【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第1分科会 ~生きる~「いのち」を育む・いかす、支えあう

 多くの自治体が少子高齢化・人口減少など、それぞれが抱える地域課題の克服に励んでいる。このような中、生活保護率はさほど高くない中規模自治体の臼杵市では、生活困窮者自立支援制度を通して、今まで見えていなかった手を差し延べるべき人たち=「生活困窮者」の存在を認識し、自立への取り組みをスタートさせた。臼杵市での取り組みを紹介するとともに、そこから見えてきた「支援のあり方」と「地域づくり」について提言する。



生活困窮者自立支援のかたち
―― 地域のなかで孤立している人が
自立して暮らしていけるように ――

大分県本部/臼杵市教育委員会 齋藤 隆生

1. 生活保護の実態と総合相談の実績から見えてきた事業の必要性

 臼杵市の生活保護率は、2015年10月の全国平均17.1‰に対し12.29‰と下回っており、数値の比較のみでは、本市に生活困窮者の支援が必要な理由は見えて来ません。
 しかしながら、2014年度に厚生労働省の支援を受けて実施した「生活困窮者自立促進支援モデル事業」における「総合相談事業」の実績では、生活困窮に関することで82件、一般相談153件のなかにも、日常生活の悩みや仕事での悩みを抱えている方、そして、ニートや引きこもりの方もいることが表れていました。
 職員として日頃の業務においても、市民の生活状況を感じることがありますが、具体的な数値を見ることで、臼杵市には大きな都市のように生活保護が問題になっているわけではないけれど、そこまでには至っていない、手を差し伸べるべき人たちがいる、このことが生活困窮者自立支援に取り組むこととなった理由のひとつです。

2. いち早く生活困窮者自立促進支援モデル事業に着手

 臼杵市が、生活困窮者自立支援に取り組むこととなった理由は、他にもあります。
 少子高齢化は全国的に問題となっていますが、臼杵市でもその状況は著しく、なかでも高齢化率は2015年に36.3%であるものが、2025年には41%を超えるのではないかと予想されています。
 全国の高齢化率が2050年から2060年ぐらいに40%を超えるかもしれないとのことを考えると、25年も先を行っていることになります。
 これをどう捉えるかというと、臼杵市そのものが"高齢化の先進地"である。すなわち、今やるべき臼杵市の取り組みを行い、持続可能な仕組みを作っておけば、2050年の日本社会においても、臼杵市のまねをすればいいんじゃないのか、そのような観点で捉えています。
 このことと、生活困窮者自立支援がどう関係するのかということですが、「高齢化が進む」ということは、「支えなければいけない人たちが増える」ということに他なりません。
 臼杵市が都市として持続していくためには、出来るだけ多くの人が、支えられる人ではなく、地域を支える力にならなければなりません。
 生活困窮者自立支援の制度は、自治体だけが取り組むのではなく、地域の社会資源を活用し、支援が必要な人の発見や支援のネットワークといった体制の構築と、支援の実現が重要とされています。
 この様ななか、臼杵市には市役所の他にも社協、その他の関係機関など、様々な社会資源があり、地域には様々な団体や人と人との「つながり」が残っていて、支えあいが出来る環境があり、生活困窮者自立支援に取り組む条件が揃っていました。
 以上のことから、臼杵市では、生活保護率を下げるという目的よりも、地域の中で孤立している人を地域の中で自立して暮らしていけるように支援するため、大分県内の市としてはいち早く2013年度よりモデル事業に取り組むこととしました。(2013年度時点では全国68団体が実施)

3. 臼杵市における生活困窮者自立支援の概要

 臼杵市の生活困窮者自立支援事業は、主に「総合相談事業」「家計管理支援」「就労準備支援」「就労支援」の4つの柱となっていて、基本的には臼杵市社会福祉協議会(以下、社協)に委託していますが、家計や就労については、社協にノウハウ等が無いことから、家計関係支援は「グリーンコープ大分」、就労関係支援は「ワーカーズコープ」にも委託することで、専門性を補いました。
 以下は、それぞれの事業に関する内容です。
(総合相談事業)
 「まずは困ったことがあったら相談に来てください」をキャッチフレーズに、総合相談事業を行っています。
 社協の豊富な相談実績、生活困窮者が相談しやすい環境を活かして、日常的な困りごとに対して、包括的な相談支援を行うようにしています。
 様々な相談の中から、生活困窮者自立支援に乗せていくほうが良いと思われる方たちを、次の3つの柱である事業に、支援プランに乗せていくように努力しています。
(家計管理支援)
 相談の一番は、そもそもお金が無くて生活に困っている内容が多いのですが、話を聞くなかで収入が低いけれども、そもそもお金の使い方自体にかなり無駄が多いという状況があります。
 例えば、コンビニばかりで食事を買っていたり、携帯電話の料金が異常な高額になっているなどです。
 家計簿や今後の収支を考えたキャッシュフロー計算書を作り、指導や支援を行うことで、家計がうまくいくようになり、将来の支出に向けた貯蓄も出来るようになることで、生活が安定して、目標が持てるようになっている人もいます。
(就労準備支援)と(就労支援)
 例えば、ニートや引きこもりなど、何かしらの問題から働きたいけどなかなか働けない方は、生活リズムが不規則であったり、人との会話やコミュニケーションが上手くできないなどの状況に陥っています。
 そのため、職場見学や就労体験、ボランティア活動への参加など、臼杵市が独自で取り組む「生活力向上セミナー」などを通じて、生活習慣の立て直しや社会参加能力の習得、健康・生活管理を行う意識づけを行うとともに、一般就労に必要な知識などを習得してもらい、就労に向けた準備をめざしています。
 なお、法施行後の任意事業の中に、生活困窮家庭の子どもへの「学習支援事業」がありますが、臼杵市でも2016年度から「子ども・子育て支援法」における「養育支援訪問事業」と「生活困窮者自立支援事業」をタイアップさせて、適切な養育環境の確保と学習支援を行いたいと考えています。

4. 支援調整会議と生活力向上セミナー

 総合相談に来た方のなかには、関係機関に引き継ぐことで支援が終了する人や、相談に乗ってあげること、そのことでその人の支援になる場合等、様々な支援の形がありますが、この事業の本質である就労や家計といった支援が必要な方については、毎月、支援調整会議を開催し、各ケースの相談記録に基づいて、相談に至った経緯や相談内容、支援すべきと思われる方の支援プランの検討と決定、また、支援決定者への支援状況の確認と今後の対応について協議しています。
 さらに、本市では、直接的な支援には至っていないけれども、経過観察すべきと思われる方について、リスト化し継続相談ケースとして状況の確認と検討も行っています。
 支援プランに基づき、家計や就労について支援を行うわけですが、既にモデル事業に取り組んでいる自治体では、それぞれの環境や状況に応じて様々な取り組みが行われていますが、臼杵市でも、就労準備支援事業の中で、独自の取り組みを行っています。
 独自の取り組みの一つが「生活力向上セミナー」です。
 これは、臼杵市ならではの地域の産品や環境といった特性を活かして、生活の基盤となる「食」に着目し、「食」をとおして生活習慣の立て直しや社会参加能力の習得、健康・生活管理を行う意識づけ、さらに、参加者同士が同じ時間、同じ空間の中、協力し合って作業や食をともにすることで、人と人とのつながりを持ち、孤立しない環境、社会性をもってもらおうというものです。
 参加している方には引きこもりの方が数人いて、実を言うと、参加者同士の仲間意識の醸成まではなかなか難しいと思っていました。
 しかし、回を重ねるごとに互いに協力し合い、交流が始まり、仲間同士の葛藤もありましたが、社会参加能力を身に着け就労体験、そしてなかには就労に辿り着いた人もいます。

5. モデル事業による支援を通して、そして法施行後の事業実施に臨んで

 臼杵市のモデル事業の実施は、2013年度の10月からでしたが、体制整備等に時間を要して、第1回目の支援調整会議を行ったのが2014年2月でした。
 また、実質的な支援が始まったのは2014年4月からでした。
 2014年度の記録として残している相談件数は82件、そのうち、支援調整会議で支援プランを作成し支援を行った件数は13件で、2人の支援が終了し、11人の支援を継続しています。
 2015年11月末現在は、累計で18人の方の支援を行っており、4人の方の支援が終了しています。
 視察や研修会等で知り合った全国の担当者との話のなかから、50代、60代の方への支援を耳にすることがあったのですが、臼杵市での支援は20代から40代と若い人が多く、引きこもりも多いように感じます。
 実際、相談までしかたどり着けない引きこもりや、地域や人伝から情報としてまだまだ引きこもりの人がいるようです。
 引きこもりの人のように、地域社会との関係を持とうとしない若い人や潜在的に課題を抱えている人は、まだまだ沢山いるのではないかと思われます。
 「社協だより」という広報誌を出した際に、問い合わせが増えた状況からも見て取れます。
 相談に訪れるのを待つだけではなく、地域の色んな団体とも連携をとりながら、支援の手をこちらから差し伸べていく必要があるのではないかと思います。
 支援の難しさを、この一年間で学びました。
 最初の相談のときに、その人の課題を引き出すことが重要ではあるのですが、最初から踏み込みすぎると人間関係を壊しかねないリスクもあります。
 相談者のなかには、人間関係そのものが課題の人もいます。
 また、本人だけでなく、家族に課題がある場合もあります。
 その人の状況に応じて、時間をかけて寄り添うことで支援にうまくつなげていけることを実感しました。
 そして、課題を抱えている人には、一度就労したからといっても、就労先でうまくいかず、元に戻ってしまう人もいます。
 忍耐強く支援をし、一度支援が終わっても、その後しばらくはフォローする必要があります。

6. おわりに

 2015年4月に生活困窮者自立支援法が施行されました。
 日本全国の自治体が取り組むこととなりましたが、制度の構成としては、必須事業として「自立相談支援事業」と「住居確保給付金」があり、併せて任意事業の「就労準備支援事業」「一時生活支援事業」「家計相談支援事業」「学習支援事業」「その他生活困窮者の自立の促進に必要な事業」があります。
 大分県下の各自治体も含めて、全国的に必須事業だけを実施する団体が相当数あります。
 「必須」という言葉にとらわれて、事業の本質を見極めることを忘れないでください。
 モデル事業への取り組みを通して、総合相談だけでは終わらない、正確には終われないということを十分実感しました。
 生活困窮者とは、経済的困窮と社会的孤立の複合状況に置かれた人々であります。そういった方々の自立(日常生活自立・社会生活自立・経済的自立)をめざすためには、支援者の支援が必要であり、当事者と支援者の"信頼関係"があって、この事業が成り立っていくものと考えています。当事者に寄り添って行う"伴走型支援"こそが、本人を自立の道へと導くものであります。
 「自立」への支援が本質であり、出口がないのに相談だけを受けるのは無責任です。
 この事業に取り組むことで、結果として生活保護受給者数が減ることは望ましいことですが、それが目的ではありません。
 生活保護を受給するに至っていないが、現に生活が困窮している人達へ手を差し伸べていく取り組みであり、自治体としてやらなければならない「地域づくり」ではないでしょうか。