【論文】

第36回宮城自治研集会
第1分科会 ~生きる~「いのち」を育む・いかす、支えあう

 コミュニケーションに困難を抱える人の強い感情表出や感情爆発、執拗な訴え等を、その困難を抱えるが故のSOSとして積極的に捉えなおし、より適切な相談支援とは何か、「構造化」をキー概念とした生活保護ケースワークの実践から考察したい。



「構造化」による生活保護ケースワークの実践研究
~コミュニケーションに困難を抱える人に対する
相談支援の一考察~

福岡県本部/久留米市従業員労働組合連合会 末崎 政晃

はじめに

 知的障害や自閉症スペクトラム、重度の依存症、パーソナリティ障害、その他の脳疾患、あるいは幼少期の愛着形成や独特の認知・思考の影響により、コミュニケーションに困難を抱える人の中でも、特に対人トラブルを起こしやすい人に悩む生活保護ケースワーカー(以下CW)は多い。コミュニケーションに困難を抱える人の生活保護ケースワーク(以下ケースワーク)では、コミュニケーションが円滑に図れないことから、ケースワークもその人の社会生活も機能不全を起こすことがある。 
 そこで本稿では、「構造化」をキー概念にケースワークの実践的な整理を行い、これらの機能不全を改善するための支援方法として、ケースワークの構造化について記すことを試みた。なお、「コミュニケーションに困難を抱える人」とは、自身の認知・思考の著しい傾向に自他共に悩み、かつ、他者の操作や巻き込み、揚げ足取りができる水準の知的能力があり、対人トラブルに発展しやすい被保護者を想定している。


1. ケースワークの構造化とは何か

(1) 構造と機能について
 社会は、人々の暮らしをより豊かにするために構造化されており、その運営は機能的であることが要求される。そして運用上の機能性を担保するには、秩序だったルールを設け社会の構成員に明示することで、その社会構造自体がある程度守られる必要がある。
 このような観点をケースワークにも持ち込むならば、ケースワークが機能不全に陥らぬよう、ケースワークの支援構造が維持される必要がある。もちろん、ケースワークは最低生活の保障と自立助長のために行うのであり、社会構造とその機能を維持する方法とでは、性格が異なることは言うまでもない。

(2) 構造化について
 そもそも、人はあるがままに振舞える状況でも、全くの自由さが返って不自由になることと同様、逆に社会規範や役割義務、一定のルールの中に自身の振る舞いが規定されていた方が、振る舞いやすいものである。このことは、集団精神療法やグループワーク(集団援助技術)では、場の構造化による場の促進(ファシリテーション)が、グループリーダーに期待されることが普通であることを考えてみても明らかだろう。生活保護制度とケースワークにおいては、心理面に配慮し情緒面でのサポートしながら、その人がどう制度やCWと関わり何を為すべきか、やりとりの過程でCWが明示していくことが、ケースワークの構造化の過程となる。
 実際、コミュニケーションに困難を抱える人の中には、社会規範や役割義務等の理解や解釈が苦手で、漠然と対人対応への不安を抱えた人がいる。このような人に対しケースワークを構造化することで、制度活用やCWと関わりについて、その人は適応的な言動をとりやすくなり、課題解決や目標達成に向けた検討がしやすくなるだろう。

(3) 言語化による明示の必要性について
 ケースワークの構造化とは、コミュニケーションに困難を抱える人の、その困難さによる生活のしづらさを補完し社会生活機能の改善を図るために、必要な内容を明示しながら共有化した支援構造に沿って、ケースワークを機能させようとする試みに他ならない。
 その人が福祉事務所やCWと円滑に話を進めていけるように、CWと具体的にどのように関わればよいのか、自身は何に努めなければならないのか、福祉事務所とは何ができて何ができないところか等をやりとりの中で明示し、必要な内容がその人の意識下に構造化されることで、課題解決や目的達成に向けたケースワークが機能し始める。ワーキングメモリー(作動記憶)に問題がある人や、聴覚情報より視覚情報の方が理解しやすい人、自身の主張を一方的にしてCWの話を聞こうとしない人には、ホワイトボードや白紙に大きく書き出して説明する等の視覚化により明示するのも有効である。
 ケースワークの構造化の過程において「明示する」とは、必ずしもCWの説明に納得してもらうということではない。履行内容や課題を相手に意識してもらうこと自体が、まずは重要である。「どうせ分かってもらえないから」「説明しても相手が怒るだけだから」とCWが考え、相手に何も明示しないようでは、ケースワークの構造化が為されずケースワークは機能しない。逆に、明示により相手の意識下に必要な内容を置くことさえできれば、自ずとケースワークは構造化され機能し始めるだろう。


2. ケースワークを構造化する

 ケースワークの現場でケースワークを構造化していくために、実際に相手とやりとりをしていくにあたって、必要だと思われるステップを順に述べたい。

(1) ルールを明示する
 ルールとは、法律や社会規範に則った物事の尺度であり、構造化を促進するための重要な屋台骨である。ルールを設け明示しておくと、その基準に照らし合わせ、守られている・守られていない、達成に近づいた・近づいていない等の目安ができ、ケースワークにおいて労ったり注意を促したりすることが可能になる。
 当然、ルールの順守は、相手のみならずCWや福祉事務所もすべきである。ルールとは、互いが拘束されるもの、言いかえれば、多様な振る舞いや言動を一定枠に規定することで、目的に適った作用を効果的にもたらすものといえる。仮に、相手が「ルールなど都合のよいことを言うな」と憤慨したとしても、CWが「ルールであなたを縛っていると言いますが、CWもルールに縛られることで、あなたの権利や利益が守られている面もありませんか?」と問いかけることもできるだろう。

(2) できること・できないことを明示する
 ルールが明示されると、互いの振る舞いに対し期待できる基準が定まるため、福祉事務所やCWが支援として、できること・できないことも説明しやすくなり、精神科医療でいう「限界設定」が可能になる。精神科医療では、自傷他害のおそれがある患者に対し、行動制限が治療的に為されることがある。ケースワークにおいては極端な話、頻回受診・重複受診に対する医療券発行の制限や、CWへの執拗な頻回相談、福祉事務所での居座りに対する制限が必要な場合があるだろう。
 実際のケースワークの過程では、相手とやりとりする内容にあわせ、できること・できないことを明示することで、明示した内容を相手と確認しながら、実現可能な見通しや妥当な選択肢、踏むべきステップが検討され整理される。加えて、相手の疑問や訴えに対し、できること・できないことを明示することで、相手のもつ過度な期待が適正水準に落ち着き、あるいは誤解が解けることで、明示しない場合よりコミュニケーションが円滑になることも多い。

(3) 約束をする
 ルールと約束では、意味が異なる。約束とは、ルールの範囲内で相手の一定の事情を個別に勘案し、相手と話し合いながら具体的な行動計画を個別に取り決め、履行してもらうことである。約束という互いの合意による決め事は、信頼関係を前提に、ルール一辺倒ではなく一定の範囲内で柔軟に融通を利かせ、弾力性のあるケースワークを行うためにする意味合いが大きい。
 例えば、採用面接を受ける等の就職に直結する具体的な求職活動が為されておらず、職種にこだわり過ぎるあまり応募求人がほとんどない人がいたとする。そしてCWが、福祉事務所が実施している就労支援事業を活用しながら、職域を広げ採用面接を受けていくよう助言や指導を行い、求職活動の進め方や踏むべきステップ、それらの期間や期限を明示したとする。それに対し、折り合うことが苦手な人が、自分なりのやり方で今後も進めていくのだと憤慨した場合、その人のパーソナリティや個別事情を勘案しつつ、「三ヵ月で就職できると言うなら、あなたのプランに任せますが、その期限を過ぎても就職が難しければ、今回提示したCWのプランに沿って求職活動を進めるということでよいですか?」とCWが提案する。その結果、その人が「それでよい」と合意し、CWが「では、約束です」と確認できれば、これが約束にあたるだろう。

(4) 期限を明示する
 ケースワークの構造化は、上述の(1)~(3)の他、期限を設けることも重要である。ここでいう期限とは、履行にあたって合理的で実際的な目安のことである。この期限は「何月何日まで」と具体的に設けていなければ、互いに確認していた内容も時と共に風化していくのが普通である。そのため、履行内容を明示する際は、同時に、その期限を年月日までと明示することが望ましい。
 しかし、相手に特別な事情がある場合は、履行するのをひとまず待つに留めることも当然ある。ただし、「待つ」というのは、例外や不履行を容認しているわけではないことを明確に説明しておく必要がある。これは、ルールの範疇で保留にしておかなければ、ケースワークが機能しないためである。

(5) 組織的、統一的な対応を図る
 人事異動等による担当CWの交代により、コミュニケーションに困難を抱える人へのケースワークが、その構造と機能を失い振り出しに戻ることがある。そのため、組織的に担当CWから次のCWへ、継続性のあるケースワークを引き継いでいくことが必須である。
 また、ケースワークを構造化する過程で、CWとのやりとりの中で生じた欲求不満が、福祉事務所内はもちろん、他部署や関係機関、その他の第三者にまで波及することがある。そのような時ほど、ケースワークを構造化していくための情報共有や、職員間・支援者間の連携による統一的な対応が求められる。


3. コミュニケーションを促進する

 コミュニケーションとは、多様な可能性を秘めた創造的な行為の一つであるが、そのあり方が無数であるため、返って意思疎通を複雑に錯綜させてしまうことがある。このことを踏まえ、コミュニケーションは、双方向のやりとりにより為されるものであることを考えれば、意思疎通を円滑に図るためには、その双方向性のあり方が問われることになる。
 働きかけ・アプローチとしてのケースワークと、支援関係を構築し維持するためのコミュニケーションには強い相関関係がある。ケースワークが機能していれば、コミュニケーションも上手くいっていることが多く、逆にコミュニケーションが上手くいかなければ、ケースワークも機能しないことが多いだろう。
 ケースワークを構造化することで、ケースワークもコミュニケーションも自ずと機能し始めるが、当然そうでない場合もある。ケースワークは、被保護者とCWとの一対一の二者関係を中心に行うことが多いため、コミュニケーションに困難を抱える人のその困難さによって、二者関係が膠着することがある。さらに、一対複数や複数対複数の関係ともなれば、状況がより複雑になるためコミュニケーションが上手く図れず、結果的にケースワークが機能しない場合がある。したがって、停滞し膠着したコミュニケーションを如何に促進させていくのか、その人とCWの二者関係に焦点を絞り、複数対応の視点から述べたい。

(1) 一対一対応について
 コミュニケーションに困難を抱える人の中には、CWとの二者関係の中だけでは、ケースワークが進まない人がいる。単純に、CWとその人双方の互いへの誤解が原因であることも多いが、閉塞的な二者関係の中では、これまでの親子関係、家族関係、異性関係等の影響により、転移・逆転移が起こりやすいという点も押さえておきたい。
 例えばその人が、CWに理解されていないとのフラストレーションから、「担当のCWを代えて欲しい」と訴え出ることがある。このような訴えをする人の中には、「こんな人間関係、私の求める人間関係ではない」「誰も私のことを分かってくれない、私のことを分かってくれない人とは付き合わない」との憤りと落胆から、その現実をなかったことしようと、繰り返し人間関係のリセットとリ・スタートを試みる人がいる。
 このような心性をもつ人へのケースワークでは、経験を重ねたCWでも、その人との二者関係の中で出てくる限界もある。二者関係においては、時にそのCWの経験や専門性よりも、関係性や立場性に変化をつけること自体が、膠着し停滞したコミュニケーションに動きを生み出し、ケースワークを進展させることがある。

(2) 関係性、立場性に変化をつけ、力動を生み出す
 例えば、CWは自分の友人が自宅に相談があると訪ねて来たら、悩みをもった友人として接するが、初対面の人が福祉事務所に相談に来たら、CWとしてクライエント(要保護者・被保護者)として接することになる。前者では、関係性の中での相談が、後者では、立場性を踏まえた中での相談が期待される。
 また、心理士の母親に娘が「お母さんは心理士なのに私のことを全然分かってくれない」と嘆いたとする。この母親からすれば、母親として娘に接しているのであって、心理士としてクライエントに接しているわけでない。当然、親子関係を抜きにして、純粋なクライエントとして娘の話を聞くことは不可能である。仮に、娘が専門的な心理相談を求めるのであれば、外部の心理士に相談すべきだという話になる。
 以上の二例は、対人援助にあたっては、関係性、立場性(加えて、コミュニケーションを図る場所)が第一に重要であることを示している。つまり、関係性、立場性自体やその違いによって、コミュニケーションの質は必然的に違ってくるということである。これらの特性を踏まえ、関係性や立場性に変化をつけることで、コミュニケーションに力動(変容)が生じ、停滞していた課題や話題に前進がみられることも多い。

(3) 複数対応について
① 複数対応の意義
 何度かやりとりをしているうちに、相手とのやりとりが定型化し、状況が進展しにくい空気感になってしまった場合、先輩職員や査察指導員(以下SV)の面接への同席や訪問同行が、CWとその人の関係性に変化を与え、状況を動かしていくきっかけになることがある。
 また、コミュニケーションに困難を抱える人には、無意識のうちに過去の対人関係の修復や成功を、目の前の対人関係の中で繰り返し試みてしまうことがある。そのため、複数対応することで、その人とCWの一対一の閉塞的な関係の中で起こる非効果的な関係性の再現、つまり投影や転移・逆転移の防止につながることがある。関係性や立場性の異なる先輩職員、SVがその人のケースワークに介在することで、再現が起こりにくく、その人も折り合いが付けやすくなるかもしれない。仮に閉塞的で固定化された二者関係に陥ったなら、一時的にその人とCW、先輩職員、SVとの開かれた関係へと複数対応により変化をつけることで、状況を前進させる方法があることも意識したい。
② 複数による逐次対応
 葛藤状態に入ると、すぐに「上司を出せ」という人がいる。これは、担当CWよりも裁量権のある職員に直訴し、主訴を認めてもらいたいという思いがあるからだろう。上司が出てきたこと自体に対し、自分の相談はより重要なことと認められた、自分の思いはそれなりに汲み取られたと捉える人もいる。そのような人には、上司がCWと同じ援助方針を伝えたとしても、結果的に納得してもらいやすいことがある。また、妥協案を提示する場合でも、CWの上司が対応してくれたと、その人にとって折り合いがつけやすくなることもある。
 しかし、状況によっては、その人の訴えが様々な職員に拡散して対応の一貫性が損なわれないよう、「担当は私ですので、話は私がお伺いします」と、受け答えの窓口を担当CWに一本化した方がよい場合もある。また、逆にCW側で意図的に対応する職員を増やそうとすると、返って混乱が生じるだけの場合もあるので、このことにも十分留意したい。
 「上司を出せ」と言いがちな人に対し、担当CW、先輩職員、SVの順で連携的な対応を試みる場合は、まず担当CWが相手の主訴やその理由、背景を把握することが望ましい。それからCWがSVに状況を報告し、同席が必要なケースか、同席が必要なら先輩職員、SVが順次面接室に入っていくのか、それとも予めCWとSVが二人で入るのか、加えてCWの説明どおりに相手に理解を得ていくのか、それとも折衷案や代替案を出すのか等、どのような方法が効果的か検討した上で、ケースワークには臨みたい。
③ 同時複数対応
 複数対応では、役割を分担し連携することで、停滞している話題を進展させる(力動を生み出す)ことが期待される。特に同時複数対応では、例えば一人が相手の話に傾聴しながら、もう一人が対応や打開策を考える等、バッテリーを組んで対応するという方法がとりやすい。いい人役と悪い人役、情緒的に話す調整役とルールを明示し指導する役等、役割を決め分担すると効果的にケースワークを進められる場合がある。連携とは、目標に向けて大なり小なり、この適切な役割分担が統一的、かつ機能的に為されているか否かだろう。
 その他、同時複数対応は、OJTや積極的な状況改善のため、あるいは謝罪のために行うこともあるだろう。また、CWが身の危険を感じる場合には、自衛手段として行うことも重要である。同時複数対応のメリットは、一人で対応するよりも精神的な余裕が生まれやすいことである。 
④ 連携する際の留意点
 連携について押さえておきたいことは、相互批判、非協力により職員間・支援者間に起こる分裂である。これは、単純に職員間・支援者間の摩擦によって生じることもあるが、境界性パーソナリティ障害の領域でいうところの、スプリッティング(分裂)によって起こることもある。この特有の心性が、福祉事務所の人的体制や庁内・部署間に投影され、相互批判、非協力を生むことがある。分裂が生じた際は、その脆弱な連携部分に着目し、関係者で振り返りの場をもつ等の改善や体制強化の機会としたい。

4. 構造化への抵抗や回避に対応する

 ケースワークを構造化することは、コミュニケーションに困難を抱える人に、自身の課題に直面することを必然的に促す。そのため、この促しへの拒否反応として、ケースワークを構造化することへの抵抗や回避が生じやすい。この抵抗や回避の手段として、逸脱行動や無理な要求、揚げ足取り、強い感情表出、感情的な巻き込み、体調不良を理由とした回避、主張の代弁者としての第三者活用がある。
 もちろん、これらの抵抗や回避は、主体性や自尊感情、自己効力感が過去に損なわれてしまった、悲嘆と苦悩を象徴した表現と解釈できる場合もある。紙面の関係上、本稿では心理的なサポートについて十分に触れることはできないが、CWは、それらの人の話に傾聴し受容しながら、主体性や自信の回復を支える視点も踏まえたい。
 これらを念頭に置きつつ、最後に、その人による抵抗や回避の試みと対応の留意点について、三点挙げたい。

(1) 体調不良を理由とした回避
 就労や職場の人間関係の構築に自信がない場合、腰痛や糖尿病等の身体疾患による調子の悪さや、精神的な不調に理由を置き換えて、就労はできないと主張する人がいる。また、主治医の意見としては問題がなくとも、「あなた(CW)の話のせいで体調が悪くなった」「あなた(CW)が必要書類を提出するよう何度も言うから寝込んでしまった」「当日の体調をみないと来所や訪問には応じられない、前もって日時の約束はできない」とCWに言い、体調不良を理由とした、被保護者の義務の不履行や忌避が試みられることがある。
 しかし、体調不良のためCWの言うとおりにはできないとの主張は、被保護者の義務を履行しない長期的な遅延理由に該当しないことが多いだろう。例えば、体調不良を理由に、届出や申告ができず来所にも訪問にも応じられないと言うのであれば、社会生活に多大な支障を来たしている可能性があり、体調改善のために入院治療が必要かもしれない。あるいは、居宅生活が困難である可能性があり、常時サポートを得られる入所施設での生活を検討する必要があるかもしれない。
 一方で、通院治療により居宅生活を維持できるのであれば、被保護者の義務が履行できるよう、医療機関の助力を得て体調の自己管理の方法を習得していく、あるいは家族や友人・知人、支援者に協力を依頼する等の、自主的な取り組みを促していく必要があるだろう。

(2) 主治医に主張の代弁を求める場合
 例えば、生活保護法第78条に規定された費用徴収について、保険金収入の未申告によりCWから納付指導を受けた人が、主治医の精神科医に返納せず済むよう代弁を求めたとする。診察室では、返納したくなくとも義務として返納していくよう、折り合いをつけることを治療的に促す医師と、そのように促すことで「何で先生は私の味方をしてくれないのか、もう信用できない」と本人が治療を中断しないよう、CWにひとまず代弁し治療関係の維持を優先する医師がいるかもしれない。
 CWとしては、本人には、体調不良を理由とした返納の拒否は認められないこと、医療機関側には、本人が権利義務の帰属主体として責任を果たすため、葛藤やストレスで不調を来たさぬようサポートしてほしいと伝える必要がある。以上のように、現実の課題やストレスに直面することで体調に影響が出る場合、医療機関のサポートを得ながら、自身でも体調管理やストレスへの対処に取り組むよう促すのも方法の一つである。

(3) CWに核心の話をさせない場合
 例えば、稼働年齢層(15~65歳未満)の人の中には、CWが就労指導をすると、就労できない理由を一方的に述べ取り合おうとしない人や、別の話題や相談をし始める人、揚げ足を取り感情的になる人がおり、核心の就労の話が毎回できず求職活動が進んでいかないことがある。
 これらの人が核心の話を抑圧する、あるいは忌避する場合は、「あなたのその話も大切だろうが、まずは就労の話から」「何故、就労の話を先にさせてくれないのですか?」とCWが話題をリードするとよいだろう。CWに核心の話をさせない試みが意図的に繰り返されるならば、履行の忌避と取らざるを得ないと明確に伝える必要がある。


おわりに

 以上述べてきたケースワークの方法と留意点は、SVをはじめ諸先輩方の指導・助言、同僚の支えにより、実践し効果があったケースワークを、筆者なりに概念化し整理したものである。しかしながら、紙面の関係で事例や実践する際の留意点の多くを割愛したため、一連の内容を十分に伝えることができたとは言い難い。
 本稿は、コミュニケーションに困難を抱える人の幸福追求やその困難さのサポートを目的として記している。「構造化」とは、その困難さによる生活のしづらさを補完し、その人の社会生活機能の改善を図るために行う支援方法であり、CWとしての態度と技量が問われるものである。したがって、本人の意思や権利を蔑ろにして、CWの指示通りにさえしてもらえばよいとするような誤用だけは避けたい。ただし、この点において、短絡的な解釈をしやすくあったのであれば、筆者の力不足と言わざるを得ない。
 いずれにしても、被保護者等の抱える問題の細分化、複雑化、さらには重複化が、ケースワークの現場で一層進んでいるのは確かである。このような中で、CWには種々の支援アプローチを駆使することが求められているため、本稿が、ケースワークやその他の相談支援の実践にあたって、何らかの参考になれば幸いである。