2. 動きは障がい者・市民から
(1) 「条例をつくる会」活動開始
大分県条例づくりは2010年秋から準備が始められ、2011年6月4日に大分市で「だれもが安心して暮らせる大分県条例をつくる会」結成総会が開かれた。参加したのは、従来の障害者団体の枠にこだわらず、個人として手を挙げた障がいがある人、家族、福祉関係者、ボランティア、弁護士、学者、行政OBなど多様な人たち。
結成総会では、障がいがある人や家族から次のような声が出された。
「私が参加したのは、生まれつき脳性マヒという障がいを持ち、言葉も不自由でうまく話すことができない。片言しか話せないから低く見られたり、軽い扱いを受けてきた。そういう人の存在を皆さんに知ってもらいたかったから。障がい者だけが頑張らなくてもありのままを受け入れる社会を条例づくりを通してつくっていきたい」
「差別は遠くではなく身の回りにある。それを背負うことになるのは母親だ。母親の思いを受けとめた条例にしてほしい」
障がい者2人、家族1人を含む6人の共同代表を選出し、県内に6つの地域班を設置して取り組みを進めることになった。取り組みの具体化は世話人会で話し合うことになったが、世話人会には毎回50人前後の多様な会員が参加して、率直な意見交換が行われた。何より重視されたのが障がい者と家族の声。最初の取り組みとしてアンケートと聴き取りによって障がい者と家族の声を集めることになった。
(2) アンケートと聴き取りの実施
アンケート用紙の作成のために3回の世話人会が開かれた。そのなかで、「不安なこと」「つらかったこと」「差別だと感じたこと」「地域や周りの人にお願いしたいこと」とともに、「うれしかったこと」も尋ねようということになった。当初、用紙は1,000枚準備したがすぐになくなり、追加を重ね最終的に4,000枚を配布した。2011年9月、取り組みを開始すると、すぐに回答が寄せられ始めた。
「障がいのある私を見て、親が子に『悪いことをしたらああなる』と話していた」「知的障がいの子どもがパニックになると気持ち悪そうに避けて通られる」「アパートを借りるのに視覚障がいといったら断られた」などの差別の事例。トイレや駐車場の整備、医療機関の対応など様々な要望。「災害の時に放送やサイレンが聞こえない」という聴覚障がい者の声。親が亡くなった後を心配する「親なきあと」の課題を指摘する声、等々。
また「あいさつを返してくれると救われます」(精神障がい者)、「うれしいのは息子を見てニコニコしてくれること」(知的障がい家族)など、周囲の対応で救われたという声も寄せられた。
「聴き取り」については、アンケートでは届きにくいことや直接意見交換することで明らかになる課題もあるのではという意見を受けて実施することになった。福祉事業所や家族会の協力を得て行われた聴き取りの結果、「家族の誰一人として病気になれない」「学校が障がいを子どもに教えていないのでいじめや孤立が起きている」「子どもが大きくなって重くなり、親が抱えることが難しくなっている」など切実な声が寄せられた。
また、つくる会の世話人会や地域班会議などでも意見が多く出され、その中で「女性としてみられる前に障がい者として扱われる」「障がい者は子どもを産むことを認められていない」などの重要な問題提起があり、全体の課題として取り上げられることになった。
(3) アンケートが明らかにした現実と方向性
アンケートは1,000人を超す人たちから寄せられ、聴き取りでは約200人から直接話を聞くことができた。まとめ作業は、障がいごとに、障がい当事者や家族が中心になってそれぞれ5~10人のまとめ作業班を設置して行われた。
知的障がいでは「この子と死にたいと思った」「息子をこのように産んだことを責めてしまう」という声。
身体障がいでは「まともに見てくれない」「ぞんざいな言葉づかいをされる」。
精神障がいでは「働かないものは死ねと言われた」「この子には私より長生きしてもらいたくない。他の家族に迷惑をかけられない」。
発達障がいでは「幼稚園で家族の問題と言われた」「学校で障がいのある子ときょうだいが必ずペアにされる」「1ヵ月でも息子より長生きしたい。残酷な切ない願いです」。
高次脳機能障がいでは「何度も死のうとしたが死ねなかった」「高齢化し本人より先に死ぬことがないかと不安」。
重度心身障がいは「公立幼稚園から断られた」「親が老いたときに一緒に入れる施設がほしい」。
衝撃的な現実が明らかにされ、共有された。
まとめた担当者からは、「正しい知識が必要」「家族も含めた支援が不可欠」「『障がいは普通』と思える社会になって、当たり前に手助けできるようになれば」「誰がいつ障がいになるのかわからないのだから、逆の立場になって考えられるようにしたい」などの意見が出された。アンケート開始からまとめまでかけた期間は約1年間。これらのまとめをもとに、つくる会としての条例案づくりが始まる。
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