1. はじめに
(1) 自治体関連職場の労働環境の実態と改革の方向
① 劣悪な労働条件が放置される委託労働者の実態
自治体職場では、直接雇用の正規職員の削減、非正規雇用が拡大し、臨時・非常勤職員の比率は三分の一、約70万人に上ると推計され、他方、業務委託労働者も増大している。行政から委託等で仕事を受注している民間労働者の雇用不安、ダンピングによる賃金・労働条件悪化が官製ワーキングプアとして大きな社会問題化してきた。過酷な労働条件で雇っても直ぐに辞めていくような状態では公共サービスの質の低下に及ぶ事態も報道されている。
自治体など官庁職場において、わが国における最低水準の労働条件を定めた労働基準法などの法律は守られているのか。官庁からの仕事を競争入札で落札した取引事業者の職場ではどうか。事業者は残業代をきちんと支払い、公的年金などの社会保険制度等に加入しているのだろうか。官庁と事業者との入札・契約や指定管理者の選定の際には、こうした違法状態をチェックし、労働者にツケを回すような事業者は排除されているのだろうか。
私が実際に、ある市の庁舎管理受託企業に勤務する労働者から受けた労働相談では、(ア)年次有給休暇がない、残業しても割増賃金を払ってもらえない、(イ)市と受託企業との契約書にある「労働関係法令を遵守すること」との一条が明記されていても守られていない事例があった。実態は法令遵守しない事業者が受託し、劣悪な労働条件が放置されていた。このような現状がなぜ生じるのだろうか。
それは、事業者選定段階で、労働基準法などの労働関係諸法令を遵守している事業所か、任せても大丈夫かという視点で自治体がチェックしておらず、事業者を決定した後に契約書の一条に"法令遵守"を盛り込んでいるに過ぎないからだと考える。このような事態を改善する手立てはないのだろうか。
② 労働環境評価で労働関係諸法令違反の一掃を!
税金が財源の官庁の場合、労働関係諸法令違反をしている事業者を、低価格のみを評価し発注するというのでは、税金の支出方法自体が納税者でもある労働者の暮らしを困難にさせ低位に押しとどめてしまうことにほかならないと考える。
こうしたことを防止するには、入札・契約や指定管理者の事業者選定の際に、労働基準法が義務付ける時間外・休日労働に関する労使協定(36協定)の締結や障害者の法定雇用率など公正な労働環境を確保しているかどうか、少なくとも法令遵守状況の確認を行うことが重要である。低価格のみが評価されるのではなく、法令を遵守し労働者(市民・納税者)の暮らしを支え、社会的責任を果たしている事業者が公正に評価されるべきではないのか。
社会保険労務士(以下、「社労士」)は適正な業務を通じて、労働・社会保険諸法令の円滑な実施に寄与すると共に、事業の健全な発達と労働者等の福祉向上に資することを使命としている。
市職員として約23年間の勤務経験を持つ私はこの点に着目し、社労士(会)として、公共部門の仕事を受注したい事業者にあっては、少なくとも法令遵守事業者でないと評価してもらえないという社会的風潮を作り出すことにより、官庁からの受注事業所の職場から労働関係諸法令違反の状況を一掃できるのではないかと考え (『月刊社会保険労務士』2008年5月号)、大阪府社労士会や大阪社労士政治連盟の会議で発言し、社会貢献事業として計画(大会方針)化して頂き、大阪での取り組みを全国社労士会連合会の定期総会での発言や機関誌への記事掲載を通して呼び掛けてきた。本稿は私の考えや多くの仲間と共に実践してきた事例を一刻も早く、一人でも多くのみなさんに受け止めて頂きたく記した次第である。
2. 進む法整備、遅れている自治体の対応
(1) 入札改革・総合評価方式をめぐる動き
① 総合評価入札の導入に関する法整備と入札改革の動き
従来、国・自治体から価格のみの評価方式、即ち低価格競争で仕事を得た事業所では、労働者の低賃金など労働条件の劣悪化をもたらすことがあり、労働者が辞めた場合、募集しても応募者がなく補充できないことから、契約どおりの公共サービスが提供できず、市民生活に悪影響をもたらしたり、手抜き工事のため建物等の品質が保障されないという事態が度々生じた。
自治体が物品やサービスを購入(調達)する際、競争を行う方法の根拠法令には、地方自治法、地方自治法施行令などがある。根拠法が一部改正されることにより、従来の価格を絶対視する原則的な価格主義の入札制度から、価格以外の要素も含めた総合的な観点から判断して相手を選択するという総合評価型入札制度へと情勢変化に対応して法律が整備されてきている。
今日では事業者選定の方法として総合評価方式が導入され、国・自治体ともに公共工事は公共工事品質確保法が、公共工事以外の物品購入や労務提供型請負等は公共サービス基本法が適用されている。特に、2009(平成21)年7月に施行された公共サービス基本法第11条では、公共サービスの実施に従事する者の労働環境の整備について「国及び地方公共団体は、安全かつ良質な公共サービスが適正かつ確実に実施されるようにするため、公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保その他の労働環境の整備に関し必要な施策を講ずるよう努めるものとする。」と規定し努力義務を課している。
一方、これより先の2003年9月、地方自治法改正によりスポーツ施設など条例により設置された様々な公の施設の管理運営を総合評価方式で審査のうえ、指定により法人やその他団体に委ねることができるという指定管理者制度が施行された。
② 総合評価方式の導入に戸惑う自治体とその背景事情
公共工事品質確保法の施行当時の2005年4月~5月に全国の自治体(市町村を除く)を対象に国土交通省の国土技術政策総合研究所がアンケート調査を実施し、総合評価方式を導入していない自治体に関し次の回答を得た。
a 総合評価の導入により見込まれる効果(複数選択可) |
イ.目的物の品質(機能・性能)の向上 |
80% |
ロ.不良・不適格業者の排除 |
66% |
ハ.新技術・新工法の採用促進 |
56% |
|
|
b 総合評価の実施にあたっての課題(複数選択可) |
イ.手続きに伴う事務量の増大 |
90% |
ロ.手続き開始から契約までに時間を要する |
85% |
ハ.客観的評価方法の設定が困難 |
76% |
ニ.客観的な評価項目の設定が困難 |
66% |
|
この傾向は、すでに総合評価を導入している自治体が抱える課題と同傾向であり、多くの自治体は困難に直面していることが明らかとなった。このデータは11年前のものだが、今日でも同様の状況だろうと推測し引用した。
価格以外にその他の要素を評価対象に加えることも出来るようになったため、業者の技術力のほか、人事労務面では例えば就業規則の作成・届出・適切さなどの労働関連項目を評価対象に加えた総合評価方式で落札者を決めることが可能となった。地方分権改革で拡大する自治体の権限と業務の質・量的拡大のなか、自治体職員数が減っている状況下で、具体的に労働環境評価を主体的にだれが、どのように担当するのか明確でないところに自治体職員の悩みも大きいものがあると考える。したがって、今日でも総合評価方式の中に労働環境評価項目を入れた事業者選定は進んでいない実態がある。①総合評価方式による手続きに伴う事務量の増大、②手続き開始から契約までに時間を要すること、③客観的な評価項目・評価方法の設定が困難なことなどがネックとなっていて、特に総合評価方式による審査の仕組みを設計する際、労働環境評価(労働条件審査)を誰が担当するのか不明なことが大いに関係しているからだと考える。
私自身の市職員の経験上言えることは、地方公務員に適用されず選定対象の民間事業者に適用されている労働法関連の知識やその実務的な手続書類名の知識が十分でなく、労働・社会保険関係諸法令を踏まえた労働環境評価を総合評価方式の中に取り込むことを考えるだけでも大きな心理的負担感があるのではないかと想像する。たとえば、「適切な就業規則が整備されているか」が評価項目の場合、書類審査で提出された就業規則の全条文を通読しても「適切な就業規則」であると職員が判断できるか、判断できなければ誰が担当すればよいかが明確にならないと審査は実現しない。したがって、労働関連項目を含んだ総合評価方式導入の重要性は一般的に理解できても、実際の審査方法、審査結果に関する説明責任のことを想像すると、実施まで踏み込めないのではないかと考える。この局面に誰かが参画し職員をサポートできれば事態は大きく改善され、労働環境評価項目を設定し、審査し、評価結果の説明責任も果たせる。このことで職員は不安なく法の趣旨を実践し、落札・指定された事業者に雇用される労働者の労働環境は確保され、公共サービスが提供されることにつながると確信する。
(2) 指定管理者制度
① 指定管理者制度
指定管理者制度とは、従来、自治体やその外郭団体に限定していた、市民会館などの文化施設、老人デイサービスセンターなどの福祉施設、スポーツ施設などの「公の施設」の管理・運営を、株式会社をはじめとした営利企業、財団法人・NPO法人などの法人、その他の団体に包括的に代行させることができる制度である。この「指定」は、従来の管理委託制度(公法上の契約関係)や業務委託(私法上の契約関係)とは異なる行政行為の一種で、公の施設の管理権限の指定を受けた者に委任するもの。地方自治法の一部改正で2003(平成15)年6月13日公布、同年9月2日に施行された。小泉内閣発足後の日本において急速に進行した「公営組織の法人化・民営化」の一環とみなされ、民間の能力を活用しつつ住民サービスの向上を図るとともに、経費の節減等を図ることを目的とする。
② 指定の手続き
各自治体が定める条例に従ってプロポーザル方式や総合評価方式などで指定管理者候補の団体を選定し、施設を所有する自治体の議会の決議を通じて条例で定めることを要する。最終的に選ばれた管理者に対し、管理運営の委任をすることができる。管理者は民間の手法を用いて、弾力性や柔軟性のある施設の運営を行うことが可能となり、その施設の利用に際して料金を徴収している場合は、得られた収入を自治体との協定の範囲内で管理者の収入とすることができる(地方自治法第244条の2第8項)。
③ 指定管理者制度の運用について (総行経第38号、2010(平成22)年12月28日総務省自治行政局長通達)
「本制度は、その導入以降、公の施設の管理において、多様化する住民ニーズへの効果的、効率的な対応に寄与してきたところですが、地方公共団体において様々な取組がなされる中で、留意すべき点も明らかになってきたことから、これまでの通知に加え、下記の点に留意の上、改めて制度の適切な運用に努められるよう、地方自治法第252条の17の5に基づき助言します。(中略)
6 指定管理者が労働法令を遵守することは当然であり、指定管理者の選定にあたっても、指定管理者において労働法令の遵守や雇用・労働条件への適切な配慮がなされるよう、留意すること。」
(3) 労働環境(労働条件)など総合評価で事業者選定の法整備
① 労働環境など総合評価落札基準の作成は第三者委員会の義務
地方自治法施行令第167条の10の2の改正により、労働環境項目などを含む総合評価方式で事業者を決定する場合に、総合評価一般競争入札における落札者決定基準を定める(第3項)ときは、公正で専門的な第三者委員会の設置を義務付けられ、その委員会で学識経験者の意見を聴くことが義務付けられ(第4項※)、事前公告する(第6項※)ことになっている。
② 労働環境評価への参画は社労士の社会的使命
社労士法第1条において「この法律は、社会保険労務士の制度を定めて、その業務の適正を図り、もつて労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資することを目的とする。」と規定している。このことから、労働環境評価への参画を通じた実践は社労士の使命と受け止めて、社労士は自治体から要請があれば社会貢献事業として関与するべきと考え、私は関係者に説明してきた。
(4) 労働環境評価の手法
① 労働環境評価の手法
社労士による労働環境評価(社労士会でいう労働条件審査)は、自治体の入札契約、指定管理者などの事業者選定に応募する事業者または選定後の事業者について、労働基準法等の労働社会保険諸法令に基づく規程類の整備状況を確認するとともに、その規程や提出された事業計画書どおりの労働条件が確保され、労働者がいきいき働くことができる職場になっているかを確認、評価するものである。
② 労働環境評価項目の設定による社会的価値の追求
評価項目の設定により、価格入札から政策入札へと改革することに繋がり、入札制度そのものが社会的価値を追求する政策手段となると言われている。社会的責任を果たそうとする企業・事業者を支援するための手段になり得る。
ア 価格評価
イ 技術的評価 品質保証(苦情処理体制、自主検査体制)周辺環境への配慮など
ウ 政策(施策)評価 社会的価値
a.公正労働基準を維持 |
法令遵守分(就業規則、36協定、労働・社会保険加入等) |
b.労働条件 |
法令上乗せ分 |
c.就労困難者の雇用 |
障害者・母子家庭・ホームレス等の新規雇用の評価就職困難者の雇用実績の評価など |
d.市内居住者雇用 |
|
e.男女共同参画を促進 |
|
f.自治体最低賃金制度 |
|
g.研修報告、研修計画など |
|
h.環境問題などへの取り組み |
環境への取り組み、再生品の使用、低公害車の導入など |
i.地域貢献への取り組み |
災害協定等による地域貢献の実績、ボランティア活動など |
|
③ 物品調達、労務提供型業務委託、公共工事等の入札契約と総合評価・労働環境評価(労働条件審査)の関係
事業者選定 |
国/地方公共団体 |
|
評価項目(例) |
|
学識経験者等 |
特 例 |
公契約基本法(未)/
公契約基本条例(未)
公共サービス基本法/
公共サービス基本条例(未)
公契約条例
公共工事品確法/
公共工事品確法
入札契約制度の改善
|
総
合
評
価 |
①.労働条件(法令上乗せ) |
労
働
条
件
審
査
|
社会保険労務士
(社労士)
弁護士
|
②.公正労働基準(法令遵守分) |
③.障害者雇用状況報告、計画 |
④.就職困難者雇用状況報告、計画 |
⑤.市内居住者雇用計画 |
⑥.男女平等参画の状況 |
⑦.研修報告、研修計画など |
⑧.経営状態(経営分析) |
公認会計士、税理士 |
⑨.環 境(ISO14001認証取得) |
専門家 |
⑩.技術力 |
専門家 |
⑪.価格評価 |
(自治体事務局) |
原 則 |
会計法/地方自治法 |
|
価格評価 |
(自治体事務局) |
|
④ 事業者選定前後における労働環境評価の審査委員経験一覧 ●:筆者が経験 ○:可能性のあるもの
事業者選定の区分 |
分 野 |
選定前 |
選定後(事業評価) |
①.入札・契約制度 |
公共工事
労務提供型
物品調達 |
価格評価
(従来方式) |
入札参加資格○ |
○
(事業評価) |
総合評価 |
● |
○(〃) |
②.指定管理者制度 |
公の施設管理 |
● |
●(〃) |
③.公募指定監督制度 |
地域密着型サービス事業者等 |
● |
○(〃) |
④.社福法人設立認可 |
指定都市・中核市
→2013.4.1全市へ移譲 |
● |
- |
⑤.社福法人指導監査 |
- |
●(指導監査) |
|
3. 事業者選定過程における総合評価の体験報告
(1) 委託業務総合評価一般競争入札評価員会議【枚方市の場合】
① 委託業務総合評価一般競争入札評価員会議の概要
ア.位置付け:2013(平成25)年7月、枚方市委託業務総合評価一般競争入札評価員設置要綱により設置。
「第1条 本市が発注する委託業務のうち総合評価一般競争入札により入札を行うもの(以下「対象業務」という。)に関して意見を述べ、もって本市における総合評価一般競争入札の適正かつ公正な執行を図るため、枚方市委託業務総合評価一般競争入札評価員(以下「評価員」という。)を置く。」
イ.評価員の担任事務
a 対象業務に係る落札者決定基準(地方自治法施行令(1947(昭和22)年政令第16号)第167条の10の2第3項の落札者決定基準をいう。)に関し意見を述べること。
b 対象業務の落札者の決定に関し意見を述べること。
c 前2号に定めるもののほか、対象業務について市長が必要と認める事項に関し意見を述べること。
ウ.依頼期間等:評価員の依頼期間は、次の各号に掲げる評価員の区分に応じ、当該各号に定めるとおりとする。ただし、補欠の評価員の依頼期間は、前評価員の依頼期間の残期間とする。※ 評価員の再依頼は、妨げない。
a 対象業務全てについて依頼する者 2年以内
b 対象業務ごとに依頼する者 当該対象業務の契約の締結の日までにおいて市長が必要と認める期間
エ.報償金 日額 9,500円
オ.評価員の構成:① 対象業務全てについて依頼する者 4人、② 対象業務ごとに依頼する者 5人以内
カ.守秘義務:評価員は、担任事務の遂行を通じて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。評価員でなくなった後も、また、同様とする。
② 枚方市委託業務総合評価一般競争入札評価員(筆者)が関与した委託業務 (市ホームページ公表済)
|
総合評価一般競争入札の委託業務名 |
2009(平成21)年度 |
① 安心と輝きの杜施設総合管理委託 |
2010(平成22)年度 |
② 水道検針業務、窓口・収納業務等委託 |
2011(平成23)年度 |
③ 庁舎清掃業務委託 |
2012(平成24)年度 |
④ 枚方市東部清掃工場粗大ごみ処理施設運転管理等業務委託 |
⑤ 安心と輝きの杜施設総合管理委託 |
2013(平成25)年度 |
⑥ 新病院建物総合維持管理業務委託 |
⑦ 税総合システム再構築業務委託 |
⑧ 枚方市パスポートセンター旅券申請受付・交付等業務委託 |
⑨ 水道検針業務、窓口・収納等業務委託 |
⑩ 粗大ごみ戸別収集電話予約受付オペレーティング業務委託 |
2014(平成26)年度 |
⑪ 枚方市穂谷川清掃工場焼却処理施設運転管理等業務委託 |
⑫ 庁舎清掃業務委託 |
2015(平成27)年度 |
⑬ 枚方市東部清掃工場運転管理等業務委託 |
⑭ 安心と輝きの杜施設総合管理委託 |
⑮ 枚方市コールセンター運営業務委託 |
(枚方市の場合、落札者決定基準案の検討を評価員が担当し、書類審査は市職員が担当するしくみ。) |
③ 枚方市委託業務総合評価一般競争入札に関する資料:ホームページに公表されている落札者決定基準、評価項目・評価点・評価内容、業務委託総合評価一般競争入札資料、労働・社会保険諸法令遵守状況報告書
(2) 各種施設指定管理者選定委員会【豊中市の場合】
① 指定管理者制度の公募について
豊中市は市民のサービス向上と管理経費の縮減等をめざして、民間事業者などの団体が施設の管理運営を実施する「指定管理者制度」を2006(平成18)年度から導入した。指定管理期間が2011(平成23)年3月末をもって完了する施設の新たな指定管理者を募集した。 期間は2011(平成23)年4月1日~2016(平成28)年3月31日の5年間。現在では、2016(平成28)年4月1日~2021(平成33)年3月31日の5年間に移行している。応募できるのは民間事業者などの団体であり、個人の応募は不可となっている。選定方法は、選定委員会で書類審査と面接審査により指定管理候補者を選定し、議会の承認を得て決定する。
② 指定管理者選定委員会
ア.位置付け:2010(平成22)年に要綱により選定委員会を設置。2011(平成23)年2月に「モニタリングおよび評価の指針」を作成して、評価の仕組みを構築し、地方自治法第138条の4第3項の規定にもとづき、各施設の設置条例に定めるところにより執行機関の附属機関として選定委員会に改組。また、選定と事業評価(モニタリング)を同一の委員会としている理由は、指定管理者の選定における公平性の担保について、選定時において審査された提案が的確に実施されたかどうか、同一委員会の一貫した視点によって評価することが可能になることから、選定評価委員会としている。
イ.委員会の所掌事務は、(a)審査基準・募集要項の作成、(b)指定管理者候補者の選定、(c)評価基準の作成、(d)管理状況の評価、について調査・審議して意見を答申すること。
ウ.委員の任期は、指定管理者の候補者の選定から指定管理者による施設の管理状況の評価に係る調査審議が終了するまで。
エ.委員の報酬は日額9,700円。
オ.委員の構成:選定評価委員会は公共サービスに関して優れた識見を有する下記の委員で構成する。
(a)学識経験者(地方自治体の行財政全般に優れた識見を有する者)、(b)法人等の財務に関して専門的識見を有する者(公認会計士または税理士)、(c)従事者の労務管理に関して専門的識見を有する者(社会保険労務士等)、(d)当該施設・サービスに関連する優れた識見を有する者。
※事業評価(モニタリング)を行う場合は、公募市民を加えることができることとしている。
③ 豊中市が社労士を委員として構成することとした背景
豊中市が社労士を委員として構成することとした背景は、市職員の方の話によると以下のとおりである。
ア.各施設の設置条例:(a)市民の平等な利用が確保され、かつサービスの向上が図られるものであること。(b)事業計画書の内容が施設の効用を最大限に発揮させ、かつ、効率的・効果的な運営が図られるものであること。
イ.実現のためには、指定管理者制度導入の施設は市民に直接的にサービス提供を行うため、サービスの質の維持向上及び効率的・効果的な施設運営のためにはそこで働く従事者が働きやすい職場環境づくりが行われる必要がある。
ウ.そのためには、選定時においては雇用労働条件の確認が不可欠であり、評価時においては実際の施設運営に際して適正に労務管理がされているかの確認が、所期の目的を達成するためには非常に重要となってくる。
エ.ところが、労務管理の確認については膨大な書類の確認など、専門的な知識を必要と認識している。
オ.そこで、社労士に委員会に参画してもらうことにより、労務管理について専門家の見地から適正かつ効率的に判断・評価をしてもらうことができる。
余談だが、豊中市職員組合との労使協議の場でも社労士の活用について話があったように市職員の方から聞いた。
④ 指定管理者の選定について
ア.選定の方法:第一次審査:書類審査、第二次審査:面接審査
イ.応募団体の提案に係る提出書類:○指定管理者指定申込書、○グループ応募表明書、○団体概要説明書(応募団体の設立理念、本市の施策の推進に関わる事項、活動実績等を記載)、○事業計画書(当該事業に関し市の負担となる所要コスト、確保可能なサービス水準、施設によっては開館時間・休館日・自主事業などについての提案等を記載)○財務状況報告書(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書、勘定科目内訳明細書、法人税確定申告時提出書類等)○諸証明書類(公租公課に関しての納付を証明する納付証明書等、労働関係法令を遵守した労務管理を行っていることを証明するもの)
・労働保険 保険関係成立届(写)
・労働保険 概算・増加概算・確定保険料・一般拠出金申告書(写)(直近のもの)
・上記申告に伴う保険料納付書・領収証書(写)(直近の第1・ 2 ・3期のもの)
・就業規則(パート労働者含め10人以上の事業所は監督署の受付印のあるもの。賃金規定等の附属規程を含む。)(写)
・時間外労働、休日労働に関する協定届(写)
・定期健康診断結果報告書(写)(労働者50人以上の事業所の場合)
・社会保険適用通知書(写)または直近の被保険者報酬月額算定基礎届(写)
・社会保険料の納入告知書・納付書・領収証書(写)または保険料納入告知額・領収済額通知書(写)(直近のもの)
・労働条件の書面交付を証明するもの(雇入(労働条件)通知書または労働(雇用)契約書等の書式)等 |
⑤ 豊中市立各種施設指定管理者選定委員会に委員を推薦
2009(平成21)年5月、豊中市から当時私が支部長をしていた大阪会豊能支部(当時、現大阪北摂支部)に、豊中市指定管理者選定委員会委員に社労士の推薦をしてほしい旨の依頼があった。委員に推薦の社労士(当初8人)を対象に、市に合同説明会の開催を要望し、支部として推薦した8人全員を対象に、市に合同説明会を開催して頂いた後、メンバーで後日打合わせを行い応募者の提出書類を確認した結果、上記④□内のように公表される『募集要項』への掲載として反映された。幸いにも、市において評価して頂き、その後も会員社労士が任に就いている。
|
設置される指定管理者選定委員会 |
所管部局 |
施設数 |
2009(平成21)年6~7月 |
①青少年自然の家 |
教育委員会 |
1 |
2010(平成22)年1月
~
2010(平成22)年11月 |
②国際交流センター |
人権文化部 |
1 |
③とよなか男女共同参画推進センターすてっぷ |
人権文化部 |
1 |
④老人デイサービスセンター |
健康福祉部 |
7 |
⑤特別養護老人ホームほづみ、介護老人保健施設かがやき(在宅介護センター併設) |
健康福祉部 |
4 |
⑥母子福祉センター |
こども未来部 |
1 |
⑦市営住宅、豊中駅西駐車場 |
まちづくり推進部 |
2 |
⑧体育施設 |
教育委員会 |
17 |
計 |
36 |
2012(平成24)年10~11月 |
⑨環境交流センター |
環境部 |
1 |
⑩養護老人ホーム永寿園とよなか |
健康福祉部 |
1 |
2014(平成26)年5~9月 |
⑪青少年自然の家 |
教育委員会 |
1 |
2015(平成27)年1~7月 |
⑫体育施設 |
教育委員会 |
21 |
2015(平成27)年4~7月 |
⑬母子福祉センター |
こども未来部 |
1 |
⑭豊中市立介護老人保健施設かがやき |
健康福祉部 |
1 |
⑮国際交流センター |
人権文化部 |
1 |
⑯とよなか男女共同参画推進センターすてっぷ |
人権文化部 |
1 |
⑰豊中市市民ホール |
都市活力部
文化芸術課 |
3 |
2015(平成27)年5月~ |
⑱蛍池駅前再開発地区西自動車駐車場
⑲市営住宅 |
都市計画推進部
市街地整備課
住宅課 |
1
27 |
計 |
57 |
⑥ 指定管理者選定委員会の流れ(モデルスケジュール、大体数カ月かかる模様)
指定管理者候補選定の諮問。募集にかかる評価基準等の検討、評価項目の決定→募集要項の一定期間配布(HP公表)→応募者向けに募集にかかる施設の現地説明会→応募者からの質問書受付→事務局から回答書送付→応募書類受付、事務局で応募書類確認後、選定委員に応募書類を届ける。
第一次審査(書類審査):提案書類にもとづく書類審査、現場視察、書類審査・ヒアリング審査の配点基準等を決定した後、各委員が書類審査をする。書類審査は、評価項目や配点などに関する事務局案を巡る論議を経て、修正されたものに基づき採点する。この場合、評価項目は、各施設の設置条例の中に「指定管理者の指定の手続」という規定と連動している。例えば、その規定の中に「市長は、……書類の提出があったときは、次に掲げる基準に基づき、最も適当であると認めるものを選定し、議会の議決を経て指定管理者を指定する。」と定められている。条例で定める選定基準として、
(1) 市民の平等な利用が確保され、かつ、サービスの向上が図られるものであること。
(2) 事業計画書の内容が○○施設の効用を最大限に発揮させ、かつ効率的・効果的な運営が図られるものであること。 |
等とある場合は、これらの選定基準に基づき、たとえば、(2)の場合、「人員配置の考え方」「人材育成の考え方」などが評価項目として考えられ、「評価のポイント」として、労働基準法・労働関係法令等を遵守した労務管理を行おうとしているか、研修は施設の管理運営上必要な内容になっているかなどが決められる。
人事考課(評価)制度の設計や運用に携わっている士業として、表の作り方などをはじめ審査基準づくりに力量を発揮できる。書類審査の後のヒアリング審査についても、質問項目をどうするか、配点をいくらにするか論議する。提出された就業規則の中には、ネット上で他社の就業規則を寄せ集めたことが一目で推測されるような例。法改正に対応していない、たとえば育児・介護休業制度が古い内容のままの例もある。絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項、任意的記載事項に分けて、全条文を審査する。
なお、第一次審査採点の結果、得点順位3位以内の団体のみ第二次審査への参加ができる。また、3位以内であっても書類審査の総得点の45%未満の団体については、第二次審査に進むことができない。事務局より第一次審査結果通知。ヒアリング審査質問項目を決定する。
第二次審査(面接(ヒアリング)審査)、報告書案作成。事業者を代表する方(3人以内)に面接会場において、提案内容について選定委員との面接・質疑応答を行う。書類審査と面接(ヒアリング)審査の総合点で候補者を決定した後、委員の採点に基づき、候補者が決定される。
報告書確定、答申。選定委員会として選定結果報告書を作成し、市長に提出する。選定結果報告書が作成されると役目は終わる。審査に用いた応募書類を事務局に返却する。事務局より応募者へ第二次審査結果通知。
10月以降 議会手続を経て、評価結果について指定管理者と調整 次期事業計画への反映。
選定結果の公表は、選定結果の通知の後、市ホームページ等において行われる。
【参考】 公募開始から指定管理者の決定までの流れ(体験例)
項 目 |
時 期 |
①.募集要項の公示 |
7月14日~8月13日 |
②.応募説明会の開催 |
8月16日 10時00分から、場所:豊中市立福祉会館 |
③.質問表提出期間 |
~8月18日17時15分まで、8月23日中に質問への回答 |
④.応募表明提出期限 |
~8月26日17時15分まで |
⑤.提案書類提出期限 |
~9月9日17時15分まで。事務局より選定委員に応募書類届く。 |
⑥.第一次審査(書類審査) |
9月中旬頃、9月下旬頃に結果通知 |
⑦.第二次審査(面接審査) |
10月下旬頃、11月上旬頃に結果通知 |
⑧.選定結果の公表 |
11月上旬頃 |
⑨.市議会での承認 |
12月 |
|
⑦ 事業者決定基準:審査基準表の内容に検討、適宜、改善点を発言する。
選定考査項目(大項目) |
配 点 |
優れている(A) |
普 通(B) |
劣っている(C) |
書類 |
面接 |
配点×100% |
配点×50% |
0点 |
1 |
基本姿勢 |
67 |
53 |
|
|
|
2 |
サービス水準・施設効用の発揮 |
206 |
84 |
|
|
|
3 |
財務の健全性 |
120 |
30 |
|
|
|
4 |
利用者とその家族などの満足度への配慮 |
64 |
26 |
|
|
|
5 |
従事者への配慮【注 労働環境評価】 |
114 |
26 |
|
|
|
中
項
目 |
職員の配置体制 |
24 |
- |
|
|
|
職員の資質向上に向けた取り組み |
35 |
- |
|
|
|
雇用環境 |
35 |
- |
|
|
|
労働関係法令の遵守 |
20 |
- |
|
|
|
「従事者への配慮」に関する総合的な視点 |
- |
26 |
|
|
|
6 |
個人情報保護体制 |
20 |
10 |
|
|
|
7 |
危機管理体制 |
54 |
26 |
|
|
|
8 |
地域との関わり、地域への貢献 |
55 |
45 |
|
|
|
総 合 計 |
700 |
300 |
|
|
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この例では、労働環境評価は、書類審査700点満点中の114点、面接300点満点中26点を占めている。
⑧ 指定管理者制度に関する資料:
ア.「豊中市外部活力導入ガイドライン」
イ.「新・豊中市指定管理者制度導入に関する指針」
ウ.「指定管理者制度導入施設一覧」
エ.「豊中市外部活力導入 選定のための指針 ―― 指定管理者制度対応版 ―― 」
4. まとめ
以下は社労士のPRというよりも社会的な人的資源としての存在を認識して頂き、労働環境評価などを含む総合評価方式の導入が、事業者の公正な評価、職員の負担軽減、選定事業所の労働者の福祉向上に繋がる道であることを理解して頂きたい。そして、一刻も早く、一人でも多くのみなさんに受け止めて頂き、自治体から受託した、あるいは指定された事業所で働く労働者が劣悪な労働環境の下で、悩み、苦しむことのないように共に取り組んで頂くことを願って述べるものである。
① 自治体にとって社労士を活用するメリット:
ア.人事考課(評価)制度の設計や運用に携わっている士業として、表の作り方、審査基準づくりに活用できる。
イ.労働条件審査そのものの煩雑さが解決し、職員負担も軽減される。
ウ.労働条件審査による事業者選定・評価により良質な雇用の確保につながる。
エ.労働条件の適正な確保、いきいきと働くことができる職場環境により市民サービスの維持向上に資する。
オ.各自治体の事情に合致した労働条件審査が望ましく、社労士活用でその自治体にふさわしい労働条件審査の立案・改善が図れる。
カ.審査会委員報酬の支払いだけで、労働条件審査が可能となる。
キ.信用失墜行為の禁止、秘密を守る義務、職業倫理に違反すれば業務停止、失格処分など社会保険労務士法により担保されている。
② 審査業務:
ア.労働基準法に基づく就業規則や労使協定届、労災保険料納付などの事業主控(写)を応募事業者に提出させる。
イ.労働者の労働条件が適法であるかを確認するため、法令に基づき応募事業者が提出した規程類(就業規則、賃金規程等)の整備状況や内容の審査、提出書類により労働・社会保険関係法令の遵守状況を審査する。
ウ.審査基準表(案)の内容を検討、適宜、改善点を提案する。人事考課(評価)制度の設計や運用に携わっている士業として、表の作り方などをはじめ審査基準づくりに力量を発揮する。
エ.当該自治体の求める雇用労働政策項目である障害者雇用率の達成、地元住民などの優先雇用、人材育成・研修など雇用対策状況など、公正な労働環境を確保しているかなど事業者決定基準に基づき評価表により審査をする。
オ.書類審査の後のヒアリング審査(面接)についても、質問項目をどうするか、配点をいくらにするか検討した後、ヒアリング審査を担当する。
③ 労働条件審査結果の社会的還元で中小企業を支援、労働環境確保の社会的な相場形成を!
大企業に大学生の応募者が殺到する一方で、学生の目は"低賃金、年次有給休暇もない"など労働環境が極端にひどいという先入観からなのか、中小企業に向き難い状態が続いている。事業者選定では1社だけが選定されるが、残りのうち労働環境評価の合格事業所には当該自治体が「審査合格済み」の評価を社会に還元(ステッカーを社用車に貼ったり、求人や会社PRに使用することを承認)することで世間の先入観を改めることに役立て、労働・社会保険諸法令を遵守することがいい人材の確保につながるよう、中小事業所を応援することを通じ、中小事業所の成長、地域経済の活性化、自治体財政の改善が図られることにつながることを願っている。 |