【自主レポート】 |
第36回宮城自治研集会 第1分科会 ~生きる~「いのち」を育む・いかす、支えあう |
「国際化」が言われ、外国籍住民の権利が尊重される「多文化共生」の街づくりが求められます。その中でも特に、医療にかかる際の「医療通訳制度」の拡充が急務です。市立病院での医療通訳制度の取り組みを報告すると同時に、近隣の他都市での取り組み、市民団体との連携について、現状と課題を調べてみました。 |
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はじめに 「多文化共生の街づくり」が言われ、外国籍市民も自治体の「住民」として尊重されるべき時代がきました。特に外国籍市民が、急なケガや病気で医療機関を訪れる際に、言語の壁によって、適切な医療が受けられない現状は、基本的人権にかかわる問題です。その中で「医療通訳制度」の取り組みが、市民団体や通訳団体、先進的な医療機関や自治体関係者の尽力で、始まりました。しかしながら、未だにその存在が一般的に理解されているとは言いがたく、手探りの状態であるのは否めません。今回私達は、北九州市立病院の一部で「医療通訳制度」が始まったのを機会に、他都市の先進事例についても調査し、今後の課題について考えてみましたのでご報告します。 |
1. なぜ「医療通訳」が必要か? 「医療通訳制度」の必要性が全国的に言われるようになったひとつのきっかけに、ある公立病院での医療訴訟がありました。東南アジアから来日しコンピュータ関係の仕事をしているある患者さんが、手の手術をしなければならなくなりました。公立病院の医師は英語ができ、患者さんも英語ができるため、お互い手術の内容とリスクについて、「説明と同意」(インフォームドコンセント)を英会話で行いました(行ったつもりでした)。ところが、手術後に手の神経に痛みが残ったことについて、その患者さんは「充分な説明を受けていなかった」と訴え、医療訴訟に発展してしまったのです。結果論ですが、医師側の話す英語と、患者側の話す英語で、手術後のリスクについての充分なコミュニケーションは取れていなかったことが明らかになったのです。 |
2. 北九州市立病院での最近の取り組みについて 北九州市の在留外国人は市の人口の1.2%で、出身国は、韓国、中国、ベトナム、フィリピン等、アジアが大きな割合を占めています。市内には北九州市立大学や国際大学があり様々な国からの留学生が学んでおり、八幡東区にはJICAもあり海外から様々な業務で外国人が来日し生活しています。こうした中で医療通訳制度は、済生会八幡病院に続いて、国際交流課の働きかけもあり、ようやく2014年の秋口から市立医療センターでもスタートしました。通訳を希望する患者さんは受付(医事係)で申し込み、予約制で次回の診察時に通訳者を派遣してもらうことができます。患者さんからは1回1,000円程度の負担をしていただきます。中国語、韓国語、ベトナム語などの依頼が多いようです。 |
3. 本市及び他都市での情況について(市民団体の全国フォーラムに参加して) 2015年6月13日~14日、北九州市内で「第10回移住労働者と連帯する全国フォーラム・関門2015」が市民団体の取り組みとして開催されました。私達はその第6分科会「外国籍住民の医療保険、社会福祉の現状と課題」で各地の医療通訳制度の取り組みについて報告とディスカッションに参加しました。以下はその概要です。 |
4. 全国の情況(市民団体のワークショップに参加して) 2016年6月4日~5日、徳島市で「移住連ワークショップ2016in徳島」が開催され、私達はそのうち第4分科会「医療・福祉・社会保障」に参加しました。そこでは医療通訳を含む様々な課題が報告され、ディスカッションが行われました。そこでは、以下のような課題が指摘されました。 |
5. 熊本地震災害における多言語による被災者支援の重要性 2016年7月3日、熊本市で市民団体主催による「熊本地震! 外国人被災者救援活動の歩みと課題を考えるシンポジウム」(主催:コムスタカ ―― 外国人と共に生きる会)が開かれ、私達も参加しました。そこで、①熊本市国際交流会館での取り組みについて熊本市交流振興事業団の報告、②熊本イスラミックセンターの取り組みの報告、③コムスタカ ―― 外国人と共に生きる会の被災者支援活動の取り組みの報告とともに、熊本県内在住の韓国籍、中国籍、パキスタン籍、フィリピン籍、フィリピン出身者の被災者の方から被災体験の報告がありました。その中で、外国籍市民の被災者に対する多言語による情報提供の仕組みの重要性などが指摘されました。救急医療における医療通訳の仕組みも、これら災害被災者支援の中にきちんと位置づけることの大切さを痛感しました。 |
6. 全国の医療機関の先進事例について(日本渡航医学会に参加して) 7月23日~24日、岡山県倉敷市で「第20回日本渡航医学会学術集会」が開かれ、私達も参加しました。その中でシンポジウム1「インバウンド医療の未来像:外国人が安心して受診できる病院に変えよう!」では、「医療通訳士」という資格制度を確立することの重要性、医療通訳特有の課題として母国の文化を理解する視点の重要性、国立大学病院での医療通訳養成の事例、ITテクノロジーを応用した「遠隔地医療通訳」の試みなどが報告されました。また一般講演3「インバウンド」でも、手術室に医療通訳士が同行する取り組み、助産師養成教育で医療通訳士者と外国人模擬患者を活用した研修の取り組み、外国人を対象にした国内での受診経験のありように関する調査などが報告されました。すでに早くから医療通訳に取り組んでいる医療機関では、様々な先進的事例が見られる一方、大半の医療機関では、一般の外国人患者さんが医療にかかりにくい現状があることがわかりました。 |
7. 医療通訳制度を広げ改善するための課題は? 「医療通訳制度」は重要であるにもかかわらず、なかなか浸透できていない現状があります。そこで自治体での課題としては、①自治体病院自らが外国人患者さんにやさしい病院づくりをめざし「医療通訳制度」について研究会を設置するなど職場から働きかけること。②自治体の国際課や国際交流協会などで「医療通訳制度」について検討すること。③市内の通訳団体と提携し「医療通訳者の養成事業」に取り組むこと。④地域住民を見守る立場のケースワーカーや保健師が常に外国人住民の母子保健や小児医療に気を配り医療通訳のニーズを顕在化させること。⑤外国籍住民の自主的なコミュニティーや支援の市民団体との交流を深めること、などに取り組む必要があると考えます。 |
【参考文献】 |