 ・業務量を柔軟に調整できる組織体制、ワークシェアリングできる組織力。
4. 制度・仕組み
 ・休暇制度の改善(子育て関連休暇、対象となる子の年齢引き上げ)
 ・育児支援制度の拡充(保育所、病児保育、18時以降の預け先など)
5. 人事異動
 ・家庭事情(子育て、介護など)に配慮した人事異動
6. 男女間の意識差
 ・生物学的な男女差を理解し、実質的な平等ではなく本質的な平等をめざす。
 ・女性も男性と同じように働くなら、女性の価値観も認められなければならない(女性管理職登用)
7. 経済的負担
 ・配偶者が育休中、パート職員等であっても、両立できる経済的支援(給与水準改善)
8. 家庭内分担
 ・仕事と家事・育児を「どちらも行う」ではなく、家庭内でどのように「分担」するかという感覚。

3. 考察と今後の取り組み

(1) 長時間労働が両立支援を妨げる主な要因
 業務量増加、人員削減、それに伴う時間外勤務増加と職場環境は悪循環が続いている。家庭での時間を優先させたい意識はあるものの、周囲に迷惑を掛けたくないという仕事に対する責任感も手伝って、この状況では両立は困難だとする雰囲気が少なからずある。これに対しては、業務量と人員のバランスを適正に保つことが一番の解決方法であり、多くの組合員が望んでいる事項である。
 子育て世代をサポートする周囲の負担感も意見として挙げられている。様々な背景、状況をもつ職員が同じ職場にいる限り、組織としてカバーしながら仕事をしていかなければならないが、お互いに理解、納得した上で、それぞれの仕事、家庭、社会的役割を果たしていくことが求められる。その雰囲気づくりや先頭に立って調整するのは労務管理者であることは言うまでもない。 また、家庭を優先することで、自身のスキルアップ、仕事上の評価が下がることを懸念する意見もある。反対に、長時間労働をすることが組織的に評価を高くする雰囲気もある。しかし、こうした評価は決して正しくはない。高い評価を受けるべき人とは、個人の仕事を通じた組織への貢献度だけでなく、周囲への理解や協力も含めて生活とのバランスをとれる人であり、上司であればそれを指導できる人ではないか。仕事と家庭とは、例えば、仕事=家庭、仕事<家庭、仕事>家庭というように、それぞれの家庭(個人)事情、ライフステージによって、バランスのとり方が違ってくるものである。
 そもそも、自分や家庭を犠牲にしてまで恒常的に長時間労働をするのは「異常な事態」である。業務量増加、人員削減、それでもやらないといけないとする責任感。このような労働者及びその家族を犠牲にする働き方を改善することが喫緊の課題である。人には仕事の時間、家庭の時間、地域での時間、自分の時間がある。今は家庭、地域、自分の時間を削って仕事をしている、仕事と家庭のバランスがとれず苦しんでいる状況である。どんな立場の人でも、その人の状況にあったワークライフバランスを推進するために、まずは、「異常な恒常的長時間労働」、その原因となる「業務量と人員のアンバランス」を解決していかなければならない。

(2) 性別、世代別の意識差を埋めるためには……?
① 総論としての「仕事と家事・育児の両立」
 男女の意識差はそれほど見られないが、世代別では高年齢層と若年層で若干の違いが見受けられる。20代で理想と現実のギャップが顕著であったが、それは最近の若者の家事参加意識(男女とも家事・育児を一緒にやりたい)と、職場での働き方に乖離があると思われる。別のアンケートではあるが、20代では「時間外縮減を実現するためには、職場の中の相談しやすい雰囲気が必要である」とする回答が多かった。両立意識の比較的高い若年層のギャップを埋め、将来的に仕事も家庭もバランスのとれる組織をめざすためには、上司(組織の長)には自らも家庭や自分の時間を確保し、それを部下にも指導できる存在(イクボス)であることが望まれる。
 さらに、男女にはそもそもの生物学的な違いがあり、仕事で一律に同じことを求める実質的な平等には限界があることを理解しなければならない。生理、出産、力の差、体感温度などを考慮した本質的な平等を意識することが、仕事と家事・育児の両立支援にも寄与するだろう。
② 各論としての「家事分担に対する意識」
 家事分担については、男女間の意識差が見受けられる。女性視点で言えば「もっと早く帰ってきて、家のことを手伝ってほしい」、男性視点で言えば「仕事があって帰れないから仕方ない(今のままで勘弁して……)」であろうか。結局はここでも、(特に男性の)長時間労働が意識差の要因となっている。
 また、男性側の家事スキルについても多くの意見があった。これについては、男性側もある程度はスキルアップ(家事研修など)することが求められる。
 しかし、家事分担にはこれだという正解はなく、それぞれの家庭事情にあった方法(家庭内でのバランス)を見つけることが大切ではないか。男性は女性からより積極的に家事参加を求められているので、それに応えようとする姿勢は欠かせないが、その中で配偶者が何をしてほしいのか、何で困って疲れているのかを聞き、男性もこれであればできるといった配偶者間の「納得性」が必要である。共働きであれば、男性も女性も仕事で疲れて帰ってくる。早く帰れる時もあれば、遅くなる時もある。家庭内で明確な役割分担を決めることも1つの方法だが、どちらかできる方がやるという柔軟な協働が、家事分担の満足度を上げることにならないだろうか。
 また、唯一「自分の時間」を確保できるのも家庭である。パートナーや両親も含めた家族の協力も得ながら、性別、年代別に拘わらず全ての家族が「自分だけの時間(息抜き)」を持てるようにすることも大切である。

(3) まとめ
・第一に、長時間労働の解決を図ることである。
 様々な犠牲を生みだす「異常な事態」を真摯に受止め、当局が組織の責任として果たすべきものである。
 また、長時間労働が蔓延し、子どもの保育、親の介護など、家族内で対応しきれず外部(施設など)にお願いする世帯が増加することは、家計の出費が増えるだけでなく、各種福祉サービスには公的経費が投入されていることからも、行政支出の増加にもつながっている。
・第二に、男女間、世代間をはじめ相互の理解を深めることである。
 家庭で、職場で、誰かが誰かをカバーしている現実。自分の状況、相手の状況、そしてそれを調整してマネージメントする労務管理者。個人の意識を高め、周囲の理解も深め、個人個人にあったワークライフバランスを実現させるために、お互い(上司・同僚・家族)を知ることが不可欠である。意識の問題は、長時間労働などの構造的問題や、制度・仕組みと違い、自己啓発(意識醸成、行動力)や相互理解(話し合う)、そして納得性が求められる。
 最後に、子育て世代を中心に仕事と家庭の両立支援について考えてきたが、決してワークライフバランスは子育て世代だけのものではない。全ての人が支えあいながら、全ての人に実現すべきものであることを申し添えてまとめとする。




(別添1)ブレーンストーミング意見区分表
(別紙1)アンケート分析【子育て】(男女)
(別紙2)アンケート分析【子育て】(年代別)